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第3話:観測者、その値を支配する



エリアボスを突破し、僕たちは再び始まりの町「エウレカ」の喧騒の中にいた。


「……しっかし、いきなり5万Gか。ボス報酬ってのは景気がいいな」


ドドンパが懐の端末を確認しながら、気の抜けた声を出す。


「浮かれるな。これは『あぶく銭』じゃない。これから始まる『投資』の種銭だ」


僕が向かったのは、噴水広場に隣接する「冒険者バザー」。


数多のプレイヤーが自慢の戦利品を出品し、一攫千金を夢見て端末を覗き込んでいる場所だ。


僕は人混みの隅で端末を操作し、検索条件を絞り込んでいく。


【観測士スキル:詳細鑑定ディープ・アナライズ――市場ログを展開】


「まずはこれだ」


【検索結果:曇り羽根(コーモリの下級ドロップ)】

【価格:1G、1G、1G……】


画面には、ゴミのように投げ売りされた羽根の山が表示される。


「おいおい、そんなもん買ってどうするんだよ。コーモリなんてそこら中にいる雑魚だろ?」


「今はな。だが、観測士の目で見れば、この羽根の裏に隠された**『未開放の属性コード』**が丸見えなんだ。鑑定屋が開放されれば、この1Gのゴミは1,000Gの『必須素材』に化ける」


「……マジかよ。お前、本当に相場までハックする気か」


僕の手は止まらない。

次に検索したのは『透明な樹液』だ。


「これも買いだ。スライムの下級素材の中でも『ハズレ』扱いされているが、僕は配信で見た。

第2エリアの森の奥で、NPCがこれを使ってポーションを煮詰めている姿をな」


「ポーション? 料理か錬金の素材ってことか?」


「『濃縮』だ。

既存の回復アイテムの効力を倍増させる触媒になる。

まだ誰もクラフト職を育てていない今だからこそ、1Gで拾える『宝の山』なんだよ」


数分後、僕のインベントリは数万個の「ゴミ」で埋め尽くされ、ボス報酬の5万Gは綺麗に消え去っていた。


「……種は蒔いた。あとは他のプレイヤーたちが、必死にレベルを上げて需要を作ってくれるのを待つだけだ」


僕は空になった所持金ゴールド表示を消し、出口へと足を向ける。


行く先は、第2エリアへの転送門だ。


道すがら、僕はふと思い出して尋ねた。


「そういえばドドンパ、お前の『真核』はどうした? 生成コンバージョンしないのか?」


「ああ、あれか。さっきの待ち時間にバザーに出したわ。即売れだったぜ」


ドドンパは事もなげに言う。


「売った? ……そうか。」


「いや、お前のあのペン(断崖写本杖)を見ちまったらな。

俺の適当な戦い方で刻まれたログなんて、あんな傑作の前じゃ『ノイズ』でしかない。

なら、高値がついている今のうちに現金化して、投資額を増やした方がマシだ。

俺は俺で、別の『正解』を探すよ」


「……なるほど。賢明な判断だ」


僕は相棒のゲーマーとしての嗅覚を評価する。


「だが、覚えておけ。

真核のシステムを周囲が理解し始めたら、『あの場所』――世界樹が見える断崖の座標ログを持った真核は、値段が跳ね上がるぞ」


「げっ。……ま、その時はお前に奢ってもらうわ」


そんな軽口を叩きながら、大通りを歩いていた時だった。


「きゃあああああっ! アレ見てアレ!! 超かわいいーーー!!」


人波をかき分けて、二人の女性プレイヤーが走ってくる。


先頭を走るのは、ピンク髪のふわふわとした「シロロ」。


その後ろを、眼鏡をかけた大人しそうな女性「フゥ」が困った顔で引きずられていく。


「ちょ、ちょっとシロロ、走らないで……あら?」


不意に、後方の女性――フゥが足を止めた。


彼女の視線は、バザーの華やかな商品ではなく、

**路地裏の隅に転がっている「ただの舗装石」**に向けられている。


「……不思議な石。

この角の削れ方、第1エリアの地質じゃないわね……」


「フゥちゃん! 早く早くー!」


「あ、待ってシロロ!」


彼女は名残惜しそうに石から視線を外し、再び人混みへ消えていった。


「……騒がしいな。

所詮はデータ上の装飾だろ。

ステータスに1の恩恵もない『ガワ』に必死になるとは」


僕は冷めた視線を送る。


効率を求めないプレイヤーの思考回路は、僕にとって最大の謎の一つだ。


だが、隣のドドンパの反応は違った。


「……おいイオリ。見たか? あの後ろのお姉さん」


「眼鏡の方か? それがどうした」


「めっちゃイイ……!

清楚系で、こう、知的なオーラが漂ってて……美人だぁ……」


ドドンパがデレデレとした顔で、彼女たちの去った方向を見つめている。


僕は呆れて溜息をついた。


「目を覚ませ。

ここはVRだぞ。

あのアバターの中身が、現実でも美女だという保証はどこにもない」


「夢のないこと言うなよ!

直感が告げてるんだよ、あれは『本物』だって!」


「はいはい。行くぞ、色ボケ戦術士」


「へいへい、待ってくれよ冷血観測士様」


僕たちは転送門をくぐる。


まだ僕たちは知らない。


今すれ違ったあの二人が、

現実世界で毎日のように顔を合わせている会社の同僚であることを。


そして、あの眼鏡の女性が

「道端の石のログ」を、僕とは別の狂気で観測していたことを。


新たなエリア、そして新たな出会いが、

僕の計算ログにさらなる波乱を書き込もうとしていた。


遂に市場の値段も完璧な推察で買い占める イオリ……。

高騰した瞬間彼は真顔で当然だという感じになることでしょう。


そしてドドンパ(慎二)はただの腰巾着ではないと言うところも書けたのかなと思います。


僕、「ゑルマ」は同時に「『Legacy online 』君が愛したのは、死んだ僕だった」と言う作品も書いております。 よろしければそちらも読んでいただけると喜びます ブクマもしてやってもいいと思っていただけるだけでもありがたいです。

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