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第23話:観測者、9桁の「死に金」を使い倒し街をハックする

 


 第4エリア『グレアマイン』解禁日。


 世間は新たなフィールドへの期待に胸を躍らせているが、僕の朝は最悪の気分で始まった。


 ◇ 混沌工房カオス・アトリエ


 昨夜の「魔王の失言リーク」によるバザーハック。

 その結果を確認するため、僕はバザーボードを操作した。


 本来なら、売上金回収の軽快なコイン音が鳴り響くはずの場面だ。


 ブブーッ。


 鳴ったのは、耳障りなエラー音だった。


 ——【Log】——

 所持金が上限に達しています

 所持金:999,999,999 G(MAX)

 ※これ以上の売上金を受け取るには、ゴールド預かりシステムへの追加有料パック(月額500円)を……

(カードを選択してください。VISA*******…)

———————-


「……くだらん」


 僕はウィンドウを払いのける。


 再び、ブブーッという拒絶音。


「……チッ。カウンターストップか。美しくない」


 僕は画面に表示された、意味のない「9」の羅列を冷ややかに見つめる。


「通貨というのは血液だ。循環させなければ意味がない。9桁で止まるような底の浅いシステムに、僕の資産が殺されている」


 多くのプレイヤーにとって、カンストは「達成感」の象徴かもしれない。

 だが僕にとっては、これ以上利益を生み出せない「リソースの無駄(機会損失)」でしかない。


 溢れるなら、器の方を広げるしかないが……

 リアルマネーを払ってまでゲーム内の倉庫を借りるのは、僕の美学(効率)に反する。


「ぽよ〜〜! イオリ、お金持ちなのだ〜〜! おやつ買うのだ〜〜!」


「わ〜! すごい桁! これで新しい家具買えるよ〜!」


 朝からログインしていた魔王ぽよんとシロロが、カンスト画面を見て騒いでいる。


 だが、今の僕にはこの金を使う「あて」がなかった。


 武器も素材も揃っている。

 これ以上の強化はプレイヤースキル依存だ。


「……死に金か。腐らせるくらいなら、ドブに捨てた方がマシだな」


 そんな独り言を漏らした時、ドドンパが頭を抱えてリビングに入ってきた。


「あー……ダメだこりゃ。詰んだわ」


「……どうした、灯台。また借金の相談か? 今なら無利子で数億貸せるぞ」


「いや金じゃねーよ! ……いや金も欲しいけど!」


 ドドンパはソファに沈み込むと、深いため息をついた。


 例のユニーククエスト『猫の嘆願』だ。


「NPCの聞き込みをしたんだがよ……フラグが立たねぇ。会話を聞く限り、『騒ぎに乗じて現れる』とか『混乱の最中に隙ができる』ってのが出現条件っぽいんだが……」


「騒ぎ、か」


「ああ。俺たち4人+ぽよん様でどれだけ暴れても、街全体を混乱させるなんて無理だろ? 警備兵NPCに捕まって牢屋行きだ」


 ドドンパがお手上げだという顔をする。


 確かに、システムに守られた街中で、一個人が「騒乱」を起こすのは不可能に近い。


 ピロン♪


 その時、僕の端末にメッセージが届いた。


[差出人:ジィサン]

『イオリk君、おはよう。孫が「おじさん、剣まだ?」と勇者ソードを催促してきてな。進捗はどうかの?』


「……チッ。こっちもか」


 朝から催促タスクの山だ。


 僕は『来週だ。光の屈折計算に時間がいる』と定型文を返し、思考を戻す。


 ……待てよ?


 僕の脳内で、処理しきれない「999,999,999 G」という膨大な数値と、ドドンパの「騒ぎを起こしたい」というニーズが、パチリと音を立てて噛み合った。


「……なるほど。『騒乱』というログが必要なのか」


「え? ああ、そうだけど……」


 僕は口角を吊り上げる。


 使い道のない死に金。

 そして、足りない人手。


 答えは単純だ。


「ドドンパ、そのクエスト。……僕が演出プロデュースしてやる」


「は? プロデュースって……お前、友達いねーじゃん。誰が協力してくれるんだよ」


「友達などいらない。……行くぞ、冒険者ギルドだ」


 ---


 ◇ 冒険者ギルド


 朝のギルドは、第4エリアへ向かう手続きをするプレイヤーでごった返していた。


 僕はドドンパを引き連れ、受付の列を無視してカウンターへ向かう。


 目指すは受付嬢ではなく、その奥にある「ギルドマスター(NPC)」の部屋だ。


「あ、あのっ! お客様! 困ります!」


 受付嬢が慌てて制止に入る。


「ギルマスへの面会はSランク以上か、国からの特別な貢献が必要で……!」


「貢献だと?」


 僕は無言で、インベントリから「革袋システムウィンドウ」を取り出し、カウンターに叩きつけた。


 ドォン!!


 重い音が響き、周囲のプレイヤーが静まり返る。


[ 寄付:100,000,000 G ]


「……ッ?!?!」


 受付嬢の目が点になり、口がパクパクと動く。


 1億ゴールド。

 普通のプレイヤーが一生かけても稼げるかどうかの金額だ。


「……これで足りるか? 足りなければもう一本(1億)積むが」


「あ、あわ、あわわわ……」


 受付嬢が泡を吹いて倒れそうになったその時。


 奥の重厚な扉が開き、眼帯をした厳つい男――ギルドマスターが出てきた。


「……騒がしいと思えば。ほう……面白い若造だ。入れ」


 ---


 ◇ ギルドマスター室


「単刀直入に言おう。金ならある。僕が欲しいのは『権利システム』だ」


 僕はソファに深々と座り、ギルマスと対峙する。


 隣のドドンパは、あまりの金額と展開に縮こまっている。


 交渉は数分で終わった。

 というより、交渉ですらない。

 システムが設定した「隠し販売枠」を、金という暴力でこじ開けただけだ。


「……よかろう。貴様の財力と狂気、認めてやる」


 ギルマスが羊皮紙の束を放り投げる。


——【アイテム】——

 獲得:【ギルド・オーナーシップ(白紙の依頼書)】

 価格:500,000,000 G(5億G)

 効果:プレイヤー独自のクエストを作成し、全サーバーの掲示板に掲載できる。

———————————


「ご、5億……?!」


 ドドンパが絶叫する。


「寄付と合わせて6億……?! お前……クエスト一つ発注するのに6億払ったのかよ!?」


「これでいい。……ようやく、財布の風通しが良くなった」


 所持金が3億弱まで減った。

 これでまた、稼ぐ理由スペースができた。


「ドドンパ。これでお前の望む『騒乱』を、公式クエストとして発注する」


 僕は白紙の依頼書に、ペン(断崖写本杖)でサラサラと記述する。


 ターゲットは全プレイヤー。

 内容はシンプルかつ、誰もが飛びつくもの。


「フゥには『地鳴り』を、シロロとぽよんには『派手なエフェクト』を準備させておけ。……仕上げだ」


 僕は発注ボタンを押す。


 クエスト発動:「黒豹団を炙り出せ」


 ---


 ◇


 その瞬間。


 ログインしている全てのプレイヤーの視界に、緊急クエストの通知が走った。


 —-【緊急・特別依頼】—-

 [依頼者:イオリk]

 ・内容:第1エリア エウレカ草原にて、指定時刻(20:00)に一斉に「花火(爆発系スキル)」を使用し、夜空を焦がせ。

 ・報酬:参加者全員に 100,000 G

 ————————————-

 街中がどよめきに包まれる。


「は!? 参加賞で10万!?」


「イオリkってあの銭ゲバか! バザー崩壊させた出品者じゃん、還元イベントかよ!」


「スキル撃つだけで10万?! やるやる!!」


「祭りだああああ!!」


 プレイヤーたちが歓声を上げこのギルドマスターの部屋まで聞こえてくる。


「さあ、人間ども。金貨に群がり、僕のために最高の『混乱ログ』を描いてくれ」


 僕はギルドの窓から、眼下を埋め尽くすプレイヤーの群れを見下ろす。


「……友達はいない。要らないけどな」


「……(こいつ、マジで魔王かよ……)」


 ドドンパが戦慄したような顔で僕を見る。


 だが、僕の支払うエサで動く「部下」なら、このサーバーに無限にいる。


「……行くぞ、ドドンパ。お前のクエスト、クリアだ」


「お前……マジでイカれてるよ……最高にな!」


 9桁の死に金が、街を揺るがす「暴力」へと変わった瞬間だった。


 突如、赤枠で覆われた運営メッセージが表示される。


 ——【information】——

【重要】サーバー高負荷による緊急メンテナンスのお知らせ


 平素より『World of Arche』をご利用いただき、誠にありがとうございます。

 本日、第1エリアおよび第4エリアにて、想定を大幅に上回るプレイヤーの同時接続、

 ならびに特定座標における極めて高密度なエフェクト処理(爆発系スキル等)の集中を促す特殊クエストの発生 を確認いたしました。

 これにより、サーバー機器への深刻な負荷が発生しているため、緊急メンテナンスを実施させていただきます。


【メンテナンス実施日時】


 2026年XX月XX日 14:00 ~ 17:00(予定)


 ※作業状況により、終了時刻が前後する場合がございます。


 【対象】

 ・『World of Arche』全サーバー

 ・『World of Arche』 公式コンパニオンアプリ

 ・冒険者バザーおよび経済システムの確認

 ・クエスト受注サーバー 

 【作業内容】

 ・エリアサーバーの機器増強および再起動

 ・描画エンジンの最適化処理

 ・通貨所持上限ゴールドキャップおよびUI表示桁数の仕様見直し検討 

 【お客様への影響】

 メンテナンス作業中は、ゲームへのログインおよびプレイが行えません。

 プレイ中のデータは自動的に保護されますが、直前の行動ログの一部が正常に 

 保存されていない可能性がございます。


 ご利用のお客様には多大なるご迷惑をおかけいたしますことを、深くお詫び申し

 上げます。

 『World of Arche』運営チーム

—————————————


 チッ。緊急メンテか。

 なら最初から所持金額の上限をあげておけ。運営よ。

お金の使い道回 23話どうだったでしょうか?

第8話の1300万超の使い道どころではありません!!


とうとう人まで使い街のハックし運営に対イオリ用(所持金額)の修正が……。



〜次回予告〜

24話は2/7 15:00を予定しています!!

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