第21話:観測者、魔王の経済学と光の市場予測を開始
強化を果たし無事に戻ってきた僕たちは、先にログアウトしたフゥを除き、3人でクランホームの一室にいた。
◇ 混沌工房
「ぽよ〜〜!! 人間! これでぽよんも入れてくれるか〜〜? ここ魔王城にしてもいいか〜〜??」
「いいぽよ〜〜!! リーダーへんこ〜〜〜!!」
僕は頭を抱えるが、このチビ(自称魔王)の功績はデカいと認めざるを得なかった。
あの隠しエリアへの案内、そして武器の『概念強化』。
これは僕一人では決して到達できなかった「解」だ。
しかし、クランに入れるとなると話は別だ。
「……ぽよん、君はストリーマーだろう? 君が自分でクランを作って、メンッ……配下を集める方がいいんじゃないか。その方が配信的にも盛り上がるはずだ」
僕は合理的な提案をする。
すると、二人は席から立ち上がり、ビシッと「前へならえ」のポーズをドヤ顔で決めた。
「は〜〜〜はっはっは、ぽよ〜〜!」
「ぽよ〜〜!」
「何を隠そう〜〜! おかし買い過ぎて金(G)がないのだ〜〜!!!」
「のだ〜〜〜!」
「……」
こいつら……。
「……馬鹿なのか? 資金管理もできない奴が魔王を名乗るな」
僕は冷徹に切り捨てる。
「金がないなら稼げばいい。配下達に出させればいいだろう。君のファンなら喜んで貢ぐはずだ」
「出すぽよ〜〜〜!!」
シロロが即答する。
「借金を返せ、まずは」
「ぽ……ぽよ〜……」
シロロが萎れる。
すると、ぽよん様が王笏を振って反論してきた。
「人間はわかってないのだ〜! 配下達から搾取なんてしたら、おかしもらえなくなって世界征服できないぽよ〜〜!!」
「……は?」
「配下のお金は、ぽよんへの『おやつ代』に残しておいてもらわないと、循環しないのだ! これぞ魔界のサステナブルなのだ〜〜!」
「……チッ」
(……もっともらしいことを。経済圏の循環を理解しているだと……?)
一理ある。
搾取して枯渇させるより、生かさず殺さず貢がせ続ける方が、長期的利益(LTV)は高い。
この魔王、IQ3に見えて、おやつに関しては天才的な嗅覚を持っているのか?
「……わかった。論理は通っている」
僕は渋々納得する。
それに、ストリーマーを囲い込むことは、情報のコントロールや「囮」としても利用価値がある。
「許可する。……その代わり、僕の今後する計画にはお前も計算に入れる。拒否権はないぞ」
「ぽよ〜! おやつさえあれば計算でもなんでもするのだ〜!」
ピロンっ♪
目の前にシステムウィンドウがポップアップする。
【フレンド申請:『魔王ぽよん』】
[ YES / NO ]
僕は反射的に指を動かした。
ポチッ。[ NO ]
「ぽよ〜?!」
「ああっ! ぽよん様を拒否した!」
シロロが『宝石変換鞄』を構える。ガチャリと不穏な音がした。
「……すまん、手が滑った。反射神経だ」
ピロンっ♪
もう一度申請が飛んでくる。
今度は[ YES ]を押す。
続いて——。
【クラン『Chaos Atelier』への参加申請】
[ 許可 / 拒否 ]
(……このピンク色のノイズを、僕の聖域に入れるのか?)
理性が警鐘を鳴らす。
ポチッ。[ 拒否 ]
「ぽよ〜〜〜〜!!!」
「やっぱり拒否したぁぁぁ!! イオリ君覚悟ぉぉ!!」
「こら、やめろ! 殴るな! 王笏でつつくな!」
物理攻撃を開始した魔王と、援護射撃しようとする配下。
このままではホームが崩壊する。
「わかった! わかったから!」
僕は三度目のウィンドウに対し、震える指で[ 許可 ]を押した。
「はっはっは〜なのだ〜〜!! これからここは魔王城(宝飾猫)なのだ〜〜! ぽよ〜〜!」
「正式配下いやあああひひひ嬉しいいいいいい!!」
シロロのヲタク感情が限界突破し、奇声を上げている。
こうして、5人体制(実働4人+魔王1匹)となり、カオス度が増した混沌工房であった。
◇
「……はぁ?! なんで俺だけハブられてんの?!」
遅れて合流したドドンパが、僕たちの武器を見て叫んだ。
「お前らだけ『完全強化状態』とかズルくね?! 俺のタクトも強化させろよ!」
「……あのスライム長老は、隠しエリアの『親和度』が条件だ。お前はまだ入れない」
「ちっ!!!」
ドドンパが盛大に舌打ちをする。
「その代わり、お前には『猫の恩返し』があるだろう。あの真核アクセの性能、解析次第では化けるぞ」
「……まぁ、そうだけどよぉ。なんか釈然としねぇなぁ」
「相殺だ。それに、お前のタクトには僕の『計画』で別の強化プランがある」
「……へっ、ならいいけどよ」
喧騒と混沌の中、僕たちはそれぞれの準備を進めた。
そうして、第4エリア解禁までの準備期間は瞬く間に過ぎ去った。
……4日後。
◇ 冒険者バザー近辺
多くのプレイヤーが行き交うバザーの一角で、僕はジィサンと合流していた。
「……第4エリアでの予想商材と、飛翔アイテムの予想商材を買い込みます。ジィサン、貴方の目には何が怪しいと?」
「ほっほ、そうだなぁ。アクセサリー鍛治屋の兄ちゃんから聞いた話なんだがな?」
ジィサンは杖をつきながら、楽しそうに話す。
「『ST何ちゃらを上げたいなら筋肉ウサギの素材を持ち込む。高く飛びたいなら風を操らないとなぁ』と言っておったぞ? 最近、新しい話をしてくれるのだ」
(STRのことか)
「……なるほど」
やはり、NPCの会話パターンが更新されている。
「第1エリアの『エレメント・ビュー』……そのユニークエネミー素材で間違い無いですね。今回のクエスト関連はエウレカ近辺ですから、草原で出る風属性エネミーはヤツだけ。副素材は『そよ風のアイリット』で間違いないでしょう」
「ほっほ、わかったぞ? ワシはそれを買おう。イオリ君は『曇り羽根』だな?」
「はい。役割分担しましょう」
「頼もしいのぉ。……して、続いて第4エリア商材だが」
「……正直なところ、3つの予測しかありません」
「ほっほっほ、3つ『しか』とな。やはりデータで見る君のスピードには敵わんねぇ」
僕は端末にリストを表示する。
①『鏡の破片』
②『クリスタルガラス』
③『遮光レンズ』
「このどれか+副素材です。……第4エリアは『光の反射』・『鉱石の共鳴音』・『落盤ギミック』が特徴です」
僕は1年間の監視映像を脳内で再生する。
「映像解析の結果、テストプレイヤーの死亡要因の約72%が『視覚阻害時の転落死』でした。あのエリアは常に薄暗く、しかし時折差し込む光が鉱石に反射して強烈なフラッシュを引き起こします」
「つまり、目を守るか、あるいは光を利用して足場を確保する手段が必須となる」
「ミツルマンの要望する『勇者武器』の記録にはもってこいだ。……予測でしかありませんが、高騰の理由は十分にあります」
僕はクランチャットを開き、メンバー(とジィサン)に分析結果を共有する。
『第4エリアのメインギミックは、光量操作と落盤の二重ギミックだ』
僕の書き込みに対し、すぐに反応が返ってくる。
[シロロ]: 『えっ! 光?! つまり光を可愛く整えるアイテムが必要ってこと?! キラキラチャンス?!』
[フゥ]: 『……落盤……。つまり、地震の前兆が見えるということね……! 大地の鼓動が聞けるわ……感動よ』
[ドドンパ]: 『おおっ! 光があるなら影もできるな! 影の道ができれば、真核運搬が楽になるぜ!』
そして、目の前の老人も目を細める。
「ほっほ、光と落盤か……。これで孫も安心じゃ。暗い場所で転んだりしたら可哀想だからねぇ」
「……そういうことです。足元のグリップを強化する『粘着質の樹液』も、念のため押さえておきます」
僕は頷く。
アタッカー、魔法職、タンク、そしてライト層(孫)。
全員が恩恵を受ける。
「つまり、これらは『全冒険者必須アイテム』になる」
「買い占めるか」
「ええ、完膚なきまでに」
僕たちは飛翔アイテム用のメイン商材と、第4エリア対策の副商材を、市場から消え失せるほどの勢いで購入した。
「……準備は整った」
時刻は深夜。
明日の解禁に向け、僕たちはログアウトを選択する。
「おやすみなさい、ジィサン」
「うむ、また明日な。イオリk君」
光に包まれながら、僕は確信する。
全ては計算通り。
明日の第4エリア解禁は、僕たちの独壇場になるだろう。
「ログアウト」




