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第14話 港町セイレンへ

「では、ここに置いてある荷物を運べば良いのですね?」


 旅の出発を前に先方への紹介状を書いて貰う代わりにカロリーナから依頼されたものは大量の食料が入った箱の運搬だった。大量の荷物運搬は私の十八番なので快く引き受けることにしたのだった。


「――はぁ、やっぱり何度見ても便利なスキルですよね」


 次々とカード化される箱を見ながらフィーが感嘆の息を飲む。その隣でカロリーナも笑顔で頷いていた。


「ちょうど港町セイレンのギルドマスターから頼まれていた食料品を運ぶ手段を考えていたところでしたの。リアさんに頼めてとても助かりますわ」


 それはそうだろう。本来ならば、これだけの荷物を馬車で運ぼうとすれば少なくとも馬車十台は必要になる。それがたった一台で済むのだ。その経費節減はかなりのものだろう。


「帰りはこの手紙に書かれているものを運んでくださいね。向こうのギルドマスターに渡せばすぐに手配してくれますので」


 荷物の箱を全てカード化した私は最後にカロリーナから手紙を受け取ると傍に居たフィーに全て預けておいた。


「絶対にしないですけど、失くすのが怖いので預けておきますね」


 本音は持ち逃げするかもしれないと疑われるのが嫌だったからだが、正直にそう告げるのは後ろめたいと思い紛失が怖いからと言ったのだ。


「はい。確かにお預かりしました。明日は朝一番にギルド前の広場に来てくださいね」


 そんな私の思惑など気が付かないかのように振る舞うフィーにありがたく思いながらも頷いたのだった。


 ◇◇◇


 次の朝、私はフィーに言われた時間よりもかなり前にギルド前広場で馬車を待っていた。寝坊が怖いというよりこちらの世界に来てから初めての長距離旅行に興奮してあまり眠れなかったのだ。


「ちょっと早すぎたかな。でも遅れて迷惑をかけるよりは数倍マシよね」


 私はそう呟くと自らの肩がけ鞄に目をおとす。


 旅に必要な荷物は全てカード化しているため荷物は肩がけ鞄ひとつ。とてもこれから数日間かかる町へ向かう姿には見えない自分に苦笑しながら空を見上げる。空は雲ひとつない晴天で雨に降られる心配はなさそうだ。


「そろそろ……かな?」


 ――カッポカッポ


 やがて、ギルドの裏手側から馬の蹄音が聞こえて来た。無意識にそちらを目で追うとその先から御者台で器用に馬を操るフィーの姿が見える。彼女が御者を務めるの?


「おはようございます。お待たせしちゃいましたね」


「いえ、初めての長旅に緊張して眠れなかったんですよ」


「ふふふ。リアさんってしっかりしているから見えないですけど、やっぱり初めてって緊張しますよね」


 フィーはクスクスと笑うと同行していた護衛に目を向ける。そこには先日も護衛を担ってくれたカイとクウが手を上げて挨拶をしてくれた。


「今回も宜しくな。ビルのやつは別の依頼で駆り出されてしまったから今回はフィーさんに御者を務めてもらうことになったが、彼女の腕前はビルと比べても遜色はないから心配しなくてもいいぞ」


 カイが私の心配事に気がついてそう補足をしてくれたが、それを聞いたフィーは謙遜した表情で「さすがにビルさんほどの腕はありませんよ」と照れていた。


「今回は重い荷物を引かせないので馬への負担も少ないですから護衛の二人も馬車に乗って移動する予定です。一人は私の隣に、もう一人はリアさんの傍で護衛を。予定では通常運行より丸一日程度早く到着出来ると思います」


 フィーの説明は明確で良く分かる。以前、要注意人物リストにいれたような気もするが、今回は非常にありがたい存在となることだろう。


 私が先に馬車へ乗り込み、後からクウがついて馬車に乗り込んでくる。向かい合わせとはいえ男性と狭い馬車に乗るのは少しばかり腰が引けたが彼は護衛だと自分に言い聞かせて笑顔で椅子に腰かけたのだった。


「なあ、そのリスは従魔なのか?」


 馬車が走り出し、少し余裕の出てきた頃にひょっこりと私の鞄から顔を出したナビーをクウが見つけてそう聞いてくる。まあ、確かに鞄からリスが出てくれば誰だってそう考えるだろう。こんなところに野生のリスがいるわけがないのだから。


「まあ、そんなところね。とても慣れているから暴れたりはしないから心配ないわ」


 実際、ナビーは従魔などではなかったが説明のしようがないので勘違いをさせたままにしておくことに。


「ふーん。結構多才なんだな。ただ、リスじゃあ戦闘面では期待出来ないだろうが」


 そんな呟きにも似た言葉をクウが言う。外ではガタゴトと揺れる馬車の音が響く。


「ナビーにはそういった事は求めていないから大丈夫です。居てくれるだけで心強いですから」


「アニマルセラピーってやつか? まあ、俺たちみたいな人種にはあまり縁のないものだな」


 クウはナビーを特に怪しむことなく、そう言って笑った。それからの道程は大きなトラブルもなく予定以上の距離を稼いだところで昼食休憩をとることに。


「――なにが食べたいですか?」


 私は前もって準備をしていたカード化した食事を簡易のテーブルに並べて意見を募る。


「おおっ! こいつは旅の途中で食べられる食事じゃあないぞ。俺はこいつで頼む」


 真っ先にクウが並べられたカードを見て自分が好きな料理を選んだ。それを見たカイの拳骨がクウの頭上にふりそそぐ。


「いってぇ! ひでぇよカイ!」


 頭をさすりながらクウが非難の声をあげる。相当にいたかったようだ。


「お前ががっつくからだ。こういった時は女性に先に選ばせるものだぞ」


 カイが相方を諫めながらそう言ってフィーと私に先に選ぶように促す。


「ふふふ。ありがとうございます」


 私とフィーが料理を選ぶと後から二人もそれぞれカードに手を伸ばした。


「――解放」


 それぞれが持つ料理のカードを解放した私は持って来ておいた簡易のテーブルと椅子も解放してフィーと向かい合わせに座り食事をとる。


「リアさんったらこんなものまで持って来ていたのですね。普通の旅ではありえないことばかりで調子が狂いそうですよ。ただ、感謝はしていますけどね」


 温かい出来立ての食事を口に運びながらフィーがそう告げる。護衛の二人は馬車の傍で辺りを警戒しながらも美味しい料理に舌鼓を打っているのが見えた。 


「でも、盗賊が出なくて良かったです。安心しました」


「ふふふ。リアさん。まだ、町を出発して半日しか経っていませんよ。もちろん、この辺りは盗賊を見ることは滅多にありませんが、それでも用心に越したことはありませんよ」


「そうだぜ。あいつらは油断した時に限って出てきやがるからな。気をつけるに越したことはない。それに盗賊はともかく、馬を襲う獣が出没する可能性は十分にあるから油断は禁物だぞ」


「はい。護衛の程、よろしくお願いしますね」


 私は護衛の二人にそう言って頭をさげると二人は「おう」と威勢の良い声で了承してくれる。


「――そろそろ出発しますよ。今日はゴウロウ岩の野営場所で野営を予定しています。暗くなるまでに辿り着きたいですので、少しばかりスピードを速めますね」


 フィーは御者台に登ると私たちにそう告げて馬車の手綱を操った。馬はその合図に反応し、自然と速度を速めていく。私は外の景色が早く流れていくのを眺めながらその手はひざの上で眠るナビーの身体を撫でていた。

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