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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
94/163

無限回廊 其の3

——2391回目のループ——


(おーっ!ついに来ました10層目ッ)


(2391回か、大体70%くらいの期待値だな。運が悪いぜ。)


最初の100回チャレンジで9層まで行けていたというのに、10に至るまでが長かった~。

このダンジョンの中は時間の流れが緩いらしいが、少なくとも私達が感じている時間では約2カ月ほどかかっている。だが、久しぶりに引いた9層の温泉に癒され気分は上々だ。


ん?レオンがやけに静かだ。


(ねぇ、どしたの? あれ? あれれ?)


(声が通じてねえな、音か一切聞こえねえ)


お互いに顔を見てパクパク口を動かしていると、レオンが耳を指さした。

足で地面をガンガン蹴っても、全くの無音である。空気自体はあるらしく、呼吸には問題なかった。


≪聴覚を奪う階層のようだな、やり取りはメッセージを使え≫


≪あ、これなら問題ないわね。気持ち悪いしこの階は検証より先に進む?≫


≪了解。≫


白くのっぺりとした奇妙な空間に、分かりやすく二つの扉が出現している。

私達はどちらか選択する方法を既に決めていた。


『一弾の極み』というオリジナルのゲームで勝敗を決めるのだ。


お互いに70㎝ほど離れて片足で立つ。レオンが一発の銃弾を指ではじき、落ちてきた瞬間に拳で思いっきり叩いた。銃弾が回転しながら私の顔目掛けて飛んでくる。

レオンが銃弾を叩いた時、私は宙に浮かせている右をレオンの上半身目掛けて蹴りこむ。上半身を斬り裂くような軌道の蹴りを、レオンが上体をそらして躱す。

振りぬいた足を地面につけることはルール違反だ。軸足で地面を抉りながら一回転し、視線を送ることもなく飛んでくる銃弾に裏拳を合わせる。


こうして銃弾を落としたり、両脚を地面についた人が負けなのだ。

私が勝てば緑の扉、レオンが勝てば青の扉に挑戦する。こうすることで、無駄に悩むことは無いし、外した場合の責任で険悪なムードになることも無かった。


≪ヨシッ 俺の勝ちだな。≫


≪むっすー。≫


今回勝ったのはレオン。進むのは青の扉だ。

レオンがナイフを構え、私は銀爪ベルフェリアを引き抜く。片手で印を結ぶようにウィンドウを操り、準備を整える。


何をしてるのかだって? まあ、これが無駄になれば一番良いのだ。


息を合わせて青の扉に進んだ。


「ちくしょう!!ハズレじゃねえか!」


「ふ・き・と・べ!」


——【魔法錬成 エンシェント・ラーヴァ】——


私達は2391回目のループを終え、0層に帰ってきたのだ。そんな私達を歓迎してくれるのは、ゴブリン軍団だ。数えることはできないが、計算からいうと——


ゴブリン・キング1体

ゴブリン・ジェネラル10体

ゴブリン・ノーマル392体


が出ているはずだ。

分かりやすく説明する自信はないんだけど、1ループ失敗ごとに、敵出現コストが1溜まっていく。

今回で言うと2391ループ目だから、最初からいる1体を考慮して2392コスト。

ノーマル100匹でジェネラル1匹、ジェネラル10匹でキング1匹だったため彼らのコストを計算できた。


キング:1000コスト

ジェネラル:100コスト(10体まで)

ノーマル:1コスト


これが今まで分かっている情報だ。だから、私たちの目の前には2392コスト分の敵が固まっているというわけだ。

彼らは比較的無秩序に襲い掛かってきてくれるため、どさくさに紛れて幹部を狩るのが効率的だ。私が大きく暴れて注意を引きつけ、乱戦を縫ってレオンが幹部陣の急所にスナイパーライフルを叩き込む作戦をとっている。特にレオンは、幹部ゴブリンの目をうまく狙うことで、視覚を失った幹部ゴブリンが暴れて雑魚ゴブリンを巻き沿いに処理させることを得意としていた。


狩りが終われば、10層到達記念パーティだ。気合入れて戦おうじゃないか!



——6346回目のループ——


「オラァ!…あ…ッ! 来た来た11層到着!!」


「YES!!期待値80%近いぞ、ふざけやがってッ」


無限回廊を彷徨うこと1年と5カ月すこし。期待値50%なら4000回ほどで辿り着けたはずの11層に、ようやく到着したのだ。

日光が燦々と大地を照らし、近くには小川のせせらぐ音が聞こえる。どちらかというと屋内のエリアが多い中、11層は相当に当たりの階層だった。


「なんだろう…立ってるだけで不足していたビタミンが全身を巡るようだわ…」


「涙でそうだ…いや、どうせ先を急かされるんだ。急いで食い物を集めようぜ!」


「合点承知、ぽよちゃん美味しそうな草集めるから、レオンは魚とか探して!」


そう、私達は毎日大量のご飯と肉を食べているわけだが、どうしても栄養が偏りまくっているのだ。

きっと私とレオンの記憶から好物を生成してくれたんだと思う。肉と米というのは当たりの組み合わせであることは間違いない。しかし、やはり野菜や果物が欲しくてしょうがなくなるのだ。


今までは3層に生えている草を持ち帰って、囲炉裏で乾燥させ、お湯で煮だすことでお茶を作って紛らわせていた。それに、コストが3000を超えたことで新しく『岩鱗トカゲ』が現れたことで、トカゲ肉を生で齧ったりしてビタミンを補っていた。


( ๑❛ᴗ❛๑ )うひょー!木苺あったー!!!


( ๑❛ᴗ❛๑ )これはノビル!こっちはアブラナ科ぽいから食べれそう!


「静香——ッ!」


夢中で草を集めていると、川の方向からレオンに呼ばれた。

普段大声を出す人ではないが、すごく弾んだ声だ。バックに草と木苺をつめこんで、レオンのいる場所に向かう。


「なにそれー!!」


「モンスターフィッシュだ!うおおお!」


二人ともテンションが天元を突破し、子供でもできないようなはしゃぎ方をしている。

レオンが捕まえたのは、優に人の背丈を超える鮭科の魚だった。全身が白っぽい銀色をしており、鮭科特有の口のとがり方をしている。


「この大きさ、イトウかもしれないわね!」


「さすがジャパニーズだ。魚は任せていいか!?」


「サーモンよ!生でもイケる?」


「ああ、何が出てきても完食することを天に誓うぜ……肉はもう飽きたんだ」


レオンからナイフを受け取り、イトウの解体を開始する。と言っても2mはある化物サイズだ、ナイフを使う前に銀爪ベルフェリアである程度斬る方が早いかもしれない。


『あら、素敵なお食事ですね。』


「ベルフェリアはゴブリンやトカゲの魂食べてるからいいけど、私にとっては久しぶりのごちそうよ!」


『うふふ。私の主の魂が喜んでいますわ。それが私にとっては何よりも素晴らしい事なのです。』


「じゃあ、ベルフェリアにも働いてもらうわよ!」


イトウの腹に刃を入れ、内臓を取り出す。血をこそぎ落とし、ぶっとい中骨の上を滑るように一枚切り分ける。続いて中骨の下にも刃を入れて、三枚おろしの形となった。


一枚をいくつかに切り分け、そのうちの2切れを皮面から火にかけてじっくりと焼いていく。

その時、無限回廊の主から刺客が差し向けられた。


ズズン…一つ目の大きな熊が木の間から姿を見せる。

長居をするものに脅威を与え、先へ先へと追い立てるのだ。


「静香、最重要ミッションは君だ。俺が相手をする。」


「ええ、今の私たちは発情期のライオンより気が立っているわ。」


レオンが一瞬で熊のもとに走り、空間を揺らすような拳を叩き込んでいく。

戦い続ける過程で、レオンの義手は次第に馴染み、今では魂を通すまでに至っている。その硬い拳で熊を追い払うように戦っているのだ。


私は視線を魚に向ける。鮮やかなオレンジ色の切り身が美しく、たっぷりと脂がのっていた。

火にかけている切り身からはじゅうじゅうと、溶けた脂がしたたり落ちている。


「やはり、この料理をしないわけにはいかないぽよなあ」


近くに生えていた手頃な木にむかって、銀爪ベルフェリアを一閃する。一抱えほどある幹が滑らかに切断され、音を立てて倒れていく。ほしいのはこの切り株だったのだ。表面を炎で焼き、ナイフの背でこすることで即席のまな板が出来上がる。


( ๑❛ᴗ❛๑ )ちたたぷ♪ちたたぷ♪


『ちたたぷ♪ちたたぷ♪』


( ๑❛ᴗ❛๑ )美味しくなるように、心を込めて言うんだぽよ。


『ちたたぷ♪ちたたぷ♪』


大きな切り身に、先ほどとったノビルを加えて両手の刃物を小刻みに振るっていく。

皮も骨もまとめて、歌いながら叩くように刻んでいくのだ。オレンジ色の身に、ノビルの緑と白が混ざっていき、非常に食欲をそそる見た目となっていく。


よし、イトウの刺身、イトウのちたたぷ、イトウの焼き魚、完成である。

味見はしていない。フライングはルール違反だからだ。


——【魔法錬成 アイシクル・フィールド】——


残った切り身に向かって、魔法を発動させる。

最近練習している氷を操る魔法である。私の掌にサファイア色に輝く蒼い球が出現し、狙ったところへぶつけることで発動する。星の芯まで凍らせる冷気が解放され、その場の空気に含まれる水分を一瞬で凍結させる。


周囲10mほどの範囲で、気温が数度下がったのを感じた。何をしているかと言えば、今すぐ食べれないイトウの切り身を冷凍保存しているのだ。大きなバッグに草と一緒に冷凍イトウを詰め込んでいく。かわりに竹の葉っぱでくるまれたおにぎりをとりだし、握りなおした後火の側で温めなおす。


「めちゃくちゃいいにおいだな。食っていいか!?」


「どうぞ、召し上がれ。箸は作っといたわよ。」


一仕事終えたレオンが足早に帰ってくる。

左手でも箸を使いこなすあたり、レオンの器用さがうかがえるというものだ。


「「いただきます」」


まずは、ちたたぷを一口…………ハッ 魂が抜けて成仏しそうになっていたわ。


「なんだこれ…うめぇってレベルじゃねえ。麻薬入ってんのか?」


( ๑❛ᴗ❛๑ )うまいぽよ!うまいぽよ!うまいぽよ!


気が付けば手に持っていたおにぎりが消え、新たなおにぎりを取り出す。

まろやかな口どけのちたたぷ。溶ける旨味のなかで、骨と皮がコリコリとした食感を残していて癖になる。


「刺身もたまらんぽよ~醤油がないのが残念だけど、塩はもってるぽよ。」


「これもこれで、うまいな…なあ、焼きもたべていいか?」


「皮ごとたべるぽよ。」


ごくり。

皮に焦げ目がつき、反対側の身の表面で脂が跳ねている。塩を軽く振って、一口。

これは、暴力だ。熱したことで溶けた脂肪が、旨味の爆弾となって舌を蹂躙する。分厚い皮はもっちりとした歯ごたえで、ゼラチン質が身と合わさることで凶悪なコンビネーションを成立させていた。


「……」


レオンを見ると、口いっぱいに魚を頬張り、肩を震わせている。

わかる、わかるよレオン。私はそっとおにぎりをもう一つ手渡した。


無言で口につめこみ、飲み込んだ後は感謝を伝え合う。

脂でこってりした口に、食後の木苺がまた見事にマッチして美味しかった。


「「ごちそうさまでした」」


「そろそろ、行こうか。」


「ああ。今ならあの軍団を蹴散らせるぜ。」


「ちなみにバッグにはたっぷり氷漬けの切り身と、木苺と、野草を詰め込んだわ。」


「命に代えても守り切る。」


かつて、これほどしっかりした足どりで地面を踏みしめたことがあっただろうか。

二つの扉を前に、刀を引き抜く。さぁ、かかってきやがれ!


決めたのは青の扉。気合一閃、飛び込んだ。



——6346回目のループ——


「Wow、当たり引いちまったぜ。」


「よし!12層目キターッ!!」


6000回台で12層に辿り着く確率は、だいたい50%。

11層までが長かったが、やはり確率は収束するということだ。


イエーイ!もうあと1回成功すれば、クリアじゃないか!


ハイタッチをしようとレオンの方を向いた――つもりだった。だが、彼の姿はそこにない。


「……え?」


私の手は空を切り、反対側に立っているレオンとズレた動きで宙を彷徨う。見れば、レオンも同じようにこちらに手を伸ばしていたが、その動きが妙にちぐはぐだった。


「おい、動き、おかしくないか?」


右を向いたつもりで、左を向く。

頭でイメージした動きとは別に、身体がまるで他人のものみたいに反応する。


「ハイ、って言ったときに後ろ向いてたぞ、お前」


???


歩くだけで強烈な違和感に襲われる。二人で色々検証した結果、どうも左右反転した動きをしているらしい。気持ちが悪い。ここに長くいたら、自分の体が喪われるような気さえする。


それでも何とか、二人してぐだぐだと進んでいく。頭で考えるほどだめなのだ。

その様子は、完全に酔っ払いのデュオダンスだった。


緑の扉に向かうつもりが、足は反対の青の扉に進んでいる。

まあ、どちらでもいいんだけど…


「……せーのでいこう。」


「さすがに緊張するな。」


「これ、二人とも別々に進めば一人はゴールできるんだね。」


「其の場合、もう一人はさすがに死ぬだろうな。あの軍団は、一人で何度も潜り抜けるのは至難の業だ。」


人数制限している意味も分かる。ぶっちゃけ人が多ければ同時に二つの扉を選び続けるだけでクリアできてしまうからだ。


せーの。おねがいっ。


——7026回目のループ——


「ハァ…帰ってきたぜ。」


膝から崩れ落ちそうになるのを、必死にこらえる。

ようやく12層目に帰ってきたのだ。すでに無限回廊に入って2年間以上経過している。毎日休まず、ひたすらに挑み続けてきた。


一日も途切れなかったというのが、きっとよかったんだ。一度でも止まると、歩けなくなっていたかもしれない。


「…どっちにすすむ?」


「ここまでの検証結果は、こう言っている。ここは純然たる確率に支配された世界だ、とな。」


「ふふ…そうね。この無限回廊の試練、だいたい分かってるのよ。」


「ついてきなさいッ 私が先に進む扉を斬り拓いて見せる!」


仮にハズレを引けば、そこに現れるのは無数のモンスターパニック部屋だ。


ゴブリン・キングが率いるゴブリン軍団。

岩石竜を頂点とするトカゲ勢力。

殲滅に時間がかかってしょうがない咬狼の群れ。

そして、今やラウガルフェルトのナメクジ達が、毎周ごとに着実に増えてきている。


もはやモンスター同士が殺し合い、ほっておくととんでもない進化をし始める個体が出てくるのだ。

ここはギミック系ダンジョンじゃなかったのか。死なないように走り抜け、セーフティエリアへ駆け込む。すると大量のモンスターが潰しあい、狙い目になったら瀕死の個体を殺して回ってリセットするのだ。


「征くわよ。」



——7026回目のループ——


『おめでとう。冒険者よ。』


辿りついたのは満点の夜空…否ここは宇宙だろうか。天へ続く階段が伸びている。

声の主はその先にいるようだ。


「レオン…やった…やったやったやった!」


「ウオオオ!13階についに辿り着いたッ!!!静香ッお前は天才だ!!」


脳が焼けるようなアドレナリンの噴出、とにかくうれしさを二人で分かち合う。

過剰に分泌されたアドレナリンに、手足が小刻みに震えている。やった、ついに、たどり着いたんだ!

息が整うまで何分経っただろうか。いい加減、終わらせよう。


「ハハハ…膝が笑うなんざ、いつ以来だ。とにかく階段を上るぞ。」


「行きましょう。旅の終わりを見届けるわ。」


暗闇に浮かぶ階段を一歩ずつ登っていく。

まだ足がふわふわしているようだ。しかし、昂った精神は、いつ敵が現れてもいいように準備しているようでもある。


階段の果て、そこには四角く縁どられた5m四方の絨毯が敷いてあった。それより先には何もなく、深い闇に繋がっている。

階段一本で繋がっている、ピラミッドの頂点にいるような気分である。


『おめでとう。よく辿り着いたね。』


宙に浮いているのは、巨大なクジラだった。全身には複雑な紋様が走り、背中に白い翼をはやしている。穏やかで、まどろんでいるような不思議な声だった。先ほどまでの心の熱がスーッと覚め、その代わり普段の自分を取り戻していっている。


『わたしは、この無限回廊の主。本当によく辿り着いた。』


「随分待たせちゃったわね。お土産にお魚の切り身あるけど、たべる?」


『ホッホ それは夢の産物。持って帰ることもできないから、わたしが頂こう。』


「えーと、なんて呼べばいいんだ。俺達はクリアってことでよいのか?」


不思議な存在だが、どうも戦うというわけではなさそうだ。

しかし、帰る雰囲気でもないし…どうしたらいいんだろう。


『わたしに名前なんてないよ。そうだね、シランガナクジラとよんでおくれ。』


『君たちは無限回廊で随分成長したね。魂の器はいっぱいに満ち、刻まれたスキルは天井に届いている。…ただここは夢のような空間。終われば魂の器は元に戻ってしまう。』


「そっか…それは薄々気が付いていたよ。あの敵、私達を殺そうって本気で思ってなかったみたいだしね。現実感が薄れていくのを、なんとなく感じてたよ。」


『賢いんだね。でも、ここで起きたことも現実さ。君たちが鍛えたことは、君たちの現実にもきっと持って帰れる。それに、わたしから一つ贈り物をしよう。』


「シランガナクジラ、でいいんだな。贈り物ってのは?」


『君たちが望むものを、一つ。わたしにできる範囲で、だけどね。さあ考えなさい、ここはまだ夢の続きだ。』



そう言うと、声の主は瞳を閉じ、闇の空をふわふわと漂い始めた。

贈り物、これには身に覚えがある。高位存在から与えられるスキルのことに違いない。


「レオン、おそらく貰えるのはスキルの類よ。」


「俺は、何となく決まってるぜ。先に行かせてもらっていいか?」


「ええ、もちろん。私は少し考えるわ。」


レオンの目には迷いはない。ずっと苦悩してきたことなのだろう、既に彼自身の中で必要なスキルが浮かんでいるようだった。


「シランガナクジラ。オーダーだ。俺はこの腕で、戦い抜く力が欲しい。」


『迷いのない目です。では、問いましょう。貴方はその腕に、何を望みますか?』


「俺は狙撃手だ、銃を撃てるようになりたい。」


『その義手、さらに貴方が持っているソレ、よく魂が宿っているようです。ソレは貴方にとって何ですか?』


シランガナクジラが指すのは、レオンの背中にかけられているCheyTacM300。

まともに扱うことさえ困難な対物狙撃ライフルである。


「俺の腕、いやそれ以上にこいつのことは理解している。部品一つ一つが俺の細胞みたいな存在だ。」


『良いでしょう。既に貴方の内に形があるようだ。これは夢の産物、現実に渡る夢の産物。元の世界に帰りなさい。』


レオンの前に扉が現れる。

今までの扉と違い、金色の扉だ。グっと親指を立てると、レオンは扉の中に消えていった。

シランガナクジラが大きく一回瞬きをして、わたしの方を向く。


『では…そちらの貴女、よろしいですか?』


「ええ、決まったわ。」


『無限回廊を踏破した貴女に問いましょう。無限回廊は何だと思いますか?』


むむ、レオンの時と少し様相が違う。

このダンジョンにはいって2年以上経っている。私の見解はこうだ。


「レオンが言っていたわ。ここは純然たる確率に支配されている。結構なことじゃない。常に運なんてのは揺れ動くもの、幸運にも不運にも動き続けているわ。必要なのは歩き続けること、きっとこの先にも続いているんでしょう?私の目の前に幸運が訪れるまで、その道を斬り拓いてやるわ。」


『よろしい。彼が君に、興味を抱いているのが良く分かったよ。では、そんな君が道を斬り拓くために願うことを教えてくれるかい?』


「あなたの親玉、大いなる情報体に会わせてほしいの。」


『なんと!君は思った以上に賢いのだね。語らうだけなら、きっと彼も許してくれる。扉を開いてあげよう。』


「ありがと。貴方の作ったダンジョン、楽しかったわ。」


『ホッホ これは心優しい君へ、わたしからのささやかなお礼だよ。』


シランガナクジラの全身が白く光り、ダンジョンが泡沫へ変わっていく。

私の目の前には一枚の扉。世界の深淵、全ての情報を司る地へ、私は足を踏み入れた。




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