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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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無限回廊 其の2

「……ッシ、99体目ェ!」


広い中庭には、これまでに私とレオンが葬ってきた99体のゴブリンの死骸が、山のように積み重なっている。

一度失敗するごとに増えていくゴブリンの数。個体の強さは大したことがなくとも、これだけの数になると処理には手間がかかる。


「ったく、最初の扉で弾かれると、ほんと萎えるな!」


「次で100体目ね。ご飯食べたら、すぐ行くよ」


ここは、私たちが「0層」と呼んでいるセーフティエリア。

建物の中には、ゴブリンも入ってこられず、私たちに危害を加えるギミックも存在しない。

ただし、ずっと留まっていられるかというとそうではない。ここで支給される2人分の食事は、扉を潜らなければ次の分が供給されないからだ。

つまり、歩みを止めた者には、飯を食う資格すら与えられない。


「次は俺の番だな。今度こそ、青で抜けてやる」


「せーのっ」


レオンが青い扉に足を踏み入れた瞬間、視界に広がったのは再び広い中庭。そして、そこには大きな体躯のゴブリンが1匹――


「あーあ、ハズレね。でも、数が増えるだけじゃないのは、朗報かもね」


「100匹分、強いんだろうさ。気を抜くなよ」


初めての挑戦で出会った1匹を思い出す。今回が99回目の失敗ということは、これで100匹のゴブリンが現れるはずだった。

だが現れたのは、100匹のゴブリンではなく、1匹のゴブリン・ジェネラルだった。


それは、私と何かと因縁のあるモンスターだ。

ジェネラルは私たちを見据えると、その醜悪な顔をさらに歪め、凶悪な咆哮をあげた。


「オオオ゛オ゛――ッ!」


次の瞬間、巨体を揺らして一直線に突っ込んでくる。攻撃を捌き、レオンと連携して二方向から攻撃を加えていく。レオンのサブマシンガンが軽快な音を立てて弾丸を吐き出し、私には一切流れ弾を飛ばすことなく、全弾命中させている。


クリスヴェクターサブマシンガン モデルⅤ。

クリス社が開発したサブマシンガンの一種であり、ボルトを上下運動させる特殊な反動制御機構を有している。それにより毎分1200発の弾丸を吐き出すイカれた銃である。平べったく四角い、独特な形状ゆえに故障やジャムが多かった問題作なのだが、長年の研究により改良を重ねてきていた。


もっとも、いくら銃が優れていると言っても、じゃじゃ馬のごとき速射を、完璧に操っているレオンの腕が光ると言ったところだ。これを左手一本でこなしているのだから、つくづく射撃に関する能力が飛びぬけている。


しかし、ゴブリン・ジェネラルはレオンの攻撃を見ようともしない。急所に鉛玉を叩き込まれながら、濁った眼で見ているのは常に私の顔だ。


バスターソード型のなまくらを大きく振るって、私個人を必要に追いかけまわしてくる。心当たりがあるとすれば、私の称号にある[ゴブリンキラー]だろうか。こんなことをしていては、また変な称号が増えるような気がしてならない。


「んもーしつこいわね。」


腰に下げていた銀爪ベルフェリアを引き抜く。

最高位悪魔を宿した刀は、別に火を噴いたり斬撃を飛ばすような能力があるわけではないけれど、純粋に切れ味と耐久性が飛躍的に向上していた。


振るわれた剣を受け流し、すれ違いざまに首に刃を滑らせる。短く太い首を両断とまではいかなかったが、骨を断ち切った手ごたえがあった。


「はい、納刀。手入れが不要になったのが一番の収穫ね。」


銀爪ベルフェリアを鞘に納め、レオンのもとに戻る。本来刀身についた血肉や油を奇麗に落とす必要があるのだが、ベルフェリアが宿ってからというもの、全て刀身に吸い込まれるように消えていくため、非常に便利な武器になっている。


「ごくろーさん。やっぱ静香はゴブリンに恨まれてるよな。」


「ゴブリン相手だと、ちょっと体が動きやすいのよね。これも称号の効果みたい。」


囲炉裏にもどり、手を洗う。

丁度区切りがいいので、これまでの情報を整理してみることにした。


「さすがに休憩だな。飯食いながら情報を確認させてくれ。」


「ウィンドウをみると、潜入してから約50時間…丸2日間チャレンジしたってわけね。」


2日間ぶっ通しで扉に挑み続けたということだ。ランナーズハイというのか、何となく辞め時を見失って走り続けてきてしまった。


「ああ、ゴブリンのおかげで確認しやすいが99回ループしている。扉を潜った枚数は221枚、最高到達階層は9層だ。」


「ええ、そうね。9層は素晴らしかったわ。」


私達がこうしてご飯を食べているのが0層、一回扉を抜けた先の竜骨階段を1層と呼んでいる。

9回連続で正解を引いたことで到達できた9層は、非常に良いところだった。

何があるのか…そう、温泉である! なかなか遠い階層ではあるが、広い敷地に何種類も温泉がある夢のような階層だった。


そのうちの二つのお湯が、そのまま扉になっていたのもおしゃれだ。問題を言うなら、徐々にお湯の温度が上昇していき、最後にはグツグツと沸騰してしまうこと。これが無ければ、数日滞在したいほどに魅力的な階層だった。


「99回の試行で221枚の扉を抜ける確率は55%、9層に辿り着く場合は20%弱だな。なかなか、俺達運が良い部類らしい。」


「なるほど…ゴブリンを生かした場合には次のチャレンジでも残っていて、殺せば死体も消える。動きを見る感じ、彼らが記憶や経験を引き継いでいるってことは無さそうね。」


「100匹目の節目でボス1匹に変わるのも想定内だな。次の試行ではボス1+子分1ってところか。連携されるとうざいかもな。」


「ボスゴブリンは、ゴブリン・ジェネラルって種類ね。ゴブリン達を統率したり、バフをかけるスキルを使うかもしれないから注意して。」


「わかった。片方がここに残っている時でも、ゴブリンが追加されたのも注意だな。」


「先に進んだ人に、後から追いつけるのは何か使えそうな気がするわ。」


99回に及ぶ試行のなかで、各階層やゴブリンについて様々な検証を行っていた。

それを二人で思いつくままに上げていく。仕様、ルールを理解することがギミック系ダンジョン攻略の鍵であることは間違いないはずだ。


そして出された結論。


「結論、二人でばらばらに攻略する意味は薄い。ゴブリン狩ってスキルレベリングすることを作戦目標にして、いつかそのうちゴールするでしょって気構えで挑みましょうか。」


先に進むことを目標にすると、途方もない確率の壁が立ちふさがり、士気を保てないことは明白だった。それよりも、一定の規則で増え続けるゴブリン達を倒すことに主目を置く。

時間と敵が無数にいるのだ、鍛えられえていなかったスキルを磨き上げるチャンスでもある。ちなみに、瞬歩をレオンに付与しようと提案したら断られた。残りのリソースが少ないことを挙げ、付与する相手を厳選するほうが良いという意見である。


「そうなるな。雑魚を倒しても実感は薄いが、経験値稼ぎには良いダンジョンだぞこれ。……俺が挑んでるのは、なんか違ェかもな…」


この試練を糧に変えるという目標に、レオンが同意する。

しかし、言葉を濁す様に口ごもる姿は、いつものレオンらしくは無かった。


「あら、お姉さんが悩み聞いてあげましょうか?」


「年下だろーがよ」


そう言うレオンの顔には、やはり隠し切れない影がかかっていた。

右腕を失い、戦場から居場所を失ってしまったことが、レオンにとってのアイデンティティを揺らがせているのだ。


「情けねぇ話だけどよ。この腕もそうだが、4人の中で最初に脱落するのが俺だって分かってるんだ。」


「デルタ、もといリーメン・ハウンズの4人ね。どうしてそう思うの?」


「役割の問題さ。単純にコイツじゃ、この先火力が足りねえ。」


そう言って、レオンがサブマシンガンの銃身を小突く。

もう一つのCheyTac M300という巨大なスナイパーライフルも、何時かは同じく火力不足の烙印を押されるのだと言っていた。


「静香達みたいな、自身の肉体で戦えるヤツほど先に進めるんだと思う。その点で言うと、静香の刀なんかは良い相棒だと思うぜ。喋るのは気持ち悪ィがよ。」


「それに、やっぱし腕が無くなったのはキツイな。ああ、今回は最後まできっちり働くから心配しないでくれ。今後は、お前らのバックアップに回ろうかと思っている。」


「私達、英雄の戦場は人手不足もいいとこよ。来るなら戦場に引きずり出されるとおもってちょうだいな。実際、レオンより戦力になる人材なんて、滅多に見つかるもんじゃないわ。」


「…労基に訴えられるぞ。ルカなんか、静香の命令となれば寝ずに働きそうな気もするが…」


「ふふ、悩みがあればいつでも聞くわ。」


「ああ、頼りにしてるぜ。まずはこの無限回廊の突破だな。ついでだ、ゴブリン相手にCQC式の体術訓練をみっちりつけてやる。鬼のエリック直伝の体術だ、覚えておいて損はない。」


「レオン師匠、よろしくお願いするわ。」


心の靄を少し吐き出せたのか、レオンの表情が明るくなる。

レオンが人類でも最高峰の戦力の一角であることに疑いはない。ただ同時に、銃を主体に扱う戦闘スタイルの天井が、思いのほか低いところにあったことも事実なのだ。






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