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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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地下の城にこんにちは

ブックマーク、☆評価よろしくお願いいたします。

ホワイトハウス官邸――その象徴的な白亜の正面扉を、私は勢いよく蹴破った。

館内の要人は避難したのだろう、誰の姿も見えずアラームだけが鳴り響いている。少し歩くと、その先の通路は鋼鉄の扉によって封鎖されている。拳でガンガン叩いてみたが、小刻みな振動すらしないほどに分厚いことが分かる。物音に気が付いて振り返ると、私が来た道にも扉が下ろされようとしていた。


「皆さん、どうしましょう。閉じ込められてしまったみたいです。」


配信を見ている人たちへ、とりあえずこの状況を共有する。国家権力の象徴であるホワイトハウス、無遠慮な侵入者を進ませるほど甘い防御システムではない。


「大統領どころか、要人の方々もどこかに隠れてしまったようです。せっかく会いに来たというのに、廊下で待たせるなんて寂しい対応ですね。で・す・が、今更隠れることができるとは思わないように。」


『順調だな、帆世ちゃん。大統領達はホワイトハウス地下に避難している。警備隊もさることながら、バカみたいにデカい避難場所にひきこもってるみたいだぜ。』


「えー、このようにUCMCは要人の居場所であっても特定可能です。普段は、凶悪な人類の敵に対して団結したり、被害に見舞われた人の救出に使われる機能ですが…このような状況になってしまい、残念でなりません!」



大統領は地下にいる。その居場所がマップに煌々と明かされているのを、彼らはまだ知らないだろう。

ホワイトハウス――その白亜の象徴の地下深くに、ひとつの“城”が存在する。

Presidential Emergency Operations Center(PEOC)。大統領危機管理センター。

名目上は、有事の際に大統領とその側近たちが避難するための地下司令室。だが、その実態はただの退避壕ではない。


冷戦と核戦争、テロの時代を越え、二十一世紀のサイバー戦争に至るまで、幾度となく改修と増設を繰り返してきた。今やそれは、“一国の中枢”がまるごとパッケージされた絶対防衛領域と化している。


地下の深層部、厚さ数メートルに及ぶ多重構造の壁には、チタン合金とセラミックコンポジットが交互に組み込まれ、衝撃と熱に対する完全な耐性が与えられている。地上が核攻撃に焼かれたとしても、無傷で耐えきれる分厚い天蓋。


さらにその内部には、生活区画、医療区画、戦略会議室、暗号通信司令室が整然と配置され、外界と完全に断たれた状態でも一年以上、自給自足で作戦行動を継続できるだけの環境が整備されていた。そこに到達するためには無数のゲートを通過しなければならないが、要求されるパスコード・網膜・指紋・音声・静脈等が必要とされ、部外者は扉1枚たりとも開くことはできない。


地下最も深く、壁が最も厚い部屋が存在する。大統領個室、である。

現在その部屋にいる人物はただ一人だった。強大な国力の粋を費やして建造された地下の城の、絶対的な防衛能力が一抹の油断を誘ったのだろう。シークレットサービスは部屋の外に待機している。



「では、皆さん。由緒正しい白亜の館を壊すのもしのびない。直接会いに行くので、すこし視界がワープしまーす。」


【空間転移】


スキルの中でも、一際異色な転移能力。現在色々と制限があるのだが、それを説明してあげる義理などない。神出鬼没の超個人武力を味わっていただこう。


「しょかつさーん、大統領にだけ翻訳機能を戻してあげて。」


『もろくず、だけどな。』


核攻撃でさえ通過できない、あらゆる障壁を一足で飛び越える。大統領がいすわっている最奥の部屋、豪華な絨毯の上に降り立った。


目の前にいるのは一人の男。幾度となくテレビで見たことのある、世界一有名な顔を持っている。

ブロンドに近い金色の髪は、独特の膨らみをもって額の上に整えられ、どこか風を拒絶するように固まっている。体格は大柄。身長約190センチ、横幅もしっかりある堂々たる体躯。仕立てのよい紺のスーツに、鮮やかな赤いネクタイを締めており、胸元にはアメリカ国旗のピンが光る。


ライフル狙撃から生還し、暗殺されかけた直後だというのに、星条旗と青空を背景に拳を振り上げた勇姿は教科書にも載っている。最近では関税措置によって世界中に経済的混乱を引き起こし、さらにはロシアと戦争をおっぱじめた張本人でもある。


「あなたがアメリカ合衆国大統領、カール=タカードさんね。初めまして。」


「貴様ッ、ここまで無法な存在がいるというのかッ」


百人一首やババ抜きができそうな、面白い名前だ。うろたえながらも、現実を直視することができているあたり、さすがに頭の回転が速いと見える。即座に拳銃を取り出しながら、非常用ボタンを押そうとしている。


「すとーっぷ。動かないでね~。今は戦争中で、あなたは大将首なのよ。一挙手一投足、一言一句、行動を禁止します。破れば首が落ちるだけですよ。」


銀爪を一閃し、拳銃の銃身半ばから切断する。非常用ボタンを押そうとした腕は、やさしく捕まえる。握手、握手。殺気を練り上げ、握った腕から流し込むように行動を縛り上げていく

交渉しに来たわけではない、一方的で強制的な宣言を聴かせるためにきたのだ。


「カール大統領、今からあなたに話があります。あ、ごめん配信はここまでよ。この後のニュースをたのしみにしてね~ではでは、帆世静香ちゃんでしたー!ばいばーい。」


……ッ!!


「あ、ごめんなさい。こっちの都合で。今この瞬間、アメリカ合衆国は負けが確定しました。穏便に解決したかったら、条件を飲んでくださいね。」


私からの、いやUCMCからの要求は以下の通りだ。

・ロシアに謝罪し、停戦すること。

・UCMCの勧告に従い、再度加盟すること。

・UCMCの指揮に従い、試練への対処にあたること。


それだけだ。

別にアメリカを罰したいわけでも、国力を失墜させたいわけでもない。そんな風に人類同士でいがみあっているほどの余裕はないのだ。


今回の一件、しいて言うなら、アメリカを噛ませ犬に使ったに過ぎないのだ。今頃、世界中の指導者達が顔を青くしているにちがいない。


「発言を許可するわ。あなたが拒否したら、()()()()()()に聞きに行くだけだから、自由にしゃべるといいわ。アメリカ政府の全員が死ぬよりも早く、誰かかしらが私の話を飲んでくれるでしょうから。どうぞ?」


「……我らがステーツは、世界を守ってきた責任があるのだッ。」


「ええ、知ってるわよ。デルタフォースの皆にはお世話になったし、彼らは私よりも強くなるでしょうね。UCMCに加盟すれば、そういう特異な人材を育てる環境を提供できるわ。」


「……」 


「いつまでも保守ってないで、チャレンジ精神を思い出しなさい。」


「分かった…ステーツは全面的に協力することを約束しよう。だが、そちらにも協力してもらうぞ。」


「もちろん。というか、私達人類はね、お互いに争ってられるほどの余裕がないのよ。アメリカの戦力や人材には、心から期待しているわ。」


「じゃ、私帰るから。あとのことはUCMCと相談して、いいようにやっといてね。またオイタしたら、いつでも飛んでくるから、そのつもりで。」



【空間転移】



興奮冷めやらぬ様子の諸葛さんと目が合う。

とりあえずの一仕事が終わり、UCMCの一室に帰還したのだ。

私にできるのは安っぽい脅しに色を付けることくらいだ。それ以上の緻密で面倒な交渉は、諸葛さん達デキる大人に全部任せてしまおうと思っている。


「ただいま~。お風呂とご飯の準備よろしく。」


「あ、帆世ちゃん。お疲れ様でした!ライブも成功、スズメバチの巣にフルスイングしたみたいに大騒ぎだぜ!」


「後のことは任せるわよ~。飛び交うスズメバチをなだめる方法なんて知らないんだけど。」


「なぁに、溢れる熱狂の使い道なんて山ほどあるのさ。クエスト攻略が馬鹿みたいに進む未来がみえるぜ~~」


「帆世さん、この度は私どもの不手際で、大変危険な役目を押し付けてしまいました…」


「真人さんも、くよくよしない。そのかわり貸し1で、また色々お願いするからよろしくね。」


「ハハッ…心強いような、貸し1がおそろしいような…。」


次はこもじの到着を待って、ヴァチカンの攻略に行かねばならない。

それまでの間、少し仮眠をとらせてもらおう…。体力が増えたとはいえ、目まぐるしくかわる環境や仕事に精神的な疲労が出てきてしまっている。


重要なメッセージだけ目を通して、ひと時の休みを…


☆こもじより[個人メッセージが届いています]☆


(´・ω・`)何やってんすかww 

(´・ω・`)中国にひきこもってて良かった~

(´・ω・`)うわー、ぽよちゃん野蛮な子…

(´・ω・`)俺の読みだと、これはUCMCの名前使ってるだけで、ぽよ本人のごり押した作戦っスね。


こいつ、ライブを見ながら面白がってコメントをつけているだけだった。

帰ってきたらどうしてやろうか…


とりあえず無視だ、無視。そういえばスキルを瞬歩に戻しておこう。

空間転移が無法じみて強かったが、あくまで人間社会においてはの話だ。刹那の戦闘で、そんなに悠長な時間をとることはできない。瞬歩の使い勝手の良さは、大のお気に入りである。



次回から、ようやくヴァチカン攻略です。

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