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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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お風呂テレワーク

ようやく日本帰還

「これ、待たぬか。」


「やっ柳生様ッ!!!」


「失礼致しましたッ!!」


UCMC施設の最奥、進化の箱庭のゲートには高級スーツに身を包んだ人達に出迎えられる。その身なりとは裏腹に、血相を変えて大きな声を出しているあたり緊急事態が起きている様子だった。


「食事とお風呂準備して。その間に、私が関わる事項を優先順位つけてまとめておいて。」


慌てた人間の報告を聞いても、情報の過不足が生じて無意味である。ダンジョンを出たことで、ウィンドウが同期され無数のメッセージが溜まっていた。


一旦全部無視だ。重要な情報だけまとめさせよう。それに緊急事態であるならば、可及的速やかに私自身のコンディションを整えたかった。


幸いUCMCには様々な機能が備わっている。銀爪と外套を預け、装備の修繕を依頼する。千蛇螺の籠手は、生きている故か勝手に修復されるため、一緒にお風呂に入ればokだ。こういう自己修復機能がついた装備を、今後揃えていきたいものだ。


装備を預けた後、UCMC内に貰っている私の個室へと向かう。部屋に着くと、大きな湯船にはなみなみとお湯がはっていた。


ざぶんっ


長いこと戦場にいたのだ、シャワーしたくらいでは体についた汚れが落ちるとは思えない。直接湯船に浸かり、お湯を流しっぱなしにして顔や髪をお湯に馴染ませてゆく。


今後ショートヘアにするのも検討した方がよいのだろうか。今更、そこらのハサミでは切断できないほどに、髪の毛も強靭になっているんだけど……。


体から汚れが抜け、その代わり疲労感が染み込んで行くように感じる。このまま目を瞑って寝てしまいたいほどだ。


こうしてお風呂につかっていると、6層の温泉を思い出す。ウズ……あの夜、私は気を失って 気がつけば朝だった。裸でベッドにいたわけだが、何か間違いは起きなかったのだろうか……考えないようにしていたが、どうしても思いすと顔が燃えるようだった。


だめだめ、今はそういうのは考えちゃいかん。湯船から1回出て、冷水のシャワーを浴びる。ちべたい~~ッ


「ハァ~~!サッパリした。」


ついミーシャを思い出して、ナニカがフラッシュバックした気がしたが、水に流す。


ミーシャといえば、なるべく早く6層に人を向かわせたかった。あの村と城を守れるような、信頼出来る戦力を送り込みたい。


心当たりならある。多数の武人が所属する団体で、命令が絶対のものとして守られる規律もある。補充の効かない銃器と違って、己の肉体を武器に戦うタフな人たちだ。


ウィンドウから、見知った名前を選んでコールする。何度も電話した仲だ、すぐに出てくれた。


「もしもし、師匠?あ、師匠もお風呂でしたか。

忙しくなる前に確認したかったのですが、夢想無限流の皆さんを進化の箱庭に向かわせてもよろしいですか?」


『おなごが風呂から電話するでないわッ

道場の連中は好きに使って構わん。あの程度で死ぬような、やわな修行はしとりはせん。』


「ありがとうございます!では、早速。」


師匠との通話を切り、夢想無限流のグループ全員へ通達する文章を考える。

きっとこの後、UCMCの様々なゴタゴタが始まってしまうのだ。今のうちに私の用事をすませたい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



件名:進化の箱庭攻略について


帆世静香です。


夢想無限流皆様におかれましては、大変ご心配をおかけ致しました。

たった今、進化の箱庭より帰還したところでございます。柳生師匠ともに無事帰還することができ、現在UCMC施設にて諸々報告をしている最中です。


進化の箱庭は、当初5層までの攻略を予定しておりました。ですが、訳あって10層まで攻略し、帰還することになりました。※後述します。


つきましては、柳生師匠より、皆様にも攻略に参加して頂く許可を頂きました。柳生師匠より改めて通達があるかと存じますが、私の方から経緯と情報を説明させていただきます。


結論から申しますと、皆様には数名ずつPTを組んで頂き、6層を目指して攻略を進めて頂きたく思っております。潜入時に組んだPTごとに、進化の箱庭チャネルが構築されるため、道中別PTと合流できませんので注意ください。


1-10層の詳細な情報は添付しておきます。

特別注意していただきたいのは、5層です。5層にはモンスターの代わりに6層の人間が転移という形で現れます。彼らを殺害することなく、一緒に6層へ連れて行ってください。


6層では、私の記したマップ以外の地点から始まる可能性があります。この場合、行動可能であればマップ上にある城を目指して移動してください。またモンスターが出る可能性がありますので、注意してください。


現地ではミーシャという女性に、私から手紙を預けてあります。彼女の保護を優先しつつ、現地で居住する環境の整備をお願いしたく存じます。現地では非常に珍しい鉱石が採取可能であり、柳生師匠の童子切安綱も修繕目的で保管されています。


皆様には、6層で駐留・合流していただきたいと考えておりますが、こちらに帰還したい場合は10層を目指して進んでいただくことになります。


9層は、時間経過によって勢力関係が異なる可能性もあり、攻略に危険が伴います。

10層は、特殊な方法で倒す敵であり、その方法が完全に解明できておりません。


以上の理由から、6層に留まれる方のみ参加してください。どうぞよろしくお願いいたします。


[添付]:進化の箱庭1-10層データファイル


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「よし。送信っと。」


急いで書いているのだ、多少敬語や文章が雑になった気もするが、汲み取ってほしい。

ダンジョンに潜入して得られた全情報を、ファイルにいれて添付した。万理の魔導書、さまさまだ。


「えーと、次はこもじね。なにしてんのかしら。」


( ๑❛ᴗ❛๑ )「もしもーーーし!こーもーじ!」


(´・ω・`)『うわっ、なんスか、久しぶりっすね。』


( ๑❛ᴗ❛๑ )「こもじの師匠と、デートしてきたんだぽよ~。」


(´・ω・`)?


( ๑❛ᴗ❛๑ )「夢想無限流に入門して、なんか流れで進化の箱庭に2人で攻略してきたんだぽよよ。」


(´・ω・`)『えー!俺も行こっかな。』


( ๑❛ᴗ❛๑ )「夢想無限流の全員に宛てて、さっき攻略推奨のメールしたぽよ~。届いてない?」


(´・ω・`)『えー、届いてな……あれっ夢想無限流グループから外されてんすけど!』


( ๑❛ᴗ❛๑ )ウケる


(´・ω・`)『まあ、ええか。俺は中国で修行させられてるッスよ。』


( ๑❛ᴗ❛๑ )「おー、残ってたもんね。どんな修行してんの」


(´・ω・`)『形象剣っていうんすけどね、熊のまねっこしてるっす。』


( ๑❛ᴗ❛๑ )かわちい。


(´・ω・`)かわちくねえよ。


( ๑❛ᴗ❛๑ )「今心が通じた気がするぽよね。なんか緊急事態ぽくて、慌ただしいから日本に帰ってきてよ。飛行機行かせるから。」


(´・ω・`)『アメリカが戦争起こしたって聞いてるッスね。俺の場所分かるんスか?』


( ๑❛ᴗ❛๑ )「こもじの居場所、常にぽよマップで確認できるぽよ。」


(´・ω・`)『重度のストーカーやめてなのね。』


( ๑❛ᴗ❛๑ )「とりあえず進化の箱庭の詳細情報送るから、読んどいてちょ。一緒に入れば3日で10層まで送り届けるぽよ。」


(´・ω・`)『露骨なパワーレベリングなのねん。こもじはのんびり屋さんなのねん。』


( ๑❛ᴗ❛๑ )「んじゃ、またー。」


(´・ω・`)『はーい。』



いつも通りのこもじである。

こういう気軽に話せる友人は、貴重な存在だ。熊のまねっこも気になるとこだが。もう1人、連絡を取りたい人が居た。


矢継ぎ早に3人目にコールしていく。



「もしもーし、真人。今忙しい?」


『帆世さんッ!!!?』


「今さっき帰ってきてさ、お風呂にはいってるんだけど……」


『今、ホンットに大変なんです!!今すぐにでも、色々依頼したいのですが、大丈夫ですか!?!???』


「ストップストップ、先に私の依頼聞いておくれよ。」


『はっ、失礼しました。ほんとに今ヤバくてですね……』


「まあまあ、難しく考えるのは悪い癖だよ。近日中に、夢想無限流の門下生が進化の箱庭に挑むから許可してあげて。」


『承知しました。それで、今ヴァチカンが……』


「あと、進化の箱庭6層に人間がいっぱい居るから。彼らにウィンドウを使えるようにしてあげてくれない?」


『……マジ?』


「マジ。現地の人達と、そこそこ友好関係築いてるから、早急にウィンドウつけてあげて欲しい。」


『スゥーーー、進化の箱庭に人間いるのかーーー。分かりました、帆世さん達がクリアしたことで10層以下が私の管理下に置かれています。そのくらいの干渉はできるでしょう。』


「助かるわ。じゃあ、改めて、世界がどうヤバいの?」


『!!そうなんです、まずヴァチカン市国がダンジョンの情報を意図的に隠蔽していました。ダンジョン内に3月の討伐種である精神憑依型(通称:悪魔憑き)も確認されました。』


「やっぱり、ヴァチカンの連中が、[攻略は順調です

。]ってだけの報告をしてたのが臭かったのよね。その攻略に行けばいいの?」


『ほんと、帆世さんの言うように、あのあと調査して発覚した次第です。ダンジョン内で多数の市民や騎士団が囚われ、洗脳されている状況です。』


「わかったわ。こもじと合流次第、攻略に向かうわ。」


『ありがとうございます!それと、もう1件。4月の討伐種がロシア領地内で発見され、アメリカが独断で軍隊を派遣。大規模な空爆を行い、討伐の完了を確認しました。』


「ありゃー。」


『結果、ロシア側が激怒し、アメリカに向けて軍を派遣すると表明。武力衝突が各地で起き、現在戦争がいつ始まってもおかしくない状況にあるんです。』


「UCMCは?」


『我々から、アメリカが脱退。ロシアも微妙な立場で、どう手を出していいか……』


「うーん、空爆はともかく、軍隊如きで威張り散らせる世界でも無くなって来てるんだけど……。アメリカ・ロシア両方のウィンドウ剥奪しちゃいなさいよ。そのうえで、私や師匠の戦闘データを送ってあげなさい。」


『報復に日本が攻撃されないですか?』


「私だけでも、スキルを調整さえすれば一瞬で大統領の首を取れるわよ。てか、1回それした方がいいわね。」


『え!?』


「武力には武力でしょう。ちょっと待ってなさい、そっちの部屋に行くわね。」



はーー、めんどくさい事になったものだ。

ただこれはアメリカの、行きすぎたジャイアニズムが悪いように思う。UCMCに武力が集まり、世界の警察という立場が危うくなったと思ったのだろう。


スキルを弄るの、かなり大変なのよね。めんどくさい。

【スキル操作】

スキル:瞬歩を解体し、元のスキルの形へと変えてゆく。根本的には同じ転移系スキルだが、その用途が著しく異なるため、スキル操作の難易度が高いのだ。


「うーん、座標をある程度固定して、転移も私1人に限定して……リソースカツカツね……」


スキル:瞬歩をこもじに分け与えたのが、ここにきて苦しくなっている。元の空間転移と同じスキルを再現するのは困難だった。


転移地点の座標を事前に調べることで確定させる。多少自由度が損なわれるが、これによりリソースを大幅に削減できる。

以前までは触れた人を転移させることができたが、それもできなくなっていた。まあ1人で行くから問題はない。


「真人ー、あけてー。」


「帆世さんッ。さっきの話、どういう……」


「UCMCを脱退して、勝手に戦争始めた国へお灸をすえるだけよ。大統領に直接会ってくるわ。大将首をあげるのが、一番早くて平和的よ。」


「無茶だ、危険すぎるッ……!」


「戦争待ったナシなんでしょ?このままだと大勢死ぬどころか、試練にだって対処できなくなるわよ。ほら、サッサと動く!」


「社長~ッ、いいじゃないですか。やりましょうよ。」



意外にも、社長室にいた男が背中を押してくれる。

真人直属の戦略相談役、諸葛さんである。もろくず、と読むらしいが、極めて戦略家っぽい名前だ。


「えーと、諸葛さんでしたよね。アメリカの象徴であるホワイトハウスにお邪魔して、スキルを習得した個人の優位性を誇示してきます。その後、UCMCに所属しない国に対してウィンドウを没収すると宣言しましょう。」


「ははぁ、さては、ウィンドウとスキルを混同させて脅しに使おうってわけですか。」


「察しがいい。ウィンドウを付与、没収できることが真人さんの最大の武器でしょう。めちゃくちゃ便利ですし。」


「インフラを牛耳った抑止力ですね。ついでに、それを世界中に見せることで、帆世さん自身も武力的抑止力になろうってことですか。実に効果的な交渉カードになる!」


「おい、諸葛!無茶いうな、たとえ成功しても、彼女は一生命を狙われるぞ!」


「それは困りますが、最近ずっと命がけで戦っているんですよね。今更でしょう。」


「ハッハッハ、社長、いいじゃないですか!俺だって無茶苦茶する連中と話し合うの、ストレスだったんですよ!なに、いっぱつカマしてもらえれば、後は俺達が上手い具合にまとめますんで……」


「…わかったよ。うん、ただしこれは帆世さんの責任ではなくUCMCの総意として任務を依頼することとする。早速極秘の会議だ、それまでに装備品を急いで修繕終わらせるように通達しろ!」


「よっしゃ久しぶりに楽しくなってきたぜぇ!」


諸葛さん、随分と豪快な方だ。伸びまくった無精髭も合わさって、戦国武将みたいな風格が出ている。軍師というより、前線で切込隊長してそうな顔つきだ 。


日本に帰ってきて早々、慌ただしいことである。

まずはご飯だけでも食べさせてほしい……。


「とりあえず、食事いいかしら?」


「帆世ちゃん、一緒に飯食いながら、作戦練ろうぜぇ」


諸葛さんがそういうと、大量の食事が真人の部屋に運び込まれた。中華料理が多く、どれも中々良い味付けだ。


「久しぶりのまともな食事よ~、染みるわあ 。」


「俺が選んだコック雇ってんだ、腕は確かだぜ!」


「君たち、この状況でよくご飯食べれるね……。私は会議してくるから、またあとでね。」


食事をとりつつ、私と諸葛さんのウィンドウを同期させていく。映し出されるのは、異様に詳細なホワイトハウスの立体地図だ。恐ろしいことに、無数のドットが動き回っており、個人名が記されている。


「作戦中は俺がサポートに回る。大統領まで最短の道を案内できるぜ。」


「今ならライフルでも効かないわ。できるだけ厚い軍を相手に、正面から堂々と行きましょう」


世界が大きく揺れた事件として、確実に教科書に乗るだろうWH襲撃事件の作戦は、肉まんとともに立てられていった。


忙しや、忙しや。

ヴァチカンに早く行ってあげてください。

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