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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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燃えるアマゾン

「師匠ー!おはよーございます!」


昼間とは打って変わって、冷たく乾燥した大気に声が響く。テントで1泊し、日が昇ると同時に起床したのだ。気分がいい!


「帆世どの、おはよ。」


昨日はライオンを血祭りにあげた後、襲ってくる獣はいなかった。遠くに雄叫びが聞こえ、まだ骨のあるモンスターがいることはうかがえた。


「先に進みます?それとも、例のモンスター探します?」


雄叫びの主は、赤く輝く雄獅子であることまで判明している。威嚇ついでに、盛大に火炎魔法をぶちかましたせいで逃がしてしまったのだ。


「ここには、また来るじゃろ。今日中に5層まで行こうぞ。」


はーい。

先を急ぎましょうか。そしたら、この壁が問題となる。


コンコン


サバンナを歩くこと50kmほど。この先にも地平線まで大地は続いているようにみえるが、しかし私たちは透明な壁に阻まれていた。

ここがダンジョンの区切りにして終着点。透明な壁で空間が隔てられ、ここを抜けることで次に進むことが出来る。

これが、真人のいうタネである。どのダンジョンも、クリア方法がいまいち分からないのが困ったものだ。



「先遣隊は、c4で爆破することでゲートが開いたらしいですよ。」


「要らん要らん。鬼丸で十分じゃ。」


師匠が言うが早いか。

斬ッとばかりに、空間に刀を走らせる。美しい太刀筋に拍手を送る。


ぺらり


師匠が斬り裂いた空間に亀裂が生じ、そこだけ絵の具がのたうち回っているような混沌とした闇があらわれる。これがダンジョンに入る時に必ずくぐるゲートである。


ゲートをくぐると、空気が一変。重たい湿度を有した、熱帯雨林に足を踏み入れることとなった。ベチャッと足が水に沈む。


四方八方から感じる、生き物生き物生き物生き物生き物。


虫・魚・蛇・カエル・虫・虫・猿、そして鬱蒼と天を覆い地を隠す圧倒的な密度の植物。緑が濃い、むせ返るような生命の香り!


「うおー!アマゾン初めてきました!!」


まあ、何度も言うがここは厳密には地球ではなく、アマゾンでもない。しかし、想像のアマゾンを3割増にしたような環境だ。

生き物好きな私からすると、テンションアゲアゲである。


こぽぽぽぽ……と水中から気泡が上る。ワニでもいるのだろうか。

そう思っていると、水面が大きくうねる。こっちには大蛇か魚でもいそうだ。ギャーギャーッ、木の上にいる動物が、彼らのテリトリーだと主張する。


目の前の葉には、色鮮やかで毒々しい毛虫が這っていた。私の腕の半分くらいある。きもちわるい~ッ。


生き物は好きだけど、イモムシ系は苦手なのだ!

良くも悪くも、濃い生き物の気配に気分が昂っている。


「川に沿って歩きましょうか?」


「虫が鬱陶しいわい。草木ごとき、切り開いて進もうぞ。」


師匠のご機嫌は斜めらしい。ズバァと鬼丸を振るうと、密集する草木に3mほど空間が空いた。


「私が先頭を!」


腰にさしている銀爪へと手をやる。榊原老師により、立派な鞘をいただいていた。

鞘も白を基調としており、不思議なことに返り血を吸っても白色に戻る。頑丈で綺麗でお気に入りの鞘だった。


「帆世いきます!」


斬ッ斬ッ


目の前の植物を敵に見立て、剣の型を意識して切り開いていく。イメージと少しズレている太刀筋。師匠のように美しくない、こもじのように力強くない。


彼らの背は遥遠く、少しでも近づくために無心に刃を振るった。最近、稽古だけの時間を取れていなかった

ちょうどいい。


何も考えない。思考を埋めるように生き物がいて、自然の音を聞く。

一心不乱に、目の前の道を切って切ってきりまくる。


「帆世どのは、目が良いのじゃな。」


「目ですか。」


「いかにも。良く真似ておる。成長するぞ。」


あは!

褒められて伸びるタイプという自覚がある。

褒められると、その褒められた自分像が本物であると誇張するように、張り切って努力するのだ。これは、中々認められない故の、どこか自信が無い内心の裏返しかもしれない。


緑を斬ること1時間。進んだ距離は僅か2kmほどだ。

全身から汗が吹き出て、手持ちの水がガンガン減っていく。


私の大好きなイギリス人探検家が、アマゾンを鉈で進んだ時、1時間で500mとかだったはず。そう考えると、悪くないペースなのかもしれない。


しかし、このままでは到底壁までたどり着けない。

先遣隊は1週間かけて2層を踏破したと記録にある。


こもじの、スキル:神刀の型なら刀のリーチを遥かに超える距離を斬り裂くことができる。私は一振60cm、2-3回振ってようやく歩く距離を確保できる程度だ。


「師匠~、不甲斐ないです( ๑;ᴗ;๑ )」


と言いつつ、私の武器は刀だけではない。

右手で高速スクロールを発揮し、太古の炎を顕現すべく、魔法を発動させる。


【魔法錬成 エンシェントラーヴァ】


直径1m程の溶岩球が顕現。

力いっぱい押し出すことで、空中を10m以上進んでいく。私から離れすぎると、効果を失って消えてしまうのだが、触れるもの全てを焼き払う極小の太陽である。


魔法を錬成するためには、脳内でイメージすることと正確にウィンドウをスクロールすることが求められる。本来であれば詠唱も必要なのだが、それを省略した代償。


そもそも詠唱は戦闘において非効率の極みだ。言語の通じる相手には、手の内がバレてしまう。技名を自分で喋る得など無い。


魔法錬成を実戦で使うためには、地道な訓練が必要だ。しかし、現代日本で攻撃的な魔法を連発するには被害が大きすぎるのだ。


剣の後は魔法。壁のように立ちはだかる緑と、そこに潜む害敵に延々と太古の溶岩を打ち込んでいく。


「ほっほっほ。帆世どのは、今試行錯誤の時なんじゃな。何でも試すが良い、敵を殺す者が生きる世じゃて。」


夢想無限流の師匠が高々と笑う。夢想無限流自体が、卑怯な小技も厭わず、強くなることを目指した純粋な流派だ。指切り、足打ち、奇襲、なんでもありだ。その流派に、もしかすると魔法が入ることだってあるのかもしれない?


森を焼くこと、さらに5時間。私の来た道に煙が立ち込めている。

随分な自然破壊であるが、許して欲しい。ようやく、透明な壁にたどり着いた。


ジュゥゥ


放っていた溶岩が空間を溶かす。

断裂した闇に溶岩が吸い込まれ、ゲートが開通した。

ほとんど戦闘になっていないが、誰が好き好んで溶岩に特攻するのか。先遣隊は大いに苦戦したと言う第2層を通過した。


あ、道中で両手の蛇ちゃんが、時々カエルを捕まえて食べていた。

もしかして私の血を使わなくても毒作れたりする?


次のステージは、砂漠エリアだ。1-4層は徹底して地球環境に遵守するらしい。

地球すら歩けず、ダンジョンというのも変な話であるが、成長を促す意識が感じられる構成だ。


進化の箱庭。

人類に進化を促す、超常の存在が作った庭に過ぎない。さっさと踏破して、私は世界を渡らなきゃいけないのだ。


巫さん。終わった世界を繋ぐ、人類の希望。

でも、その小さな背中に何十万の期待を乗せることがどれだけ苦しいことか。箱庭の先には、彼女達の世界があるのだ。


1歩1歩、進んでいく。


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