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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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定例会議のついでに

UCMC定例会議。危機に瀕した人類を救うための国際組織、その本部は日本京都府にある。各国から代表が選出され、山積する課題を日夜取り組んでいるのだ。ただでさ発足まもない組織であるというのに、問題は世界中から噴出する。


PiPiPi♪


ミサイル攻撃にあっても耐えきれるほどの堅牢かつ厳重な設備。スパイ対策に設置されている各種ゲートは、私のウィンドウを翳して全て通過できる。会議のみならず実戦にも参加することで得られた特権の一つといえる。


「京の町にようこんなの作ったもんじゃな。」


「ほんとですね。今でも広くなってるみたいです。」


ごく自然に二振りの国宝を腰にさし、物珍し気に施設を見渡しているご老人が呟く。今日の会議には、私の師匠も連れてきたのだ。ちなみに、京都は遺跡が多く埋まっているため基本開発などはできない。それを丸っと無視して、広大な地下施設を造ったのが真人鷹平だ。


会議を行う大ホールへ足を踏み入れ、特別顧問と書かれた席に座る。次々にくる挨拶を適当にあしらっていると、会議が始まった。


「真人です。UCMC定例会議を始めます。議題はウィンドウに掲示してあります。」


長ったらしい口上などない。

本当に重要な議題に絞って、実践的で建設的な意見の集約が求められる。


1.未発見討伐種について

2.ヴァチカン市国地下ダンジョン 黒聖堂攻略状況

3.居住区域における防衛設備


以下に、会議の様子について簡単に記録しておく。


1.未発見討伐種においては、その探索方法の洗い出しと、各国で漏れがないかの確認である。

もう3月24日、そろそろ次の討伐種が出現するのだ。

時間をかけるとまずい場合もあり、対策以前に発見ができないのは困難を極めた。


「深海や地中奥深くにいるのでは?」


「地球の範囲も難しい。例えば月などは、対象になっているのだろうか。」


人工衛星を総動員して地表を探索しても発見できていない。仮に水中生物だった場合には、航海は非常に危険なものになる可能性がある。船に取り付けられる高性能レーダーの開発と支給を行うことに決まった。


2.ヴァチカン市国のダンジョンについて。


「我らが神聖騎士団によって順調に攻略が進んでおります。Amen.」


地下空間と融合したかのような、宗教的なダンジョンであるらしい。

神の言葉を解読し、数々の暗号を解くことで進むことができる特殊なギミックが多いという。


「ねえ、デルタフォースチームが向かったはずだけど、彼らとの合流はできたのかしら?」


「ご質問いただき、ありがとうございます。デルタフォースの皆様はヴァチカンに到着されております。」

「ですが黒聖堂はサンピエトロ大聖堂の地下にあります。宗教上非常に大切な場所でありますし、信仰がなによりの武器になりますゆえ、神聖騎士団が中心となって攻略を進めていると聞いております。Amen」


「そう…。わかったわ。ありがと。」


奇妙な違和感があった。ヴァチカン市国、キリスト教枢機卿の1人であるこの男の目に悪意は宿っていない。しかし、この場に出てくるには、会話の端々に感じられる意志や知性が若干欠けているような気がする。主体的ではないというか、危機感に薄いというか、のらりくらりしている態度に感じる。


帆世殿、あの男は気が乱れておる


師匠が目を鋭く細める。エリック隊長へ、ちょっとメッセージを飛ばしておく。


☆黒聖堂攻略について懸念事項在り 帆世

エリック隊長、デルタの皆様

現在ヴァチカンにいらっしゃると伺っております。

黒聖堂攻略につき、ヴァチカン代表の枢機卿がなにか隠しているように感じております。

何かあればUCMCへ一報ください。


3.居住区域における防衛設備について。

これは非常に厄介な問題である。黒銀ノ羆を思い出してほしい、突如出現する討伐種に対して現在の都市や村の防衛設備は無に等しい。現在採用されている対策は、『都市国家(ポリス)計画』である。


紀元前、当時のヨーロッパでは外敵から民を守る為に複数の都市国家が誕生した。アテネなどのポリスである。

人間居住エリアを壁で囲み、貴族階級が戦力となって民を護る。壁の外で農耕を行い、ポリスの食を支えるのだ。この方法であれば、突如発生する外敵にも対応可能である。ポリス内部に発生した場合は、閉じ込める檻にもなる。優れた案であり、採用されたのだが…しかし、問題もあるのだ。


「とにかく労働力が足らない。」


これに尽きる。かつての都市国家の時代と比較すると、今は人口が遥か巨大に膨れ上がっている。地上あちこちに人間が広がり、居住区に堅牢な壁を建設するためには労働力が圧倒的に不足していた。


「今はまだ、脅威の実感がないだろうが、いずれパニックになるぞ。」


その通りだ。黒銀ノ羆は、人口の少ないエリアに出現し、比較的速やかに討伐された。

そのため脅威を身をもって知っている人は少ないのだ。足りない労働力を大都会に集中させて壁を建造しているのだが、脅威が知られるようになると全世界でパニックが起きるだろう。


事態がバレる前に、速やかに壁を建造する労働力を確保していかなければならない。今日のメインテーマは、これだろう。


「国の制度を変えるしかないんじゃない?」


人類居住区を減らす方向に考えてはいけない。行きつく先は、巫さんの世界だ。

広く、今以上に人類には繁栄してもらわないといけない。であるならば、必要なのは労働力の確保と集中化だ。


「社会福祉制度、雇用体系、産業における人口比。この辺、はやいとこ変えていきましょ。」


社会福祉を全面的に打ち切り、保護対象を改定する。働ける人は働かせなければいけない。

平和を前提とした産業は減らすことになる。ホワイトカラー至上主義は終わりにしよう。


・リーダーシップをとれる人材の確保

・良好な人間関係を維持する集団の確立

・機材や資源の確保


物は準備するから、街を造れ。屯田兵や、フロンティアスピリットの再興ということになる。

方針は決まったのだ、あとはその集団をどう作っていくか。優秀な組織とは、どのようなものか。

弱者を過保護にする余裕は無いが、斬り捨てる余裕もない。うまく、気持ちよく社会に編入するシステムが必要なのだ。



わーわー、いろんな意見が飛び交う。

会議で決まった事項が次々に伝えられ、各国で変革が進んでいく。

今日の会議はここまで。会議が終わっても、ここにいる人たちは無限にも思える仕事に戻るのだ。ほんと、人類の救世主に思うよ。いつだって人を救う責務は、地味で硬い努力の積み重ねの果てに在るのだから。



「真人ッ!ちょとお話があるんだけど。」


人類の代表にして、不眠労働者になっている男を捕まえる。


「帆世さん、今日も出席ありがとうございました。こちらの方が、柳生隼厳先生ですか。」


「うむ。」


「それでね、真人。例の進化の箱庭なんだけど、師匠たちで攻略進めるのがよいと思うのよ。」


銃器を主力としない兵隊、そんなものは世界に存在しない。デルタフォースであってもだ。

しかし夢想無限流は日本刀を使用する、鍛え上げられた稀有な集団である。戦闘によってスキルが成長する可能性が高く、統率も取れている。


「うーん、たしかに。言われてみればうってつけだ…」


「師匠と今から行ってくるから、出そろっている情報を共有してもらえる?」


「そうだね。5層まではクリアできてるんだよ。」


「ありがと。ダンジョンで取ってきてほしいものある?」


「これが山ほどあってね。クエストが無数にあるんだ。ほしいもの持って帰ってくれたらいいよ、それで勝手にクエストも達成するはずだから。」


「おっけー。」


進化の箱庭。

・100階層の巨大なダンジョン。

・フロア内全ての敵対生物を絶命させることで、帰還ゲートがアクティブになる。

・ダンジョン内は同時に複数チャネルになっており、PTを組むことで同一チャネルに入ることができる。

・マッピングや出現モンスターのデータは、非常に有用。

・持ち込める/持ち出せる物は手に持てる範囲のみ。


細かい情報は省略するが、だいたいこんな感じである。早速、ウィンドウを操作しPTを組む。


≪柳生隼厳が申請を承諾しました。≫


今日は無理する気もない。師匠と弟子の2人きりデートだ。


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