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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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贈り物 其の2

昼下がりのこもじ邸に、黒塗りの高級車が次々に到着する。周囲を警護する警察官に囲まれ、物々しい雰囲気を醸し出していた。まるで大統領でも連れてきたかのような厳戒態勢である。


「あ、おつかれさまでーす。どうぞお入りください。」


私は、到着した3人の男性を歓迎する。

こもじ邸の応接間に通し、お昼寝中だった亭主をおこしに行く。


(´・ω・`)ふわぁ。おはよ。えっ誰スか、この人たち


寝起きのこもじは、若干ろれつが回っていなかった。椅子に座るは3人の男性たち。この家は、現状地球で最も安全な場所だろう。超戦力がいるのだから。よって、警護の人間は全員屋外へと追い出す。この情報は限りなく秘匿したかったからだ。


(´・ω・`)「!!!」


(´・ω・`)「さ、榊原先生ェ!?」


「ほほ、懐かしいなこもじ君。このお嬢さんに呼ばれてね。」


ソファの中央に腰掛ける、白髪のご老人が挨拶する。こもじと知り合いみたいだ。

【刀匠】榊原(さかきばら)宗秀(むねひで) 82歳。幼い頃から刀鍛冶の家系に生まれ、父の元で鍛刀技術を学ぶ。20代で独立し、数々の名刀を打ち続け、日本最高峰の技術を持つ刀匠として「人間国宝」に認定された。伝統技法にこだわり、現代の大量生産には一切関わらない。依頼を受けても簡単には刀を打たず、「その者に相応しい刀とは何か」を見極めるために長い対話を求める。若い頃に妻を亡くし、今は弟子たちと共に山奥の工房で刀を打っている。


「おやおや、儂のことは無視かな?」


(´・ω・`)「村瀬先生まで!!」


「こもじ、刀持ってきなさい。」


混乱するこもじに、刀を取りに行かせる。ついでに着替えておいで、という配慮のつもりだ。

こもじに声をかけたのは、どこか愛嬌のある顔をしたおじいちゃんという感じの方だ。温厚でのんびりそうな表情を浮かべている。

【研ぎ師】村瀬(むらせ)清玄(せいげん) 78歳。若い頃から刀剣研ぎに携わり、「名刀は研ぎで決まる」が口癖。榊原宗秀とは古くからの友人で、互いに「この人の仕事でなければ」と信頼し合う仲。同時期に人間国宝にも認定されている。刀剣の研ぎだけでなく、依頼者の刀の扱い方も見極め、「研ぎに見合う腕を持っているか」を評価する。日本中の刀好きから頼られる名人だが、仕事は気まぐれで、気に入らない刀は研がない。


「挨拶が遅れました…。えと、私は桜重工で技術部長をしております…」


鷲見(わしみ)誠一(せいいち)さんね。よろしく。」


桜重工という、まさに日本最大の重工企業の技術部長である。タービン、航空、防衛、造船、宇宙産業と幅広い分野で最先端の研究をしており、世界的な超大手企業。今回は、これまで類を見ない、新しい素材を扱うため依頼したのだ。


(´・ω・`)「お待たせしましたっス。」


こもじが二振りの日本刀を持参する。雲黄昏と兼長である。

この場に集う二人の人間国宝の顔つきが変わる。触れれば切れそうなほどに鋭い眼光で、交互に刀を見る。無言のまま10分が過ぎただろうか。誰も言葉を発せないまま、コトリと刀が机に置かれる。

その瞬間、重力を伴っていたかのような重たい空気がスっと離散する。


「どうかしら。これを研いでほしいのと、拵えを良くしてほしいのよ。」


(´・ω・`)「帆世さん、どうなってるんすか?」コッソリ


こもじが小声で聞いてくる。これが例の贈り物なのだ。

一部の並外れた職人には、スキルが発現している。その発現者のなかで日本刀に精通する人材を至急集めるように、真人に言っていたのだ。「私とこもじを限界まで支援することが、目先の人類にとって重要になるわよ。」と伝えておいた。


「贈り物よ。プレゼント。」


「村瀬さん、急いで呼んでしまって申し訳ないんですが、この刀の研ぎをお願いできますか?」


「かわいいお嬢さんの頼みは断れんて。にゃはは。」


「恐れ入ります。」


「して、研ぎなら清玄のみでよかろう。ワシまで呼ばれたからには、打つんじゃろ?」


「榊原さん。その通りです。まず、こちらを。」


そう言って、私は邂逅で得られた戦利品を机に並べていく。村瀬さんは、早速仕事にかかると帰られてしまった。

残った4人で、素材を前に作戦会議を始める。


リアーナの杖:なんの変哲もない木の棒であるが、数々の戦闘を経ても折れたり破損していないのだ。明らかに尋常の木ではない。


黒銀毛:かの人敵の鋭い毛。こもじの斬撃をも凌ぎ、ライフル銃だって通さない鉄壁の鎧であった毛である。根本は吸い込まれるような漆黒であり、毛先は銀色に輝いている。1本が1mほどあり、これだけで机を叩き斬れるほどの鋭い切れ味を誇っている。鋼鉄の様な硬さのわりに、しなやかに曲がる性質があり、さらに軽いのが特徴的だった。


黒銀牙:同様に、牙。硬すぎて切断できず、根元の歯茎から切断し、無理やり持って帰ってきた。


黒銀爪:同様に、爪。こちらも硬すぎて切断できず、根元から持ち帰った逸品。


牙と爪は、重金属かと思うほどにずっしりと重たく、激戦の果てであっても欠けてすらいなかった。


「うーむ、どれも尋常ならざる力を感じるわい。じゃがの、刀とは素材ではない。そこの2人、どのような刀を欲するのか決めておるのか?」


榊原老師との対話は、日が完全に沈むまで続いた。腕の長さや1本1本の筋肉、さらには魂の在り方を問うような禅問答。その情報が老師の中で1振りの刀の姿を浮かばせるのだという。

私は60㎝程の小ぶりは日本刀を、こもじは懐刀をそれぞれ得ることになった。通常の技術では傷一つつけられない牙や爪を、素材にするために桜重工の最新の設備をフル稼働してもらう。お代は真人につけておいてほしい。


6時間以上の対話の末、二人が帰る。外には、ずっと警護の人が立っていたみたいだ。ご苦労様です。

体力というより、精神的につかれた。体の内側を隅々まで見つめられているような、そんなご老人だった。


(´・ω・`)「帆世さん、あの人知ってたんすか?」


「初めて会ったわよ。真人に、最も日本刀に精通してる人をよこせってお願いしてたの。」


(´・ω・`)「緊張したっス。あ、おしっこ我慢してたんで、ちょっとトイレに」


その間に、キッチンで夕食を作っていく。庭のすみっこ、普段日陰になるところにフキノトウが生えているのをみつけていたのだ。

昆布で出汁をとり、お吸い物を作っていく。フキノトウを水にさらし、みじん切りにする。アツアツのお吸い物の火を止めて、みじん切りにしたフキノトウを混ぜて1品。ふわっと汁のなかで緑が鮮烈になり、春の香りが立ち上る。


(´・ω・`)「戻ったっス。しかし、まあ、あれですな。ありがとうございました。」


こもじがお礼を口にする。ふふ、そのために頑張って集めたプレゼントなのよ。


「いいのよ。刀が完成したら、潜りに行くわよ。ダンジョン攻略。」


お米は同時に炊いているのだが、メイン料理は何にしよう。

朝はこもじと特訓したせいで、釣りをしていないのだ。冷蔵庫を見る。レンコン、長芋、カボチャ、なすび。みごとに野菜しかない。


じゃあ、てんぷらにしましょうか。庭のフキノトウを追加で採取し、それぞれにてんぷら粉をまぶしていく。野菜を上手に揚げるコツは、衣を薄く延ばすことだ。

分厚すぎると、油がくどくなるし、外見から何の野菜かいまいちわからなくなる。


それでは——いただきます。

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