水辺の封印洞窟 其の13 冥月
(´・ω・`)今日から僕はこもぴです
( ๑❛ᴗ❛๑ )ドウシチャッタノ
(ぴ´・ω・`ぴ)
( ๑❛ᴗ❛๑ )チョトカワイイ
( ๑❛ᴗ❛๑ )…夢か。
6日目早朝
空間転移により、座標そのままにダンジョンから離脱する。もう一週間も前に連れてこられた島の山中、見晴らしの良い岩場に無事着地した。辺りを確認しようと思った瞬間、この島に闘いの空気が満ちていることに気が付いた。
ギャォオオオン
遠くから巨獣の咆哮と、大地揺らす衝撃が伝わってくる。昨日、毒を抽入してダンジョンから追い出した黒銀ノ傷羆が、湖の対岸で戦っていた。この地で彼の獣と戦える生物は、そう残っていない。
「急いでいくわよ。」
こもじに声をかけ、連続で転移を発動する。まずは障害物が少ない湖の中心に浮かぶ島へ飛ぶ。昨日は瘴気に満ちているような場所だったが、ダンジョンによってそれは隔離されている。なんの変哲もない島になっていた。そこから、対岸の戦いを観察する。
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鬼が居た。その名を、孤傲鬼 冥月という。
孤傲鬼というのは、説明が難しいが人種のようなものだ。
私達は人間だが、その種族はホモサピエンスである。20万年以上も昔に、ネアンデルタール人を寄ってたかって駆逐し、ついには地球から絶滅させた由緒正しき戦闘民族だ。しかし、同時代にもう1種族の人類が居たことが発見されている。発掘される骨はどれも背丈2mほどある巨躯を誇っており、1片1片が完全な状態で残るほどに頑強な造りをしていた。しかし、発掘される個体数は非常に少なく、哀れなネアンデルタール人と同じく滅ぼされたのだという定説が一般的だ。
しかし。そうはならなかった世界がある。
我々の祖先が同じ人間種を駆逐した戦闘民族であったように、鬼人は暴力を煮詰めて結晶させたような種族だった。その肉体は二足歩行が可能な限界に近いサイズに成長し、並々ならぬ発達を遂げた四肢のみを武器に、数々の生物に打ち克った。こうして地球の生態系の頂点へ上り詰めた鬼人は、数多の種族を絶滅させ、果てには同胞同士で戦争を続けた。
生まれて20万年間、ただひたすらに闘いつづけた最強の種。まさに万物の霊長。
そんな鬼の中でも、生まれながらにして孤独を好む戦闘特化の人種が稀にいる。その特異な個体を孤傲鬼と呼ぶのだ。冥月は、鬼世界で生まれた最も若い孤傲鬼である。
冥月の両親は、父も母も孤傲鬼であった。同じ鬼人同士ですら馴れ合わない、孤高ゆえの孤傲鬼が、番いとなり子供を成すことなどありえないからだ。しかし、どんな生物にも突然変異・特異点となるような個体が存在する。奇人変人と言っても良い。それこそが冥月の父であり、冥月は結果として産まれた奇跡の子供である。そして産まれた瞬間から10年間、両親に愛され、鍛えられて育った。
ところで、鬼はあまり武器を滅多に使わないとご存知だろうか。その理由はいくつかあるが…まず、鬼は人口が少なく、生活の大半を狩猟に頼っている。そのため農耕を行う必要がなく、道具を作る文化もない。そもそも、鬼人は全てが戦士であり、戦わず道具を作るような者はいない。そして最後に、鬼人の振るう暴力は凄まじく、両の拳で熊の頭蓋を砕くほどである。その暴力に耐えられるような道具は無く、生まれ持つ鋭い爪と硬質な拳を信頼している。
鬼が武器を持たぬ理由について語ったのは、ただの前置きに過ぎない。
本題は、今まさに対岸で暴れ狂う"獣"を前に、長大な刀を振るう鬼がいるということだ。
一振り3mを超える尋常ならざる大太刀——この太刀の名前もまた、冥月であった。刀を造ったのは、冥月の父親である。父は鬼人のなかでも、どこまでも異端児だった。冥月が10の齢になった日、父が自ら造った太刀を息子に与えた。それは無骨な1m少々の鉄剣である。決して美しくは無いその剣は、冥月が振るっても壊れない頑強さはあった。そして、その日。父より授かった刀で、両親を殺すことになる。それが孤傲鬼であった両親の最後の試練であり、最愛の形だったのだ。
異端児である父から受け継いだサラブレッドのような強力な遺伝子と刀、両親の愛ゆえに手に入れた鬼としての真の孤独孤高。冥月は、最強に至る為の全てを与えられ独り君臨する。
冥月が、≪邂逅≫に参加して、最初に得た10RP。そのすべてを武具創成に使用した。鬼は、自身の肉体を最も信頼している。ゆえに、足りなかった武具を求めた。
父親の形見、己が半身となった刀は、その姿を変え3mを超える大太刀となった。
母の血で染まった服は、純白の鎧となり、その身を包んだ。
孤傲鬼 冥月。白き神装を纏い挑むは、神をも喰らった人類の敵≪黒銀ノ傷羆≫。
この地に呼ばれて、5日間。戦う敵とも出会えず、ただただ刀を振るう毎日だった。その静寂の世界に、突如顕現した殺意の巨塊。全身の毛を逆立て、目から血の涙を流し、空気を震わす咆哮を上げて降臨した。まるで先ほどまで戦っていたかのように。
鬼は歓喜した。見失うことも難しい強敵へと一直線に翔け、神刀を叩きつける。黒銀の体毛を半ばからへし折り、血しぶきが舞う。しかし、同時に巨大な爪が迫り、鬼の体を抉る。
初撃は両者痛み分け。そこから長い夜が幕を開けた。
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「こもじ、アレなんかおかしくない?」
鬼の戦いを見て、私は違和感を覚えた。鬼が一切回避を見せないのだ。
獣の爪を刀で真正面から受け、その身が地面に沈む。沈みながら、獣の腕を斬りつける。
大きく体を捻り、渾身の斬撃を放つ。獣の体から血が噴き出るが、その分刀を振るう隙も大きく、まともに攻撃を受けることもある。
(´・ω・`)「攻撃受けるたびに、一瞬骨折れてるスね。」
つまり、決してダメージが無いわけではない。回復手段があるということだ。
いつ?どうやって?回復している瞬間を見極めるように観察を続ける。こんな殴り合いを一晩していたというのか…
(´・ω・`)「カラクリはあの刀スね。たぶん。」
「ええ、そうね。黒い電気みたいなのを纏って斬った瞬間、回復しているみたい。全部の攻撃じゃないぽいわ。」
日本刀のように反りがある片刃であるが、その造りは日本刀にあらず。異界異国の刀である。
刀が条件ではあるみたいだが、きっとその発動は本人依存。そういうスキルを獲得したとみていいだろう。こもじに、ぜひ覚えさせたい。
しかしまあ、筆舌に尽くしがたい戦闘だ。ここ最近の超不思議体験をも凌駕するような現実離れした戦闘が、現実に起こっている。いつかこの記憶を本にしたためよう——と、ぽよちゃん脳内メモに書き込む。
——ドォンッ!!
獣の腕が大地に叩きつけられ、土煙がもうもうと舞い、次の瞬間には土煙を斬り裂く斬撃が繰り出される。
剣と剣がぶつかり合うような、それでいて重たい金属音がギャリギャリと鳴り響く。驚いたことに、優勢は鬼の方だった。
獣の爪が幾たびもその肉を削り、骨を断っても、鬼の闘気は衰えない。むしろ燃え上がり、一太刀浴びせる度にその身を修復している。それに、単純に全身の膂力が計り知れない。獣の打ちおろしは、頭上からトラックが落ちてきているようなものだ。それに対して、刀を両の腕で支え、足を大地にめり込ませながらも耐えることができる。
(´・ω・`)「刀の技量は無いスけど、どーなってんすかね」
うちの侍が自信なさげにぼやいている。あーたが闘えなかったら、うちはどうしようもないんだから。弱気にならないでよね。
その時、事態が動いた。突如、獣が多量の血を吐き、その瞬間を狙って残っていた右目に鬼の左腕が突き刺さる。長時間の戦闘によって毒が回り、消化器や肺などの内臓を破壊していた――。
グゥゥゥオ゛゛オ゛゛
地獄の釜が開いたような、負の感情を全て煮詰めたような、そんな苦悶の咆哮が響く。目に腕を突き立てたまま、超至近距離で咆哮を浴びた鬼の体が硬直した。グンッ——、と獣が首を上へと振って鬼の体を宙に浮かせ、その身を地面へと叩きつける。そして、叩きつけた敵の体を渾身の力を込めて踏み抜いた。
ベキ ベキ バキンッ——
遠くからでも聞こえるように、太い骨が完全に砕かれた音がする。
鬼の下半身が砕かれていた。獣の両眼が破壊されていたことが幸運し、その狙いが僅かに逸れたことで即死を免れたようだ。しかし、今なお消えぬ生命の火を、獣は感じていた。その巨大な口を開き、地面事嚙み砕かんと鬼に迫る。
その口が鬼に到達することは、叶わなかった。ズブリ—、3mを超える大太刀が、柔らかい下顎の肉へと突き刺さり、鬼を噛み砕くための顎の筋肉をズタズタに裂いた。そしてその刀は獣の命へと迫る。
ゆっくりと刃を動かし、脳へ栄養と酸素を供給する太い血管を断ち、肺に酸素を送るための気道を斬り裂いていく。
ドバドバと、バケツの水をひっくり返したような勢いで血が噴き出し、急速に獣の意識が失われる。そして流れ出た生命は刀を通して鬼の肉体へと還元されていく。鬼、冥月が獣の死体から這い出る。全身は血に濡れているが肉体に傷は残っていない。純白だった鎧が、己が屠った敵の血を吸って明るい赤色に染まった。そして、その鎧が蠢き形状を変えていく。
月のようにしなり、陽光を浴びて煌めく刀を一振りする。血が半円状に広がり、一瞬彼岸花が咲いたような光景を映した。鬼が刀を納刀し……島から見ている私達の方へと向き直る。
人類の敵は倒した。倒してもらったわけだし、残された者同士語らいますか。
仲良く、仲良く。そのための邂逅。
私はすくっと立ち上がり、鬼の方を見る。そして口を開こうとした瞬間
鬼が刀を抜くのが見えた。それが答えだとばかりに。
( ๑❛ᴗ❛๑ )ぽの世をば
ぽよよとぞ思ふ
こもたまの
欠けたることも
無しと思へば
(´・ω・`)「せくはらのぽよなが…」
こもじメモ
ぽよちゃんは、周囲に人がいないとセクハラが多い。




