最後のプロポーズ
僕は「・・・そんなことがあったん・・・?・・・大変だったね・・・・・・」と他人事のようにつぶやくしかなかった。
心の中では「おばさん、僕がいらぬこと言ったためにごめんなさい・・・」と泣きながら土下座をしていた。
「せっかくなんで、ウチで夕飯食べて行ってください。まだまだ、募る話もありますから・・・」
いつの間にか、そんな時間になっていた。
しかし、いい年寄りがそんな誘いに甘えてはいけないと思い「また、次の機会に」と言って、僕はリョウちゃんの家を出た。
その時、おばさんの骨が納められているお墓の場所を聞いた。
既に、辺りは薄暗くなり始めていたが、教えてもらった小川家のお墓を訪ねた。
僕は、おばさんのお墓の前で、眼を閉じて両手を合わせた。
先ほどの、リョウちゃんの家の仏壇の前で思い出した不謹慎な出来事以上に、もっともっと、色々なおばさんとの出来事を誰にも邪魔されることなく思い出した。
あふれる涙を両手を合わせた手の甲で拭った。
僕のコートのポケットには、あの時おばさんに渡せなかった指輪が入っていた。
僕は、プロポーズが失敗して、指輪をおばさんに渡せなかったときは、この指輪を帰りのフェリーから海に捨てようと考えていたが、結局、貧乏性の性分も手伝って、どうしても捨てることができず、今の妻と結婚したのちも、ずっと誰にも見せることなく持ち続けていたのだ。
僕は、その指輪をポケットから取り出すと、誰にも知られないよう、御影石でできたお墓の花立の底に沈めた。
今の妻とおばさんの隣に眠るおばさんのご主人には申し訳ないと感じながら『今度生まれ変わったら、今度は絶対に僕と結婚してくださいね』と、禁断のプロポーズをして祈った。
これで、ずっと渡せずにいた指輪、言えなかった告白を、やっとおばさんに届けられた気がした。
『おばさんは、学生だった僕が、なけなしの金をはたいて買った婚約指輪を気に入ってくれただろうか・・・・・・?』
そんなことを考えながら、僕は小川家の墓をあとにした。
もう、辺りは真っ暗になっていた。
完
この話で完結です。最後までお読みいただきどうもありがとうございました
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