武十館入門試験後
「あんた! 強いな!」
バシッバシッ
いきなり声をかけて肩を叩いてきたのは十月であった。
「いや、おれはまだまだだよ。十月に勝てたのは運が良かったよ。ギリギリだった。武十館には入門して長いのか?」
「そうね! 小さい頃から入ってるよ! じぃちゃんが十蔵だからね!」
「えっ!? じゃあ、十色さんの妹?」
「あははは! そうだよ! 姉さんとは年が離れてるから、驚いただろう?」
「そうだったんだな。いつも稽古つけてもらってるよ」
「姉さんは空手ばっかりだから! 私は、空手やりながら女も磨いてるから、姉さんとは違うわ!」
笑いながら言う十月であったが
「コラ!! いらない事を言わなくていい!」
ゴツンッ
「いたぁ!」
見ると十色が凄い形相で立っていた。
「さっさと稽古に戻りな!!」
「押忍!」
ダダダダダッ
稽古に戻る十月。
「ったく! 何が女を磨いてるだ。サボってる言い訳だろうが」
十月を睨みながら、腕を組んでいう十色であったが、ふっと疾風を見て
「疾風ももう入門決まったし、一緒に稽古していかないかい?」
「はい! 是非、やらせてもらいます!」
門下生の中に加わり一緒に稽古に励む。
前の道場では悠人に怪我をさせてから周りにも気を使うので、ずっと自主練習をしていた為、他の人との稽古などは久しぶりであった。
パンッパンッ
「はい! じゃあ、次は型をやるよ!」
「「「押忍!」」」
「はい! いーちっ!にー・・・」
――――――
――――
――
「本日は、これで終わります!」
「互いに礼!」
「「「押忍!」」」
それぞれロッカーに向かう。
着替えていると猛が声をかけてきた。
「よう! 疾風は強いな! 十色さんのおきにいりだけあるな! ガッハッハッ!」
「いや、なんとか勝てただけだ。そんなに差はないよ」
「謙遜も過ぎれば嫌味だぞ! ガッハッハッ!」
「そういえば、みんな帰りは歩きなのか?」
「あぁ! そうだな! 大体が歩いてきているぞ! そんなに遠くないからな!」
「なら、俺も歩いて帰るかな」
「大丈夫なのか!?」
「歩けない距離じゃないさ」
「それなら、一緒に帰ろうぜ!」
一緒にロッカーを出ていく二人。
道場を出ようとすると、執事さんが待っていた。
「疾風様、お送り致しますか?」
「有難うございます。でも、今日は猛と歩いて帰ります」
「左様で御座いますか。それでは、お気を付けてお帰り下さいませ」
深くお辞儀をしながら見送られる。
「はい。有難うございます。それでは」
道場を出ると街が賑やかな方へと向かって歩く。
「疾風は凄いな! 執事さんに送って貰ってたのか!?」
「あぁ。いつもお言葉に甘えて送って貰ってたんだ」
「ガッハッハッ! VIPじゃねぇか! 余程気に入られたんだな!」
「十蔵さんにも、十色さんにもいつもお世話になってるよ」
しばらく歩き街並みが賑やかになってきた。
「猛の家はどの辺なんだ?」
「もう少し行ったらあっち方面だな!」
あっちと言いながら左を指す。
「そうか。おれはこのまま真っ直ぐだから途中までだな」
『良いじゃねぇかよ! 俺らと遊びに行こうぜぇ!』
ふっと視線を向けると誰かが二人組のチャラそうな男に絡まれている。
『そっちも二人なんだし丁度いいだろう!?』
二人組が誰かに詰め寄っていく。
『嫌だって言ってんじゃないのよ! 私達は行かないわよ!』
よく聞くと聞いたことのある声であった。
よくよく目を凝らしてみる。
「はぁ。なんで、アイツらはいつも絡まれるんだか」
ダンッ
駆け寄る疾風。
『あぁん!! 生意気な口叩いてんじゃねぇよ!』
チャラい男が腕を振り被る。
(……間に合え!)
バシッ!
「えっ!?」
殴られそうになった方が驚きの声を上げる。
「おい。俺の連れだ。止めてもらおうか」
疾風が言うと
「あぁん? てめぇに関係ねぇだろ!」
「だから、俺の連れだって言ってる」
ギリギリギリ
掴んだ拳を握り締める
「てぇはなせよ!」
ギリギリギリギリ
「いてててててて」
崩れ落ちるチャラい男。
疾風が殺気を放ちながら言う
「こいつらに二度と近づくな。次はこれじゃすまさねぇ」
ドスの聞いた声に震えるチャラい男
「クソッ! 行くぞ!」
もう1人も連れて去っていく。
「はぁ。ったく、なんで変なのに絡まれんだよ朝陽」
「しょうがないじゃない! あっちが勝手に絡んできたの! 私達は悪くない!」
「わかってるけど、もうちょっと上手くあしらって逃げればいいのに。正面切って対抗するからああなるんだろう?」
「あぁいうの上手く断れないのよ! わかるでしょ!?」
腰に手を当て胸を張って言う朝陽。
「まったく……」
呆れる疾風に
「おう! 疾風カッコよかったぜ! ガッハッハッ! そこの姉さん達は知り合いだったのか!?」
「あぁ、クラスメイトだ」
「そうか! 面白いもん見れたぜ! じゃあ、おれは帰るぜ! ガッハッハッ! またな!」
背中越しに手を振りながら去っていく猛。
「今日はありがとな! またな!」
ヒラヒラ手を振る猛
「なに? あの人知り合いなの?」
「あぁ、武十館に入ったから同じ門下生だな」
「話してたやつね! 入ったのね! 十蔵さんとこ!」
「今日、入門試験だったんだ。無事に入れてよかったよ。んで、その帰りに遭遇したわけ」
「悪かったわね! でも……ありがとぅ」
「ん? 最後なんて?」
「ありがとうって言ったの!」
バシッ
「いってぇ」
いつも叩かれる役は悠人なのにいないから俺がやられちゃったよ。
「疾風。助かった。ありがと。」
結陽が、朝陽の後ろから顔を出してお礼を言ってきた。
「おう。間に合ってよかったよ。朝陽も素直に礼をいえばいいものを」
「言ったじゃない! ほら! 帰るわよ!」
朝陽が結陽を引っ張りながら歩き出す。
「しょうがないから、送ってくよ」
後ろから付いて行く疾風。
「あ!・り!・が!・と!・う!!」
デカい声で照れを隠しながら言う朝陽に苦笑いの疾風は後を付いて行く。
無事に送り届けるのであった。




