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 思えばこの数日、無理ばかりしていた気がする。突然成長して戻ってきた年下の幼馴染みリチャード君に相応しい大人の女になるため、慣れない美容やファッション、ヘアメイクに励んだ。

 今日のデートだって緊張の連続だったけど、カッコ悪いところは見せられないと、気を張っていたのかも知れない。

 そして、偶然からちょっとした誤解を呼び、リチャード君が私に声をかけてきた男達に一言。


「オレのアリシアに手を出すな」


 もうね、びっくりしちゃったの。

 だって、オレのアリシアだよ! オレのって確かに婚約者だけどさ。

 そして驚きのあまり、ぱったりと倒れた私は、気がつけばリチャード君のスポーツカーの中でぐっすりと休んでいた。


「ん……うん、あれっ。私、一体……」

「アリシア、目が覚めた? ごめんね。さっきは僕、早とちりしちゃって。てっきりチャラ男に、ナンパされて困ってると思ったんだ。まさか同じ学校の人達だったとは……向こうも急に声をかけて申し訳なかったって謝っていたよ。アリシアさんによろしくって……」


 偶然レストランの出入り口で同級生に話しかけられただけで、あやしい人達ではないことがリチャード君にも伝わったようだ。


「そ、そうなの? 誤解が解けたならいいけど。でも驚いちゃった……小さな頃は私が保護者のつもりだったのに。いつの間にか、立場が逆転しちゃったんだもの」

「でも、早とちりしていろいろアリシアのこと驚かせちゃったから、まだまだ弟キャラを脱却出来ていないのかも。もっと、大人にならないと……」

「そうなの、じゃあまだ私がアリシアお姉ちゃんとして、リチャード君を守らなきゃダメかな? なんて、リチャード君は、もう立派な大人の男性だよ」


 するとやや落ち込んでいたリチャード君が、助手席に座る私の顎をクイっとあげて覚悟を決めたように、けどちょっぴり甘えながら。


「そっか、安心した。じゃあさ、ここで誓うよ……アリシアお姉ちゃんは、僕がずっと守ってあげる。今日も明日も十年後、何十年経っても。それこそ死が二人を分かつまで……僕と結婚してくれますか?」

「リチャード君……」


 照れながらも優しく微笑むリチャード君の瞳は、幼い頃の面影を残しながらも既に大人の強い意思を秘めていて。同時に私も彼と一緒に、大人の階段を登る決意をするのだった。



 ――そして、七年の歳月が過ぎた。



 * * *



 穏やかな午後の昼下がり、我が家の庭で遊ぶ天使に私は釘付けだ。


「ママ、パパ! みてみて、黄色い蝶々がお花に止まってるよ」

「うふふ、本当。可愛いわね」

「ケビン、走っちゃダメだよ!」


 可愛い、可愛い、ほんと〜に可愛いっ! 薄茶色のサラサラヘアにくりくりの大きな目の天使は、私の大切な息子のケビン五歳。

 お庭をかける天使は、無邪気にママである私とパパである夫のリチャードへ笑顔を振りまいてくれる。掛け値なしの笑顔は、親にしか分からない超級の価値があると断言しよう。


「そうだ。このピンクのお花、お隣のドロシーお姉ちゃんにあげてくるね」


 息子のケビンは大好きな幼馴染みのドロシーちゃんに、ピンクのお花をプレゼントするため、お隣へと遊びに行ってしまった。お目付役のメイド達が慌てて息子の後を追いかけるが、この光景……実は慣れっこである。


「あはは、ケビンはドロシーお姉ちゃんに夢中だね。まだ五歳なのに……僕に似たのかな?」

「なんだかちょっと複雑だけど、まだ子供だし温かく見守るしかないわよね。はぁ……私の天使も十数年後には、お嫁さんを連れてきそうだわ」


 ちょっぴりオマセな息子の成長が嬉しい反面、早く親離れしてしまいそうで寂しくもある。すると夫がテラスの陰に私を連れて、ひとこと。


「息子にも良い相手が出来たみたいだし、たまには僕のことも構って」

「もうっ……まだ昼間よ」

「だから……キス、だけ」


 まだまだ新婚気分が拭えない夫からの甘い、甘い、口付けはどんなアフタヌーンティーのお菓子よりも甘美な味わい。きっとずっと、この甘い恋のときめきは、一年後も数十年後も続くのだ。



 ――私、アリシアの年下幼馴染みリチャード君は、いつしか私の大切な年下の旦那様になりました!


 * 2020年4月22日、全9話で作品完結です。ありがとうございました。

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