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誰が四天王最弱ですって?  作者: もちもち物質
四章:無謀に鬼謀、謀れよ乙女
113/161

113話

 その日の夜、あづさとミラリアの客室の窓から何かが飛び込んできて床に落ちた。カツン、という固い音を聞いたあづさとミラリアが揃って飛び起きると、そこには石を包んだ手紙があった。

『明日の夕方、だってよ!』

 短くそう書かれた手紙にくすりと笑って、あづさとミラリアはまた仲良くベッドへ戻る。

 明日の夕方を楽しみにしながら。




 翌朝から、あづさとミラリアはシャナンの家の所有する個人図書館を閲覧し始めた。

 町の図書館より規模は小さいものの、勇者に関係する書物に関しては遥かに多い。読んでいればそれなりに知識が得られた。

 それから、人間の国の魔導書を読むことができたのも大きい。魔導書は町の図書館には無かったのだが、その理由は『高価だから』であり、何故高価なのかと言えば、『万人が使うべき力ではないから』らしい。

 要は、効果の高い魔法を使うことができるのは富裕層に限られる、ということである。確かに、富裕層であるならば身元もはっきりとしており、そして何より、自分達の現在の地位を失うような馬鹿な真似はしないだろうから、国としては安定するのだろう。

 ……そしてそれら魔導書は、総じて程度が低かった。

 余程古いらしいものもイーダ家にはあったが、そういったものはともかく、比較的新しい魔導書に関しては、あづさも十分に使える程度の魔法しか載っていない。

 どうやら、人間の国の魔法は魔物の国のそれよりずっと弱いらしかった。

 その代わり、魔物の国よりは多少、科学が発達しているようだった。

 滑車などは既にあちこちで使われているようだったし、粉を挽くための水車などもあった。武器に関しても、火の消えにくい火矢や簡易的な火炎瓶のようなもの、投石器の類など、多少の発達が見られる。ただし、中途半端に魔法があるせいか、日常生活に使われる程度の化学は魔法で済まされてしまい、そのため科学の発達は中途半端に遅い印象だった。

 小さな火をおこす魔法があるために燐寸マッチの類は作られず、地を耕す魔法があるために農具は発達せず。

 ある意味では魔法がある分便利な世界だが、あづさの目にはどうにも、それらが中途半端なものに見えた。

 ……もし、人間の国と魔物の国が戦ったら、それなりの確率で魔物の国が勝てるのではないだろうか。あづさはそう考える。

 強いて言うなら、人間の国は魔法と科学の調和が巧かった。風の魔法と弓矢を組み合わせれば、弓自体に改良が無くともよく飛ぶ弓ができる。火の魔法を使って火薬紛いのものを作ることもしているようだった。

 だがそれらは全て、魔物の国で真似できる。こうしてあづさ達が人間の国を見に来ている以上、やはり人間側に負ける道理はない。

 ましてや……人間側の最終兵器であろう『勇者』の力を、手中に収めることができたのなら、尚更。


 そうして図書館で時間を潰し、昼食はシャナンと一緒に摂ることになり、午後からは屋敷の中庭で優雅に茶を飲んだりとしていたのだが……そうして、時刻は夕方となる。

 屋敷の庭に居たあづさとミラリアは、ふと空を見上げる。

 ……するとそこには、水でできた馬に跨って空を飛ぶ騎士の姿があった。


 町がざわめく。誰かが「魔物だ」と言うや否や、町の人々は狂乱状態になってしまった。長らく見ていなかった魔物が唐突に町に現れたのだから、仕方ないかもしれない。

 自分達の祖父母より前の時代以来、100年という長い時間を隔てて人間の前へ姿を現した魔物は……町一番の商人の家の庭で佇む美しい姉妹へと、槍を向けたのならば、尚更。

 斜光を背に水の馬を煌めかせ、手にした槍を鋭く輝かせて、魔物はよく通る声で言った。

「俺は水の四天王海竜隊隊長。ルカ・リュイールだ。……貴様は異世界人だな?悪いがここで死んでもらう!」




 あづさへ向けて放たれた槍の一撃は、あづさがなんとか回避することで地面を抉るに留まった。

「い、異世界人?私が?何のことよ!」

「とぼけても無駄だ!貴様が次の勇者であるということは既に知っているぞ!」

 凛々しく朗々と声を張り上げて、ルカは再び槍を構える。宙と地を跳ねる水の馬に乗った騎士は、不規則な動きであづさを狙い、また槍を繰り出した。

「レイス!」

 ミラリアが叫んで、その手から魔法を放つ。水の魔法はルカにぶつかって、槍の軌道をあづさから逸らさせた。

 あづさとミラリア、そしてルカが向かい合って、お互いに少々の距離を取る。

「……貴様、魔法を使うのか」

「え、ええ……」

 ミラリアは自分自身でも困惑した様子を見事に演じながら、それでも『妹』を守ろうと前に出る。

 町の者達はこれらのやりとりを遠巻きに見て不安そうな顔をしている。助けに行く能力はなく、かといって興味がないわけではない。そんな様子で、美しい姉妹が魔物に狙われている様子は衆目に晒されることとなる。

「成程、異世界人の傍にいる者が凡人であるはずもなかったか」

 ルカは槍をぐるりと大きく振り回すと、その切っ先をミラリアに向けた。

「なら先に、貴様の命を貰う!」


 その時だった。

「おうおうおうおう!ちょーっと待てよォ。てめェ、女相手に随分と物騒じゃァねえか」

 ただ傍観し、精々魔物にヤジを飛ばす程度だった観衆の中から、ひょこり、と1人の青年が現れる。

 中々整った容姿、細身ながら鍛えられた体つきは、人々の目を惹いた。それでいて、青年の『正義』は、観衆に好意的に受け入れられる。

「綺麗な女の子を虐めるンじゃねえ!どうしても殺すっつうンなら、先に俺が相手だ!」

 青年は水の馬の騎士を見上げて、にやりと笑った。

「俺はラギト・レラ!お相手願うぜ、ルカ・リュイール隊長!」




 あづさは壮大な茶番劇を眺めつつ、案外ラギトって強いのよね、頭は弱いけど、というような感想を抱いていた。

 見事に本名を名乗ったことであづさとミラリアは肝を冷やしたが、観衆はラギトの名を知らなかったらしい。特に反応されるでもなく、観客の興味はラギトの名や正体よりも、魔物と戦う勇敢な青年へと向いていた。

 ……ラギトは翼が無い分、戦い方が大分変わっていた。

 ラギトは脚を使って戦うのだが、元が翼であるため、腕は一切攻撃に使われない。その結果、一種の舞踏のような、不思議で美しい戦い方として、ラギトの姿は人々の目に焼き付いた。

 ルカも負けてはいない。手加減はしているのだろうが、それでも時折、容赦なくラギトの頬を切り裂く程度のことはする。噴水の水を操って、およそ人間には不可能な規模の魔法を使い、凄まじい水流で庭の石像を悉く破壊していく。その圧倒的な力を前に、イーダ家の護衛達は出てくることができなかった。

 そしてラギトはそれらを見切って避けながら、ルカの懐に潜り込んでは蹴り、庭の木や噴水に飛び乗っては足場にして跳んで宙を舞って蹴る。

 普段のように飛んで大きく距離を取るような戦い方でない分、技術が冴えた。

 相手の懐に潜り込み続けながら、直前で相手の攻撃を見切ってギリギリで躱す技術。それはルカの手加減の下で成り立つものではあったが、そんな事情を知らない観衆の目には、凄まじい武術の達人に見えるのだ。


 ……そうして2人が戦った果て、ようやく帰宅したシャナンがこれは一体何事か、と慌てふためくのを確認したあづさは……すかさず、鞭を振るった。

 ひゅ、と空を切った鞭の先端が、ルカの胸を叩く。

 華やかに宙を舞った鞭はパシン、と大きな音を立てて、人々の注目を集める。

「……これ以上は、暴れさせないわよ」

 あづさは鞭を構えて、ルカに相対する。

「なんだか知らないけど!でも、殺せるもんならやってごらんなさい!私だって、戦えない訳じゃないのよ!」


 ルカはちらり、と道を確認して、そこに豪奢な馬車が停まっていて、そこから出てきた身なりのいい男が慌てている様子を確認した。

 それから1つ舌打ちすると、ケルピーに乗って空へと舞い上がる。

「目覚める前からその力、か……どうやら俺1人の手に負えない相手らしいな」

 ルカは槍の先を下ろして、眼下に並ぶあづさとミラリア、そしてラギトを睥睨して言う。

「だが、そう遠くなく再び貴様に会いに来る。その時こそ、その命、貰い受ける」

「上等よ」

 そしてルカは去っていった。庭に戦いの痕を残し、町に不穏の種を残して。




「マリー嬢!レイス嬢!ご無事ですか!?」

 シャナンが駆け寄ってくるのを見て、あづさとミラリアはへたり、とその場に座り込む。

「ああ、どうしてこんなことに……」

「分かりません。襲って来た魔物はレイスを見て、『異世界人』だと言っていました。『次の勇者』だとも……」

 ミラリアの言葉に、シャナンははっとしてあづさを見る。だがあづさはただ困惑するだけに留めた。こういう時は下手な発言をしないに限る。そうすれば相手が勝手に勘違いを加速させて勝手に動いてくれるのだ。

「怪我はねェか?大丈夫か?」

 そこへ、ラギトが割り込んできた。その心配そうな顔は本物である。『自分の演技は大丈夫だっただろうか』という不安があるのだろう。

「ええ。おかげで助かったわ。ありがとう」

 なのであづさは、『上出来よ』という意図を込めて笑みを向けた。するとラギトは「そうか!ならよかった!」と胸を張る。

「……ん?君は?」

 そしてシャナンは、ラギトを不審に思ったらしい。屋敷の兵士でもない青年がここに居ること自体、おかしいので当然である。

「ラギト・レラ!よろしくしてやるぜ!」

 シャナンは一瞬『特によろしくされる覚えはないのだが』というような顔をしたものの、人当たりの良い商人らしく、笑顔でラギトに手を差し出し、握手を交わした。

「この方が私達を守って魔物と戦ってくださったんです」

「おかげで助かったわ」

「おう!美しいものを守るのは当然のことだ!」

 ラギトの主張とよく分からない自信とを間近に見て、シャナンは少々対応に困っているらしかった。しかし、『マリー』と『レイス』を守った男を無碍にもできないらしい。

 どうしたものかと困っているらしいシャナンを少々楽しみつつ、あづさとミラリアはしばらくそのまま庭に居たのだった。




 夕食を食べて行ってはどうか、とシャナンが提案したため、ひとまず一行は庭から屋敷の中へと移った。

 そこでラギトは特に何も考えていない様子で夕食を食べては「うめえ!」と喜んでいたが、却ってこの反応からシャナンの警戒はある程度解けたらしい。即ち、敵であったらここまで要領が悪くは無いだろう、と。

「ところでよォ、いっつもああいうの来るのか?大変だなァ」

 更に、ラギトはそう、何の邪気もなくあづさとミラリアに声を掛ける。特に何も分かっていない、という態度はどうみても裏表がないように見える。実際無い。

「いつも来るわけないじゃない。あんなの初めてよ」

 それにあづさはそう答えつつ、ふと、不安そうな顔をして、シャナンの方を見る。

「……ねえ。さっきの魔物、私を見て『勇者』だって言ったわ。『異世界人』だとも。私、どうしたらいいのかしら」

 これにシャナンは1つ唸ると、答える。元々ずっと、この問題について考えていたのだろう。

「ひとまず、王に謁見するべきでしょうね。あなたが本当に異世界から来た勇者なら、王に知らせなければ」

 思い通りにいったわね、とあづさは内心で笑う。尤も、表情には出さなかったが。


「ふーん。大変だなァ。じゃあ俺もついてくからよォ、安心しろよ!」

 そしてラギトがそう言ったため、シャナンは度肝を抜かれたような顔をした。

「え、い、いや、流石にそれは」

「でもさっきのみたいな奴がまた来たら困るだろ?な?ついてってやるよ!」

 シャナンはこれに、大層困った顔をした。何せ、ラギトが敵ではなかったとしても身元が分からない男であることは変わりない。

「兵力なら心配は要りませんよ。我が家には優秀な護衛が居ますから」

「つったってよォ、多くて問題あるかァ?俺が居てもいいだろ?大体、ユーシューな護衛が居るならなんでさっき出てこなかったんだよ?な?そんなの嘘なんだろ?俺には分かるんだぜ!」

 ラギトは『そもそも護衛なんていないんだろう』という意図で言葉を発しているのだが、シャナンからすれば、『非常時に隠れているような護衛を優秀と言えるのか?』という皮肉に受け取れる。他意はない言葉が、シャナンのプライドを傷つけた。

「だ、大体あなたには下心があるのでは?このような美しい女性2人と一緒に居たいという思いだけでそう申し出ていらっしゃるのでは?」

「あァ?下心ォ?美しいものと一緒に居たいっつーのの何がおかしいンだよォ。当然のことだろ?何が悪い!」

 更に、品が無いと思いつつも言い放った言葉に対して堂々と開き直られては、シャナンも二の句が継げない。商人として口は回る方である自覚があったが、それが発揮されるのは自分と同等に知性とプライドがある相手だけなのだ、ということを知る。

「俺は!綺麗な女が!危険な目に遭うのは嫌だ!俺なら守ってやれる!何も悪いことねェだろ!」

 ……そしてラギトは、実力を示した。

 町の者も、そしてイーダ家の屋敷の者達も手出しを躊躇った魔物相手に、堂々と立ち向かったのだ。それだけで、ラギトに利するところがある。

 シャナンは、反論を探して思索を巡らせる。

 ……だが。

「……いいでしょう。ついてきてもらいましょう。裏があるようには見えないわ。それに、下手に下心を隠していられるよりは信用がおけますから」

 結局、ミラリアがそう言ったため、シャナンは最早、何も反論できなくなったのである。


「やっぱりな!正直者は馬鹿を見るんだぜ!」

「あなた、その言葉の意味分からないで使ってるでしょ」

「正直者は楽しいってことだろ!分かってるぜ!」

「ああ、すごい……『楽しい』人ね、あなたって……」

 あづさはそう言いつつ、ちらり、とシャナンの様子を見る。

 ラギトを見る目に、少々苛立ちのようなものが見て取れた。それを確認したあづさは、そっと、シャナンに身を寄せると、耳元に囁いた。

「……あの人、強かったけれど、頭の方はちょっと……その、あんまり頼れそうにないから。だから、シャナンさん。頼りにしてるからね」

 そう言って身を離し、片眼を瞑って見せる。

 あづさは知っている。何だかんだ、男性というものは頼られることを好む生き物である、と。

「ええ、お任せください。王城まで必ずやあなた方を無事にお連れしますよ。勇者イーダの名に懸けて!」

 シャナンはそう言って、誇らしげに笑みを浮かべるのだった。

 どうやら、機嫌は直ったらしい。あづさは笑みを浮かべて応えるのだった。


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[良い点] >どうみても裏表がないように見える。実際無い。 草でした 演技だとバレないためには演技をしなければよいのだ……
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