王海蓉同志との談話 (一九六四年六月二四日)
〔訳注〕 国民党側の資料によれば、王海蓉は、もとの名を毛軟新と言い、毛沢民の娘で、毛沢東の姪にあたる。毛沢民が殺された後、毛軟新は湖南の長沙中学の王季范に養われることになったため現在の名前になった、と言われる。王季范は第一期、第二期、第三期全国人民代表大会湖南省代表を務めたが、一九七二年七月一一日、北京で病死。
王海蓉は文化大革命直前には、北京外国語学院の学生で、文化大革命中に、造反派の一小グループのリーダーとなり、文化大革命後、外交部礼賓司副司長に任命された。一九七一年一一月、国際連合出席代表団副団長となり、ニューヨークに赴く。一九七二年五月、外交部部長助理に昇格し、一九七四年一〇月現在、外交部副部長。
ところが、一九七四年九月一〇日の北京発共同電は、毛沢東の姪というのは誤報で、実際は毛沢東の故郷湖南省の先輩の孫にあたる人だと伝えてきた。しかし、 少なくとも毛沢東の親戚であることは、本文件で確認できる。
(王海蓉は外国語学院英語専修科の学生である)
王――私たちの学校の階級闘争は非常に尖鋭です。きいた話では、反動的な標語〔ポスターやビラに書かれたスローガン」がみつかり、すべて英語で書かれており、われわれ英語学科の黒板にはってあったそうです。
主席――そやつが書いたのはどんな反動的な標語かね?
王――私が知っているのは、「蔣万才」です。
主席――英語でどう言うのかね?
王――Long Live です。
主席――ほかにどんなことが書いてあったのかね?
王――ほかのことは知りません。私が知っているのはそれだけです。章含之〔章士釗の娘、現在、外交部長喬冠華の夫人」が私に教えてくれました。
主席――結構だ! そやつに外にいっぱい貼らせて、みんなによませてやれ。そやつは人を殺さなかったのかね?
王――人を殺したかどうかは知りません。見つけたら、除籍して、労働改造におくるべきだと思います。
主席――人を殺しさえしなければ、除籍してはならず、労働改造におくる必要もない。学校に留めておいて、引き続き学習させたまえ。君たちが会議を開いて、そやつに、蔣介石がなぜすばらしいのか、蔣介石がどんなすばらしい事をしたのか、話させたらよい。君たちも、蔣介石がなぜよくないのかを話すとよい。君たちの学校にはどのくらいの人がいるのかね?
王――教職員を含めて、大体三千人あまりです。
主席――「君たち三千人あまりの中で、蔣介石びいきはせいぜい七、八人だろう。
王――一人だけでもけしからんことなのに、七、八人もいては大変です。
主席――君は、一枚の反動的な標語を見て、そんなに緊張するのかね。
王――なぜ七、八人も必要なのですか?
主席――何人もおれば、対立物をうちたてることができ、反面教師にすることができる。但し、人を殺しさえしなければだが。王――私たちの学校は階級路線を貫いています。今回募集した学生は七〇%が労働者と貧農・下層中農の子弟で、 その他は幹部の子弟や革命烈士の遺族の子弟などです。
主席――君たちのクラスには、労働者・農民の子弟はどのくらいいるかね?
王――私のほかに二人ほど幹部の子弟がおり、その他はすべて労働者・貧農・下層中農の子弟ですが、かれらの態度は大変良好で、私はかれらから非常に多くのことを学んでいます。
主席――かれらと君との関係はうまくいっているのかね? かれらは君に近づくことを喜んでいるのかね?
王――私達の関係はうまくいっていると思います。私はかれらと気が合いますし、かれらも私と気が合います。
主席――それならばよい。
王――私達のクラスのある一人の幹部の子弟は、態度が本当によくありません。授業中、注意深く話を聞こうとせず、授業が終わっても〔語学の〕練習をせず、小説ばかり読んでおり、時には宿舎で寝ています。土曜の午後の会議にも時には参加しないこともあり、日曜も時間通り学校に帰ってきません。日曜の晩、われわれのクラスや〔共産主義青年団の〕団員が会議を開くことがあっても、出て来ないので、みんながかれに不満を持っています。
主席――君たちの教員は、授業中、いねむりをしたり、小説を読んだりするのを許しているかね?
王―――許してはいません。
主席――学生が授業中、小説を読んだり、いねむりをするのを許して、学生の身体を守るべきだね。教員は話すことを少なくし、学生に「すきなものを〕多く読ませるべきだ。私の考えでは、君のいっているその学生は、将来、大いに見込みがあるかも知れない。かれは土曜に、会議に参加しようとはあえてせず、日曜にも時間通りに学校にあえて帰ろうとしない。君は学校に帰ったら、この学生に、八時、九時に学校に帰るのはまだ早すぎる、一一時、一二時になったら帰ればよいと教えてやりたまえ。誰が君たちに日曜の晩、会議を開かせるのかね。
王――もともと私が師範学院にいた頃には、一般に日曜の夜を会議にあててはならないことになっていました。日曜の夜の時間は、一般には、すべて学生自身が〔自由に〕利用できました。ある時、われわれが〔共産主義青年団の〕 支部委員会を開き、数人の幹部がとくと相談した上、ある日曜の晩、組織生活を送ろうと準備しましたが、非常に多くの団員が反対するという結果になりました。ある一部の団員は、さらに、政治補導員に対して、日曜の夜はわれわれ自身が利用する時間であり、晩は帰校しないという意見を提出しました。その後、政治補導員は、期日を改めて会議を開くべきだという団員の意見を受け入れました。
主席――その政治補導員のやり方は正しい。
王――私たちのところでは、日曜の夜をことごとくつぶして会議が開かれます。クラス会か、でなければ、支部委員会があり、そうでなければ、学年会になっなったり、党教課目学習グループの会になります。今学期が始まって、私がここにくるまでの間を、ちょっと計算してみますと、日曜の夜、会議が開かれなかったことは一度もありません。
主席――帰ったら、君は率先して造反したまえ。日曜には帰らないよう、会議には出席しないようにね。
王――私はそんなことはしたくありません。それは学校の制度が定めているばなりません。そうしないと、ほかの人から、私が学校の制度を破壊したといわれるでしょう。
主席――制度がどうのこうのというが、そんなものはどうでもよいのだ。帰らないだけのことだ。君は、私が学校制度を破壊すると考えるのだろう。
王――そんなことは許されません。きっと批判されます。
主席――私の考えでは、君という人には、将来大きなことがやれる見込みがない。君は人から制度を破壊すると言われるのがこわく、批判されるのがこわく、誤りが書きとめられるのがこわく、除籍されるのがこわく、入党できないのがこわいのだね。何のこわがることがあろう。せいぜい、除籍されるだけのことだ。学校は学生の造反を許すべきだ。帰ったら、率先して造反したまえ。
王――ほかの人はきっと、主席の親戚である私までが主席の言うことを聞かずに、率先して学校制度を破壊すると言うでしょう。私がごうまんで思い上がっており、組織的でなく、無規律だと言うでしょう。
主席――君という人は! ほかの人からごうまんで思い上がっていると批判されるのがこわく、組織的でなく、 規律だと言われるのがこわいのだ。何をこわがるのだね? 君は主席の言葉を聞いたから、はじめて造反するという。 私は君が言った、あの学生の方が将来は君よりも見込みがあるように思う。かれは、あえて、君たちの学校の制度に服従しようとしないのだ。君たちのような連中は、少々、形而上学的になっているように思われる。
(ある時、学習問題について話したこと)
王――現在は全く、古典作品を読むことが許されません。私たちのクラスのある一人の幹部の子弟は古典作品を読みつくしました。皆が英語の練習にいそがしいのに、かれは『紅楼夢』を読んでいます。私たちの同級生たちはみなかれが『紅楼夢』を読むことに不満を持っています。
主席―――君は『紅楼夢』を読んだことがあるかね?
王―――読みました。
主席――『紅楼夢』の中のどんな人物が好きかね?
王――誰も好きではありません。
主席――『紅楼夢』は読んでもよい。すぐれた本だ。『紅楼夢』を読むのは、物語りを読むのではなく、歴史を読むことだね。これは歴史小説で、作者のつかっている言葉は古典小説中、もっともすばらしいものだ。みたまえ、曹雪芹は、あの鳳姐さんを生き生きとえがいている。鳳姐さんという人物は非常にすばらしくえがかれている。君が描こうとしても、あんなにみごとには描けないだろう。『紅楼夢』を読まないで、君はどうして封建社会がどんなものかがわかるだろう。『紅楼夢』を読むには、次の四つの句がわからなければいけない。
「買は仮にあらず、白玉もて堂を建て、金もて馬を作る(買家)。
阿房宮は、よし三百里あらんも、金陵の史一族を住まわすには足らず(史家)。
東海に白玉の床の欠くるあらば、竜王も請じ入れん、金陵の王家に(王家)。
豊年はよく大『雪』降り、真珠も土の如く、黄金も鉄の如し(薛家)」
[『紅楼夢』第四回にみえる語句」。 この四つの句は『紅楼夢』を読むかんどころだね。杜甫に、「北征」という一篇の長詩があるが、読んだことがあるかね?
王――ありません。『唐詩三百首』には、その詩はありません。
主席——『唐詩別裁』にある。(この時、主席は本をもってきて、「北征」という詩のところをひらいて、私によむようすすめた)。
王――この詩を読むには、どんな問題に注意を払えばよいのでしょう。先に予防注射を打っておけば、影響を受けることはないでしょう。
主席――君という人はまったく形而上学だね。予防注射など打とうとするとは。打つ必要はない。少しは影響を受けたほうがよいのだ。作品の中にふかくひたり、登場人物に深くなりきり、そこからぬけ出してくるべきだ。この詩は熟読すればよく、必ずしも暗記しなくてもよい。君たちの学校では、君たちに聖書や仏教のお経を読ませるかね?
王――いいえ、読ませません。そんなものを読んでどうするのですか?
主席――翻訳をやるのに、聖書やお経を読まないで、どうしてやっていけるかね。君は『聊斎志異』は読んだことがあるかね?
王――ありません。
主席——『聊斎志異』は読んだがよい。『聊斎志異』に書かれている狐や狸の精は本当に善良だ。人間を助けるのに、本当に積極的に働く。英語で「知識分子」とは何と言うのか?
王――知りません。
主席――君は、長い間、英語を学習してきて、自分も知識分子なのに、「知識分子」ということばがわからないとは。
王――『漢英辞典』をちょっとひかせて下さい。
主席――ひいてみたまえ。そのことばはあるかね?
王――だめです。この『漢英辞典』にはこの字はのっていませんわ。「知識」ということばはありますが、「知識分子」はのっていません。
主席――私にみせなさい。(王が辞典を主席に渡す) 「知識」だけがあって、「知識分子」がないとは、この『漢英辞典』は役に立たない。非常に多くの字がない。君、帰ったら、君たちの学校で、質のよい『漢英辞典』を編集したまえ。新しい政治用語を全部入れてね。例を挙げて、それぞれのことばの用法を説明するのが一番よいが。
王――私たちの学校で、どうして辞典を編さんできますか。時間もないし、人もないのに、どうしてつくれますか。
主席――君たちの学校は、あんなに多くの教師や学生がいるのに、辞典一冊編さんしきれないことがあろうか。この辞典は、君たちが編さんすべきだ。
王――わかりました。帰ったら、この意見を学校の指導部につたえます。私たちはこの任務を完成できると思います。
(ある時、主席が外国の貴賓と接見した後での、王海蓉との談話)
王――外国のお客さまがあなたに英語で話しかけておられましたが、聞いてわかるのですか?
主席――聞いてもわからない。かれらは話すのが早すぎる。
王――それでは、あなたは接見の際は、英語を話されるのですか?
主席――話さない。
王――あなたは話もされないし、聞いてもわからないとしますと、それでは、あなたは何のために英語を学んでおられるのですか?
主席――私が英語を学ぶのは、言語を研究するためであり、英文と中国語文を比較してみるのだよ。もし機会があれば、日本語も学んでみたい。
(ある時、主席が王海蓉に文天祥 〔南宋末の忠臣〕の詩を読んでみさせた)
主席――もし敵が君を生けどりにしたら、どうするか?
王――人生、古より、誰か死無からん。丹心を留めて、汗青〔史書〕に照らさん〔文天祥、過零丁洋詩〕です。
主席――結構だ。帰ったら、一〇冊か二〇冊、マルクス・レーニン主義の古典的著作を読み、唯物論的なものを読みなさい。みたところ、君の理論水準は高くない。学習においては、五点満点などとる必要はない。しかし、二点しかとらないのもよくない。三点か四点でよい。
王――どうして五点もとらなくてよいのですか?
主席――五点は、人をひどく疲れさせてしまう。それほど多くのものは必要ない。勉強しすぎると、人はつかれていやになってしまう。たとえば、漢の高祖の『大風歌』をみると――
「大風がたち、雲(竜)がまいあがり、威を四海に加えて、故郷に帰る、いずくんぞ猛士を得て、四方を守らん」
とある。この詩はよくできており、非常に気魄がある。詩をつくった漢の高祖は本など読んだことがなかったが、こんなすばらしい詩がつくれたのだ。われわれの幹部の子弟のことが、ひどく気がかりだ。かれらは生活経験や社会経験というものがないのに、気位は非常に高く、たいへんな優越感をもっている。父母や先輩に頼ってはならず、完全に自分に頼るよう、かれらを教育しなければならない。




