EP.1-10 揺れる答え
こんにちは、Time Bombです!
この時期はちょうど卒業式のシーズンでしょうか。
卒業を迎えた皆さん、おめでとうございます!
卒業といえば、実は
「Abyss Trigger ーーSecret Xーー」の他にも書いてみたい学園小説のアイデアがあるんですが……
まずは瑞葵たちの物語をしっかり書こう!と自分に言い聞かせながら執筆を頑張っています!
そして今回のエピソードは、西横任務。
翼と別れてしまった瑞葵。
ここから、瑞葵はさらに大きな一歩を踏み出すことになります。
ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです!
瑞葵は細い足場の上で、バランスを崩さないよう必死に走っていた。
少しでも足を踏み外せば、そのまま落ちてしまう。そんな不安が頭をよぎる。
それでも、止まるわけにはいかなかった。
やがて細い通路を抜け、大通りへと出ることができた。
瑞葵「はぁ……はぁ……」
荒い呼吸を整えながら周囲を見渡す。
とりあえず、さっき河村亜美と出会ったゲームセンターの近くへ戻ろう。
時間はあまり残されていないはずだ。
瑞葵は駆け足でその場へ向かった。
すると――
瑞葵「うわ!」
亜美「キャ!」
角を曲がった瞬間、女性とぶつかってしまった。
瑞葵「す、すみません!」
亜美「ちょっと気をつけて……って、さっきの!」
瑞葵「あ!うそ!」
顔を上げた瞬間、瑞葵は思わず声を上げた。
目の前にいたのは――河村亜美だった。
まさか、こんなタイミングで再び会えるとは思ってもいなかった。
亜美「あんた無事だったんだ。
あいつら最近来たやばい不良軍団だったから、ボコボコにされてると思ったけど。」
瑞葵「そんなにやばいの……?」
亜美「今週だけで五回くらい警察沙汰になってて、救急車も来てるわよ。」
瑞葵「そんな……翼、大丈夫かな……」
亜美「なに?あの子が囮になってくれたの?
随分優しい子だね〜。
ま、あんたも気をつけな。ここで暮らすならね。」
そう言うと、河村亜美は何事もなかったかのようにゲームセンターの方へ歩き出した。
瑞葵「あ……」
(どうしよう……このままじゃ……)
このまま別れてしまえば、任務は終わってしまう。
瑞葵は緊張で喉が渇くのを感じながら、必死に次の言葉を考えた。
そして――
瑞葵「あのさ!」
勇気を振り絞り、声をかけた。
亜美「はぁ、なに?
もう案内しないよ。時間もないし。」
瑞葵「いや、あの……」
亜美「はあ、男のくせに弱っちぃ。じゃあ行くね。」
瑞葵「あ、ご、ごめん……。
あ、でも……なんか奢るから、もう少し付き合ってくれない?」
その言葉に、亜美はぴたりと足を止めた。
ゆっくりと振り返り、瑞葵を鋭く睨む。
そして、ゆっくり歩み寄ってきた。
亜美「まさかとは思うけど……
あんた、お父さんから雇われたの?」
瑞葵「え!?」
亜美「なんで私に執着するわけ?
迎えに来たの?」
瑞葵「ち、ち、ちちちがうよ!」
瑞葵の背中を冷たい汗が流れる。
――バレた。
そう思った。
しかし、
亜美「まあ、そうだよね。」
瑞葵「え?」
亜美「流石に同学年の子を使うのはイメージ的によくないし、第一あんた弱そうだから雇われないよね。」
バレていなかった。
瑞葵は胸を撫で下ろしかけ――
しかし同時に、心に深い傷を負った。
亜美「いくらあるの?」
瑞葵「え?」
亜美「お財布の中身よ!」
瑞葵「まあ……二万円」
亜美「ホテル代。今日の寝床奢ってくれるならいいよ。」
瑞葵「わ、分かったよ……」
今はとにかく、時間を稼ぐしかない。
翼が戻ってくるまで、なんとか繋ぎ止めなければ。
瑞葵はそう判断し、亜美の後を追ってホテルへ向かった。
亜美「ねえ?」
瑞葵「なに?」
亜美「なんでここなんかに来ちゃったの?」
瑞葵「いやあ、それは……うん……」
亜美「はぁ、なよなよしてて気持ち悪」
瑞葵「ご、ごめん……」
亜美「まあ、今日の寝床確保できたからそこは感謝するわ」
瑞葵「あのさ、逆に君はどうしてここに来ちゃったの?」
すると亜美は足を止めた。
今まで瑞葵の方を一度も見なかった彼女が、初めて振り返る。
その表情は、どこか悲しそうだった。
亜美「自由が欲しかったから……」
瑞葵「自由?」
亜美「まあ、あんたには理解できないだろうね。」
そう言い残し、亜美は再び歩き出した。
瑞葵はその背中を見つめながら考える。
自分にとって、両親がいる家庭は羨ましいものだった。
幸せじゃないはずがない――そう思っていた。
しかし、亜美の今の姿を見ていると分からなくなる。
親からの教育への執着。
それがどれほどの負担なのか、瑞葵には想像もつかなかった。
彼女を保護することが、本当に幸せなのか。
それは分からない。
けれど――
西横の現状を見てしまった今。
ここに居続けるのは、きっと違う。
亜美「このホテルは覚えておいた方がいいわよ。
ここは年確されないから。」
瑞葵「わ、分かった……」
慣れた様子で手続きを済ませ、部屋を確保する。
亜美「二万あるんだもんね?」
瑞葵「う、うん」
亜美「それじゃあこの一番いい部屋、二人利用で。」
瑞葵「え!?」
亜美「さ、払って。18000円ね。」
瑞葵「え、あ、うん……」
瑞葵はお金を払い、受付の人から無造作に鍵を渡された。
二人は部屋へ向かう。
瑞葵「ね、ねえ!二人って……」
亜美「あんたも泊まるんでしょ!」
瑞葵「え!でも、僕らはまだ知り合ってすぐだし……」
亜美「じゃあ何?あんたは外で寝てくれるの?」
瑞葵「そういう意味では……」
亜美「お金はあんたが出すんだから私も最低限気を使ってあげたの。
本当は男女同室なんて嫌だけど。
さ、ここだよ。早く入ろう」
瑞葵(えー!)
今日会ったばかりの女の子と、二人きり。
瑞葵の思考は完全に追いついていなかった。
亜美「うわあ!さすが高いだけあってベッドふかふか!
ツインじゃなくてダブルなのが残念だけど」
瑞葵はただ呆然と、ベッドの真ん中に寝転がる亜美を見ていた。
亜美「なに?あんたも早くベッド来なよ。」
瑞葵「あ、うん……」
瑞葵はベッドの端にそっと座る。
亜美「なに遠慮してんの?真ん中来なよ。」
瑞葵「いや……だってさ……」
亜美「焦ったい!」
亜美は瑞葵をベッドに押し倒した。
瑞葵「うわ!」
そのまま瑞葵の上に乗り、顔を近づける。
瑞葵「え?ち、ちょっと!」
亜美「ねえ?」
耳元で囁く。
瑞葵「あの……流石に……こういうのは……」
亜美「君、パパと繋がってるんでしょ」
瑞葵「え?」
瑞葵は言葉を失う。
瑞葵(バレてしまった……どうしよう……翼……)
亜美「分かりやすすぎw」
瑞葵「な、な、なんのこと……?」
亜美「もういいって。
こんな年頃の男の子用意するなんてほんとクズ親」
亜美は瑞葵の頬に唇をつけた。
瑞葵「え?ちょっと!」
亜美「ん」
そのままキスをし続ける。
瑞葵は初めての経験にパニックになった。
そして――
亜美は瑞葵の腕を掴み自身の胸に当てる。
瑞葵「ヒャ!」
そのまま瑞葵の手のひらに重ねて緩急よく自身の胸を揉ませ始めた。
瑞葵「うわああああ!」
亜美「ほんと初めてなんだ。顔赤いよ」
瑞葵「はあ、はあ……ダメだよ……やめてよ」
亜美「面白いね、君……」
瑞葵「な……んで……」
瑞葵は完全に放心状態になってしまった。
亜美は気にする様子もなく、荷物を整理し始める。
亜美「じゃあ、そろそろ仕事だから行くね。鍵は私が持ってくから」
瑞葵「あ……待ってよ!」
亜美「なに?止めるつもり?」
瑞葵「だって……仕事って体売るんでしょ?ダメだよ」
亜美「まあ、止めるなら別にいいけど。
パパにあんたに突然襲われたっていうだけだし!」
瑞葵「え……?」
亜美「証拠あるんだよ。
私の胸を揉んだって証拠。」
亜美は自分の胸を指差す。
亜美「指紋。調べてもらえば一発。」
瑞葵「でも、それは君が!」
亜美「何?私がやったって証拠あるの?」
瑞葵「いや……それは……」
亜美「それじゃあ大人しくしといてね。
私はパパのところに戻りたくないから。」
瑞葵「そんな……」
亜美「今日のお客さんは常連。
しっかりゴムもつけてくれるし、言い値でしてくれる。
だから私は大丈夫。それだけ伝えて。」
そう言い残し、河村亜美は部屋を出て行った。
瑞葵はその場に立ち尽くす。
せっかく柚木から任務のチャンスをもらい、翼にも助けてもらった。
それなのに――
瑞葵(やっぱり……僕には……)
柚木『瑞葵くん。』
瑞葵「あ!」
イヤモニから柚木の声が聞こえた。
(そうだ……イヤモニ)
瑞葵は慌てて応答する。
瑞葵「柚木さん!すみません。僕……」
柚木『大丈夫。落ち着いて!』
瑞葵「はい……」
柚木『一回深呼吸しようか』
瑞葵はゆっくり息を吸って吐いた。
心臓がまだ強く脈打っている。
柚木『少し落ち着いた?』
瑞葵「はい……」
柚木『話さなくて大丈夫。
瑞葵くんの胸元とイヤモニには発信機と小型カメラを搭載しているの。』
瑞葵「え……つまり」
柚木『ええ。全部見てたわ。』
瑞葵(全部……)
柚木『瑞葵くん。まずはゆっくり聞いて。』
瑞葵「はい……」
柚木『22時からの仕事はこちらが用意したもの。』
瑞葵「え?」
柚木『彼女のお得意さんのアカウントを乗っ取って、私たちがなりすましたの。』
瑞葵「そうだったんですか……」
柚木『前回の作戦が失敗してるから、警戒してると思ってね。』
瑞葵「……」
柚木『瑞葵くん。
あなた昨日、言ってたわよね?』
瑞葵「……はい」
柚木『それじゃあ、どうする?』
瑞葵「それでも……」
瑞葵の頭には施設の記憶がよぎる。
あの地獄のような日々。
もしまた戻ることになったら――
柚木『難しいなら考えなくていい。
自分が正しいと思う方に彼女を導いてあげて。』
瑞葵「僕が……正しいと思う……」
柚木『瑞葵くんは優しいから、自分の直感を信じて大丈夫。』
瑞葵「……わかりました。
僕は、あの子にはここにいてほしくないです。」
柚木『うん。よく言ってくれた。
ここからは瑞葵くんに任せるね。』
瑞葵「はい!」
瑞葵は急いで約束の場所へ向かった。
――――
翼 「いいんですか?瑞葵一人で。」
翼は柚木の車に戻されていた。
柚木「少し様子を見てみようと思ってね」
翼は納得していない表情だった。
柚木「翼くんこそ、大丈夫?」
翼 「俺の戦闘見てなかったんですか?」
翼の顔には傷一つない。
柚木「そうじゃない。苦しくなかった?」
翼 「どういうことですか?」
柚木「大丈夫そうならいいのよ。
瑞葵くんがピンチの時に動けるように待機ね。」
翼 「……分かりました。」
柚木「それと翼くん。」
翼 「はい?」
柚木「あなたもまだ中学三年生。
無理に我慢しなくていいからね。」
翼 「何を言ってるか理解できませんが、心遣い感謝しますよ。」
二人が見守る中――
瑞葵は再び西横キッズに紛れ、夜の街へと溶け込んでいった。
それは、守られるだけだった少年が、自分の意志で一歩を踏み出す夜の始まりだった。
次回予告
西横の夜。
河村亜美を救うため、瑞葵は一人で動き続ける。
しかし現れたのは、亜美を買おうとする男。
戦う力では敵わない。
それでも瑞葵は、逃げなかった。
必死に守ろうとしたその瞬間――
現れたのは翼だった。
そして翼は瑞葵に言う。
「ここからは1人でやってみろ」
迷いながらも、それでも前へ進む瑞葵。
彼の言葉は、亜美の心に届くのか。




