プロローグ
はじめまして。
Time Bombと申します。
本作は、小説家になろうでは初投稿となる作品です。
3年前、
「こんなアニメがあったら観てみたい」
そんな漠然とした想像から生まれた物語でした。
それがまさか、
こうして小説という形で投稿する日が来るとは、
正直、自分でも驚いています。
趣味で執筆しているため、
更新ペースはかなりゆっくりになると思いますが、
気長にお付き合いいただけましたら幸いです。
今回はプロローグとなります。
『Abyss Trigger ――SECRET X――』
が、どんな物語なのか。
少しでも感じ取っていただけたら嬉しいです。
完結まで書き切るつもりでいますので、
どうか最後まで、よろしくお願いいたします。
平和だと思われている世界の裏側には、一部の人間にしか知られていない“闇”が存在する。
都内某所。
仕事終わりの社会人で賑わう繁華街の裏手――
人目につかない場所に、四人の少年少女が息を潜めていた。
錆びついた雑居ビルの非常階段。
古く、使われているのかも分からない建物は、
忙しなく行き交う人々の視界から完全に外れている。
この街には、こうした“死角”が多い。
知らぬ間に犯罪の温床となり、
誰にも気づかれないまま、何かが終わる場所。
今夜、このビルで行われるのは
反社会勢力のボスを拘束するミッションだった。
すでに組織の大人たちが団員の大半を制圧している。
残るは一人
――ボスのみ。
少年少女たちは、その“最後”を任されていた。
銃などの武器は所持していない。
その情報が事実なら、状況は有利だ。
――だが。
翼 「みんな」
リーダー格の少年、翼が右手を上げ、静かに合図を送る。
耳元のイヤモニから、指示が届いたようだった。
翼 「情報が来た。残りの団員一名を確保。中にはボスしかいない」
翼 「GOサインが出たら、俺を先頭に――夏月、瑞葵、悠喜の順で入る」
悠喜「チェ。おれが最後かよ」
翼 「悠喜なら後ろを任せられる。万が一があったら頼む」
悠喜「へへ。そういうことなら任せな」
軽口とは裏腹に、翼の視線は鋭い。
仲間を動かす言葉選びに、一切の迷いがなかった。
無言で右手が上がり、
次の瞬間、静かに振り下ろされる。
翼 「――GO」
四人は縦一列になり、建物へと侵入した。
翼が前方を警戒し、
悠喜が背後を確認する。
夏月「団員は全員確保されたみたいね」
翼 「まだ油断はできない」
悠喜「まあ、この様子なら楽勝だろ」
三人が徐々に落ち着きを取り戻す中、
一人だけ、足取りの重い少年がいた。
瑞葵。
組織への加入が最も遅い彼は、
緊張を隠しきれず、動きが硬い。
それでも、足を止めることはなかった。
――足を引っ張らないために。
残る団員と遭遇することもなく、
四人は組長室の前へ辿り着いた。
翼は立ち止まり、悠喜に視線を送る。
――異常なし。
次に瑞葵を見る。
翼 「準備はいいか」
瑞葵は、固い表情のまま小さく頷いた。
無言の合図。
右手が上がり、振り下ろされる。
四人は一斉に部屋へ踏み込んだ。
だが――
室内は静まり返っていた。
十畳ほどの部屋に、組長の姿はない。
しかし、センサーは確実に反応している。
この部屋のどこかにいる。
死角だらけの室内。
机、段ボール、家電、書類の山。
張り詰めた空気。
夏月は腰の誘導棒を握りしめ、奥へ進んだ。
震えは、本人にも分かっていた。
その瞬間。
段ボールの中から、男が飛び出した。
夏月「いやっ!」
包丁が振り下ろされる。
翼 「――っ!」
翼の回し蹴りが決まり、刃物が弾き飛ぶ。
悠喜「あぶねえ!」
飛んできた刃物を蹴り返し、悠喜が回収する。
翼 「大丈夫か!」
悠喜「問題ねえ!」
瞬時にフォーメーションを組む三人。
組長「……舐められたもんだな」
悠喜「大人しく捕まれよ、おっさん」
組長「今なら見逃してやる。条件次第だがな」
翼 「悠喜、こいつの条件には――」
悠喜「悪いけどさ。俺たちはただ暴れたいだけで来てるわけじゃねえんだよ」
組長は、ゆっくりと悠喜を見た。
悠喜「大人しく捕まる気がねえなら――こっちも力づくでいく。それだけだ」
組長「……そうか」
その言葉と同時だった。
組長の視線が、すっと逸れる。
悠喜ではない。
夏月でもない。
翼だった。
翼 「――っ!」
拳が迫る。
翼は反射的に構えた。
鈍い衝撃が腕に走る。
翼 「ぐっ……!」
一歩、後ろへ下がる。
その隙を逃さず、夏月が踏み込んだ。
夏月「――っ!」
腰から抜いた誘導棒を、組長の脇腹へ突き出す。
しかし――
組長は、わずかに体を捻っただけだった。
夏月「え……?」
誘導棒は、空を切る。
組長は、そのまま拳を振り上げた。
翼 「夏月、下がれ!」
間一髪。
悠喜が割って入る。
悠喜「チッ――!」
拳同士がぶつかり、鈍い音が響いた。
悠喜は歯を食いしばる。
悠喜「……重てえな」
組長は、にやりと口角を上げた。
組長「そんなものか」
その一言で、空気が変わった。
それまで余裕を見せていた悠喜の表情が、僅かに強張る。
子犬のような、警戒と恐怖が滲んだ顔だった。
悠喜「あん?」
挑発するように言い返す。
だが、組長は悠喜を見なかった。
次の瞬間――
組長の体が、低く沈む。
翼 「しまっ――!」
遅かった。
視線の先。
瑞葵だった。
瑞葵「――っ!」
反応できなかった。
拳が、左頬を打ち抜く。
鈍い音。
視界が揺れ、瑞葵の体が後ろへ吹き飛ぶ。
床が近づき、背中を強く打った。
瑞葵「……っ、は……」
息が、できない。
胸が動かない。
組長は、瑞葵の上にまたがった。
その影が、視界を覆う。
組長「ハハハ……その顔」
瑞葵の喉が、ひくりと鳴った。
声を出そうとする。
だが、音にならない。
組長「堪らないぜ」
恐怖で、指先が痺れる。
視界の端が、暗くなる。
「やめろ」と叫びたい。
でも、体が言うことを聞かない。
――ドン。
鈍い音が響いた。
組長「あ……?」
頭を押さえ、体がぐらつく。
悠喜が、机の上にあったノートパソコンを振り抜いていた。
悠喜「離れろ!!」
その瞬間。
翼が踏み込む。
翼 「――っ!」
拳が、組長の顔面を捉える。
続けて――
夏月「はあっ!」
誘導棒が、鎖骨のくぼみに突き刺さった。
組長「……ぐ、ぅ……」
膝が、崩れる。
よだれを垂らしながら、組長の体が床に倒れた。
――動かない。
静かだった。
あまりにも、静かすぎる。
瑞葵は、荒い呼吸を繰り返しながら、天井を見つめていた。
瑞葵「……はぁ……はぁ……」
誰も、勝ったとは言わなかった。
天井のシミがやけに滲んで見えた。
⸻
その後、翼はイヤモニで報告を入れ、
組織の人間が組長を回収した。
四人は、雑居ビル近くの人通りのない場所で待機させられる。
そこへ、若い男女が近づいてきた。
柚木「お疲れ様」
美神柚木。
年齢は二十代後半。
四人の保護者的存在であり、
感情を表に出さない人物。
柚木「ターゲットは確保できたようね」
誰も、彼女の目を見なかった。
翼「……はい」
柚木「私はまだ仕事があるわ。春翔くん、みんなを先に帰して」
春翔「了解です」
千田春翔。
年齢は二十代前半。
少し歳の離れた兄のような存在。
春翔「って、瑞葵。頬、腫れてるぞ」
瑞葵「い、いや……」
翼 「俺の責任です」
瑞葵「違う。俺が……」
柚木「今は誰が悪いかは聞いてない」
柚木「救急箱を使って」
それだけ言い残し、柚木は去った。
車内は、重かった。
ミッションは成功した。
だが、過程は最悪だった。
被害は最小限――
それが、この組織の絶対条件。
その沈黙が、全てを物語っていた。
――
SECRET X。
その名を知る人間は、ほんの一握りしかいない。
彼らに与えられた名前は、本名ではない。
任務の中で呼ばれるそれは、
素性を隠すための“コードネーム”。
本当の名前も、過去も、
この組織の中では意味を持たない。
それでも――
彼らはその名で呼ばれ、戦う。
それが、
“SECRET X”と呼ばれる組織だった。
次回――
冷たい指示の裏に、
彼女は何を隠しているのか。
美神柚木。
彼女もまた、この組織に選ばれた一人だった。




