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第83話 会いたかった

「どうした!守るんじゃねーのか?!」



タナトスの拳がルナリスの顔面を捉える、だが吹き飛ぶ事を許さず、髪を掴んで地面に叩きつけた。


痛みに表情を歪めながらカーニャは右拳を握り締めてルナリスへの攻撃を中断させる、だがターゲットが移るだけ、タナトスはカーニャの腹を蹴り飛ばした。


込み上げてくる吐き気に我慢出来ずその場で吐く、ブチ切れたタナトスの強さは予想を遥かに超えて居た。


それに凶暴性が異常、戦いと言うよりも、一方的な暴力だった。



「あー、イライラする……そうだ、アリア、君に一ついい事を教えてやるよ」



「いい事?」



「君の母の死についてだよ」



その言葉にアリアは固まった。


母の死は……転生者の仕業だと聞いていた。


そして、私はその転生者を殺した。


だが、あれは嘘だったと言うのだろうか。



「君の母親を殺したの、実は俺なんだ」



タナトスは満面の笑みでそう告げた。


そして次の瞬間、アリアの理性は吹き飛んだ。



「てめぇ!!!」



頸動脈を切って大量の血をぶち撒ける、一瞬意識が飛びそうになるが、怒りで何とか意識を保った。



「お前の母親の最後の言葉知ってるか?」



「黙れえぇぇっっ!!!」



「愛してるだってよ、ありふれたつまんねーセリフだったよ」



「もう喋るな」



血の鎧で身を包む。


泣くな。


泣いても母は帰ってこない。


真実は私を動揺させる為だ、心を落ち着けろ。


貧血でクラクラする、だが倒れる訳には行かない。


怒り任せに血を使用した事が結果的に冷静になるきっかけとなった……怒りや悲しみ、いろんな感情が渦巻く。


一つだけ、気になる事があった。



「何故、母を殺したの」



「人を突き動かすのに一番手っ取り早いのが復讐心だったからさ、まぁあとは、子持ちの親を殺す気分も味わいたかったしな」



あぁ……だめだ。


死んでも良い、だけどコイツは絶対に殺す。


そんな身勝手な理由で母は何故殺されなければ行けないのか、何もしていない、ただ生きてきただけなのに。


理不尽過ぎる。



「お前は死ぬべきだ」



そう言いアリアは拳を振り上げる、今更血の鎧を纏った所でどうと言う事はない、タナトスは余裕を見せながら剣の腹で受け止めようとした。


だが剣は砕けた。



「は?」



怒りでパワーが上がった?そんな根性論的な事が起こり得るのか?


タナトスは疑問を抱きながらもアリアの一撃を肩に受ける、血の鎧は肩に拳が当たる瞬間に鋭利になり、肩を貫いた。



「くっ……そ」



直ぐ様後退する、情報が少ない血統魔術、その中でも血の魔術は特に情報がない。


そして血の魔術の血には二つの特性があった。


一つは癒しの力、それは使用者が助けたいと思う願いが強ければ強い程効力は高まる。


そして破壊の力、これは本人が殺したいと、壊したいと言う思いが強ければ強いほど血の硬度が増し、身体能力が強化されると言う特性だった。


勿論、アリアはそれを知らない。



「威力が増した……血の特性か?」



肩を貫かれた事により、逆に一周回ってタナトスも冷静になっていた。


ここに来て強くなる……まるで漫画の主人公の様な展開、となれば差し詰め自分は敵役か。


少し警戒しながら対策を考えていると、アリアの鎧が解かれた。


そして地面に倒れ込む、血の使い過ぎだった。


意識を保つので必死だったのに、あの動きをすればそりゃ倒れる、指一本動かなかった。



「少し、警戒しましたけど……所詮は異世界人ですね」



タナトスは剣をクルクルと器用に回しながら近づいて来る、どうする事も出来ない。



「君の母親は、凄く良かったですよ……まぁ、何がとは言いませんが」



「喋れないですか、つまらない」



アリアは聞かないようにして居た。


ただ、怒りが溜まるだけだから……もう動けない、何も出来ないのに。



「僕はずっと人を殺したい欲求があってね……」



彼は何か語り始めた。



「この世界は最高だよ、人を殺しても捕まらない……いや、厳密には捕まるんだけど、力がある者が正義だからね、僕は何をしても許される」



彼はどうしようもないクソ野郎だ。


こんな人間が居るのかと驚くほどに。



「君達を殺すのが楽しみだ……皆んな可愛い、やっぱり殺すなら女の子だ」



そう言いタナトスはアリアをひっくり返す、その表情と手に持たれた剣に感じた事のない恐怖を感じた。



「あぁ、良い……君の気の強さを知っているとなお興奮するよ」



どれだけ気を強く保っても、どれだけ戦士のふりをしても結局は1人の少女だった。


抵抗出来ないこの状況で、恐怖を抱かない人は居ない。


タナトスはアリアを物色する様に上から下まで舐め回す様に見る、そして剣をそっと構えた。


そして器用に服を斬ろうと剣の切先を掛けたその時、光の魔法がタナトスの手に当たった。



「アリアから……離れて」



「……僕の嫌いな物を教えておくよ、一つはミント味のアイス、もう一つは楽しみを邪魔される事だ」



標的がカーニャに変わった。


タナトスは剣を拾う事なくカーニャに近づく、そして髪を掴むと木の幹に押し付けた。



「君はこの世界でも珍しい白い髪ですね、長い戦闘で汗ばんでるけど……それでも良い匂いだ」



タナトスはカーニャの髪の匂いを嗅ぐ。


だがあまりにも無反応の彼女に首を傾げた。



「怖くないのですか?」



「別に」



怖くはない。


こういうのは奴隷時代に慣れている。



「……無表情の子は初めてですね、それはそれで少し楽し……」



タナトスは途中で言葉を止めると彼女の胸元に掛かっているタグに視線を向けた。



「金色のタグなんて珍しいですね」



そう言いタグに手を掛けようとする、だがカーニャは手を払った。



「これには触るな」



カーニャの口調が少し荒くなって居た。


このタグは大切な約束のタグ、こんな奴に触らせる訳なかった。


だが、その行為がタナトスの逆鱗に触れた。



「君は今の、状況が!分かってるんですか!?」



そう言いカーニャの顔面を殴る、何度も。



「綺麗な顔が歪んで行く、やっぱり楽しいですね」



そう言い拳を振り上げる、だがその拳はカーニャに届く事は無かった。


水滴が飛び散る、赤い。



「は?え……?」



振りおろした筈の手が地面に転がって居た。



「お前……何してんだ」



この場には居ない筈の男の声がした。



「遅いよ、カナデ」



「悪かった、以外に手こずる奴が居てな」



会いたかった。


ずっとずっと……



「お前……赤髪か!?」



「捻りのないあだ名だな、お前らセンスないよ」



突然現れた赤髪にタナトスは腕の痛みも忘れて居た。


何故彼がここに居るのか……今回の仕事はそれ程難易度は高くない筈だ。


何故クリミナティが総力を上げて対立し、殺そうとしている赤髪が目の前にいるのか……現実が理解を超えて居た。



「顔の痛みは残るか?」



「大丈夫」



「すまない、もう少し早く駆けつけるべきだって」



「大丈夫」



ただ嬉しかった。


カーニャはカナデに抱きつく、2人だけの世界が広がって居た。



「あの、タナトス逃げてますわよ?」



ルナリスの言葉にタナトスが逃亡しているのに気がついた。



「あぁ、問題ない」



カナデはそう言うとチラッとタナトスの方を見るが直ぐにカーニャに視線を戻した。



「少し逞しくなったか?」



「うん、いっぱい訓練したから」



「友達も出来たみたいだな」



そう言いカナデはアリアとルナリスに回復を施す、彼の魔法は凄いなんて物ではなかった。


貧血で死に掛けのアリアは動けるまで回復した、ルナリスも重症だったのが軽症レベルまで。



「差し出がましい様ですが、タナトスは追わなくても宜しくて?」



「あぁ、俺の仲間……と言うかなんと言うか、まぁアイツがやってくれるよ」



曖昧な表情のカナデにカーニャは少し不穏な空気を感じた。


自分が知らない間に誰か新入りが居る。



「ねぇカナデ、その人……」



「カナデ先輩!仕留めてきたっす!!」



聞き慣れない声、女の。


カーニャは凄まじい反応速度で振り返る、するとそこにはカナデと同じ赤い髪の獣人族の少女が居た。


先輩と言うのは何なのか、気が付けば少女を睨んでいた。



「良くやった、カーニャ、彼はとある仕事で引き取ったムタだ」



「宜しくっす!」



ムタと言う珍しい名前も引っ掛かるが、彼と言った事が一番引っ掛かった。



「彼って?」



「ムタはこう見えて男だ、まぁどう見ても少女にしか見えないけどな」



そう言いまるで動物にご褒美をあげる様に差し出した頭を撫でる、少しボーイッシュには見えたが、男には見えなかった。


だが、ホッとした。



「カーニャ先輩っすね!自分はカナデ先輩のペットのムタっす!」



「おい、だからペットじゃないって言ったろ」



「でもカナデ先輩、昔買ってたペットに似てるって」



「ちが、だから……何度説明すんだよ」



カナデは頭を抱える、彼のあまり見た事がない困った一面に少しカーニャは嫉妬して居た。



「一先ず、久しぶりの再会だな」



カナデとカーニャは笑って拳を合わせた。

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