第81話 戦いの中で散る
「……信じられない」
メイガスタの魔力を頼りに彼の元へ駆け付けた、王宮の一室……激しい戦闘の跡があった。
天井は消え去り、空が見えている……そしてメイガスタが地面に横たわって居た。
「メイガスタさん!!」
「おぉ……アルトか」
まだ息はある……良かった。
メイガスタが横たわって居たら最悪を想像する、彼が膝をつく想像すら付かないほどの化け物なのだから。
「すまんの、心臓を撃ち抜かれてしまった」
そう言い胸の傷を見せる、心臓を撃ち抜かれて生きている方が不思議だが……魔法の心臓は壊れてしまった様だった。
「大丈夫なんですか?」
「魔力が尽きない限りは死にはせんよ……ただ、もう回復する事は無いがな」
どう言う身体の構造をしているのか、回復しないとは言え、彼から感じる魔力量を考えればまだ数十……いや、下手をすれば百年以上は何の不自由もなく生きられる程の魔力があった。
「しかし、転生者は侮れんな……儂がここまでやられるとは想定外じゃった」
「それは俺もですよ、それに……まだ終わりじゃ無いですよ」
阿毘白と森城は始末したが、まだタナトスが残っている。
ある意味一番厄介、複製の能力に加えて悪知恵も働く……現在地も掴めて居ないし、何処から攻撃してくるかも分からなかった。
だが、この時既にタナトスは森城や阿毘白がやられた事に勘づいて逃げ出して居た。
当然その事を2人は知る由もない。
「とにかく、メイガスタさんはなるべく魔力温存でお願いしますよ」
「そうじゃな、ようやく死が見えて来たようじゃし、老後はゆっくりと国を見守り死ぬとするよ」
「ようやくって、何年生きてるんですか」
「はっは、もう数えるのも飽きた」
笑いながら立ち上がる、彼を人間とカウントしない方がいいかも知れない。
阿毘白が倒され、森城も倒され、あと一息で勝利と言う場面で気が少し緩む、だが2人はとある気配を感じ取ると直ぐ様臨戦態勢に入った。
「これはちと……やばいかもな」
「はい、相当な猛者ですね」
2人は同時にとある方向を見る、するとそこに阿毘白の魂を縛った者達を召喚して居た黒い影が出現した。
そして姿を現す、赤い瞳に長く伸びた黒い髪の少女……異質な雰囲気を放って居た。
「アルトにメイガスタ……だね?」
2人の姿を見ると指差して確認する、No.に居た時には見たこともない少女……だが明らかに強い。
「メイガスタさん、戦えますか?」
「無論じゃ、この老ぼれの命なんぞ此処で散らしても良い」
決死を覚悟するメイガスタにアルトは何も言わなかった。
それは恐らくそうなるから……下手をすれば俺も死ぬ、それ程までに彼女は強い。
「あんた、クリミナティの人間か?」
「あんたじゃないわ、ミソラ……まぁ死ぬ人間に名を教えても無駄だけど、せめてもの礼儀よ」
ミソラの言葉に2人は笑みを浮かべ顔を見合わせる、これが最後の戦いになるかも知れない。
「出し惜しみは無しですよメイガスタさん」
「無論」
アルトは言葉を交わすと風を纏う、そして風の力を使いミソラとの距離を詰める、その背後ではメイガスタが彼女を対象に重力魔法を発動して居た。
「動きが鈍るね」
「おいおい、嘘じゃろ」
最大出力の重力魔法を喰らっても動きが少し鈍る……その程度とは予想もして居なかった。
阿毘白には6割でも足りたと言うのに……メイガスタは苦しいながらも笑った。
長い時を生きてきて、保守的な考えになって居た。
「アルト、少し下がっておれ」
「メイガスタさん?なん……」
2人で戦った方がいい、そう言おうとするが、彼の表情を見てアルトは大人しく風魔法を消して後ろに下がった。
「お嬢さん、この老ぼれとタイマンをしてくれんかの?」
「良いよ、私もそう言うのは好き」
正直、転生者はこの世界のバランスを大きく損なわせている。
最近では小国が数人の転生者を引き入れただけで大国に戦争で優勢を取ると言う事態も発生している……これは世界を新たな戦乱へと導く由々しき事態。
だが、儂個人の意見としては……この世界に来てくれてありがとう、だった。
「久方振りの強者……まだ見ぬ強者が居ると言うのは、嬉しいもんじゃ」
いつから大陸最強の呼ばれ、戦う事すら出来なくなったのだろうか。
たまに来る暗殺者も粗末な物、儂の存在があるだけで戦争を仕掛けて来る国も無い……国の人々を思えば有難い事だった。
だが、戦乱の時代を生き、数多の屍を築いて来た儂に取って、今の時代は酷く退屈だった。
メイガスタは視線をアルトに少し移す。
彼が……国に来た時は心躍った。
こんなにも強い人間がまだ居たのかと、だから国に滞在する事を許可した。
そして転生者の情報を聞いてからはワクワクが止まらなかった……不謹慎だが、この国に攻めて来ると聞いた時も、少し楽しみにしている自分が居た。
言わばメイガスタ、儂は戦闘狂と言った所だった。
「お嬢さん、先に言っておく、儂はこの戦闘で命が尽きる」
「??私が殺すんだから当然でしょ?」
「儂は今、魔力のお陰で生きることが出来ておる……そして今からその魔力を全解放し、お主と戦う」
「それは、楽しそうね」
ミソラは嬉しそうに笑った。
彼女もまた、メイガスタと同類だった。
「それじゃあ……行くぞ」
魔力を魔法として放出するのも強いが、長年生きて来て、とある境地にたどり着いた。
結局、魔力を身にまとい、己の体で戦った方が強いと。
纏う魔力が強大であればある程強くなる……残りの魔力を全て纏っているのだから、その強さは計り知れない。
メイガスタは杖を捨て拳を握り込む、それと同時にミソラから仕掛けた。
「おじいちゃんが拳なら、私も能力無しで行くよ」
そう言い剣を振り下ろす、能力を使わないと言う発言がブラフの可能性もあるが……恐らく彼女はそんな野暮な事はしないだろう。
「いい太刀筋じゃ」
腕で剣を受け止める、魔力の分厚い装甲があるにも関わらず皮膚が少し切れて居た。
どんな威力をして居るのか、少し足が地面にめり込んでいた。
「硬いね」
ミソラは反撃を察知すると直ぐに後退する、メイガスタの放った拳は空を切ると突風を呼び、風圧で建物の壁が吹き飛んで行った。
能力は無しとは言え転生者の尋常では無い身体能力にメイガスタは食らいつく、いや……互角には戦えて居ない。
メイガスタの拳を剣で受け流しながら剣を的確に当てて行く、大きなダメージにはならないがメイガスタの体にはかすり傷が増えて行く。
魔力で強化してようやく戦える程度の実力差、転生者と言うのはずるい物だ。
魔力が減って行く。
剣を受け止めきれず、大きな傷を受ける。
「メイガスタさん……」
アルトはボロボロになって行くメイガスタから目を逸らしたいが、必死に焼きつけた。
大陸最強と呼ばれ、この世界に敵など居ないほどに強い男が……転生者の少女に圧倒されて居る、これ程悔しい事は無かった。
「痛っつ……」
メイガスタの拳がミソラの右頬を捉える、だがその代償として右腕が宙を舞って居た。
「随分と長生きしたもんじゃ」
この老ぼれが戦いの中で死ぬ……いい幕引きだ。
「結構強かったわ」
「それは……どうも」
メイガスタは倒れる、魔力は尽きた。
結局良い一撃はあの顔面への一発だけ、ミソラは歯を吐き捨てると顔を顰めた。
何年生きたのか。
死は怖くない、寧ろ生きる方が怖い。
心配な物が多すぎる、国の人間や、学院の子供達、大切な友……それを失うと言うことが。
だが、もう余計な事は考えなくて良い。
「アシリーヌ、今そっち行くよ」
メイガスタは空を見上げて、そう告げる、そしてそっと目を閉じた。
「すげぇ……カッコ良かったです、メイガスタさん」
アルトはそっとメイガスタを持ち上げると遺体を部屋の端っこに寝かせた。
「阿毘白達が役立たずだから私が出向いたけど、あいつらの手に追えないのも納得出来た」
「メイガスタさんはその辺の転生者より遥かに強いからな」
最後に……本気の彼を見れて良かった。
メイガスタさんは長すぎる年月と、来る事の無い死期に時たま死にたがって居た。
戦いの中で死にたいとも……その点では感謝する、あの人を倒せるのは転生者以外存在しないから。
「ただ……俺の恩人を、殺した事は許せねぇ」
あの人のお陰で俺はこの国に居れた。
「やる気だ、良いよ……もとより私の任務はアルト、君を殺す事だから」
「奇遇だ、俺もお前を殺そうと思って居た」
とは言え、メイガスタとの戦闘を見て居たが純粋に近接戦闘の技術が高い、それに俺に対しては能力も使う筈。
一先ず風の鎧を身に纏う、風ゆえに防御力が低いと思われがちだがそうでも無い。
高速回転する風の鎧は攻撃すればあらゆる物を切り裂き、防御面でも全てを切り裂いて防御する、風と言うのは意外に便利だった。
「お前、No.じゃないよな」
「ええ、また別」
別……俺が居た時よりも遥かにクリミナティの戦力は大きくなって居るようだった。
「お前ら、俺を連れ戻そうとしたり、殺そうとしたり……何がしたいんだ?」
「出来る事なら連れ帰りたいけど、君にその意思はないでしょ?」
「勿論戻る気はない」
「なら殺す、下手に赤髪の仲間になられちゃ困るし」
「赤髪?」
アリアでは無いのは確定して居る。
そう言えば……メイガスタの顔見知りと言う赤い髪の男が学院に来て居るのを一度見た事がある。
一瞬しか見えなかったが、それだけでも寒気がする程の恐怖を感じた。
「クリミナティと対立して居る転生者」
その言葉に分かりやすくアルトは驚く、クリミナティと対立するなんて正気の沙汰じゃ無い。
クリミナティは転生者の中でもトップクラスに大きい組織、それこそ楯突こうものなら殺される、抜けた俺でも殺されそうになって居るのに。
赤髪……何者なのか。
「お話はここまで、私も暇じゃ無いから、さっさと終わらせる」
そう言い姿勢を低くして突っ込んでくる、能力を発動して居る様子はない。
一先ず風で剣を受け止めようとする、だが刀が風に触れた瞬間、風の能力が解除された。
まるで森城の剣に触れた時のように。
「なっ!?」
あまりにも予想外の事態に反応が遅れる、腕を深く斬られるが辛うじて切断は免れた。
「驚いた?」
驚いたなんてもんじゃ無い。
だが森城の持っていた剣とは形状が違う……同じ能力の神器は二つとない筈だが。
「別にバラしても問題無いし、私の能力って転生者との戦闘向きなのよ」
「……能力の無効化か」
「そう、驚かせる為に直前まで発動しなかったけど……もう使えないでしょ?」
その言葉に風を出そうとするが発動する気配は無かった。
「成る程……純粋な剣術、体術での戦いか」
望む所だ。
こちとらこの国に来てから鍛錬を怠った事はない……純粋な体術なら自信はある。
「来いよ」
「言われずとも」




