第80話 私のヒーロー
私は、生まれつき人と喋るのがあまり得意では無かった。
言葉を初めて話したのも4歳とかなり遅く、自分の気持ちを伝えるのも苦手だった。
そうなったのは家庭環境に原因がある。
父と母は若くして私を産んだ。
だから精神的に未熟だった、そして喧嘩も絶えなかった……2人ともいつも不機嫌だった。
私は……あまり記憶は無いが、恐らく4歳になる遥か前から喋れる様にはなって居たと思う。
だが、幼いながら理解して居た、自己を表現するのは……2人に迷惑が掛かると。
2人はレレリアを愛しては居なかった。
寧ろ疎ましいと思っていた……だが、産んだ以上は育てるべき、辛うじてその倫理観があったお陰で捨てられずには居た。
そして暴力をたまに受けながらもレレリアは自己を殺して育った。
家では喋らないように、気持ちを出さないように過ごしてい所為か、いつの間にか人と話せない様になって居た。
話そうとしても言葉が詰まる、そもそも何を話せば良いのか……何を伝えて良いのかも分からなかった。
当然、そんな子は虐められる。
家に居場所が無く、外に居ても虐められる……幼少期はそんな地獄だった。
だけど、8歳の頃に人生が変わる。
いつも通り、家に居場所が無く、街の子供に虐められて居た。
もはや日常過ぎて何も感じない……だけどその日はいつもと違った。
『女の子相手に大勢で何やってんだ』
今でも鮮明に声を覚えて居る。
そして5人を相手にブレットはボコボコに完勝した。
あの時のブレットを一生忘れる事はない、少し伸びた金髪に今の面影を残した幼い顔……この不条理な世界に希望をもたらしてくれた勇者だった。
そして初めての気持ちに襲われた。
今まで押し殺し、何も感じなくなって居た心が……熱く、苦しく感じた。
ブレットを見ると胸が締め付けられる、だけど味わった事のない幸福感も同時にあった。
そしてそこから……あまり宜しくは無いが、ブレットを見かけると付ける様になった。
彼は学院に来てからストーカー行為が始まったと思って居るが、実は8歳の頃からそれは始まっている。
それは墓場まで持っていくつもりだ。
とにかく、その日から私の人生に色が付いた。
鮮やかなピンク色……気持ちを押し殺して居たからなのか、好きの気持ちが大爆発した。
そしてブレットが学院に行くと知れば、私も魔法を学び、入試を受けた。
闘うのは正直怖い、だけどブレットを支えられるならなんて事は無かった。
そして……色んな人に出会った。
ルルノアもその1人、アリアやカーニャ、ルナリスとは短い付き合いだったが……初めての友達がいっぱい出来た。
幸せで楽しい学院生活だった。
ブレットは涙を堪えているが、ルルノアはボロボロと号泣している。
私が死んでも、恐らく誰も涙なんて流してくれる人は居なかった。
ブレットと出会うまでは。
だけど今は多分そこそこに居る……これ程幸せな事はない。
だけど、もう一つ、言わなければいけない事がある。
「ブレット様」
「あぁ、どうした」
ああ、緊張する。
自分の気持ちなんて伝えた事はない……死にそうな程に、もう直ぐ死ぬのだが。
これは笑えない……とにかく、まだ生きていると実感する程に鼓動は早くなって居た。
そして少し息を吸った。
私は8歳まででは考えられない程に幸せな人生を送った、欲を言えば……これからも幸せな人生をブレット達を送りたかった。
でも、今更後悔はしない。
「大、大、大好きです」
初めて人に伝える気持ちだった。
耳が聞こえなくなった。
ブレットが大粒の涙を流しながら何かを言っている……だが何を言っているか分からない。
だけど、その答えがどうであれ……もう十分だった。
「生まれ変わっても……またブレット様を好きになります、きっと」
レレリアの最後の言葉だった。
ブレットの腕から灰が舞っていく……それを掴もうとしても隙間から流れて行く。
もう……彼女は居ない。
もっと早く……彼女の気持ちに答えてあげるべきだった。
たらればを考え、ブレットは何度も地面を殴る。
隣に居た人間が、気が付けば居なくなる……それが戦争だ。
ただ、悲痛なブレットの叫びが街中をこだまして居た。




