第79話 灰となる
こんな緊張感は阿毘白と対面した時以来だ。
グレリオと対面した時、特訓の成果を感じた、あのグレリオに勝利した事が圧倒的な自身にも繋がった……だが、疲労もあるからなのか、グレイを前に少し震えていた。
「どうした、来ないのか?」
グレイはあからさまに挑発をして居る、彼には昔から何とも言えない恐怖心があった。
十傑の中でも唯一此方に干渉せず、関心も示さなかった、そして彼が誰かと仲が良いと言う話も聞かなかった。
そして任務も単独行動が多く、全ての情報が乏しかった。
「レレリア、風の支援を頼む」
「は、はい!」
灰魔法の対象は風魔法で灰を飛ばすしか分からない、その他にどんな魔法を使うのかも……だがやるしかない。
「ルルノア、隙を作るから頼むぞ!」
そう言いブレットは風を拳に纏わせて突っ込む、その言葉にルルノアは少し反応が遅れていた。
「風魔法か、まぁ灰魔法には有効だな」
そう言いグレイは灰魔法を引っ込めると剣術だけでブレットの攻撃を受け止める、明らかに人間離れしたパワーにブレットの拳は上に撥ね上げられる、そして懐がガラ空きになった。
「おいおい、もう終わりかよ」
そう言いながらグレイは灰を剣に纏わせて行く、避けるのは不可能、このままでは死ぬ。
だが出来ることが無い、風を纏った手は上に弾かれて居る、そして少し体勢を崩した所為で後ろにも直ぐには下がれない。
戦い始めて1分も経たずに死ぬ。
「ブレット!!」
叫ぶ声と共にルルノアがブレットに体当たりをして身代わりになる、灰を纏った剣は彼女の左手を掠めた。
「ルルノア!?」
身代わりとなったルルノアにブレットは動揺する、灰の魔法を喰らってしまった……このままでは彼女が灰になってしまう。
「落ち着いて」
そう言いルルノアは自身の左腕の肘から下を剣で切り落とす、すると斬り落とされた腕は灰となって散って行った。
「レレリア、止血と痛みを和らげる魔法お願い」
腕を切り落としてもルルノアは焦る事も無く、冷静だった。
「ブレット、いつも通り……いつものブレットじゃ無いよ」
レレリアの魔法で痛みを和らげ、出血の勢いを落とすと服の一部を千切り腕を止血した。
「私が壁、レレリアは支援、そしてブレットが倒す……でしょ?」
魔法で和らげて居るとは言え、それでも耐え難い激痛の筈、それなのにルルノアは心配させまいと笑っていた。
情けない。
自分が引っ張って行く、誰も死なせない……そんなつもりで先頭を行った。
なのにルルノアは腕を奪われ、俺は死にかけた、酷い体たらくだった。
そしてブレットは辺りに響く程の力で頬を叩いた。
「気合い入った?」
「あぁ、片腕で壁が務まるか?」
「あーしなら余裕だし」
そう言い口で服の袖を捲る、仲間を信用する……ただそれだけだ。
「仲間や友情、そんなもんじゃどうにもならねーぞ」
そう言いグレイは自身の前方に灰を蒔き視界を遮る、ルルノアは即座に簡易的な風魔法で灰を払うが既にグレイは視界から消えていた。
「上ですルルノアさん!」
「さんきゅーレレリア!」
レレリアの声に上に視線を移す、既に上空に飛んで居たグレイが灰を纏った剣を振りかざして居る、反応が遅れれば詰んで居た。
灰の魔法は一種の腐食魔法、傷を付けた部分から組織を腐敗させ、灰の様にボロボロと崩れさせる魔法……だが傷を作らなければどうと言う事はない。
「ブレット、最高の一撃頼むよ」
そう言いルルノアは片腕で剣を受け止める、まるで岩……いや、鉄すらも超える強度にグレイは驚きを隠せなかった。
「グレイさん、俺の一撃は目ぇ覚めますよ」
ルルノアの予想外の強度に気を取られ、ブレットの接近に気が付かなかった。
何重にも掛けられた強化魔法と共に拳を握り締め、グレイの顔面目掛けて撃ち放す、彼の顔面を保護する様に灰が自動的に集まって来るが、それをいとも簡単に吹き飛ばすと、ブレットの一撃がグレイの顔を捉えた。
「いっぺん、ぶっ飛んどけ!!」
灰で衝撃を弱められたとは言え、確実に顔の骨は砕いた筈だった。
顔面の痛みと取れる歯を下で転がしながらグレイは吹き飛ぶ、情けない。
他のみんなは戦い、死を選んだ。
結果的に魂を縛られ、生き地獄の様な物だったが……俺は死が怖かった。
だから阿毘白達に服従をした、そして国の情報も流し、魔法の心臓の情報も売った。
信用を勝ち取る為、弟も殺した……俺はもう戻れない。
引き返せない所にいる、今更殴られたくらいで……目なんて覚める訳ない。
俺の目に光はもう届かない、一生暗い闇の底……だがそれでも良い、生きれるのなら。
「悪いが……目を覚める事はない、俺が死ぬか、お前らが死ぬかだ」
歯を吐き出すとゆっくり立ち上がる、痛みで多少表情は歪んでいるが、まだ余力はありそうだった。
「道は無いんですか」
「ない、俺にも、お前らにも……残されて居るのはやるかやられるかだ」
そう言いグレイは距離を詰める、もう説得も何もかも無駄な様だった。
瞳を見れば分かる、覚悟を決めた人間の目をしていた。
「ルルノア、あまり受け止めるなよ」
「分かった」
「レレリアは引き続きサポートを頼む」
「はい」
連携を乱さずに、ちゃんとすれば勝てる。
俺たちのチームワークは十傑相手でも通用する。
ルルノアが受け止め、ブレットが攻撃をする、そしてレレリアが2人の見えていない部分を補い、サポートする。
グレイも負傷して居るせいか勢いがない様に見える、だがこのままではまずい事をレレリアは誰よりも早く察知して居た。
ルルノアの防御魔法はピカイチだが、持久力が無い……グレイの負傷もあって今は耐えて居るが、いつ傷を付けられるか分からない、そしてブレットもイマイチ灰の魔法とグレイの受け流しの技術の所為で決定打を作れていなかった。
だがイマイチ確信が持てない。
グレイはかなりキツイ表情をして居る、ルルノアの魔力が切れる前に押し切れる感じもある。
私の余計な一言で負ける可能性もある……迂闊な言葉は出せない。
「ルルノア、もう一息だ!」
「うん!!」
2人は息を合わせて攻め立てる、だが違和感が拭えない。
まるで攻められて居る様な演技をして居る様にも見える……一撃を狙う為に。
そしてそれは確信に変わった。
ブレットの攻撃を受けた直後、まるで機を熟したかの様に笑みを浮かべた。
「行ける!!」
よろけたグレイが見せた隙を逃さまいと追撃をしようとする、だがそれは罠だった。
よろけた演技をし、グレイはブレットが灰の一撃を喰らわせれる範囲に誘き寄せる、ルルノアが助けられない範囲でも同時にあった。
「そろそろ魔力がやばかったんだ……だが、終わりだブレット」
この一撃を待っていた。
ルルノアは防御力は高いが攻撃力はない、レレリアは論外……一番厄介で負け筋があるのはブレット、コイツの攻撃力と機動力は侮れない。
だからルルノアから離れて、尚且つ灰の一撃が溜まるまで耐えた。
「お前さえ倒せばあとは楽になる」
灰の一撃は傷を負わせれば勝ちのチート技故に消費魔力が馬鹿では無い、そう何回も放てる魔法でも無い……だから序盤に決着付けたかったのだが、ここまで来ればどうでも良かった。
振り下ろされる剣をブレットは目で追う、避けられない……しっかり軌道は肉を切り落とせない胴体に向かっている、何とか避けてもかすり傷は負う……詰みだった。
「ブレット!!!」
全てがスローモーションに見える、手を伸ばすルルノアの動きも酷くゆっくりだった。
死ぬ直前、全てがスローになり、走馬灯が駆け巡ると言うが……本当だった。
楽しかった思い出が駆け巡る。
良くルルノアが学食やカフェで爆食いするのをレレリアとドン引きしながら見てたものだ。
初めて会った時は理解出来なかった。
あの体の何処にそこまで入るキャパがあるのかと。
そしてレレリアは相変わらず、不器用で分かり易い奴だった。
いつから好意を抱いて居たのか、気が付けばストーカーの様に俺のことを見ていた。
最初は少し……と言うか、かなり恐怖を抱いた。
知らない女性が俺を着けて居るのだから当然だ。
同じチームになると聞いた時はひっくり返りそうになった、ストーカーと同じなんて正気の沙汰じゃ無い。
だが同じになって分かったが、彼女はただコミュニケーションが苦手で、気持ちの伝え方が分からないだけ……普通の良い子だった。
それに意外とハイスペックで何でもそつなく熟す、このチームには居なくてはならない存在だった。
皆んな。
「死ぬって……どんな感じだろうな」
ブレットは呟く、死後の世界はあるのだろうか。
そしてどんな所なのだろうか。
迫る剣から目を逸らさずに、ブレットは真っ直ぐの視線を向ける……怖くても兵士らしく死のう。
そう思ったが目の乾燥には勝てずに一瞬瞬きをする、そして次に開いた瞬間、視界が変わって居た。
グレイが遠くに居る、そしてその目の前にはレレリアが居た。
なぜ……そう思う間にレレリアは背中に斬撃を受けた。
だが……悲しみ、叫ぶ事はなく、ブレットは走り出して居た。
レレリアに与えた一撃で今度は演技ではなく、グレイは大きく体勢を崩して居た。
「恨む恨まないじゃない、ただあんたを楽にしてやる」
そう言いブレットは渾身の連打を叩き込んだ。
何度も何度も、骨が砕ける感触がはっきりと手に残る……そしてグレイは指一本動かせない程の状態で地面に叩きつけられた。
「レレ!レレ!!」
必死にレレリアに呼びかけるルルノアの声がする、急いで駆け付けるが……既に体の崩壊が始まって居た。
魔力が尽き掛けて居たからなのか、侵攻はゆっくりだった。
「なんで……位置交換魔法を使ったんだ」
あの一瞬では理解出来なかったが、今なら何が起きたか分かる。
レレリアは咄嗟に位置を交換する魔法でブレットと位置を入れ替えた……グレイと入れ替われば良かったと思うだろうが、それは出来ない。
交換魔法は情報の無い者とは行えない、ブレットと交換出来たのはチームメイトであり、信頼しあって居るからだった。
「ブレット様が……攻撃を受ければ私達に勝ち目は無くなります、だから、勝利を優先して……」
そう答えるレレリアにブレットは怒りたかった。
だが……怒れる訳も無い、命を救われて居るのだから。
「何でしょう……死ぬからなんですかね、思った事を素直に言えそうです」
レレリアはいつになく饒舌だった。
「ルルノアさん、いつも……お話し楽しかったです」
「私が一方的に話してただけ……だけどね」
彼女とは同じチームにならなければ話す事は無かった。
ルルノアは私と違ってキラキラして、可愛くて……私とは一生交わらない人種だと思っていた。
だが、チームが同じになって……同じ人を好きになって、ライバルであり、良き友だった。
「ルルノアさん、また……友達になってくれますか?」
「ルルで良いよ……勿論」
まだ形の保って居る手を握り泣きながら頷く、足から崩れて居るからなのか、足の感覚はもう無かった。
「それで……ブレット様」
「なんだ」
「この前、お食事に行った時、私がブレット様の好きな理由を聞きましたよね」
「あぁ、そう言えば」
「私がブレット様を好きな理由は……かっこいいお顔もそうですけど、一番の理由は……覚えてますか?8歳くらいの頃」
「8歳?」
その言葉に記憶を辿る、8歳……何かあったのだろうか。
だが、レレリアと食事に行った時、彼女の顔に少し見覚えがある様な感覚があった、だが思い出せない。
「8歳の頃、私が虐められて居た時……ブレット様が助けてくれのを覚えて居ませんか?」
「虐められて居た……」
正直、虐められて居る子を助けた経験はかなりある……記憶を辿り、辿って行く……そしてとある日を思い出した。
雨が降って居た日、傘も差さずに泥だらけになりながら虐められて居る女の子を助けた。
言葉を上手く喋れない、気持ちを伝えられない……そんな理由だった。
「あの日の子か」
「はい、あの日から……ブレット様はずっと私のヒーローなんです」
あの日から……ずっと。




