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第75話 仲直り

温かい。


この感じは何なのだろうか……まるで母に包まれている様な、そんな優しく、温かな気持ち。


母が死んでから……ずっと私は冷たく、暗い世界に居た。


復讐だけを考え、そしてそれを果たし……生きる理由も失って居た。



「ごめんねアリア」



「カーニャ?」



彼女の声がした。


頬に冷たい雫が当たる感触がある、目を覚ますと涙を流すカーニャが居た。



「なんで……泣いてんのよ」



「私……アリアのお母さんとの約束、守れなかった」



「約束?」



カーニャは母と数回しか会って居ないが……何を約束したのか検討も付かない。



「アリアは弱い子だから……守ってあげてって……言われたのに、守れなかった」



カーニャの泣き顔は初めて見た。


会った時は感情に乏しく、何考えてるかも分からなかった。



「私は弱い子……ね」



カーニャの言葉にアリアは腕で顔を隠すと笑う、確かにその通りだった。


私は母を殺され、復讐を選んだ……なのに力を得てもこの2人に負け、情けない結果だった。


私は……間違った道を歩んだらしい。



「何……泣いてるんですのよ、こうして、守れたじゃないですの?」



右側からする声に頭だけを向ける、カーニャに気を取られて居て気が付かなかったが、ルナリスも隣に寝かされ、治癒魔法を受けていた。


右手に感じる感触……ルナリスの左手だった。



「なんで……握ってんのよ」



「友達なら普通の事ですわよ」



私は……クソ野郎だ。


阿毘白達から受けた欲望の解放、それは潜在的に眠っている力を解放する上で必要な過程だと言っていた。


誰でも強くなれる訳では無い、私は幸いにも血の魔女の血筋、故に彼女の意思を受け継いでいた。


だが、魔女の意思なんて関係ない、今現在までした全てのことは自分の意思でやった、ルナリスに嫌いと言ったのも……


もう少しで取り返しのつかない事になる所だった。


私は1人じゃなかった。


母の死で何も見えなくなっていたが……私にはこんなにも想ってくれる仲間が居た。



「礼を……言うわ」



「素直じゃ無いんだから」



「本当ですわよ」



涙が出そうになるのをアリアはグッと堪える、まだ何も終わっては居ない、阿毘白達がこの国を潰そうとして居るのだから。



「まずいですわね、指一つ動きませんわ」



空を見上げながらルナリスが呟く、最大火力の雷を身に纏って死ななかっただけ良かったが、敵のアンデッドが蔓延る街の中で動けないのはかなりやばかった。


治癒魔法も正直痛みが和らぐだけで動ける程回復する訳では無い、アリアをぶん殴れたのは良いが、その後の事を考えていなかった。



「……無茶するわね」



そう言いアリアはルナリスの側でしゃがむと自身の手のひらをナイフで切る、そして彼女の口元に近づけた。



「何をするんですの?!」



突然血を飲ませようとするアリアにルナリスは動揺する、だが指一本動かせない彼女は抵抗する術も無かった。



「良いから、黙って飲みなさい」



言われるがまま、血を口に流し込まれる、なんとも言えない不快感……だが血を呑んで数秒後、身体の痛みが嘘だったのかと思う程、綺麗に消えた。



「うご……けますわ」



血の魔女の力、その真価は戦いには無かった。


多くを殺して来たこの忌まわしき血統魔術、だが使い手が誤っただけで、この力は本来、如何なる傷も癒す……優しい力だった。


血の魔女が一族を皆殺しにしようとしたのにも理由があるが、それは別の話し。


力を得て、血の魔術をどれだけ有効に使えるか様々な実験を繰り返していた時に見つけたこの力、不可解な事も多かった。


何故血で傷が治るのか、そしてこの血は自分には効果が無い……他者への使用でしか効果は発揮しない。


だが、この力は理を超える程の力だった。



「アリアさん、その2人の始末は任せろって言ってませんでしたか?」



不意に聞こえて来た声に振り返る、このまま仲直り、3人揃ってハッピーエンドなんて訳無い。


タナトスがそれを許さない。



「一度裏切ったんだ、今更帰ります……なんて許される訳ないよね」



その言葉と共に剣が首を目掛けて軌道を描く、咄嗟に下がるが、剣は首を掠めた。


頸動脈を切られたのか、血が吹き出す、だが刹那に見えたアリアの笑みにタナトスは気付いた。



「血を固める気か」



だが勢いよく吹き出した血液は既にタナトスの眼前に迫っている、そして針となった血液が彼を襲った。


血は彼を無数の針で貫く、そして動かなくなったタナトスが地面へと倒れた。



「やったの?」



ルナリスが覗き込む、だがあまりにもあっさりし過ぎていた。


彼は転生者、私に力を与えた人間……そんな彼があの程度で死ぬのか、だが彼は動かない……完全に死んでいるようだった。



「流石力を貰っただけはありますね、私の分身を最も簡単に倒すとは」



拍手が聞こえて来た、そしてタナトスの声も。


阿毘白の時と同じだった。


違う点は分身の死体が消えないと言う事、あの時は消えていた。



「一つ、勘違いしない様に言って置きますが、それは分身魔法ではありませんよ」



「見たら分かるわよ、分身魔法はダメージを受ければ消える」



実体が残り続けるなんて事はない……



「これは僕の能力、複製……とは言え少し面倒な能力でしてね、無からは生み出せないんですよ」



「無からは生み出せない?」



魔法でもない、未知の力……そして複製は無からは生み出されないと言った……ならば、此処に残り続ける彼の形をした死体は何なのか。


その答えは何となく察しがつく。



「素体は……人間」



「正解、人間をベースに、どんな姿にでも変えられる能力でしてね、まぁ使い勝手は良いですよ」



そう告げるタナトスを他所に、死体に視線を向ける、さっき殺したのは……普通の人という事だった。



「気に病む事はありませんよ、複製の対象になった時点で、死は確定している様なものなんですから」



「どういう事」



「確かにさっきまでは生きてましたけど、姿を変えられたら、元の姿には私しか戻せない、そして戻す気も無い……つまりその人が生きてきた人生はそこで終わり、何者でもない偽物としての人生しか待ってないんですよ……こうして喋っている私にも」



そう言い涙を流す、彼も複製体……本物では無い。


涙を流すという事は多少の意識は何処かに残っているのか……だが動きや言動は支配されている……酷い能力だった。



「本物を見つけて、殺す事が出来れば複製の能力は解け、人達は解放される……でも、この人数相手に、見つけられるでしょうか?」



そうタナトスが手を広げる、その瞬間牧場に無数のタナトスが突然と姿を現す、何人居るのか……数えるのも嫌になる程だった。



「言って置きますけど、複製とは言え、その実力は……かなり高いですよ」



1人のタナトスがそう告げると、別のタナトスが剣を片手に突っ込んで来る、雑な攻撃だが素早いスピードで距離を詰められる、咄嗟に剣で受け止めるが、パワーで押された。



「嘘でしょ?」



力を貰った私がパワー負けしそうになる……複製一体でこの実力、勝ち目は薄かった。


1人なら。



「アリア!後ろに下がってくださいまし!!」



ルナリスの掛け声に押し合いを急に辞めると後ろに下がる、急に力を抜かれたタナトスは体勢を崩した。



「おっと、危な……」



次の瞬間、天から降る雷撃がタナトスを貫いた。


少し離れたアリアまでピリッとする、直撃したタナトスは黒焦げだった。



「おやおや、殺してしまったのですか?」



タナトスが告げる。


揺さぶりのつもりなのだろう……だが、アリアには無意味だった。


申し訳ないが、他者の命を気にする程強くはなっていない。



「2人とも、援護は頼むわよ」



「任せて」



「くださいまし」



2人は頷く、絶望的にも思えるこの状況……だがこの2人と何度も超えて来た。


正直淡い希望を抱いている……だが、勝ち目が無いのは目に見えて分かる。


3人なら……そんな淡い希望。


覚悟を決める2人を一瞬横目に見る、私は道を踏み外した。


今更幸せになろうとも思わない、だから……この2人は何があっても守る。



「2人と出会えて良かったよ」



聞こえない程の声量で呟くとアリアは真っ直ぐと前を見つめた。

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