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第74話 友だから

「随分と弱くなったわねルナリス……それもそっか、片腕だけなんだもんね」



ゆらゆらと揺れる右袖を見てアリアは告げる、ただでさえ強化された彼女に対してルナリスは隻腕、勝算は正直低かった。



「カーニャは相変わらず人に魔法は使えないの?」



ルナリスの攻撃を片手間に否しながらカーニャに視線を向ける、先程から支援魔法ばかり……アリアとしても彼女には攻撃したくは無かった故に好都合ではあった。


とは言え、別にニ対一でも負ける事はない、ただカーニャを傷つけるのは気が引けるが……私を拒むと言うのなら多少痛い目にあっても仕方はない。



「これはお仕置きが必要かな」



そう言いルナリスの剣を上に弾くと腹を蹴り吹き飛ばす、あまりにも一瞬の出来事にガードする暇も無く彼女は家畜小屋まで吹き飛んで行った。



「さてと、邪魔者も居なくなったし、私と行こ?」



「行くって、何処に?」



勿論ついて行く気は無い、だが時間稼ぎも兼ねて情報が欲しかった。


彼女の変貌ぶりは異常だ、何があったのか……解決の糸口も掴めるかも知れなかった。



「私とカーニャ、二人だけの何処かだよ……阿毘白達の許可は取ってあるの、カーニャだけ特例で見逃すって」



「私……だけ?」



その口ぶりは、私以外は全員殺す……そう言っている様なものだった。



「元々この国を消すつもりだったのよ阿毘白達は、勿論理由は知らないわ、でも今となってはどうでも良いのよ」



「アリアはそれで良いの?」



「ええ、この国の人間はロクなやつ居ないし」



「メイガスタ達も?」



その言葉に少しばつの悪そうな表情をみせる、やはり……心の底からこの国が滅べば良いとは思っていない様だった。



「アリアは楽しくなかったの?学院での生活」



「あんたとの生活は楽しかったわよ……まともに友達とも遊んだ事無かったし……」



「本当に私だけ?」



「……カーニャ、少しおしゃべりが過ぎる様ね」



アリアの雰囲気が途端に変わった。


私に向けていた甘々な雰囲気から一変、冷たく……ゾッとする様な、人殺しの雰囲気に。


だがこれで確信した。


核心に迫られた……だから自身を押し殺し、考えるのを辞めた。


アリアはまだ……完全には染まっていない。



「友達だから……助ける為に」



そう言いカーニャは拳を構える、人を傷つけるのは嫌いだ……基本的に傷つけても、暴力を振るっても何も得られない。


だが、時にはその暴力も必要になる。


何かを護る時……そして、大切な人を取り戻す為に。


アルトから教わった。


暴力は確かに良いことでは無い……だが、人間はそんな綺麗に出来て居ないと。


何かを貫き通すにも、強くなくてはならない……誰も死んでほしく無い、それを貫くにも強さが必要。



「友達……ねぇ」



そう言いアリアは剣を鞘に収めると拳を構える、彼女は剣を主軸に戦う故に忘れがちだが、肉弾戦をブレットと争う程に強かった……半年の訓練で彼女と対等に戦えるレベルに到達しているとは思えない、それに強化もされている。


だが……圧倒的に強い、だからこそ付け入る隙がある。


強さは時に慢心を生む……強者との戦いで心得る事、カナダもアルトも言っていた。



「本当はカーニャを傷つけたくは無いのよ……でも、暴力も愛って言うしね」



「そんな愛、願い下げ!」



カーニャは声を張ると魔法で砂塵を発生させる、まずは視覚を断つ。


そして次に分身魔法、魔力を二等分にして自身のダミーを作り出す……魔力の消費は激しいが、もう身体強化も掛け終わった、出し惜しみはして居られない。



「この程度の砂埃、なんて事無いわ」



アリアが剣を振るうとその風圧で砂塵魔法は消える、数秒しか目眩しは出来なかったが、十分だった。



「気配が二つ、分身魔法ね……でも精度がお粗末、魔力の質が全く違うじゃ無い」



片方は不規則な程に揺れ、もう片方は不自然な程に落ち着いている……基本魔力はゆらゆらと揺れている。


熟練の魔導士……例えるならばメイガスタの様に年齢を重ねてくると戦闘中も精神を落ち着かせ、魔力の揺れを抑える事は出来るが、普通は無理だ。


そして分身魔法、これは正直乱戦の時か相手に魔法の知識がない場合じゃ無いと通用しない、理由は不自然なまでに魔力の波が安定するから、あれは実戦に向いてるが、単一戦闘には全く向かない。



「と言う事は……本物は左ね」



左側に拘束魔法を放つ、地面から鎖が生えてカーニャの身体をぐるぐるに拘束する……だが縛った筈のカーニャが煙の様に消えた。



「偽物?」



まさか……だが拘束魔法を発動させた方のカーニャは消えた、となると本体はあの落ち着いた魔力の方、戦闘中にあれ程精神を落ち着かせれる様になったと言うのだろうか。


いや、そんな事はどうでも良い……分身魔法に騙されたとは言え、念の為に位置は把握し続けている。



「分身魔法ってのはこう使うのよ」



そう言いアリアは二人に分身をする、単一戦闘で分身魔法は向かないと言ったが、それはさっきの様に陽動で使おうとする場合……本来は数の利を作り出す為に使う。



「少し怪我はしてもらうわよ」



そう言い手首を切るとカーニャの頭上に振り撒く、そしてそれは鋭利な棘に変化すると雨となってカーニャに降り注いだ。


もう片方のアリアは光を放ちながら突っ込んで来る、分身に血の雨が当たった所でこちらにダメージは無い、本来は特攻させて自爆、これが一番効率の良い使い方だった。


上から血の雨、そして横からは光を放ち突っ込んで来るアリア……どちらを防ぐべきなのか、少しでも判断をミスればタダでは済まない。



「土の防壁!!」



自身をドーム型の土壁で覆う、だが血の雨は壁を突き破り、分身魔法は壁を木っ端微塵にする威力で爆発した。



「やばっ、少しやり過ぎた?」



予想外の威力にアリアは駆け寄る、だが土の壁があった所にカーニャは居なかった。


粉微塵になった……訳では無さそうだった。



「いつ土掘りなんて覚えたのよ」



地面に空いた穴を眺めて呟く、あの状況で取れる最善の行動……大したものだった。


だけど、攻撃の方はまだまだの様だった。



「後ろね」



そう言い少し下がってから背後を振り向く、すると地面からモグラの様にカーニャが勢い良く姿を現した。


地面からじゃ地上の様子を探るには魔力を辿るしか無い、一歩下がった時に魔力を残留させて罠を張れば……



「なっ……」



地面から生える鎖がカーニャを拘束する……この通り簡単に捕まえれると言う訳だった。



「まぁ、私じゃ無ければって展開が多かったわね、力を得る前なら良い戦いが出来る程度には成長したのね」



そう言いカーニャの頬をなぞる、悔しい……だがこれで良い。


カーニャは薄っすらと笑みを浮かべる、その様子にアリアは首を傾げた。



「なぜ笑うの?」



この状況で笑うなんてカーニャらしく無い、その時ふと……ルナリスの存在を思い出した。



「そう言えばあいつは……」



家畜小屋へ吹き飛ばした筈、視線を向けるが気配は感じた。


魔力も感じる、だがおかしい……時間にして数分だが、それだけの時間動けない程のダメージは与えて居ない。



「アリアは強くなった……でも、その力を過信し過ぎてる」



「え?」



「どれだけ強くても……二人なら付け入る隙は幾らでもある……と言う事ですわ」



近くからルナリスの声が聞こえた、だが魔力は家畜小屋から感じる……そう思った時、とある事に気がついた。


魔力の揺れが全く無い……分身魔法だった。


カーニャに意識を持っていかれ過ぎて魔力の揺れまでは確認して居なかった……完全に油断した。



「ぶん殴られて、目を覚ましやがれですわ!!」



雷を纏ったアリアが姿を現す、隠密魔法でギリギリまで隠れて居た様だった。


気が付いた頃には遅い、距離が近過ぎる。


ルナリスの雷を纏った一撃はアリアの顔面を捉え、凄まじい勢いで吹き飛ばす、魔力を維持出来なくなった鎖は消え、カーニャは解放された。



「今ので、目を覚ますかな」



「そうだと有難いですけど……」



二人は顔を見合わせる。



「それも、無理の様ですわね」



立ち上がるアリアにルナリスはため息を吐く、殺すつもりは無いが、そのレベルの攻撃をぶつけなければダメージは与えられない……そう思って全力で攻撃したのだが、こうも直ぐに立つとは予想外だった。



「痛いわね……完全にブチギレたわ」



殴られた、その事もムカつくがルナリスとカーニャの連携……いつの間にあんなに仲良くなったのか、そっちの苛立ちの方が大きかった。


カーニャは私の物……誰にも渡さない。



「ルナリス、あんた……殺すわ」



そう言いアリアは自身の首を切る、突然の自傷行為に二人は言葉を失った。



「あ、貴女何してるんですの!?」



「心配するな……自分のをした方が良いわよ」



血は噴き出ずにアリアの身体を覆って行く、そして真っ赤な鎧が完成した。



「赤き鮮血の鎧、正真正銘……本気よ」



「そのようですわね」



ゾッとする程の圧、本当に本気の様だった。


冷や汗がルナリスの頬を伝う、明確な殺意が伝わって来る、幸い……と言うべきなのだろうか、彼女はカーニャを傷つける気は無い……彼女の守りは気にしなくても良さそうだった。



「気を抜くと死ぬわよ」



一瞬、ほんの一瞬考え事をした隙に距離を詰められる、あまりにも速すぎる。


避けるのは不可能、繰り出される一撃を腕に魔力を集め硬化させると受け止める、だが鈍い音と共にルナリスは吹き飛ばされた。


片腕だけだとやはり耐えられない……しかも唯一残っている腕も折れたと来た……状況は絶望的だった。



「けど……諦める訳には行かないですわね」



ルナリスが立ち上がると同時にカーニャの治癒魔法が腕の痛みを和らげてくれる、有難い……多少は戦える。


物語の主人公なら、圧倒的なハンデを背負って居ても、根性や気合い、仲間を助けたいと言う思いで戦い……最後には勝利するだろう、だが現実は違う。


圧倒的な実力差、それを覆すにはあまりにもルナリスは不利だった。



「あんたって、こんなに弱かったかしら?」



「ええ……私は弱いですわよ」



父に見放され、妹と常に比較され続けた……没落した家とは言え、貴族に生まれたにしてはあまりにも私は才能が無かった。


性質検査でも雷と出たが、私は全ての性質を操ることが出来る、だが一見、それは良い様に見えて実は良くない。


満遍なく操れる、裏を返せば秀でた物がないと言う事、それが私の欠点だった。



「あんた、よく演習場で何時間も訓練してたわよね」



「な、なんでそれを……」



「あれだけ努力して、その程度の強さなら……センスないわよ」



その言葉にルナリスは歯を強く噛み締める、センスが無いのは分かっている。


カーニャの様に無詠唱や聖の属性がある訳でもない、アリアの様に特殊な血筋である訳でもない。


だが私はそれでも努力して来た。


良く努力は嘘をつかないと言うが……それは違う。



「貴女は確かに強い……ですわ」



ボロボロで痛む身体を我慢しながら立ち上がる。


カーニャの治癒じゃ追いつかない程に傷を負ったルナリスに今更何か出来るわけもないとアリアは油断して居た。


確かに努力は時に嘘をつくかも知れない……だが、嘘をつかなくなるまで、努力をすれば良い。


そこまで努力出来ないから、人は嘘をつくと言うのだ。



「この身が滅んでも……あんたの目を覚まさせますわ」



そう告げると突然雷がルナリスの身に降り掛かる、咄嗟に見上げるが雷雲なんて無かった。


今のは……身に降りかかったのでは無く、彼女から放出された雷だった。



「あんた、やっぱ変わってるわね」



髪の毛を逆立て、雷を纏うルナリスにアリアは告げる、雷を纏うなんて普通はしない。


雷の性質でも人間は帯電出来る様に作られて居ない、雷を纏えば最悪死ぬ。


身体能力が上がると言うメリットはあるが、それを凌駕する程にデメリットの方が大きい……リスクが大きすぎる技だった。


正直使っている人間も今じゃそれ程いない、下手をすれば上級身体魔法の方が強化幅も大きい……だがそれでも使う理由がある。


雷、この力は母から教わった唯一の魔法なのだから。



「お母様……少しばかり、私に友を目覚めさせるだけの力を」



身体を貫かれる様な痛みが走る、心臓には魔力で特殊な防御を掛けてるが、それが切れるのも時間の問題……元より最大出力は数秒しか保たない。


一撃に賭ける。



「これはちょっとまず……」



癪だがあの技が発動している数秒だけアリアは身を潜めようとする、だが先程ルナリスが居た位置に彼女の姿は無かった。



「何処へ!?」



この私が視認出来ない速さなんて有り得ない、阿毘白達転生者でもこれ程のスピードは出ない。



「貴女がどれだけ闇に染まろうと、私を恨み、嫌おうとも……私は貴女を友と想い続けますわ」



目の前から声がする、既に懐に潜り込まれて居た。


回避は出来ない、だが反撃は出来る。



「くっ……」



鎧の一部分を棘に変えてルナリスを貫く、だが彼女は怯む様子すらなかった。



「雷拳一閃、二度目の正直……目を覚ましやがれですわ」



ルナリスの言葉と共に拳が鎧を貫通し、アリアの腹を捉える、衝撃波は身体を貫き、背後の地面を広範囲で抉り取った。


鮮血の鎧を破壊するほどの威力、腹を殴られたせいで胃の内容物が口から吐き出される、凄まじい威力にアリアは蹲った。


早く立たなければ追撃される、だが身体が言う事を聞かなかった。


息が出来ないほどに苦しい……まさかルナリスにあんな一撃があるとは予想外だった。


正直舐めて居た……苦しみながらもルナリスの姿を探す、彼女は地面に倒れ、動く気配が無かった。


だがこちらも動けない……アリアは仰向けになると空を見上げた。



「力を得ても……弱いままだったわね」



そう呟くと、空に伸ばした手は力無く地に落ちた。

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