第73話 告白
人が死ぬ。
それが当たり前に思えて来る。
それ程までに簡単に人が死んで行く……これが戦争。
だがいつまでも弱気に、悲観しては居られない……今の私には救うだけの力はある、あの頃とは違う。
「わ、私の支援を受ければアンデッド族を最小限の力で倒せる!だから……」
「怯むんじゃ無いですわよ!!私達にはあのメイガスタ様もついていますわ!!」
カーニャとルナリスの言葉に兵士達も士気を上げてアンデッド族に立ち向かう、街の人々も少しずつだが救助されている、爆音が鳴り響き、国にアンデッドが出現してから1時間……最初は混乱で統率も何も取れずに蹂躙されていたが、かつて三大国と称されたルデール国は強かった。
直ぐに魔法伝達で状況を把握すると直ちに司令部を結成、そして司令班と現場で救助、及びアンデットの討伐を行う2班に分け、迅速に部隊を編成していた。
それに加えて一部の兵士はカーニャの支援を受け、最小限の魔力でアンデットを討伐、形勢も逆転していた。
ルデール国を舐めるな、これからだ……兵士ならず街の人々も希望を捨てずに想いは一致していた。
だが、転生者……彼らの前ではそんなちっぽけな希望は無意味だった。
街の中心に大きな柱の様な炎が巻き上がる、そしてそれを視認した数秒後、凄まじい爆風と共に音が遅れて訪れた。
「なっ……」
距離はかなり離れている筈……それなのに爆風に抗えなかった。
カーニャ身体はふわりと浮くと爆風に乗って吹き飛ばされそうになる、咄嗟にルナリスは手を伸ばした。
「カーニャ、捕まって下さい!!」
「ありがとうルナリス」
何とか爆風に抗いながらルナリスの手を握り締める、だが次の瞬間、先程よりも遥かに強い暴風が吹き荒れ、二人を吹き飛ばした。
「やばい……」
空中で身体の制御が効かない、重化魔法で無理矢理地面に着地するべきか……だが体が硬化される訳ではない、着地次第では大怪我もする……だがこのまま吹き飛ばされて居ても怪我はする。
「この手、離すんじゃ無いですわよ!!」
「うん」
今出来るのは離れない事、二人は手を強く握り締めた。
特に良い案も浮かばないまま、二人は吹き飛ばされて行く、そして一軒の建物に突っ込んで行った。
「痛く……無いですわね」
「臭い……」
酷い獣臭、背中には大量の藁……どうやら家畜小屋に着地した様だった。
どんな幸運なのか……藁がクッションとなったお陰で二人は無傷だった。
「とにかく……かなり吹っ飛ばされましたわね」
「生きてるのが奇跡レベル」
街の中に当然家畜小屋何てある訳ない、元々街の端に居たが、更に端っこへと吹き飛ばされた。
「戻りますわよ」
「うん」
握ったままだった手を離すと藁を払い立ち上がる、そして先に扉を出たルナリスだったが、その足が止まった。
「どうしたのルナリス?」
「アリア……」
蚊の鳴く様な声で呟いたその言葉にルナリスの肩から顔を覗かせる、そこには爆炎を上げる街を見ながら微笑んでいるアリアの姿があった。
「久し振りね二人とも」
赤く、長くて綺麗だった髪が肩にも付かない程に切られて居た。
「久し振りね、じゃ無いですわよ!貴女……自分が何をしたか分かってますの!?」
「うるさいわね、ただ国を捨てただけでしょ?」
「国を捨てたって……貴女本気で言ってますの!?」
「逆にこんな国、私が今まで捨てずに居たのが不思議だよ」
そう言い髪を指でクルクル弄りながら近づいて来る、髪の毛こそ短くなったが、それ以外に容姿で変わった所はない。
ただ、雰囲気が凄く冷たい……冷徹な感じがした。
「私うんざりしてたのよ、身分の違いとか、才能とか……くっだらない事で差別する国の奴らが」
「そ、それは……」
「ルナリスもそう言えば貴族出生だからって、私に色々言ったよね……ほんとうざかったわ」
「ち、ちが……」
「何が違うの?何も違わないでしょ?あんたも身分で人を見下す……私の髪を見て差別してた奴らと何ら違わないわよ」
「わ、私はただ……」
アリアの言葉にルナリスは子供みたいに何かを言おうとしながらも言えずに涙を流す。
「昔っからあんたのこと、大き……」
「アリア!!」
アリアが何かを言い掛けたその時、カーニャの怒鳴り声でそれは遮られた。
こんなのはアリアじゃない、アリアは不器用で時々口調も強くなるが、本当は優しい……それを私は知っている。
「カーニャ、探してたよ」
アリアはカーニャに視線を向けるや否や、一瞬にして距離を詰め、手を握った。
手を握られた、その行動よりもあまりの素早さに驚きを隠せなかった。
「私がこの国に戻ったのもカーニャと会うためなんだ、ねぇ……私と一緒に来てよ」
「え?どう言うこと?」
話しが見えてこない。
私に会う為?国を捨てたのに私のためだけに?何の為に……
頭がこんがらがって居た。
「どう言うことも何も、私と一緒に……結婚して誰も居ない場所で一緒暮らそ?」
そう告げるアリアの表情は完全に惚れている女性の顔だった。
その言葉にカーニャは固まる、ルナリスも分かりやすく目を丸くして居た。
「実はずっと好きだったんだ……最初あった時、綺麗な子だなって思ったけど……一番はやっぱり、私の髪を綺麗って言ってくれたから」
そう言い懐から麻袋を取り出す。
「これ、カーニャにあげるね」
そう言い手渡された袋を開けてみる、そこには大量の赤い髪の毛が入っていた。
「ねぇカーニャ、私と結婚して、ずっと一緒に居て」
まるで狂ったかの様に好きと言いまくり、カーニャに詰め寄る……洗脳でもされているのだろうか。
何とも言えない空気の中、アリアはカーニャに抱きついて離れようともしない……何故こんな事になっているのか、それは彼女が力を得る過程で受けた欲望の解放が原因だった。
故に彼女の言っている事は本心だった。
だが当然カーニャ達がそれを知る訳も無かった。
「アリア洗脳されてるっぽいね」
「ええ、ぶん殴って目を覚まさせるしか無いですわね」
「別に洗脳されて無いけど……まぁ、力尽くでも連れてくよ……カーニャ」
完全にルナリスは眼中に無しのアリアはカーニャに向かって微笑む、これ程の好意を向けられた事がない故に困っていた。
戦闘にも集中出来ない、アリアが私の事を好き……そんな筈は。
だがよくよく思い返してみると少し気になる節はある。
やたらと一緒にお風呂に入りたがる、危ないからと手を繋いでくる時もあった……それに極め付けは一度、気配を感じて目を覚ましたら目の前にアリアがいた事、薄目で気付かれては居ないが……考えてみるとそれなりに気づける様な場面はあった。
恋愛にはいろんな形がある、女性同士も変ではない……ただ、私には申し訳ないが好きな人がいる。
確かにアリアの事は好きだ……でもそれは友達として、恋愛感情はない。
「大好き、カーニャ」
「ごめんアリア、その気持ちには答えられない」
そう言い拳を構える、その様子にアリアは少し残念そうにするも、直ぐに顔を上げた。
「なら無理矢理連れてくわ……私のお嫁さん♡」
その言葉と共にアリアは距離を詰めて来る、いくら強くなったとは言え此方も訓練を積んできた……それに2対1、数の利もある。
「カーニャ、支援頼みますわよ!」
「任せて!」
まずはルナリスに支援、そしてアリアの一撃を隻腕で受け止めるとすかさずカーニャが攻撃に転じる、だがそれを読んで居たかの様にアリアはルナリスとの鍔迫り合いを制し、彼女を吹き飛ばすと拳を握り締めるカーニャを簡単に組み伏せた。
「カーニャが体術で来るなんて意外ね」
「私達も訓練してたの」
「そっか、でも無意味だったわね……私の力は訓練なんかじゃ遠く及ばない、あの人達の力と同じでね」
そう言い何も無い場所に拳を繰り出す、するとルナリスが声と共に腹を押さえて地面に蹲った。
「隠密魔法もバレバレ、本当に特訓してた?」
そう言いルナリスに唾を吐き掛ける。
「入試の時のお返しよ」
純粋な身体能力からして違う、彼女の動きを目で追えない……組み伏されたカーニャも動ける様子は無い、これ程強くなっているとは予想外だった。
だが……
「あんたの目を覚まさせますわ……友達として」
「友達?あんたが?笑わせないで」
そう言いカーニャの腕から手をそっと外すと自身の手を噛みちぎって血の拘束をカーニャに付ける、血の操作も格段に上がっていた。
「ごめんねカーニャ、あいつ直ぐに黙らせて戻って来るから」
そう言い少し乱れた髪を整えると剣を抜いてルナリスの方を見る、あの時のアリアからは想像も出来ない威圧感……まるで阿毘白と対峙した時の様だった。
「貴女、何故国を捨てたの」
「お母さん殺した奴に復讐する為、ただそれだけ……まぁそれも果たしたし、結局虚しいだけだったんだけど」
「なら国に戻れば……」
「実を言うとね、国を壊す……阿毘白達の作戦に私も結構賛成してるの、だって……こんな国無い方が幸せでしょ?」
「そんな訳無いですわ!」
「……真実を知ればそうも言えなくなるわよ」
そう言いアリアは再び剣を握り締める、真実を知れば……この国に何があるのか、含みを持たせた言葉だった。
アリアは剣で手のひらを切ると血を辺りにばら撒く、此処からが正念場だ。
「絶対アリアを連れ戻しますわよ」
「その為の特訓だもんね」
二人は互いにそう告げ、頷き合った。




