第72話 4の数字を持つもの
「ブレット、デカくなったなぁ」
「グレリオさんも死んだにしちゃ、変わって無いっすね」
「はっはっ!俺は特別だからな!!」
豪快な笑い声を上げながら片手に持っていた魔導兵士の頭部をまるでリンゴの様に砕き、巨漢の男は捨てる。
十傑の中でも特に肉弾戦闘に強く、あのベルリオでさえも敵わなかった男……それが4の数字を持つ男、グレリオだった。
技術的な事をベルリオに、そして実戦的な事を彼に教わった。
正直訓練では良い思い出はない、腕を折られた事もあるし、血反吐が出るまで扱かれた事もある。
だが間違い無く、彼のお陰で今の俺が居る。
「久し振りに……稽古つけてやるよ、ルールはどちらか死ぬまでな」
「今度は本当にどちらか死ぬまでっすね」
彼はいつも口癖の様にどちらか死ぬまでルールで稽古を付けてくれた、実際は言葉の綾で、本当に殺しはしないのだが……今回は本当だ。
「お手並み拝見……だなっ!!」
何の小細工も無し、正真正銘真っ向から突っ込んで来る、今の戦闘スタイルは彼が元となっている。
とは言っても、元になっているだけで多少アレンジはして居る……彼のスタイルはあの体格があってこその物なのだから。
「ぶっ壊す!!」
その言葉と共に丸太の様な腕を振り下ろす、まともに受け止めるのは愚策……だがブレットは避けずに腕をバツの字に構えて受け止めた。
「おおっ!?」
骨の軋む音がする、だが折れては居ない。
昔はこれで両腕と頭蓋骨を砕かれた、そう何発も受け止められる物では無いが……受け止めるのは一回だけでも良い。
彼のパワーは国でもトップだった、その一撃を正面から受け止める者は当然居ない、だがかつての教え子が真正面から一撃を受け止めた事にグレリオはフリーズしていた。
彼の性格は良く知っている、この一瞬だけでも隙を作り出せれば良い。
「魔法は気合い、昔はこの意味がよく分から無かったすよ」
魔法とは知識、頭脳こそが全てと元来より伝わっていた。
魔法は覚える事が多い、書物の数も百万を超える……そしてその多くは才能に左右される。
魔法の世界はかなりシビアだ、才能が無ければ成り上がれない、昔は冒険者の方が一発逆転のチャンスもあった。
だがグレリオ、彼の存在が魔法の常識を根底から覆した。
魔力は努力で増やせる。
彼は魔法の才能に恵まれない平民の出だった。
唯一恵まれたのは体格だけ、生まれた国がルデールでなければ……若くして大成を成し遂げた筈だ。
だが彼は魔法が全ての国に生まれた、そして魔法の才が無い彼は体格のお陰で迫害こそされなかったものの、あまり良く無い扱いを受けていた。
だが彼は誰もがやらないとある特訓を行なっていた。
それは魔力を使い切るという事だった。
本来、魔力は血液、それを使い切れば魔力欠乏症、貧血や様々な症状に襲われる。
めまいや立ち眩み、激しい頭痛に嘔吐……最悪死ぬケースだってある。
それに昔からの言い伝えで魔力は消耗品、使えば使う程減る物と言われて来た。
勿論それはただの言い伝えでデマ、ただグレリオは不幸中の幸いと言うべきか、勉学が嫌いな上に魔法の知識もまともに教わらなかった故にその事を知らなかった。
そして自身の魔力を空にしては、死に掛けながらも回復し、また空にすると言う特訓を続けた。
そしてそれが実を結んだのは29の頃、地道な積み重ねにより、彼は魔帝十傑へと選出された。
何の勉学もせず、十傑へ上り詰めた彼を周りは天才と称したが……事実は違う。
地道な努力と死をも恐れぬ勇気、そして何より他者が呆れるほどの努力と気合が彼を十傑へと導いた。
だからこそ……今なら分かる。
魔力は気合の意味が。
「魔力を右の拳に集約、腰を捻って肩を引き……踏み込む足は強く、ですよね」
「俺が一番最初に教えた事だな」
基礎中の基礎、だがシンプルだからこそ強い。
魔力移動、身体強化が魔力で身体を包んで居るのに対して、魔力移動は一部分に魔力を纏う、範囲は狭いがその分効力も跳ね上がる。
だが魔力移動は繊細な魔力コントロールの技術が必要、何度失敗して爆発したことか。
「成長したじゃねーか、ブレット」
「皆んなのお陰ですよ」
集約した魔力をグレリオの腹にぶち込むと同時に放出する、眩い光と共に轟音を響かせ2mを優に超える巨体を遥か後方へと吹き飛ばした。
「痛ぇ……肩外れたな」
拳もジンジンする、折れては居ないがヒビくらいは入ってるかも知れない……流石のグレリオでも素の状態じゃあれ程硬くは無かった筈、色々と強化されていた様だった。
「……げぇ……撃だ、ンと胸……に響い……ぜ」
途切れ途切れだが遠くから声が聞こえて来る、何を言っているかは分からない……ただあの一撃を喰らってもまだ生きている……と言うか、行動出来ている事は確かだった。
「冗談は辞めてくれよ」
外れた肩をはめ直すと手を開閉して確かめる、あの一撃は今後二度と決まらないと思っても良い……どうやってあの鉄よりも遥かに硬く、オーガの一撃よりも重い攻撃を持つ化け物を倒せば良いのか、笑うしか無かった。
「ははっ、最高の一撃だったぜ、この通り支配からも逃れられた」
そう言い両手を広げ、ぽっかりと空いた胸の中に光る割れた水晶の様な球をブレットに見せる、グレリオが攻撃して来る気配は無い……もう戦う気は無いのだろうか。
「この水晶、これに魂を縛られて強制的に戦わされてたんだ、それが無くなった今……ようやく死ねるよ」
「と言う事は……お別れですか」
「まぁな、時間が無いから手短に奴らの情報を言う、阿毘白とタナトス、モリシロにアリアと言う少女の四人組だ」
「アリア!?あいつがこの大虐殺に加わってるのか?!」
「知り合いなのか、だが今は時間が無い、この魂を縛る能力について詳しくは知らないが、使用者は阿毘白と言う男、コイツさえ倒せばわざわざ十傑全てを倒さずとも良い筈だ」
「阿毘白……アイツっすね」
一度、任務の時に完膚なきまでに叩きのめされている……アイツの実力は底が見えなかった、万が一にも俺では勝ち目はない。
「安心しろ、俺たちを殺した赤目の女は居ねぇ、それにメイガスタも居るんだろ?」
そうだ、何も自分で倒す必要は無い。
この国には……賢者にして最強の魔導士であるメイガスタ様が居るのだから。
「おっと、そろそろ時間だ」
そう言うとグレリオの身体は光に包まれる、そして光の粒が少しずつ空へと昇り始めた。
「どうしようも……無いっすよね」
「あぁ、一度死んでっからな……まぁそう悲しむな、人生出会いも有れば別れもあるだろ」
「あんたっぽく無い言葉っすね」
その言葉にグレリオは笑った。
彼には伝えて居ないが、最初はガキのお守りなんてごめんだった。
何故か他の十傑は乗り気だったが、自由気まま、戦いが好きな俺にとってそれは苦痛だった。
小突いたらすぐ泣きやがる、訓練も子供レベルじゃ退屈で死にそう……何度辞めると申し出たか。
だが十傑の称号を剥奪されるのは避けたかった、この称号は俺だけでなく家族にも影響がある……俺だけの称号では無いのだから。
そして嫌々師匠なんて柄でも無い事を続けていた、だがいつからだろうか……気が付けば嫌々では無く、楽しんで特訓を付けていた。
柄でもないのにアイツの……ブレットの成長が嬉しかった、俺の攻撃を軽くだが受け止める様にもなった。
そして今日、一撃を受け止めただけ無く……俺に勝ちやがった。
二度目の死だが、悪くねぇ。
「ブレット、お前が弟子で良かったよ……最後の特訓、合格だ」
その言葉を残して消えるベルリオ、ブレットは光の粒子に手を伸ばしていた。
だがそれは手の隙間から逃げて行く、そしてブレットは残滓を見つめ、その場で膝をついた。
そして頭を地面に打ち付けるほどの勢いで叫んだ。
「師匠!!16年間……ありがとうございました!!!」




