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第71話 終わりを告げる日常

今日もまた、アルトの訓練を受けて……ルナリス達としょうもない事を話して、帰りに食事でもして帰る……そんな1日が来ると思っていた。


だがカーニャは轟く爆音と共に目を覚ました。



「カーニャ!無事ですの!?」



「な、何が起こってるの?」



「はっきりと断言出来ませんけど……何者かが攻めて来た様ですわ」



ルナリスはカーニャの慌てた表情を見て大きく深呼吸して一旦落ち着くと、冷静にそう告げる、何者かが……その言葉で真っ先に思い浮かんだのはアリアだった。



「私も先程事態を知ったばかりであまり状況は把握してませんの……とにかく外へ行きますわよ!」



そう言われてパジャマ姿のままルナリスに外へと連れ出される、そこに広がる景色に思わず二人は言葉を失った。


昨日まであった、国でも一際存在感を放つ学院がみるも無惨に崩壊している……先程の轟音は恐らく学院が崩壊する音だったのだろう。


辺りでは生徒の悲鳴も聞こえる、何が起こっているのか……全く分からなかった。



「とにかくメイガスタさんやアルト先生と合流を……」



そう言いルナリスは崩壊した学院の方へ向かおうとする、だが前方から来る何者かの影に足を止めた。



「久し振りの故郷、だがしっとり感傷に浸る事も許されねぇ、酷だよな」



カシャカシャと鎧の音を立てながら一人の青年が此方に歩いて来る、別に何の変哲もない普通の青年……だが剣に付着した血液が二人の警戒を高めた。


そしてルナリスはある事に気が付いた。



「貴方……十傑のベルフェリオですわね」



「流石に分かるか、俺ってオーラ出てるもんな」



そうふざけた事を言いながらもゆっくりと距離を縮めて来る、十傑が居る……つまりは阿毘白達が関与していると言う事だった。


この襲撃は恐らく阿毘白の仕業……何の為なんて今は考えている余裕は無い。



「カーニャ、寝起きなんて言い訳は出来ないですわよ」



「分かってる」



相手は十傑、賢者には及ばないが国でも屈指の強さを誇っていた人物……油断なんて微塵も出来ない。



「悪いな、俺も後輩を虐めたくは無いが……命令には逆らえなくてな」



その言葉と共にベルフェリオは一気に距離を詰めて来る、全身がバネかと思う程に彼の動きは軽やかだった。


だがアルトには大きく劣る、十傑と比べてそう感じるのだから彼は相当な化け物だったのだろう。



「カーニャ、いつもの行きますわよ!」



「うん」



ルナリスが剣を受け止めるとカーニャは少し後方に下がって支援魔法を掛ける、すると押され気味だった鍔迫り合いが一変、ルナリスが大きく優勢になった。



「すげぇ力だ」



何故かベルフェリオからは笑みが溢れる。



「笑うなんて余裕ですのね」



「いいや、余裕なんて全く無いさ、ただ……死んで操られ、クソみたいな状況でも強い奴と戦えるなんて嬉しくてな」



「そう……ですの」



笑みを浮かべるベルフェリオの剣をルナリスは弾き飛ばす、そしてガラ空きの彼に剣を向けた。



「生きてる時にやり合いたかったぜ」



「私もですわ」



あまりにも一瞬、呆気のない決着が着いた。


剣は肩から下に向けてベルフェリオを大きく斬り裂く、そして彼は地面に倒れ込んだ。


まるで生きているかの様に血が流れる、だが彼は笑っていた。



「気をつけろよ、俺は十傑の中でも称号は九、それに適合率が低いらしくてな、実力の3割も出せてなかったからよ」



「あれで3割ですのね……恐ろしいですわ」



決着こそ一瞬だったが、カーニャの支援が無ければかなり苦戦を強いられた筈……それに彼が息絶える気配もなかった。



「ダメージを受けてかなり支配力が弱まってるな……どっちか聖属性の魔法を使えないか?」



「あ、私が使える」



ベルフェリオの言葉にすかさずカーニャが手を挙げる。



「でかした、詳しい事は言えないが、俺たちは聖属性の魔法に弱い……頼めるか?」



「はい」



ベルフェリオの言葉に頷くとカーニャは聖の属性を込めた光で彼を包み込む、すると彼の体から粒の様な光が浮き上がり、ベルフェリオの形になった。



『助かった……これでようやく死ねるよ』



「何があったの?」



『二年前、魔帝十傑にとある任務が課せられた』



「任務?」



『そうだ、10人全員に課された任務、それがマタラシア遺跡を拠点とする不審人物の討伐だった』



その言葉にルナリスと顔を見合わせる、私達にも依頼が来た任務だった。



『今思えば十傑全員で……なんておかしな話だった、だが怪しくても俺達にはそれを覆せる力があった……だがあいつは強すぎた』



「あいつって……?」



『分からない……ただ黒い髪に赤い瞳をした女性、あまりにも一瞬の出来事過ぎて断片的な記憶しか無いんだ』



黒い髪に赤い瞳の女性……緋色の目はこの世界でも珍しい、だがその情報だけでは何も分からなかった。



「十傑を瞬殺する程の実力者……その方はベルフェリオ様を操っている敵達の一員ですの?」



『いや、俺を操っている奴らは3人組だ、阿毘白、タナトス、モリシロと呼び合っていた』



その名を聞き、眉間にシワをカーニャは寄せる、阿毘白の名があると言う事は全員転生者と見て間違いは無さそうだった。


転生者が3人……勝てるのだろうか。



「具体的な戦力はどんな感じですの?」



『主要戦力は操り人形となった十傑のメンバーとその3人だが、その他に大量の……アンデット兵達が街に解き放たれている』



「アンデッド兵……それなら助かりますわね」



『助かる?その数は3万は超えるんだぞ!?』



「此方には対魔物最強の魔導士が居ますのよ」



ルナリスはカーニャの肩を叩き、誇らしげに告げる、それを見てベルフェリオは笑みを浮かべた。



『成る程……俺たちが居ない二年で頼もしい奴らが出てきたもんだ……安心して死ねるよ』



「必ず、十傑の皆さんをそちらへ送りますわ」



『あぁ、君たちなら大丈夫だ』



その言葉を残しベルフェリオは天へと昇って行く、そしてそれを見届けるとルナリスは拳を強く握り締めた。



「許せないですわね」



「うん……人を殺すだけじゃ無く、その魂を縛り付けて操り人形に……絶対許せない」



「一先ず私達で出来る精一杯の事をやりますわよ」



そう言いルナリスは街の方へと走り出す、今優先すべきは力無き街の人々の救助……突然の出来事にもルナリスは冷静だった。


どんな状況も常に考えて来た、国が襲撃される事も……最悪として想定していた、だが分からないこともある。


阿毘白達の目的は何なのか、魔法の叡智?それともメイガスタの首?分からない。


敵の兵力は三万を超える……その殆どがアンデッド族と言うのは有難いが、その分カーニャの負担も尋常では無い。


街へ向かう道中、様々な事に思考を張り巡らせる、全てを最善でやらなければ行けない状況……だが少し高い位置にある学院入り口から見下ろす街の惨状にルナリスの思考は止まった。



「な、何ですの……これ」



「人が……街が……」



崩壊する建物、アンデッド族に蹂躙される街の人々……此処が地獄、そう言われても信じる。



「調子乗んなっての!!」



悲鳴の中から聞こえる一人の声に二人は正気に戻る、ふと視線を向けるとそこにはルルノアが街の人が隠れてるであろう建物に侵入しようとするアンデッドを殴り倒していた。



「ルルノア!!」



「ルナリスにカーニャ!まじナイス!!」



二人の増援に心の底から感謝の言葉を掛ける、カーニャは二人に聖属性の支援魔法を掛けると一瞬にしてアンデッド達を蹴散らした。



「まじ助かる……あんたら居なかったら今頃お陀仏だったわ」



「貴女こそ、よく無事でしたわね」



彼女の周りにはスケルトンの残骸やゾンビの肉片、アンデットナイトの鎧片が無数に散らばっている、相当な数を相手にしていた筈だ。



「他にも居た兵士の人のお陰、私一人じゃ無理だったし」



そう告げるルルノアの視線の先には血だらけで息絶える数人の兵士達がいた。



「あぁ、ありがとう君たち!」



扉の中から10人ほど街の人々が口々に感謝の言葉と共に姿を現す、だがその中の一人、高齢の女性は横たわる兵士の一人を見ると泣き崩れた。



「あぁ……何で……私より先に……何で」



動く事のない亡骸を揺さぶりながら何度も声を掛ける、その様子にカーニャは呼吸の仕方も忘れる程に息苦しくなった。



「っ……ハっ……ハァッ!!」



「どうしたんですのカーニャ!?」



突然息を切らすカーニャにルナリスは驚きながらも駆け寄る、そしてカーニャはゆっくりと地面に座り込んだ。



「どうしたしカーニャ!アンデッド達また来るって!!」



街の人々を学院の地下へ案内しようとしていたルルノアも心配をして此方を振り返る、だが遠くにアンデッドの存在を確認すると直ぐに学院の方を向いた。



「ルナリス!カーニャ任せるよ!?」



「ええ、貴女は街の人々を安全な場所へ!!」



言葉を交わす二人を他所にカーニャは地面を見つめる。


息が出来ない……胸が苦しい。


どうやって呼吸をするのか、何で……罪のない人々が大勢死ななければならない。



「カーニャ!!」



苦しい、痛い……無数の声が頭に響き渡る。


割れそうな程に頭が痛い……私はどうしてしまったのか。


人が死ぬ……大勢。


私の髪を褒めてくれた街のおじさんが、商品をサービスしてくれた露店のおばちゃんが……皆んな死んで行く。


何故転生者は簡単に人を殺せる。


皆んな何も悪くないのに……何故。



『転生者を殺せば全て解決する』



頭の中で声が響く。



『殺せ、全てを壊せ』



転生者を殺せば……こんな理不尽な死は無くなる?



『転生者を殺せば、救われる命が大勢居る』



転生者が居なくなれば、この世界は平和になる?



『殺せ、全てを殺せ』



カナデのしてる事は正しかった。


転生者は全てを奪う、だから殺さなくては行けない。


そう全てを。



『転生者は』



「皆殺……っ!!」



「カーニャ!!しっかりしなさい!!」



頬に走る痛みと共にカーニャの視界には怒り……?よく分からない表情のルナリスが映った。



「貴女に何が起きてるかは知りませんわ、でも今は戦闘中、正気をしっかりと保ちなさい!」



彼女の声にカーニャは正気に戻る、今のは一体何だったのだろうか。


頭がふわふわしている、まるで洗脳の様……頭に響いたあの女性の声は転生者を皆殺しにしろと言っていた。


辺りを見回すが怪しい人間は居ない、転生者を殺す……あれは私が思った事なのだろうか。


一瞬、彼らが居なければとは思った……だが皆殺しなんて、自分が考えたとは思いたくも無かった。



「行きますわよカーニャ、まだ街の人々は助けを求めてますわ」



「う、うん」



モヤモヤとした気持ちの悪い疑問を抱えつつも、先を行くルナリスの背中を追いかけた。

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