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第56話 次のステップ

「ふぁ」



「ふぁじゃ無いわよ、あんたマジで寝過ぎ」



アリアの呆れた声と共に制服がカーニャの方に飛んでくる、時計を見ると既に8時を回っていた。



「また本を読んでたの?」



「うん、最近のお気に入りは歴史書かな」



「ふーん、私には分からない世界ね」



あまり興味無さそうにアリアは呟くとベットに腰掛け、髪を指でいじって暇を潰していた。


私がアリアの筋トレ趣味が分からないように彼女もまた私の読書趣味が分からない、正直人間は興味の無い話しは苦痛に感じる。


人間の心理を記した本を読んだが、なぜ私とアリアが友達をやれているのか不思議だった。


人は基本的に互いの趣味が合わないと友達にまではなれない、それこそ九死を一緒に体験したりしなければ……そう考えると私はアリアと魔人の死地を潜り抜けている、その点では一応友達としては成立してるのかも知れない。


だが彼女はその以前から私を友達と呼んでくれていた……何故なのか、分からない。


どれだけ本を読んで知識を付けても、人間関係は分からない事だらけだった。



「準備できた」



「毎朝遅いわよ……っとに」



なんだかんだ言いながらも待ってくれていた。



「そう言えば今日、なんか大事な話しがあるみたいな事言ってたわよね」



「先生?そんな事言ってたね」



アリアの言葉に昨日アルトが勿体ぶった事を言っていたのを思い出す、彼が言うにはステップアップ、次のステージに進むらしかった。



「まぁ、なんにせよ……早く実力認めさせて、魔導部隊に入らない事には賢者も遠いわね」



そう言いながら干し肉を齧り歩く、入学からそれなりに経ったが、カナデは何をして居るのだろうか。


彼から預かったフィリアスのタグを眺めながら教室へと向かう、このフィリアスと言う人はどんな人だったのだろうか。


カナデの大切な人……彼からフィリアスの話しは聞いた事が無い、恐らく亡くなって居るのだろうが、彼に何があったのだろうか。


好きな人だからとか抜きにしても、彼に何があったのかは知りたかった。


そう言えば、カナデはメイガスタの事を古い知り合いと言っていた……彼は恐らく理事室にいる筈、授業が終わったら聞きに行くのも良さそうだった。



「お前ら最後だぞー、早く座れよ」



アリアとカーニャが教室に入った瞬間にチャイムが鳴り響く、アルトに軽く会釈をするといつもの席に向かう、次のステップ……何なのか気になる。


アルトは教室を見渡して居ない人物がゼロなのを確認すると教卓の前へと出た。



「あー、昨日行った次のステップの話しなんだが、簡単に言うとお前達には魔導部隊と同じように仕事をしてもらう」



「仕事?」



クラスからは様々な疑問の声が飛ぶ。



「あー、まぁ落ち着け、もっと分かりやすく言うと任務だ、冒険者組合とかに知り合いがいる奴は分かると思うが、このクラスにもそれと同じく任務が回される、お前らにはそれをこなして貰いたい」



入学して一ヶ月で任務、ステップアップし過ぎな感じも否めない。



「勿論俺ら教員は同行しない、回ってくる任務はD〜Cくらいの低難易度だが、それでも死者は出る可能性はある……まぁ例年にない程急だが、お前らなら出来ると信じてるよ」



そうアルトは言う、周りはざわつき、友達と相談する者も居る、アリアも戸惑って居る様子だった。


だがカーニャはそれよりもアルトの少し複雑そうな……申し訳なさそうな表情に少し引っ掛かりを覚えていた。



「先生、任務はどう言う形で受けられますの?」



「任務は色んなところにあるボードから受けたい任務を選んで事務へ持ってけば受けられる、その間は授業も受けなくて良い……あと、一定数の任務をこなせばBランクを受ける資格が貰えるんだが、それをクリアすれば一人前、一つの部隊として認められる」



その言葉に浮き足立つ者、不安を覚える者……様々だが、どうしてもカーニャは違和感を覚えずには居られなかった。


だがアリアは違った。



「カーニャ、直ぐに任務受けるわよ」



「え?あ、うん……」



アリアはチャンスと言わんばかりの表情をして居る、確かに任務を行うのは実戦も踏めて良いかも知れない……ただ、早すぎる気もする。



「てな訳で、今日の授業は無いから各自好きにしてくれ、俺は寝る」



そう言い欠伸をしながらアルトは教室を後にする、突然告げられた急激なステップアップにクラスは戸惑いを隠せて居なかった。



「カーニャ、ルナリス行くわよ」



アリアは誰よりも早くクラスを出て行った。



「あ、ちょっと!待ちなさいよ……」



アリアは少し急ぎ過ぎのような気もする……何かあったのだろうか。



「もやしっ子行くわよ」



「うん」



ルナリスに言われるがままカーニャも後を追い掛ける、そしてアリアを見つけると既に紙を持っていた。



「ちょっと、いくら何でも任務を受けるのは早すぎませんこと?」



「確かに急だったけど、あんたも魔導部隊を目指してるんでしょ?なら早いに越した事は無いわ、カーニャもでしょ?」



別に魔導部隊を目指してる訳では無いのだが……まぁ話を合わせた方がいい筈だった。


その言葉に頷く、いつにもなく強引なアリアにルナリスは少し呆れながらも承諾した。



「分かりましたわよ、それで、何の任務を受けますの?」



「早く魔導部隊になりたいとは言え、順序は踏む……だからDランクのゴブリン討伐を受けようと思う」



「まぁ妥当ですわね、ゴブリンなら強くないけど、連携は必要……文句ありませんわ」



早速任務を受けようと紙を片手に事務室へと向かう、すると何処で抜かされたのか、ブレット達が居た。



「お、美女三人衆も任務かい?」



「そうだけど、あんた達もなの?」



「まぁな、魔導部隊に入るなら早いに越した事はないだろ?」



「意見が合うわね」




そう言いブレットの横から事務に依頼書を提出する、彼のチームには模擬戦の時に服を拾っていたファンの子も居た。


だが恥ずかしいのか距離があった。



「まぁ、互いに死なないように頑張ろうか」



そう言いブレットは仲間の二人を連れて歩いて行く、死なない様に……か。


外の任務はあの時みたいに魔人が出ても助けて貰える訳では無い……ああ言うイレギュラーは絶対に存在する、あれを思い出すと恐怖もある。


だが私達が強くなって居るのも事実だった。



「ごめんねー、ちょっと事務処理に時間が掛かるから30分くらい待ってくれる?」



事務の女性が申し訳なさそうに3人に伝える、だがアリアは特に何を言う訳でも無く頷いた。


てっきり文句を言うかと思っていたが、そうでも無かった。



「この30分、どうする?」



「そうですわね……改めて互いの事を知るのも悪くは無いと思いますわよ」



アリアの言葉に珍しくルナリスから歩み寄る様な発言をする、その言葉にアリアは少し驚いた表情をしていた。



「なんですのその表情、私だってあの魔人の一件依頼考えてましたのよ……」



「そ、そうなのね……まぁあんたがそう言うなら私は構わないわ」



二人はカーニャに視線を向ける。


互いの事を……つまりは私の過去にも触れられる、私が奴隷だった事を……だが一ヶ月で過ごして来て、二人になら言っても言いかも知れなかった。


ルナリスも最初はただの嫌なやつかと思っていたがそうでは無い、確かにプライドが高くて良く馬鹿にして来るが、アリアが血の魔女を打ち明けた時もただ差別して居る訳では無かった。



「私も大丈夫」



カーニャがそう言い頷くのを確認すると事務室から庭にあるテラスへと移動した。


そして3人は誰から行くか目線を交わした。



「それじゃあ私から……知ってると思うけど私は血の魔女の末裔、別に打ち明ける事は殆どないわね」



魔人の一件の時から血の魔女と打ち明けて居るアリアには特に言う事もなかった。



「確かにそうですわね……では次は私、私はアルレア家を復興させる、その為に賢者を目指してこの学院に入ったと言いましたわね」



「そうじゃ無いの?」



「違いますわ、私は……アルレア家の落ちこぼれ、父から追い出されましたの……次期跡継ぎは妹のクレア、父は不要な者は切り捨てる……そんな人ですから」



彼女もまた、複雑な家庭の様だった。



「この学院に入れて貰えたのは一つのチャンスと思ってますの、私が賢者とまで行かずとも、魔導部隊として名を馳せればまたアルレア家に迎え入れて貰える……私の目標はそれだけですの」



いつも高飛車で憎まれ口ばかりのルナリスが打ち明けた胸の内にアリアとカーニャはただ頷くしか無かった。


彼女にも目指し、背負って居るものがあった。


二人とも本当は言いたくない事を打ち明けた、それは絆を堅く、チームワークを上げる為、私も迷っては居られない。



「じゃあ最後は私だよね……私は、そもそもこの国の出身じゃないの」



「まぁ、それは何と無く分かってましわよね」



ルナリスとアリアは顔を見合わせて頷く。


バレバレだった様だ。



「私は小さい頃の記憶が無くて、何処で生まれて育ったかも分からない……多分親は居ない、死んでると思う」



正直まだ生きてて私を待ってる、そんな奇跡は無い。


カーニャの言葉に二人は気まずそうな表情をした。



「一人、育ててくれたおじいちゃんが居るけどその人ともはぐれて、私は殆どの月日を奴隷として過ごしてたの」



「ど、奴隷?!」



予想を遥かに超えた事実に二人は驚くしか無かった。


無理もない、奴隷なんてものは本当に貧しい国や街でしか見かけない、この国には奴隷として捉える事も使役する事も禁じられて居る、二人が驚愕するのも当然だった。



「死んだ様な毎日を送ってた……でもその時にアリアは知ってると思うけどカナデに拾って貰ったの」



「カナデ?」



「カーニャの保護者見たいな人よ、私と同じ赤い髪のかっこいい人」



首を傾げるルナリスにアリアが補足説明をする。



「私の目標は賢者でも何でもない……ただその人の隣に立ちたい、でもその人は多分険しく、茨の道に居る、だからその為に私も強くならなくちゃ行けないの」



それが私の全て、そう告げるとアリアは何も言わずにカーニャを撫でていた。



「貴女……相当苦労してましたのね」



二人が気持ち悪いくらい優しかった。



「べ、別にいつも通りで良いよ、私はその過去を悲しく思ってる訳でも無いから」



その分の楽しさをカナデから、二人か貰って居るのだから。



「あらそう、なら早く任務行くわよもやしっ子」



「次寝坊したらアホ毛抜くから」



二人はとんでもない切り替えの速さで立つと恐らく処理が終わったであろう事務室へと向かう、互いの事を打ち明けたからなのか、任務に対する不安は無くなっていた。


今なら、どんな敵が来ても勝てる、そんな気分だった。



「早く行くわよカーニャ」



テラスで立ち止まっていたカーニャにアリアは振り返り告げた。


これが……友達か。

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