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第55話 ブレット対アリア

演習から一ヶ月、特にこれと言って大きな出来事も無く、ごく普通の楽しい学院生活を送っていた。


魔力欠乏症の後遺症も無く、あの一件から野外演習は暫く見送りになったが、その分対人演習が多くなっていた。



「今日の相手はカーニャね、手加減はしないわよ」



そう言い模擬刀を器用に回しながらアリアは告げる、色々と教科別に成績があるのだが、私はこの対人演習ではまだ勝利すらした事が無かった。


やはり人に攻撃が出来ない、学院の特別施設で攻撃魔法の練習はして居るが、それを人に向けるとどうしても発動が出来ない……それじゃダメなのは私が一番分かっている筈なのに。



「素材は良いのに、勿体無いわね」



アリアの近接攻撃をボコボコに正面から受ける、身体強化でダメージは軽減されているが、攻撃出来ない私はただのサンドバッグだった。



「ったく、一発殴ってみなさいよ」



殴られっぱなしのカーニャに呆れた表情でアリアはそう告げ、両手を広げてノーガードをアピールする。


殴る……カーニャは大きく深呼吸すると自身の頬を強く叩いた。



「覚悟は決まった?」



「うん」



アリアの言葉に頷くと拳を握りしめる、此処で一歩踏み出さなければ……私はカナデの隣に立つ為に強くなりたいのだから。


握り締めた拳は勢い良くアリアの顔面に目掛けて振り下ろされる、彼女はガードをすることも無く、仁王立ちでその拳を顔面に受け止めた。



「私と明日から筋トレよ」



カーニャの一撃を受け止めてアリアはそう告げると、返しの一撃でカーニャを場外まで吹っ飛ばした。



「派手に吹っ飛びましたわね」



「アリアとの模擬戦はいつもこんな感じだから」



ルナリスの手を借りてゆっくりと立ち上がる、支援魔法のお陰でダメージは殆どなかった。


この一ヶ月、アリアは前衛としての役割を果たせなかったのを悔いてか、トレーニングルームで筋トレする時間がかなり増えていた。


まだ一ヶ月、それほど分かりやすく結果は出てないが、以前よりも攻撃が重たくなっていた。



「すげ〜一撃だな、俺ともいっちょ手合わせしない?アリアちゃん」



「確かあんたは……」



演習を終え、カーニャの元に行こうとするアリアを引き止める一人の男子生徒、何処かで見たような……目を細めて良く顔を見てみる、チャラチャラとした表情に金髪……彼は確か。



「誰だった?」



「酷いな!?ブレットだよ!!」



「ブレット……あぁ」



ようやく思い出した、確か魔人騒動のあの日、私達と本来なら協力して探索する筈が彼らだけ別で行動していた、その提案をした本人だ。


だが右目に眼帯をしていて少しあの時と違った。



「クラスメイトの名前くらい覚えておいてくれよ……それより、お互い早く終わったし、一戦やらない?」



そう言い模擬戦の舞台を指差す、その言葉に帰ろうとしていた生徒も注目している様だった。


無理もない、アリアとブレットは1-1、私達のクラスでどちらが一番強いのか議論される程だった。


強いと言っても魔法は奥が深い、この場合の強さは純粋な前衛としての能力だった。



「別に良いわよ、あんたとは戦って見たかったし」



そう言いアリアは入学当初よりも少し伸びた綺麗な赤い髪をゴムで結ぶ、そして舞台に上がった。



「そうこないと」



ブレットは楽しそうに笑うとスキップで舞台に上がる、そして制服の上着を脱ぐと場外に投げ捨てた。



「わ、私が預かっておきます!!」



何処の誰か分からない眼鏡をかけた地味な女子生徒がブレットの上着を地面に落ちる前に滑り込んでキャッチした。



「ありがとう!」



「ひゃ、ひゃい!」



ブレットの言葉に変な声を出す、そしてそそくさと何処かへ彼女は去って行った。



「誰なのあれ?」



「俺のファンさ、見た目通りかなりモテてね」



「あっそ」



興味なさそうにアリアは答える、そして剣を構えた。


ブレットとは当然対戦経験はない、だが彼の模擬戦は何度か見た。


そのどれもが圧勝で、あまり情報と呼べるものは無いが……彼は拳を武器に戦う。


絵に描いたような近接のインファイター、恐らく自身に身体強化を施す事も出来る筈だった。


だが……この一ヶ月で私もそれ位は出来る様になった、負ける気はない。



「それじゃあ……お洒落に行こうか」



そう言いポケットからコインを取り出し、指で高く宙に弾く、そしてそれが落ちる音と共に二人は互いに距離を詰める為走り出した。


考える事は同じ、だが剣な分私の方が少しリーチは長い。



「炎の精よ、この剣に恩恵を」



簡易詠唱で剣に炎の属性を付与する、エンチャント位なら簡易詠唱でも事足りる、それに相手は拳、受け止めても火傷はする。


彼の間合いに入るよりも先に私の間合いに彼が入ってくる、そして剣を振りかざすが彼のスピード急激に上がった。



「なっ!?」



一瞬にして懐に入り込まれる、完全に彼の間合い、このままでは顎ごと上に撃ち抜かれる。



「あまり女性は殴りたく無いけど……真剣勝負だ、恨まないでくれ」



そう言いブレットは地面を抉り取るような軌道を描きアリアの顎目掛けてアッパーを繰り出す、全てが早い……確かに強いと言われているだけはある。



「良い手応え」



拳は大きな衝撃音と共にアリアのアゴを捉えると彼女は信じられないほど宙高く舞った。


そしてその違和感にブレットは直ぐに気が付いた。



「勢いを殺されたか」



「流石に気付くわよね」



インパクトの直前、上方向に飛んで勢いを殺した、だが……ただ飛んだわけじゃ無い。


アリアが立っていた場所が微かに抉れている、小規模な爆発魔法を発動し、普通に飛ぶよりも遥かに高く飛んで勢いを殺していた。



「流石だ」



そう言い着地点に狙いを変える、このまま普通に着地すればボコボコにされる……だが策はある。



「雷よ……我を撃て!!」



着地のタイミングに合わせて自身に落雷魔法を発動する、ブレットは近寄れずに距離を取るが落雷魔法を直撃じゃ無事な筈は無かった。



「まぁ、そう簡単には終わらんよな」



煙の中から無傷のアリアが姿を表す、どう言う原理かは分からないがやはり強いと言われているだけはある。


ふとブレットはアリアの足元に目線を落とす、すると違和感があった。


落雷した筈なのに地面が綺麗だった。



「よそ見してる場合?」



「うおっ!」



眼前に迫っていた模擬刀を一部の髪の毛を犠牲に避ける、切れないはずの模擬刀で髪の毛を斬られるとは……凄い鋭さだった。



「流石前衛同士の戦いって所ですわね」



「だね」



他の生徒に混じって二人の試合を観戦するルナリスとカーニャ、二人の戦いはかなりハイレベルだった。



「流石に強いなアリア」



「あんたこそ、ただのチャラ男じゃ無かったのね」



「一応レンデア家期待の長男だからな」



そう言い模擬刀を交わして距離を詰める、まただ。


見直した、そんな対等そうな言葉を使ったが彼は恐らく本気じゃ無い。


現に私の攻撃は一度彼の髪の毛を掠めただけ、それ以外は当たってるように見えて全て躱されている。



「いやー、キツイな」



そうブレットは笑顔で言う、底が見えない。


その時、ふとあの魔人事件の後、カーニャが言っていた言葉を思い出した。


『ブレットって人も怪我してたらしい』


怪我をしていた……そしてカーニャはあの時、気絶した時に男の声がしたとも言っていた。


目の怪我とあの時別行動していたとは言え恐らく彼は付近に居た事を考えると……魔人を倒したのはブレットかも知れなかった。



「よそ見したね」



ブレットの拳がアリアの顔面に当たる寸前で止まる、それと同時に終業を告げるチャイムが鳴った。



「こりゃドローかな?」



咄嗟にブレットの首元に突き付けた模擬刀がそう判断させたのか、彼はそれだけを告げ舞台を降りるとファンの女子に囲まれる、ドローなんかじゃ無い、敗北だった。


だがもう悔しいとは思わない。



「強かったねブレットって人」



「まぁ、そこそこよ」



「何強がってるんですの?」



「うっさいわね」



私は強くなる、この二人に傷一つ付けない程の前衛になる為に。


だから強い人間は居た方がいい、お山の大将にならないで済むから。



「お腹空いた、ご飯食べに行くわよ」



「う、うん」



アリアの言葉にカーニャは頷くと後ろをついて行く、だがルナリスは何も言わず背を向けようとした。



「あんたも、行くでしょ?」



「た、たまには付き合ってあげても良くってよ!」



その言葉は少し、嬉しそうだった。

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