第44話 最強の呼ばれた魔道士
広い学院内、生徒の楽しそうな談笑の声……俺も学園生活していた頃を思い出す。
あの時もそれなりに楽しかったが……魔法学院は恐らく桁違いの筈だった。
俺も学院生活をしたい所だが、やるべき事がある……そんな事を言っている暇も無かった。
「メイガスタはここか」
理事長室と書かれた扉の前に立ち止まると透過の魔法を解く、この先にメイガスタが居る……流石に魔力を隠して居てもある程度分かるものだった。
「誰か……私に用でもあるのかな?」
扉越しに声が聞こえる、気配を察知した様だった。
「中に入っても良いですか?」
「構わんよ」
何となく許諾を得たが、別に無くても入るつもりだった。
扉を開けると壁にずらっと本が並び、窓際に置かれた机に一人の老人が本を片手に座っていた。
「何年振りか……少し老けましたね」
「誰だ?」
カナデの言葉にメイガスタは本から目線をカナデに向ける、すると分かりやすく眼鏡を外して驚いた顔をしていた。
「赤い髪、整った顔立ち……いや、そんな筈は無い……」
「思い出しましたか?」
「まさか、エリスの息子……カナデか?」
「はい、6〜7年振りですね」
「生きて……生きておったのか」
信じられない、そんな表情でゆっくりカナデに近づくと顔を触る、しっかり実体があるのを確かめている様だった。
「信じられんな……」
一通りカナデの事を確認してもメイガスタは現実を受け入れられない表情をする、だがそれも無理はない……エルフィリアは滅び、生存者は居ないと言われて居たのだから。
本国は焼け野原、その他エルフィリア領土の住民も皆殺し……間違いなく歴史に残る残虐な事件、そんな中で弟子の息子が生きてるだなんて思う筈もない。
「エリスは生きているのか?」
「いえ、母も父も……皆死にました、恐らく本国で生き残っているのは俺だけだと思います」
「そう……か」
カナデの言葉を聞きメイガスタは悲しげな表情を見せる、そして再び椅子に腰掛けた。
「それで、生存報告に来た訳じゃ無いのだろ?」
流石大魔導師、察しが良い。
「はい、今俺の……なんと言えば良いのか、旅の友であるカーニャと言う子が試験を受けています、合否に関わらず、この学院で保護して貰えませんか?」
「保護?何故だ?」
何処から説明した物か……カナデはメイガスタに自身に起こった事を女神抜きに説明した。
転生者を追っている事、そしてとある転生者に復讐を果たす為の旅をしている事を。
するとメイガスタは一瞬苦い表情を見せた。
「復讐……か、カーニャの件は私が責任を持って保護する」
「本当ですか?!」
「だが、その前に……久し振りに手合わせをしないか?」
そう言い椅子から立ち上がると次の瞬間、広大な草原に立っていた。
無詠唱の転移魔法、流石としか言いようが無かった。
「そう言えば、昔メイガスタさんにボコボコにされましたっけ」
「はは、あれはちとやり過ぎたと今でも反省してるよ、10歳ちょっとの少年に少し熱くなり過ぎた……ただ、エリスの息子にも関わらず魔法の才が全く無かった事に苛立っての」
そう言いながら長い髭を触りながら笑い声を上げる、だが彼と手合わせ出来るのは良い機会だった。
大陸最強とも名高い大魔導師、彼がどの程度強いのか見極めるには丁度いい。
「それじゃあ……始めるかの」
そう告げた瞬間、ボーリング玉サイズの火球をなんの動作も無く数十発放つ、大した魔法には見えないが……それは大きな間違いだった。
一発目を軽く弾こうと剣の鋒に触れる、するとその瞬間に火球は残りの火球を巻き込んで天高く舞い上がる火柱と共に大爆発を起こした。
「凄い威力ですね、殺すつもりでしたか?」
「この歳になると手加減が出来んくてな……」
そう言いつつもメイガスタは笑みを浮かべる、何となくカナデの力量を読み取ってあの程度なら大丈夫と踏んでの攻撃だったのだが……予想以上に思わず笑ってしまった。
「とんでもなく強くなったようじゃな」
「はい、ですが……誇れる事では無いですよ」
この力を異世界の人に向けるのはあまりしたく無い、それが手合わせでも。
これは自分の力では無い、それを誇示した所で本当に俺が強い訳では無い。
だがメイガスタに力を見せず終わるのも失礼と言うもの……少しだけ見せるとしよう。
「貴方なら止められると信じて居ますよ」
そう言いカナデは天に手を掲げる、すると辺りが一瞬で薄暗くなった。
「なん……じゃ?」
突然の事にメイガスタは少し困惑しながらも空を見上げる、だがあまりにも大き過ぎて理解するのに少し時間が掛かった。
突然の薄暗さの正体は隕石だった。
その規模はかなり大きい、小さな町なら一瞬で潰せるほどの規模……流石のメイガスタも笑うしか無かった。
この規模の隕石なら落とせない事は無い、だが流石のメイガスタを持ってしても事前の魔法陣に加えて詠唱も必要になる……だがカナデはそれを無詠唱でやってのけた。
どれほどの力を付けたか確認する目的で手合わせを申し出たが……自分よりも遥かに強くなっている様だった。
「そうか……強くなったの、カナデ」
とは言え、仮にも国を背負う大魔導師……その威厳は見せないといけない。
「ちと骨が折れるの」
そう言いメイガスタは手を隕石に向けると目を閉じて瞑想状態に入った。
隕石は接近する、だがメイガスタは焦りも見せずに詠唱を続けた。
「大丈夫なのか?」
逆こっちが心配になる、だがいざとなれば隕石を消滅させる事は可能……今は何をするか見届けるべきだった。
「魔法使いにとって最も重要な事は冷静なる精神なんじゃよ」
そう告げ目を開くとメイガスタは咆哮し、手のひらから特大の火球を放つ、火球は空中で隕石に衝突すると地を揺らすほどの轟音を響かせて爆発した。
隕石は爆発の衝撃で粉々になる、異世界人で此処までの魔法を使えるとは……下手すれば転生者に勝てる程の実力かも知れなかった。
「ふぅ、ちと老体には堪える……まったく、強くなり過ぎじゃカナデ、これだと儂の立場が無いじゃろ」
「すみません」
「まぁ良い……そう言えば、カーニャだったか?その子を預かるに当たって条件がある」
「条件ですか」
「そうだ、幾つかあるが……カーニャを預けたら、暫く戻らないつもりじゃろ?」
その言葉にカナデは少し驚きを見せた。
確かにその言葉通りだったからだ。
「その事をカーニャに伝えてからじゃ、全てはな」
そう言い指を鳴らす、すると元の理事長室へと戻ってきて居た。
「試験終了まで暫くある、久方振りの再会だが生憎儂も今日はやる事があってな、明日にまた会おう」
「はい、会えて嬉しかったです」
「儂もだ」
そう笑顔で告げるメイガスタを他所にカナデは理事長室を後にする。
カーニャにどう伝えたものか。
一つ大前提として、俺はカーニャの事を大切に思っている……決して邪魔になったなんて事は無い。
出来るなら側に居てやりたい……だがそれはしない方がいい。
俺の旅には死がついて回る、勿論カーニャが死ぬ可能性だってある……あの年齢には残酷過ぎる。
わたあめと遊んでいた時のカーニャの表情は穏やかだった、出会った頃は感情を出すのが苦手だったのに……やはり彼女には同世代の友達が必要、要るのは俺では無い。
彼女とはたまたま奴隷商を通じて出会った、ただそれだけの関係性。
出来る事なら、この学院生活を通じて俺の事も忘れて欲しかった。
「取り敢えず、メリナーデ様の様子でも見に行くか」
まだカーニャの試験終了までは時間もある、たまにはメリナーデ様と酒を飲むのも悪くは無さそうだった。




