門の先
「ここは……………………」
ブランクという偽名を使い、時空間転移魔術を使って絶望しかない地獄の未来を変えようとした九条翔は全てが白く染まった世界で目を覚まして気付いた。
「ああ、そうか…………俺は……………………」
死んだんだった。と己が死んだことに悟る。
未来を変えようと皆を、世界を守ろうと愛する人を殺して無限動力を手に入れてリュマダを殺そうと覚悟を固めたはずだった。だが、九条翔は何一つ変えることが出来なかった。
絶望しかないと分かっていながら。
地獄だと理解していながら。
感情を優先させて最後まで何一つ貫くこともできずに最後は愛する人の腕の中で命を落とした。
「……………本当にどうしようもない屑野郎だ」
自虐しながら翔は立ち上がって背後を振り返る。
そこには巨大な門がある。
「地獄の門か…………俺にはお似合いだな」
自分は地獄に行くべき人間だと翔は誰よりも自覚している。
自分の全てを真正面から受け止めてくれた親友を救えず、どんな時でも笑顔を見せてくれる愛する人も護れず、そしてこんな屑に寄り添ってくれる仲間も助けられず、ただ傷つけ、殺してきた自分はその罪を償わなければいけない。この身を地獄の業火に焼かれ続けるのは当然のことだ。
「俺は何がしたかったんだろうな……………………」
抗うしかなかった。それしかできなかった。だけど抗うだけで運命を何一つ変えることはできなかった。
無力で無価値で何の役にも立たない。千年間の努力も無意味に終わった。
だからせめてこれから行われる罰だけど受け入れよう。
翔はそう思って自らの意思でその門を開いた。
待ち受ける地獄に自らの意思で進む。
―――筈だった。
「なんで、なんでこんなところにいるんだよ……………………」
そこには地獄なんてなかった。
自分に判決を下す閻魔さえも存在していなかった。
そこにいるのは九条翔が守りたかった人達。もう二度と会う資格すら許されない人達がまるで自分が来るのを待っていたかのようにそこにいた。
「俺は……………俺はお前等に会う資格なんて……………………」
「親友に会うのに資格なんているのかい?」
「守れなかった……………救えなかった……………何一つ、全部………………」
「それは私達も同じなのです」
「皆が守ろうとした人も、この手で殺したんだ……………………」
「ごめん。君ばかりに辛い思いをさせて」
「翔の罪は私達も同じなのです」
「違う!」
翔はその罪を否定する。
「俺が強ければ、もっと力があれば、自分の意思を貫く覚悟があれば変えられたんだ! だけど俺は抗うだけで運命も未来も何一つ変えることができなかった! 千年も頑張ったのに何の意味もなかった! 俺の弱さが皆を殺したんだ!!」
もっと力があれば、もっと強い心を持っていれば何か変れたかもしれない。だけど、弱かったから何も変えられなかった。
この先の未来が絶望と地獄に満たされることを知っておきながら何も変えることができなかった。
何においても中途半端でその中途半端のせいで大切なものを失った。
後悔と自責に苛まれる翔をローレルはそっと抱きしめる。
「未来は変わったのです。他の誰でもない翔のおかげで」
「そんなこと……………………」
「あるのですよ。本当に本当に少しだけですが、確かに未来は変わったのです。他の誰でもない翔が私達の為に頑張ってくれたおかげで」
「それでも俺は…………俺は…………………ッ! お前を―――」
殺そうとした。それは紛れもない事実だ。
「私がそんなことを気にする女に見えるのですか? 大好きな翔になら私は私の全部をあげられるのです」
翔の言葉を、罪の鎖をローレルは一つずつ壊していく。
「千年も私達の為に頑張ってくれてありがとうなのです。そしてごめんなさいなのです。翔にだけ辛い思いをさせてしまって……………」
「……………………死ぬわけにはいかなかった。リュマダを殺すまで死ぬ訳にはいかなかった。なのに俺は! 俺は何一つ成すこともできずにくたばった!! そんな自分が憎くて、許せなくて……………ッ!」
誰よりも自分を憎み続けた。
そんな翔の頭をローレルは愛しく撫でる。
「もういいのです。もう自分を憎む必要はどこにもないのです。ゆっくり休むのですよ。これからは私が、私達がずっと傍にいるのです。後の事は今を生きる私達に任せるのです」
彼女の言葉が温もりが凍てついていた翔の心を溶かしていく。
その凍てついたものが翔の双眸から溢れ出る。
「ごめん、ごめん! 守れなくて、傷つけて、救えなくてごめん! 許してくれ! 俺を許してくれ!」
「はい。許します」
自分を憎み、許そうとしなかった翔は千年経った今になって初めて許しを懇願した。
それをローレルは受け入れて許した。そして愛しい人をいつまでも抱きしめ続けた。二人のその光景を煌と仲間達は苦笑しながら見守っていた。
九条翔は勇者でもなければ英雄でもない。
特別な力もなければ何かに特化したものもない凡人だ。
勇者でも英雄でもないただの凡人がいくら運命に抗ったところで何も変えられない。
それを自覚しながらも九条翔は千年も抗い続けた。
仲間の為に、親友の為に、そして愛する人の為に千年も抗い続けたその結果。本当に僅かに運命を変えることが出来た。
それはとても些細な変化。一ミリもない変化。だけどそれでも変化であることには変わりはない。
それがこれから先の未来にどう変化をもたらすかはわからない。それを生かすも殺すも全ては今を生きる自分達に託された。




