お人好し達
「ハッ!」
「ヌンッ!」
勇者として召喚された三人は異世界に訪れて早くも二週間が経過し、煌は訓練場で騎士団長と模擬戦を繰り広げていた。初めて剣を手にして二週間とは思えない速度で上達していく煌は既に騎士団長と同等の実力を発揮している。
「流石に勇者として召喚されただけはあるな、コウ! もう俺と拮抗するとは!」
「いえ、まだまだですよ。騎士団長」
称える騎士団長の言葉に謙遜で返す煌に騎士団長は豪快に笑った。
「ガハハハハハハハ! 謙遜もいいが、こっちも勇者には強くなってもらわねえと困るからな! 次に魔族と戦争するときは期待してるぜ!?」
「まぁ、出来る限りは頑張りますよ」
背中をバシバシ叩きながら言う騎士団長に苦笑いする。
「あの魔法使いの嬢ちゃんももう王国一の魔法使いと戦えている見てねぇだし、これは今回は期待できそうだ」
「今回?」
「ッ!? ………………いや、次の戦争ならお前達のおかげで勝てるって意味だ! ほら、休憩は終わりだ! もっかい模擬戦を行うぞ!」
強引に訓練に戻る騎士団長の言動に煌は「はい」と気に留めていないように返答して訓練に戻る。
「【帯びよ、炎。荒ぶる轟炎は一切合切の全てを焼き尽くし、焦土と化す】」
「【全てを包み込む大いなる水よ。我が眼前の脅威をも呑み込め】」
別の場所で二人の女性が互いに詠唱を口にして対峙している。
白い髪に銀色の瞳。顔立ちも端正なもので白のローブを羽織っている。歳も三人と変わらない少女とローレルは互いに魔法を行使する為の詠唱を唱えて魔法を発動する。
「【ヴォルケーノ】!」
「【アクアコメル】!」
炎と水の魔法は放たれ、相殺される。
同威力の魔法によって互いに消滅した魔法。その結果に少女は微笑む。
「お見事ですローレル様。魔法を習い始めて二週間で王国一の魔法使いである私と互角の魔法を繰り出されるとは」
「ラヴァンさんの教えが上手いからですよ。それに想像は得意ですからイメージもすぐに固められましたし」
伊達にオタクをしているだけあって妄想というか想像は得意だったローレルの特技が異世界で役に立つ時が来るとは本人も思いも寄らなかっただろう。
「いえ、ローレル様の努力の成果です。これほどの魔法が使えるのなら次の戦争ではきっと活躍なされるでしょう。そうなれば師事をした私も喜ばしいことです」
「戦うのは怖いですけど、私は一人ではありませんから頑張れますよ」
「……………………そういえばあの男は?」
ローレルの言葉にラヴァンは僅かに眉根を寄せて尋ねた。
「翔ならきっと部屋で魔術の勉強だと思います。『何もできないままは流石に不味い』と言ってましたから」
「……………………そうですか。足手纏いの自覚はあるようですね」
後半は口を押えて小声で言ったつもりだろうが、しっかりとローレルの耳には届いている。
魔術師は最弱のクラス。そのせいか卑下されることも多い。
ラヴァンも魔術師だからと翔を見下している一人なのだろう。
普段なら物申したいローレルだが、話題を変えた。
「それよりもう一度しませんか? 今度は別の魔法を試してみたいのです」
「ええ、構いません」
二人はもう一度互いの魔法をぶつけ合わせる。
「許せないのです! 何も知らないのに翔のことを馬鹿にするなんて!」
「それは僕もちょっとカチンってくるね」
三人はいつものように翔の部屋に集まると、ローレルは早速愚痴を溢した。
大切な幼馴染を馬鹿にされて二人は怒りを募らせるなか、翔は嘆息しながら言う。
「そんなことはどうでもいい。むしろ、そう思ってくれていた方が色々と動きやすい」
見下して油断してくれた方が翔にとっても都合がいい。
下手に警戒される方がよっぽど面倒だ。
「それよりもお前等はやることはやっているのか? 後一週間しかねえぞ?」
「勿論。騎士団長から兵士までの実力と警備の配置。全て把握している」
「私もこの城の構造はある程度わかりました」
一週間後の脱走計画に三人は力を身に着ける以外にもやるべきことをこなしていた。
煌は騎士や兵士の実力の把握、警備の配置場所と交代の時間帯。
ローレルは城の構造。
翔はこの世界の知識と情報。
それぞれに役割を分担して調べることを調べていた。
「俺も書庫から本を引っ張り出してきた色々とわかった。まずこの世界には主に三つの種族がいる。一つは俺達人間族、二つ目は魔王が率いる魔族、三つ目は獣人やエルフなどの亜人族だ。戦争をしているのは人間族と魔族の二種族だけで亜人族はどちらにも属していない」
「おおっ! 獣人やエルフには会ってみたいです!」
「少し黙ってろ」
オタク魂を燃やすローレルを一蹴して翔は話を続ける。
「まず魔族は厄介だ。基本的なスペックは人間以上。一体の魔族を殺すのに人間族は十人は殺される覚悟を持たないといけないと言われているほどだ」
「そんなに強いのか……………………」
「ああ、だから万が一に遭遇した場合は逃げることを優先にしろ。特に煌」
「ぼ、僕……………………?」
「お前は心底呆れるぐらいのお人好しだ。困っている奴がいたら何の得もないのに助けに行くほどの馬鹿だ」
「そ、そんなことはないと思うけど……………………」
「いいや、断言してやる。お前は大馬鹿だ。どんなクズも困っていたら身を挺して助けるような馬鹿だ。そんな馬鹿はこの世界では早死にする。もっと非情になれ、馬鹿」
「う…………」
馬鹿馬鹿と連呼されて少し呻く煌は困ったように頬を掻く。
「あはは……………厳しいな」
「他の奴等はともかくお前等が死んだら目覚めが悪い。だから自分の命を優先にしろ」
「……………………努力するよ」
「努力する以前の問題だろうが、ボケ」
首を縦に振らない煌に悪態を吐くと翔は次にローレルに視線を向ける。
「ローレル、お前もだ。煌ほどじゃなくもお前も十分なお人好しだ。助けるな、とは言わねえが自分の命を最優先にしろ」
「……………………頑張るのです」
「お前等な……………………」
どちらも首を縦に振らないお人好し二人に苛立ちを募らせていく翔に二人は苦笑しながら微笑み合う。
口には出さないが、翔も二人に負けないぐらいのお人好しだ。
ただ素直になれないだけであって、必ずなにかしらの理由をつけてなんとかしようとする。
つまり翔は――――
「ツンデレだね」
「ツンデレです。ギャップ萌えです」
「お前等ぶっ飛ばすぞ?」
睨むも二人はどこ吹く風のようにあっさりと受け流す。
「………………次に亜人族だ。亜人族は各種族ごとに魔法も能力もばらけている。エルフなら四属性による精霊魔法、獣人なら高い身体能力などあるが、中には固有魔法と呼ばれる魔法を持つ奴がいる」
「固有魔法ですか…………?」
「ああ、そいつにしか使えない特殊な力で魔法使いのお前がイメージを具現化させる魔法とは違って能力は一つに定まっている。亜人族には好戦的な奴もいるから注意はした方がいい」
この世界に存在する三種族に関する情報を伝えると翔は本題に入る。
「そして本題だ。お前等、この世界に召喚された時にあの側近爺が言っていたことを覚えてるか?」
「ああ」
「えっと…………」
「……………………リュマダ神より授かった失われし魔法、古代魔法。俺達をこの世界に召喚することができる魔法が存在するということは俺達を元の世界に帰す魔法も存在するかもしれないということだ。側近爺が古代魔法の一つと言っていやがった。つまり古代魔法は複数存在するのは確かだ」
「つまり私達は……………………」
「ああ、元の世界に帰れる可能性はある」
翔の言葉に嬉しそうに笑みを作る二人。憧れた異世界でもやはり家族や友達が恋しいのだろう。
「あ、でも僕達がその古代魔法は使えるのかい?」
最もな疑問を煌は翔に告げる。
元の世界に帰れる手段があっても使えなければ意味がない。
「……………………ここからは俺の推測になるが、多分俺達三人一緒なら帰れるはずだ」
「どういうことです?」
「今ならわかるが、俺達が召喚された場所にある魔法陣は魔術師が使う術式が施されていた。恐らくはあの魔法陣を起動させるには要素が三ついる。一つは術式を施されるだけの知識、二つ目は異世界へ繋げる道を作る魔力、三つ目は召喚する為に必要な固定概念だ」
「固定概念?」
「煌が勇者として召喚されたように”勇者”という概念を術式に固定させて狙いを定める。それによって地球から勇者に相応しい者を召喚する。逆にその術式を書き換えて勇者に相応しい者を逆召喚することが出来れば……………………」
「僕達は帰れる、というわけか……………………」
「ああ。だが、さっきも言ったようにこれは俺の推測だ。間違っている可能性の方が高いが、もし、万が一に俺の推測通りなら俺がその術式を書き換え、ローレルの魔力で道を繋ぎ、煌の勇者としての固定概念を利用すれば上手くはずだ」
偶然か奇跡か、三人がそれぞれに必要なクラスを持っている。
これが翔の言う三人一緒ならという意味だ。
だが―――
「一人でも欠けたら俺達は帰れない。特に煌。お前は鍵だ。俺達の世界で勇者として召喚された煌がいなくなければ完全に俺とローレルは帰る道を失くす。俺やローレルならまだなんとかなるが、お前は替えの利かない唯一無二の存在だということを忘れるな」
「わかった…………」
親友の言葉に神妙な顔で頷く煌は二人の為にも死ぬことは許されない。
「あれ? それなら今からでも翔が術式を書き換えれば帰れるのでは?」
「無理だ。これは単純に俺の力量不足もあるが、あのデカい魔法陣を書き換えるのにも時間はいるし、そもそも確証がない。下手に手を加えて間違いが起きればそれこそ帰れなくなる」
「そうですか…………………それならもう少しは異世界が堪能できるということですね!」
「そう思っとけ、お前は」
瞳を輝かせるローレルにぶっきらぼうに返す。
「ありがとう、翔」
「あぁ? なんだよ急に」
不意に礼を言われて訝しむ翔に煌は告げる。
「僕達の為にそこまで調べてくれたんだろう? 正直、君がいなければ僕もローレルも帰れる方法なんて思い寄らなかった。他の誰でもない君だから僕達は希望を持てる。だからありがとう。君の親友でいられることに僕は嬉しく思うよ」
「私もです。なんだかんだ言うのも常に私達のことを心配してくれている。そんな優しい翔が私は好きです」
「~~~~~~~~~~~~~っ!?」
翔の顔が真っ赤に染まった。
「うるせぇ! お前等がいねえと元の世界に帰れねえから仕方なく調べただけだ! ほら出てけ! さっさと自分の部屋に戻りやがれ!!」
「ハハ、そうするよ」
「わー、怒ったのです」
「うるせぇ!!」
大声を喚き散らしながら強引に二人を部屋の外に追い出す翔に二人は笑みを溢しながら逃げるように部屋から出て行く。
「……………………礼を言うのは俺の方だ、ボケ」
一人残された部屋で小さくそう呟いて翔は再び書庫から持ってきた本を開く。
「お前等だけは必ず元の世界に帰してやる……………………」
こんなクズと一緒にいてくれるお人好しのお前等の為にも……………………。




