外国勢力による“静かな監視”
学院の石畳を歩くたび、
レティシアは背中のどこかに冷たい視線を感じるようになっていた。
(今日は絶対に誰もいない、そう信じたい……
いや、お願いだから誰もいないでくれ……)
しかし振り返ると、やはり“いた”。
●ユールグ(連邦)――沈黙の観測者
木々の間、陽光の差す中庭の端。
連邦の青年ユールグは、相変わらず機械のように無表情で立っていた。
「……君の行動は、すべて記録している」
突然の宣告のような言葉。
レティシアは肩を跳ね上げる。
「い、今のも!? 今、俺ただ噴水で水飲んだだけだぞ!?」
ユールグはほんの僅かに瞬きをし、続けた。
「因果の流れが、君を中心に収束しつつある。
些細な振る舞いにも意味がある」
(いやいやいや、意味なんてないから!
寝坊したし、朝ごはんパン落としたし!
全部ただの庶民的失敗だから!!)
彼には悪意がない。
それどころか興味と使命感だけで動いているのが分かる。
だが――だからこそ、逃げられない。
人間の情緒ではなく、“観測対象”として見られているのだから。
レティシアはそっと後ずさる。
それをユールグは、淡々と目で追う。
「心配はいらない。干渉はしない。あくまで観測だ」
(いや十分干渉してるって!
存在がもう干渉だから!!)
●セラフィナ(帝国)――優雅な保護者を装う影
そしてもう一人の影。
セラフィナは図書館の階段で彼女を待つように立っていた。
金の縁飾りの制服が光を受け、
その微笑みはまさに“皇国の貴族”といった風格だった。
「どうか安心なさい、レティシア嬢」
柔らかな声。だが、目は獲物を逃さぬ鷲のように鋭い。
「あなたほど重要な方が、不当に扱われるなど……
帝国として見過ごせませんわ」
(え……何その国家レベルの保護宣言。
いや俺、本当にただの一般学生なんだってば……!)
セラフィナは一歩近づき、
まるで高価な宝石を扱うような仕草でレティシアの肩に手を触れた。
「どうか恐れずに。
あなたを欲望の渦に巻き込ませはしません。
帝国はあなたを“正しく扱う場所”を持っていますの」
(だからその“扱う”って言い方が怖いんだよ!!
俺、家畜でも希少動物でもないから!!)
笑みは優しい。
だが、その裏には
“帝国は彼女をどう使うか”
という冷徹な政治計算が透けて見える。
■レティシアの小さな悲鳴(心の中だけ)
(なんでこんなことに……
俺、今日の授業の予習でいっぱいいっぱいなんだけど……
外交戦の中心とか、ホント無理……)
平穏を望む少女――中身は元一般社会人。
だがその願いとは裏腹に、
世界は彼女を中心に静かに動き始めていた。




