第2章ラストを締める終幕描写
夕焼けの最後の一欠片が、学院の尖塔に引っかかったように滞り、
空の色は赤とも橙ともつかぬ曖昧な薄膜に変わっていた。
その膜の一部が、まるで水面に小石を落としたように――ゆらりと震える。
空が揺れるはずなど、本来あり得ない。
だが確かにそこには、世界の“皮膚”が撓んだような歪みがあった。
ミルヴァは立ち止まり、手元の本をゆっくり閉じる。
その瞳は夕暮れの色を映すことなく、もっと冷たく深い層を見ていた。
ミルヴァ
「……もうすぐ。
何かが“こっちへ”寄ってくるわ」
声は囁きでも悲鳴でもない。
ただ事実をそのまま告げる、不吉な予告。
アストンもまた、空の亀裂を測るように視線を巡らせる。
彼の表情は珍しく険しい。
アストン
「学院の平穏は、長くは続きません。
その中心にあなたがいる以上――避けられない」
淡々と言いながら、どこか哀悼の気配が滲む。
まるでこれから起こる“揺れ”を既に知っている者の声音だった。
レティシア――その内側の健次郎は、
不意に胸を締めつけられるような息苦しさを覚えた。
(……なんだよ、これ……
空が……割れた……?)
視界の端で、薄い夕空がひび割れたガラスのように細かく軋み、
かすかな光の線が走る。
音はない。だが、確かに“壊れかけている”と直感させる揺らめき。
冷たい風が吹き抜けたような気がして、思わず肩をすくめた。
ミルヴァとアストンは沈黙したまま、同じ一点を見つめている。
その二人の表情が、レティシアの背筋を静かに冷やす。
夕暮れはゆっくりと色を失い、
裂け目はやがて闇に溶けるように消えていった。
だが――消えたのは見た目だけだ。
“揺れ”は確かに近づいている。
次の章で、学院そのものを包み込むような形で。
――こうして第2章は静かに幕を閉じ、
微かな破綻の振動だけを残して夜へ沈んでいく。




