学院派と聖務院派の学生が水面下で睨み合う
ゼフィル教授と調査官の火花が散った講義は、
結局そのまま“凍りついた空気”を抱えたまま終了した。
だが――本当に怖いのは、教室を出てからだった。
廊下に出た途端、
いつもは雑談の声で溢れている空間が、
今日は妙にざらついている。
レティシア(健次郎)は足を止めた。
耳が勝手に、周囲の声を拾ってしまう。
――学院派学生たちの低い怒声。
「ふざけるなよ……宗教の権威を講義に持ち込むなんて。」
「学院の自治を侵すつもりか、あいつら。」
彼らの視線は研ぎ澄まされ、
まるで獣が縄張りを荒らされた時のように険しい。
対して――
――聖務院派の学生たちは、逆に揺らがない静けさをまとっていた。
「神意に敏感な者が現れたのなら、当然の観察だ。」
「学術だけで世界が測れると思っているから、こうなる。」
静かに、しかし揺るぎない宗教的確信を帯びた声。
両者の間に走る空気は、
言葉にこそならないが、
金属同士が擦れ合うような緊張を帯びていた。
ほんの数段の階段を挟んだだけで、
完全に“陣営”が分かれている。
火種は落ちている。
あとは誰かが踏んだ瞬間、爆ぜる。
レティシア(健次郎)は、
その中心に立たされている自覚がありすぎて――動けなかった。
手に持つノートが、汗でじっとり湿っていく。
(……ちょっと待ってくれ。
学院派と聖務院派が睨み合うとか……
これ、もう学生同士のケンカとかじゃないだろ……?)
(なんで俺が……?
ただ普通に、原作の火種を潰して穏便に済ませたかっただけで……
なんで“派閥の代理戦争の引き金”みたいな位置に……?)
視線が痛い。
誰も直接は言わないが――
“原因はレティシアだ”という空気が、すでに共有されている。
学院派の学生たちが
「レティシア様は巻き込まれただけ」と庇う視線を送り、
聖務院派は
「選ばれし者の兆し」と、妙に温度の高い敬意を向けてくる。
どちらも答え合わせのように、
彼女の存在を“象徴”として扱い始めていた。
(やめろ……頼むからその“象徴”を俺に重ねるな……!
どちらに転んでも、後戻りできないじゃないか……!)
ノートを握る指先が震えた。
だが、誰も彼女の震えには気づかない。
それぞれが自分の“正しさ”を握りしめ、
相手を睨みつけることに必死だった。
こうして――
学院派 vs 聖務院派の“水面下の前哨戦”は、
静かに、確実に火を噴き始めた。




