87 クレア視点のパルトちゃん
今回はクレア視点でのパルトを描きました!
クレアはパルトに何を思うのでしょうか。
「まじかぁ……やっばぁ〜!」
クレアは驚嘆の声を漏らしなら、目の前のミノタウロスを見ていた。
炎術スキル【ブレイズインパクト(炎斬波)】。
クレアが編み出したエクストラスキルの1つであり、剣に纏った炎を魔力操作で凝縮し、前方へと放つ炎術スキル。
その斬撃はクレアの身長の数倍にも及び、触れたものだけでなく、近くのものまでも焼き尽くす劫火のようなスキル。
これまで、数々の魔物を屠ってきたクレアの必中の大技であった。
それが防がれたとあっては、クレアも驚くしかない。
威力もスピードも、タイミングだって申し分なかったブレイズインパクト(炎斬波)を、あのミノタウロスは斧で防ぎ切ったのだ。
だが、クレアの顔に浮かぶのは焦りではなく、歓喜だった。
最近は命を賭して戦う相手に出会うことも少なく、物足りない日々を送っていた。
クレアは最年少でAランクに登り詰めた天才であり、18歳という若さで"冒険者"という過酷なピラミッドの頂点に近いところにいる。
それは周りからすれば、偉大で崇高なる実績であろう。
だが、彼女にとっては通過点に過ぎない。
クレアの目標は、最強のSランク冒険者だ。
Sランク冒険者ではなく、その中でも1番強い者を目指している。
だから、常に強者を求めていた。
ここ最近、遠征依頼を受けるようにしたのにも理由がある。
このままこのトゥウランの街に居ても、自分は成長できないのではないかという疑問が湧いたからだ。
遠征先では、強敵と出会えるのではないだろうか。
そいつらと戦えば、もっと強くなれるのではないか。
遠征に参加したのは、そう考えてのことだった。
しかし、強敵なんてそう簡単に出会えるものではない。
遠征先でも、相手にするのはBランクの魔物が関の山。
心を躍らせるほどの……乾いた心を潤すほどの相手に出会うことはなかった。
だが、今は自分の攻撃をものともしない相手が目の前にいる。
自分のエクストラスキルを防ぎ、なおもこちらに殺気を向ける強者がいる。
彼女がそれに歓喜するのは必然だろう。
クレアは、ミノタウロスとの戦いが楽しくて仕方がなかった。
クレアがずっと追い求めていた命を賭した戦いが、目の前に転がっている。
その事実がクレアの胸を大きく揺さぶり、歓喜させたのだ。
クレアは思う。
こいつはわたしが喰らってやろう……と。
喰らいつくして、自分は次のステップへと進むのだ。
そう思い、真紅の剣に炎を纏わせた。
だが、クレアはそこである違和感に気づいた。
妹弟子であるパルトから感じられる違和感。
それがクレアを冷静にさせた。
(あれ……パルト、怒ってる……?)
パルトから漏れ出る殺気。
それは今まで感じたことがないほどに強烈で、本当にパルトなのかと疑うほどだった。
クレアはそんなパルトを見て嬉しく思う。
パルトには、初めから自分と同じ匂いを感じていた。
強さを求め、強敵を求める姿勢は自分によく似ている……と。
その理由が復讐であれ何であれ、自分と同じ方向を目指している者をクレアは喜んで受け入れる。
自分の理由だって自慢できたものではないし、強くなりたいと願う者を否定する気などさらさらなかった。
パルトが強くなることは、自分自身のさらなる成長にも繋がるはず。
クレアはそんな希望を抱いていたのである。
パルトが魔力を解放した。
その魔力は彼女の周りに無数の氷の結晶たちを発生させ、蒼い刀身が氷の魔力で揺らいで見えた。
「お……氷術だね!習得したんだ!」
嬉しそうに笑うと、パルトは真剣な顔で頷き返す。
それを見て、クレアは決心した。
ゆっくりと剣先をミノタウロスへと向けたパルト。
「次はわたしが……」
その言葉に、クレアは喜びの意を示す。
「もちのろん!」
その言葉の直後、パルトは強烈な一歩を踏み込んでミノタウロスへ突進を始めた。
クレアはパルトの行く末を見守ることにした。
咆哮を上げるミノタウロス。
だが、怯むことなくパルトは突き進む。
駿歩による移動も、踏み込みは申し分ない。
彼女はミノタウロスの前に瞬時に移動すると、魔力を纏う蒼剣を振るった。
「【乱れ狂う雹】!!!」
パルトの言葉に誘い出された3本の氷柱が、ミノタウロスの周りに生み出される。
そして、その氷柱から無作為に放たれた雹の弾丸が、ミノタウロスへと襲いかかった。
「グ……ガァァ……」
大量の氷礫を全身に撃ち込まれ、ミノタウロスが呻き声を上げる。
激しい衝撃とともに巻き上がった氷煙が、牛の魔物を飲み込んでいった。
(スキルの発動……思ったよりもスムーズだなぁ。合成スキルは不得意……というわけじゃなのかな?)
クレアはパルトの魔力の流れを分析していた。
ダビド師匠に教えられたことだけはあって、彼女の魔力操作は完璧だ。
【駿影】や【駿歩】などの身体強化スキルはもちろんだが、風術スキルや水術スキルについても、魔力操作から発動までがとてもスムーズで問題は特に何もない。
でも、魔力や魔力操作の応用については、あまり知らないようだった。
その最たる例が、パルトがさっき使った合成スキル。
四大元素である火水風土の属性因子を組み合わせて、強力なスキルを発動する技術。
以前のパルトは、その合成スキルの原理を理解していなかったので驚いたものだ。
おそらくは……教えてもらう前にダビド師匠が殺されたのだろう。
クレアはそう推測し、姉弟子である自分がパルトを導こうと決めた。
基礎は習っていても、それを活かす方法を知らなければ、成長は止まってしまう。
基礎を疎かにしてはならないが、基礎だけで臨める境地など高が知れている。
クレアはそう理解していたのである。
パルトには才能がある。
クレアの助言によって、合成スキルを理解してすぐにものにした。
パルトは教えればすぐに吸収するし、すぐに強くなる。
それをダビド師匠もわかっていたのかもしれない。
(妹弟子よ……ともに強くなろう。)
氷煙の前で立つパルトの背中を見て、クレアはそう笑った。
……と、辺りを覆っていた氷煙が、ミノタウロスの下へと吸い込まれるように収束し、再び辺りに吹き荒れた。
顔を打つ冷たい風が吹き荒れる中、パルトの先に真っ赤に光る双眸が見える。
鎧の一部は砕かれているが、ほぼ無傷の牛の魔物が咆哮を上げた。
それを見て、クレアは瞬時にパルトの横へと移動する。
チラリと彼女へ視線を向けると、パルトの口元に笑みが浮かんでいるのが見た。
それにつられて、クレアもニヤリと笑う。
「……ここからは2人で行くよ。」
「うん……。」
クレアが真紅に燃える魔剣を構えた。
パルトが師匠ダビドから貰い受けた白銀に光る蒼剣を、ミノタウロスへ向ける。
「ここからは一気に畳み掛けるよ……ついて来れる?」
「バカにしないで……わたしは1人でも戦える。」
強気のパルトを頼もしいと思った。
クレアはくすりと笑うと、ミノタウロスを見て魔力を全解放する。
パルトもそれに続いて魔力を解放し、声を上げる。
「いいね!……じゃあ、お先に!!」
「あ……!」
クレアはパルトを出し抜くように、ミノタウロスへ駆け出した。
その後を追うように、悔しさを顔に浮かべてパルトも走り出す。
そんなクレアとパルトを見たミノタウロスは、威嚇するように再び強大な咆哮を上げた。
まるで「かかってこい!」とでも言わんばかりの咆哮を。
クレアがパルトに抱く思い。
師匠であるダビドの死を受け止め、姉弟子としての役割を見出したようです。
今回もご一読くださいまして、ありがとうございました!




