68 鍛治師からの贈り物
今回が幕間と言いましたが、ひとつ話を挟みます。
今回はツヴェルクとのお話。
タイトルのとおり、何かをもらえるようです。
わたしは、ツヴェルクの工房へと向かっていた。
泊まっている宿の受付に、近々工房へ来いと伝言が残されており、その約束の日が今日であった。
初めは何事かと思ったが、いろんなことがあって工房へ行けてなかったのは事実だ。
これは良い機会だと思ったわたしは、彼の鍛治工房"炎と槌"に足を運ぶことにしたのである。
伝言には、わたしに渡したいものがあるとも書かれていた。
宿から少し歩いたところ、街の中でも緑が多い場所に彼の鍛治工房はある。
煉瓦造りの建物と、庭にある大量の薪。
その様相は、まさにこれぞ鍛治工房といった感じで、金属を打つ音も中から聞こえてくるし、雰囲気は抜群だった。
「こんにちは……」
ドアをノックして、中を覗き込むと、まず見えたのは壁や棚、机に綺麗に並べられた武器や防具たちだ。
その横……隅の方には金槌や包丁、ピッケルなどの日用品も並んでいて、多くの金属製品が静かに佇んでいる。
冒険者向けの商品だけでなく、市民の生活に役立つものまで幅広く取り扱っているんだなと、わたしは感心しながら眺めていった。
ふと、正面に視線を向けるとカウンターがある。
今、そこには誰もいないが、その奥にある扉の先からトンカンと金属を打つ音が聞こえるので、ツヴェルクはそこにいるんだと勝手に想像していた。
だが……
「おい……」
「ひゃっ……!!」
不意を突かれて飛び上がり、そのまま体を捻って反転。
咄嗟に、剣の柄に手をかけた。
「声かけただけで、斬られちゃ敵わんぜ……」
目の前にいたのは、髭を結ぶリボンが可愛いドワーフ族の男。
「す……すみません……つい……」
わたしが顔を赤くして謝ると、ツヴェルクは「気にすんな。」と一言だけ告げた。
「わざわざ来てもらってすまんな。」
ツヴェルクはそう言いながら、カウンターまで移動すると、担いでいた紙袋をドカッと下ろす。
中には、リンゴや肉、野菜などの食材が入っていて、買い物帰りだとわかった。
「いえ……近いので全然……」
わたしがそう告げると、ツヴェルクは髭の奥で笑った。
そのまま少し待つようにと告げ、ツヴェルクは奥の扉の中へと消えていく。
だが、すぐに出てくると、カウンターにあるものを丁寧に置いた。
「これを見てくれ。」
そう促されたわたしは、ゆっくりとカウンターに近づくと、その品に視線を落とす。
ツヴェルクが丁寧に広げていくそれは、服のセットアップ。
1つはビスチェスカート。
黒を基調としているが、少し緑が混じった青色がとても印象的で落ち着いた色合いだ。
スカートの縁には赤いラインが入っており、それが可愛らしさを創出している。
もう1つは、その上に羽織る上着だろうか。
ボレロのような形状をしており、右肩にはツヴェルクが打ったこの剣と同じ紋章がついている。
これも緑が混じる青色がとても綺麗だった。
「これは……?」
「お前さんへの土産だ。」
ツヴェルクは腕を組んで小さな笑みを溢したが、わたしは突然のことで驚くばかり。
「い……いや……こんな綺麗な品……もらえない!」
「そう言うな。これはお前さんへの報酬でもある。」
わたしは、ツヴェルクの言っている意味がわからなかった。
ツヴェルクから依頼を受けてはいないはずだけど……なぜ報酬を……?
だが、そんな疑問は、ガイドさんがすぐに解消してくれる。
『これは……おそらく先般のワイバーン……その素材で作られた装備であると推測します。』
それを聞いてピンときた。
先般のワイバーン襲撃の件で、現在トゥウランの街にはワイバーンの素材が溢れ返っていると、ギルドで聞いた記憶がある。
ワイバーンは下位とはいえ、ドラゴンの一種。
素材として、余すところなく使えると聞く。
現に、ガルシュたちギルドは全てのワイバーンの死骸を回収し、解体を進めながら商人たちとどの販路で売り捌くかを議論しているようだ。
だが、それでも余るような話を聞いており、その恩恵がツヴェルクの工房にも届いたと言うことだろう。
「これはワイバーンの素材を使っている。そして、それはお前の活躍もあって手に入ったとギルマスから聞いた。だから、これはお前の報酬で間違いない。」
ツヴェルク曰く、素材を持ってきたのはギルマスのガルシュで、わたしのために何か作ってくれと彼からお願いされたとのこと。
なので、この装備を作ってくれたそうだ。
それを聞いて、わたしはとても嬉しくなった。
嬉しくなったが、どうしても気になることが1つだけあった。
「それは……とても嬉しいです。でも、1つ聞いても……?」
「……なんだ?改まって……。」
「これ……ツヴェルクさんが作ってくれた……んですよね……。」
少し歯切れ悪く聞くと、ツヴェルクは眉を顰めた。
「どういう意味だ……?」
「あ……いえ……かなり可愛らしく作ってくれているから……ツヴェルクさん……すごいな……と……。」
そこまで伝えると、ツヴェルクにはわたしの意図が伝わったらしい。
彼は大きなため息をついた。
「それは俺じゃなく、孫がデザインしたんだ。」
「お孫さんが……?」
ツヴェルクは大きく頷くと、奥の扉に向かって声を上げた。
「マーシャ!!お客だぞ!!」
「……えっ!?はぁ〜い!!今行く!!」
可愛らしい声が聞こえ、ドアの奥からドカドカと慌ただしい音が聞こえる。
そして、勢いよくドアが開かれると、ツヴェルクよりも背の低いドワーフ族の女の子が姿を現した。
「孫のマーシャだ。鍛治修行中でな……俺んところに住み込みで修行しとる。」
ツヴェルクにそう紹介され、マーシャはニコニコと笑った。
「こんにちは!あなたがパルトさん!?私、マーシャです!よろしくです!」
どことなくツヴェルクに似ているが、目はパッチリしていて、とても可愛らしい顔立ちをしている。
本当に孫なのかと疑うほど……。
ツヴェルクはそんなわたしの頭の中を見透かしたように、「間違いなく俺の孫だ。」と眉を顰めた。
「あはは!よく似てないって言われるもんね!」
マーシャはそう笑いながら装備を手に取り、わたしの前で広げ直す。
「これ、じいちゃんが作ったけど、デザインはわたしがしたんです!じいちゃんからパルトさんのこと聞いて、想像しながら作ってみました!」
マーシャが嬉しそうに笑うので、わたしもそれに釣られて嬉しくなった。
「素材は無料だし、せっかくパルトさんのために作ったのでもらってください!」
「そ……そういうことなら……喜んで!」
それを受け取ると、マーシャは試着室で着替えてみてはどうかと提案してくれたので、わたしは喜んでそれを承諾した。
こんな可愛らしい装備なら、すぐに着てみたい。
わたしだって女の子。
オシャレくらいはしたいのだ。
そのまま案内された試着室で、わたしは貰った装備に着替えさせてもらう。
2つとも本当に着ているのかと思うほど軽く、着心地もかなりいい。
まるで新たに生まれ変わった……は言い過ぎだが、わたしは心を一新される思いで袖に手を通していく。
すると、ガイドさんの声が頭に響いた。
『どちらの装備にも風術耐性、風術効果向上、軽量化が付与されているようですね。』
さすが風属性を持ち、風術スキルを得意とするワイバーンだ。
そんなことを考えながら、わたしは試着室を出た。
「うわぁ〜!似合ってますね!とっても可愛いです!!よかった!」
試着室から出ると、わたしを見てマーシャが喜んでくれる。
大袈裟だなと思う反面、可愛いと言われると嬉しくなった。
何度も言うように、わたしだって女の子なのだ。
しかし、それにしてもこんなオシャレな服がワイバーンを素材にした装備だなんて、いまだに信じられない……。
見た目は普通の洋服。
硬い鱗も鋭い爪も、どこにもその存在を感じさせない。
初めて知った技術に、わたしは疑問が拭えずにいた。
「……これって、本当にワイバーンの素材が使われているの?」
わたしのふとした疑問。
ツヴェルクがすぐに答えようとしたが、マーシャがそれを遮るように口を開く。
「もちろんですよ!」
「でも、鱗とか爪とか……全然そんな感じがしなくて、普通の服みたい。」
「それはですね……!じいちゃんの錬金術を使っているからです!」
自慢げに話すマーシャにため息を吐きつつ、ツヴェルクが後ろから顔を出す。
「錬金術とはな……ドワーフ族が得意とする特殊なスキルだ。素材を原料にして装備に力を付与したり、ポーションなどのアイテムを作ったりできる。お前のその服は、マーシャがデザインし、それに俺の錬金術で力を付与したんだ。」
何やら難しい話に、わたしの頭は一瞬でショートしかけていた。
すると、ガイドさんが相変わらずの助け舟を出してくれる。
『錬金術は、火術と土術の合成スキルである鉄鉱術の派生スキルです。素材をそのまま使うのではなく、触媒にして装備や道具に力を付与することが可能です。これはドワーフ族以外の種族は使えない……謂わば、炎神と地神の双方に愛されたドワーフならではの生産系スキルです。』
それを聞いて、わたしは単純にすごいなと思った。
普通、武器や装備は人の手で素材を加工して作られることがほとんどで、わたしの集落ではそれが当たり前だった。
例えば、わかりやすいのは剣などの刃物。
これらは魔物の歯などを鋭く研いで作られ、出来上がったものはその魔物の属性を持った武器になる。
しかし、言うは易しという言葉があるように、魔物を倒すだけでも大変なのに、そこから素材を加工するとなると相当な手間がかかる。
思った以上に割に合わない仕事なのである。
だが、ドワーフ族の錬金術は素材を加工せずに、その属性を持った武器や装備などが作れるため、かなり有能なスキルだと思う。
だが、ツヴェルク曰く、課題も多いらしい。
「とは言え、錬金術を使いこなすには相当な年月がかかるからな。ドワーフ族でも使える奴は多くはない。鉄鉱術が使えれば、或いは錬金術を使えるかもしれんが……」
「鉄鉱術って火術と地術の合成スキルですよね?」
「そうだ。だが、なかなかその2つを持つ者はいないからな。自ずと錬金術が使える者も、ドワーフ族に限られていく。」
「てことは……現状はドワーフ族にしかできない技術……」
「そういうことになる。」
ツヴェルクは少し難しそうな顔をしていた。
後継問題、技術の継承……生産系スキルは、こういった問題がついて回ると、昔父から聞いたことを思い出した。
しかし、そうなると、わたしがもらうこの装備はかなり貴重なものではないだろうか。
この世界において、貴重なアイテムを狙う輩は多い。
可愛いと囃し立てるマーシャを横目に、わたしは内心で言いふらすのはやめようと決意するのであった。
新たな装備を獲得したパルト。
女の子なのでオシャレもしたいですよね笑
でも、それよりもパルトの心の中にあるもの…
次回は第二章の幕間です。
今回もご愛読いただき、ありがとうございました!




