64 紅蓮のクレア
ちょこちょこ設定を間違えているようで、、、
遅くなりましたが、64話の更新です!
「ガァァァァァ!!!」
ワイバーンは大きな咆哮を上げると、鋭い双眸でゴズルを睨みつけた。
その表情からは不満げな感情が読み取れたが、ゴズルはそれが信じられなかった。
(なんだ!?このワイバーン……まるで人間みたいな顔を……)
ゴズル自身、目の前の魔物がなぜ不満そうなのかはわかっているが、それにしてもこの個体の表情には違和感しか覚えなかった。
だが、今はそれが何故かなんて考えている余裕はない。
恐怖で固まった脚をなんとか動かさねば、自分があの少女の代わりになるだけだ。
(反射的に動いたまではよかったが……)
襲われていた少女を見て、体が咄嗟に動いていた。
気づけば走り出していて、無我夢中でスキルを発動し、少女を守っていた。
だが、目の前にいるトラウマに気づいた途端、足が動かなくなった。
(我ながら……ダサいぜ……。)
反射的に動けたことには、正直安堵している。
自分にもまだ、冒険者としての矜持が残っていたことを再確認できたからだ。
それに、少女を守ることができたことも満足している。
その結果が、腐っていても自分はまだまだ冒険者であるのだと理解させてくれた。
だが、ワイバーンを目の前に、体は震え、1歩たりとも動けないというこの事実は、ゴズルにとってかなりショックだ。
強がっていても、過去の心傷は消えることはない。
そういうことである。
そんなゴズルの脳裏に、突然、当時の仲間たちの顔がフラッシュバックした。
最後に殿を申し出て別れた時の彼らの顔。
こちらを心配そうに見つつも、ゴズルの言葉に気圧されて悲痛の思いで駆けていった彼らの顔が浮かんだ。
……かと思えば、目の前のワイバーンの口の中に、そんな仲間たちの顔が見えて、ゴズルは尻餅をついた。
ワイバーンの口の中で血に塗れ、苦しそうな表情でこちらを見ている彼らに対し、ゴズルは背筋が凍る感覚を覚える。
手招いているその姿は、まるでこちらへ来いとでも言っていかのようだ。
(や……やめろ!みんな……やめてくれ……)
悲痛な視線を受けると、体が勝手に震えだした。
あの時、本当はリーダーであった自分が死ぬべきだった。
そんな懺悔の念が改めて胸に浮かび、何度も何度も謝罪する。
そんな仲間たちの間から、次に現れたのはルキシンだった。
ゆっくりとこちらに近づいてきて見せたその顔は、まるで怨霊のようだ。
(ル……ルキシン……!!)
彼の怨念が体に纏わりつき、ゴズルの体を縛り付ける。
まるで、お前は逃がさないとでもいうように。
ゴズルは言葉にならない悲鳴をあげていた。
口をパクパクさせながら、尻餅をついたまま後退りするが、ルキシンの怨霊は彼を離すことはなかった。
ゴズルは完全にトラウマに飲み込まれていた。
・
一方、ワイバーンの意識を操作しているエルバは、目の前の獲物をどう料理しようかと悩んでいた。
遊びを邪魔されて苛立ったので、初めはこの男を殺してやろうと思っていた。
だが、目の前のハゲ男は抵抗するわけでもなく、突然何かに怯え始めたのだ。
少女を助ける勇気があったのに、助けた後は怯えるだけのその行動原理はまるで理解し難いもの。
あんな場面に飛び込んできたんだから、何か勝算があったんじゃないのか。
期待したんだから、ちゃんとしろよ……。
そんな愚痴すら浮かぶほど、エルバには男の行動が理解できなかった。
ただ、そんなマイナスの感情は、逆にエルバの心に好奇心を産んだ。
ーーーこの男……いったい何に怯えているのだろうか。
それが知りたくなったのだ。
様子から察するに、この男はワイバーンを恐れているわけではない。
おそらくは、見えない何かに怯えている。
その見えない何かとは、いったい何なのかを知りたい。
エルバはそう考えると、すぐに行動を開始した。
・
『ねぇ〜!おじさん!』
「……!?」
突然、ワイバーンが喋り出したことに、ゴズルは耳を疑った。
喋るワイバーンなんて、これまで聞いたことなどない。
そもそも、魔物という生き物は元来喋らないはずだ。
もちろん、古龍の類など、永遠に近い時を生きる個体は、稀に人の言葉を話すと聞いたことはあるが……。
それはあくまでも伝説上の話であるし、ワイバーンの寿命はそんなに長くはない。
(聞き間違いか……?)
ゴズルは恐怖に溺れる最中に聞こえた幻聴だと、都合よく解釈しようとした。
しかし……
『聞こえてますかぁ〜!お〜い!』
ゴズルは絶望を感じずにはいられない。
目の前のワイバーンは、確かに言葉を発していたからだ。
恐怖が体から溢れる感覚のせいで頭の整理が追いつかず、トラウマから来る恐怖と、目の前の得体の知れない生き物に対する恐怖が重なって、ゴズルの心はさらに潰されそうになる。
そのうち……ゴズルの思考は完全に恐怖に囚われていた。
(もしかして……あいつらの怨念がこの魔物を創り出したのか……)
ある意味で、それは都合の良い解釈だった。
だが、ゴズルにとっては、さらなる絶望への思考。
魂が死に切れないルキシンや仲間たちが、怨霊となって目の前の魔物を創り出し、自分のトラウマの権化と姿を変えて現れた。
そう思うようになっていた。
恐怖に対する感情も、そこまで来ると諦めの気持ちに変わるのは必然だろう。
そんなにも自分を殺したいのか……。
そんなにも自分が憎いのか……。
なら、殺してくれ……殺して自分もそっちに行く……。
ゴズルはそう思い、胡座をかいて俯いくのだった。
・
『おじさん?あれ……?大丈夫……?』
ゴズルに話しかけてみても、俯いて何も言わない。
そんなゴズルの様子に少し苛立ったように、エルバは口を開く。
『……おじさんさぁ……何に対して怯えてるの?』
「そ……そんなの……俺にもわからん!お前こそ……いったい何なんだ……!!」
『何なんだって言われてもさぁ〜。わたしはおじさんが何に怯えてるか知りたいんだよねぇ〜。ただそれだけだヨォ。』
「やめろ……!やめてくれ……!!もういやだ……!喋らないでくれ!!」
ゴズルがそう叫ぶので、エルバは面倒くさくなってしまう。
その大きなため息は、ワイバーンがついたようにゴズルには聞こえただろう。
『わかったわかった……なら、もう死んでもらうからぁ〜。』
面倒くさそうにそう告げるエルバに対し、ゴズルはすでに覚悟を決めたように天を仰いでいる。
(このおじさん……何なんだろうね……。)
素直にそう感じたエルバだが、彼女にとってゴズルという存在は、もはやどうでもよくなっていた。
『なら、お疲れ様ぁ〜!』
人の命を奪うに相応しくない口調でエルバがそう告げると、ワイバーンが大きく口を開いてゴズルに襲いかかる。
目を瞑ったまま、歯を食いしばるゴズルに対して向けられる凶牙。
だが、次の瞬間、ワイバーンを通してエルバが見ていた映像に赤い何かが映し出された。
もちろん、それはゴズルの血飛沫ではない。
なぜなら、凶牙は届いていないのだから。
その赤色は、エルバが見ている映像に一瞬だけ映ると、一瞬で画面を覆い尽くした。
その直後、ワイバーンが絶命したことを告げるように、映像が遮断される。
「え……何が起きたの……?」
エルバは一時混乱して、唖然としていた。
だが、冷静になってみて、今起きたことを分析してみると、映っていたものに思い当たる節があった。
「赤い髪……もしかして、紅蓮……?」
その言葉は、この辺りの地域で聞き慣れたもの。
いくつかの街を渡り歩いたが、皆、口を揃えて告げる冒険者の二つ名が思い浮かんだ。
そして、エルバは今起こったことの原因が何なのか……正確には誰なのかに気づいた。
そして、笑みを深めた。
「紅蓮のクレア……めっちゃ強いじゃん……アハッ!!」
エルバは楽しげに笑うのであった。
紅蓮のクレア。
突然現れましたが、どこかで聞いたことのある名前です。
ゴズルは助かったんでしょうか。




