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52 やるべきこと③

下水道で見つけた穴に飛び込んだパルトたち。

次に待ち受けるのは!


というか、この街の下にはいったい何があるんでしょうか。

暗闇が続く深い穴の中を、わたしは空中移動スキルであ【空歩】を使いながら、着地点を目指していた。


アナスタシアはというと、わたしの後に続いて飛び降りてきたが、彼女は空歩のようなスキルは持っていない。


なので、空中で捕まえて、わたしがそのまま背負っている。



「これ……地面はあるのかな……。」



ここまでかなりの高さを落下してきたはずだが、なかなか地面に辿り着かず、アナスタシアは少し不安げだ。



だが、その心配もやがて終わることになる。


落下を続けていると、突然、広い空間へと放り出されたのだ。


わたしは一度体勢を整えようと考え、【空歩】で構築した足場に留まることにする。


アナスタシアは背負ったままだが、特に問題ないだろう。


後ろからは突然の停止で慣性の法則が働き、わたしの背中から滑り落ちかけて焦っている誰かさんの声が聞こえた。



一息ついて上から俯瞰した形で見回してみると、ここがかなり広い空間だとわかった。


わたしたちが飛び出した通ってきた穴は、天井をくり抜いたように真上に広がっている。


そして、今留まっているこの位置が、おおよそ天井の高さになるようだ。


見下ろした先にある空間は長方形。


わたしから見て正面に向かって、大きな部屋が縦に伸びている感じ。


視線をさらに下げると、無数に並ぶ灯籠が青い炎の光を漏らしており、それがまっすぐに道を作っている。


そして、その先には大きな扉があった。



この前、エルバと戦った場所に似てるな……。



ふとそう感じたわたしに、ガイドさんも同意してくれる。



『おそらくですが、その推測は正しいかと……。壁面などの意匠、様式、劣化具合などから考えると、あの施設と同じものだと考えるのが妥当です。』


(……ということは……)


『あのエルバと名乗った兎人族……彼女がこの辺りにいる可能性は高いと言えます。』



それを聞いたわたしは、複雑な気持ちになった。


エルバという少女に会いたい気持ち。


それと、会いたくない気持ちがいっぺんに湧き上がってきたからだ。


2つの相反する感情が胸の中に同居し、それらが喧嘩をしているようで、胸をギュッと締め付ける。



会いたくない理由はわからなかった。


同族嫌悪という言葉があるが、それとは違うと思う。


現に、彼女とわたしは種族は同じでも似ているところはほとんどない。


ただ、1つだけ理由を上げるなら、アナスタシアを傷つけたことだろうか。



でも、その反面では、彼女の強さに惹かれている自分がいる。


どうすれば、あんなに強くなれるのだろうか。


それを聞いてみたいとも思う。



『ですが、行動と言動から彼女は敵である可能性は高く、対話は難しいかと……。』



ガイドさんの警告は理解できた。


彼女と会えば、必ず戦うことになるだろう。


たぶん、向こうはそれを望んでいるだろうから。



戦えば、彼女の強さの秘密はわかるかもしれないが、戦いたいとは思っていない。


そんなどうしよもないもどかしさが、わたしの胸を締め付けて苦しかった。



「パルト……大丈夫?」



背中でわたしに抱きついているアナスタシアが、心配して声をかけてくれた。


だが、わたしは曖昧な返事でしか返せなかった。




『その件については、ひとまず置いておきませんか?』



少しだけ億劫になっている気持ちを、ガイドさんに見透かされていたようだ。


頭を切り替えようと提案してくれる。



『可能性があるだけで、会うかどうかはわかりません。』


(うん……)


『まずは、やれることからやりましょう。』


(やれること……か。)



ガイドさんの言葉を聞いて、頭に浮かんだのは師匠の言葉。



ーーーやるべきことをやれ。



その言葉は、わたしの中で強く根付いているようだ。


そしてそれは、わたしの心の曇りを静かに晴らしていった。



そうだ……今いろいろ考えても仕方がないよね。



頭を横に振り、余計な考えを振り落としたわたしは、アナスタシアに告げる。



「アナスタシア……ありがとう。まずは降りよう。」


「え……?あ……うん!」



突然、御礼を言われて驚くも、アナスタシアは笑顔で頷いた。


だが、その矢先、わたしたちがいる真下から、思いもよらぬ人物がこの広い空間へと踏み込んできた。


それに反応したガイドさんからの通知が、頭に鳴り響く。



『個体名エルバの反応あり。真下です。』


「え……!?」



突然の通告。


そして、その内容に思わず声が出てしまった。


だが、ガイドさんは気にすることなく、通知を続ける。



『未確認の個体及び詳細不明な魔物の反応もあります。』



わたしは咄嗟に下を向いた。


確かにエルバの姿が確認でき、彼女は黒い大きな何かに乗っているようだ。


そして、その横を別の黒ずくめの男が歩いている様子も窺えた。


彼らは何やら話しながら、まっすぐに大きな扉を目指しているようだ。



「アナスタシア……敵を確認した……」


「え……!?ど……どこに!?」



背負われているので、アナスタシアには周りがよく見えていないようだ。


しかも、自分たちの真下なら、なおさらだろう。



わたしは「下に……。」とだけ小さく呟くと、アナスタシアは少しだけ身を乗り出して確認している。



「げ……あれって……」


「そう……エルバ。しかも、黒ずくめがもう1人と、謎の魔物もいる……。」


「うそでしょ……。」



アナスタシアがそう思うのも無理はないだろう。


2人でやっと撃退したエルバの他に、得体の知れない奴らが追加されたのだ。


絶対に歓迎したくないこの状況に、わたしの手は少し震えていた。


だが、ガイドさんの次の言葉には耳を疑った。



『……あの魔物には触手のような器官が確認できます。先ほどのワイバーンの刺し傷は、あれの仕業の可能性が高いと思われます。』



この距離で視認しただけで、そんなことまでわかるガイドさんの分析力には驚かされたが、そのおかげで何かがわたしの中で繋がった気がした。



(もしかして、ワイバーンの群れは……あいつらが?)


『可能性は十分高いと言えます。あの体液には、魅惑系の物質の反応がありましたので……。』


(魅惑……?)


『推測するに、闇術スキルの類ではないかと。闇術にはデバフ系のスキルが多いですが、中には強制的に対象を操るものも存在します。』



闇術スキルは、名前のとおり闇属性に基因するスキルである。


攻撃系のスキルも多いが、強化や弱体化などの効果系スキルも豊富だと聞く。


だが、闇属性を持つ者は多くなく、わたしの父でさえほとんど見たことがないと言っていた。


闇神の加護といわれたこの属性。


主に使用するのは……魔人族……。



「奴ら……魔人族と繋がりが……」



思わず溢してしまったフレーズに、いち早く反応したのはアナスタシアだった。



「魔人族……!?奴らがいるの!?」



いつもとは違う口調と迫力に、わたしは少し戸惑った。



「……え?……よ……よくわからないけど……エルバたちは闇術スキルを使ってるみたい。闇術って魔人族がよく使うスキルでしょ……?だから……」



なぜそんなことがわかったのかは聞かないで……。



そう願いながらも、アナスタシアに端的に説明すると、彼女の雰囲気がさらに変わった気がした。



「魔人族……」


「アナスタシア……?」



背負っているため、彼女の表情はわたしには見えない。


でも、口調と雰囲気から察するに、アナスタシアは何かに怒っている気がした。



「パルト……早く下へ行こう……」


「え……でも……」



珍しく冷静さを欠いた提案に、わたしの方が冷静になる。


相手は2人と1匹。


しかも、1人と1匹の力量もスキルも未知数である。


エルバとですら、ギリギリの戦いだったのに。


それなのに、アナスタシアは奴らのところへ行くと言うのだ。



「アナスタシア……落ち着いて。」


「落ち着いてるよ……。」



口調は確かに落ち着いているが、やっぱりパルトには彼女が冷静だとは思えなかった。



「……このまま突っ込んで先制攻撃を浴びせよう。まずは魔物とエルバに……。そのあと、残りの1人を2人で相手すれば……」



なんとも大雑把な作戦に驚いたが、おそらくアナスタシアは本気で言っている。


それがヒシヒシと伝わってくる。



アナスタシアと魔人族って……どんな関係があるのかな……。



そんな疑問が浮かんだが、今は聞ける状況ではない。


それに、どう動くべきか早く判断しなければならないのも事実。


でないと、奴らが先にこちらの存在に気づいてしまうかもしれないからだ。


そうなれば、あちらからわたしたちを排除しに来るだろう。



『同意です。そして、奴らは今回の件に加担しており、さらなる混乱を起こそうとしている可能性があります。アナスタシアの意見に賛同するわけではありませんが、先手を打つ方がいいかもしれません。』



ガイドさんの助言は、わたしの背中を後押ししてくれた。



そうだ……怖いからとか未知だからとか言って、逃げていても強くはならないんだ。


わたしは全てを乗り越えて、ミッドウェルを殺す。


そう誓ったんだから……。



「アナスタシア……約束して……。」



いつもであれば、アナスタシアがわたしを支えてくれる。


でも、今回の彼女は何かに囚われていて、視野が狭くなっている気がする。


だから、今はわたしが彼女を支えなければ……。



「1人で戦わないと……わたしが言える立場じゃないけど、わたしたちは仲間……だよね。」



その言葉を聞いたアナスタシアは、ハッとしたらしい。


息を飲む声が聞こえたので間違いない。



「……わかった。2人で……だね。」



その答えを聞いて、安堵した。


そして、歩いているエルバたちを睨みつけると、わたしは空歩で構築した足場からふわりと飛び降りた。


そして、別に構築した足場を強く蹴り、エルバたちに向かって一直線に飛ぶ。



「アナスタシアは黒い魔物を潰して……!わたしはエルバを……!!」


「わかった……!!」



こうして、わたしたちとエルバ、そして新たな敵との戦いの火蓋が切って落とされた。

再び相見えようとするパルトとエルバ。

そして、アナスタシアと魔人族の関係も気になりますね!


ご愛読ありがとうございます!

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