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追想のヒガンバナ  作者: 希塔司
第1章 「悪魔」
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第5話「一輪の舞」

 こうして獲物たちが船の中に入り、宴が始まった。さっそく芸者たちと共に舞いを見せることになる。題名は『送り人』。今日起こることにふさわしい舞い、これが最期の宴になるなんて思わないだろうから。



「おお、そこの女が良いな!おい、ちょっとこっちに来い」



 ちょうどいい、私が呼ばれたのなら都合がいい。私は獲物の前へ向かい、正座をして挨拶をしていく。



「初めまして、あやめと申します。

本日はこのような場にお呼びいただきありがとうございます。僭越ながら本日のこの宴席をお楽しみいただけるよう尽力致します。」



 我ながら最高の出だしだ。とりあえず第一印象さえ気にすればあとは気に入られるだけだから。



「良いねーべっぴんさんじゃないか!ささ、さっそくお酌を頼むよ」



 ハッキリ言って気持ち悪い。鼻息荒くして、何考えてるんだか。そういう行為はお断り。好みでもなんでもないような男に言い寄られるものほど体が凍えているように震えてくる。



「ほらほら、君も飲みなさいな。」



「では失礼致します...」



 小さいおちょこで差し出され、私は三口含んで飲む。この国独自のお酒。味的には酸味がなく、むしろ辛味を感じる。



      ーーーーーー

 

 酒を一緒に飲み始めて1時間くらいか



「そういえばあの国はどのような対応をしているんだ?」



 獲物が外務省の人間に問いかけていく。



「おそらく麦の国ももう間も無く大戦に参加する見込みでしょう。


あの国は利権を手に入れ、植民地を確保するための貢献度を高めていくために大量の武器や兵器を秀の国などに輸出をして金銭的利益と共に貢献していくかと。


そしてついに我が帝国軍人もかの戦地に赴くと陸軍大将から通達がありました。

勝つ側につけばさらに我が帝国は繁栄をしていくかと」



 やはり大戦も間も無く終盤に差し掛かろうとしている。この帝国もついに参戦し、侵略をしようと動き始めた。おそらくは連合軍側につき同盟軍の国土を植民地にしようとする。


 機装を開発していくための石油や鉄鋼などは貿易によって賄ってるため、植民地にしていけば確かに利益は莫大だ。



「なるほど、なら分かっているよな?我々が投資をした分のアガリはしっかりと用意してもらうからな。」



「もちろん承知しておりますよ。やはり国民にもこの享受を受けられればいかにこの帝国が正義のために動いていると錯覚させれますから...」



 ほら、化けの皮が剥がれた。酒はやはり人の本質が分かるってもん。私は機会を伺いながらまた持ってきたさくらんぼをすりつぶした粉末を日本酒に混ぜようと考えていた。



 そうだ、一度裏に戻り酒を用意しよう。その時にみんなまとめて眠らせてしまえ。



「一度新しいお酒をお持ち致しますので失礼致します。」



 そう言って台所へと向かう。



 宴席から歩いて台所へと入る。どうやら誰もいない、頃合いだ。そう思い、酒の中に粉末を入れかき混ぜてとかしていく。酒の味が変わらないようにさらに少し足して。



「まさかそれが狙いだったなんてね?」



 後ろから急に誰かが声をかけてきた。声をかけてきたのはなぜか仮面をつけている芸者の1人だ。顔を隠すのにはなにか理由があるのだろうか。そう思いつつも質問に答える。



「恐れ入りますがどのようなご用件でしょうか?」


 なんとか上手く誤魔化そうとするが...



「あぁ隠す必要ないよ?私もあなたと同じ目的だから...」



仮面の芸者はそう言い、あるものを取り出してきた。




 それは私の里で作られた忍刀。私と同じ形の...そして彼女は私の前まで一瞬で来て耳元で囁いた。



「あなたも今殺し屋稼業してるんでしょ?私には分かるよ、おそらく獲物はあの太ってる中年のおっさん。情報を聞いてあなたは何かをしようとたくらんでる。違う?」



 なるほど、全部お見通しってことか。



「はぁ...。左様でございますか。


それで、あんたはあのおっさんの護衛?

私を殺すつもり?」



 殺気を出して右腰に忍ばせている銃を取ろうとする。この女、只者ではない感じがする。女は私の殺気に微動だにもせず話を続ける。



「いやいや、むしろ逆。私も彼を殺すつもりで潜入したんだって。多分あなたとは別の雇い主だけど。



まぁここは一度協力しましょ、どちらにしても今私たちがやりあってもなんも利益なんてないしあいつらの思う壺だから。それにあなたのこと知りたいし。」



 確かに彼女については少し聞き出したい情報がある。なぜあの里の忍刀を持ってるのか、そしてだれに雇われたのか。いろいろと...



「わかったわ、あなたの言っていることは間違ってないわ。一旦まずあの男を殺しましょ。それから夜ご飯がてらでいろいろとお互いの情報交換をしましょう。」



「わかる人でよかった、そしたらそのお酒を飲ませる流れでいいんでしょ?」



「そうね、彼らから聞き出したい情報があるから獲物以外は殺すな。それが協力する条件よ」



私はそう言い、酒が乗ってるお椀を彼女に渡した。そして宴席へと戻ることに。



     ーーーーーー


「大変お待たせ致しました。新しいお酒をお持ちいたしましたのでお配り致します。」



「おお、待ってたぞ!早く持ってきてくれ!」



「こちらにございます。『渡り川』という銘柄をお持ち致しました。


こちらを口に含みますと気持ちが楽になり、天国に昇る気分になります。」



 私がそう言うとさっきの女が酒を1人ずつ配っていく。そして獲物たちは飲み、味を堪能した。それがあなたたちの命運を決めかねないのに。



 20分くらいで効果が出てきて、みんな眠りについた。その間に岸辺の桟橋に辿り着くように別の芸者の方に伝えていたからもう間も無く降ろせる。



「さぁて、どうするの?」



「とりあえず獲物とは別に隔離して縛り上げるつもり。さっき話していた情報を詳しく聞きたいから。


私はこれから待たせてる連れと合流して連れてく、あなたは?」




「じゃあ私も一緒に行く。あなたとは仲良くなれそうな気がするから」



 妙に馴れ馴れしい。互いの立場を理解していないのかこの女。



       ーーーーーー


「周、お待たせ。とりあえずこいつらそこの樹に縛りつけるから。」



「あいよ、んでこの嬢ちゃんはなんで着いてきてんだ?」



 そりゃ聞かれるよなと思い、周に耳打ちする。




「彼女は私たちと同じ殺し屋らしいの、段取り中に私のこともバレてる。それに私と同じ刀を持ってる。」



「おい待て、確かその刀はお前のふるさとでしか作れない刀だよな。なんであの嬢ちゃんが持ってんだ?」



「わかんないわよ、とりあえずあとで3人でご飯行くからその時に情報を聞き出す。周は尋問中彼女を警戒して、最悪撃ってもいいわ。」



「わかった」



 周に警戒を促し、1人ずつ樹に縛り上げていく。私もできる限り何か怪しい動きがあるかは見ている、殺し屋が殺されたら本末転倒だからね。



 それにしても随分と若い感じがする。見たところまだ15〜6くらいの歳だ。まだ大人になれてない子供がなぜ殺し屋なんてしているんだろうか。


 そう思いながら役人全員を縛り上げた。獲物はこいつらの目の前で殺す、そうすればこいつらも何がなんでも情報を漏らすはず。さて、この男の最後の時。私はいつも通り例の葉を獲物の鼻につけ...



「う、うげぇっ!...う、うご...」



 こんな目の前で吐くなよな。



「おやおや、目覚めは最高のようね。」



「お、お前は!?」



「残念ね、あなた娘に捨てられたのよ?

あなたが結婚を認めてたら死ぬことなんてなかったのに。恨むなら自分の判断を恨みなさい。」




「このクソあまがぁー!!」



その男はなんと私に襲い掛かろうとする。素直にすごいとは感じた。太っていると薬の効き目が薄いんだろうか。



ドン!



周が持っている銃の引き金を引き、獲物の頭を撃ち抜いた。


獲物は倒れた、無惨な顔で。舌を伸ばしまるで何か舐め回すぞとやらしい顔だ。



「周、とどめは私がやろうとしたのに」



「まぁいいじゃねぇかたまには、それにこいつはあくまで、前菜...だろ?」



「そうね、たまにはあなたにも殺させないとね。あくまで今回の主食はこっちだからね。さぁ、この死体をバラバラにしてこの箱に詰めるよ。」



 そして死体を刀でバラバラにしていく。

後ろを振り向くと意外と平然とした顔で彼女は見ていた。なんだ、殺し屋って言うのはハッタリじゃなかったんだと感じた。



 さて、主食を堪能する時間。と言っても今回は情報を入手するだけだから殺すつもりはない。彼らに葉を嗅がせていく。



「うぐ、はぁはぁ...」



「ここは一体...」



「みなさまお目覚めでしょうか?お酒をたくさん飲んだから眠かったんでしょ。まずはあれを見て...」



そう言って箱の中身を見せていった。



「う、うわぁー!?なんだこれ!?」



「これ、まさか...」



 そう、そのまさか。さっきまで高笑いしながら話していた豚。役人たちは驚くあまりのたうち回っている。縛りを解こうと無理に体を動かしているから体中が傷ついていく。



「見てわかる通り彼は殺した。あなたたちも同じように詰められたくなかったら質問に答えて。そしたら今回は殺さずに一生このことを黙っててもらうから。


まず、帝国はいつ戦場に向かうの?」


 私は刀と銃を向けて彼らに質問をする。するとあっさりと暴露する。



「二週間後の予定だ。帝都湾から軍艦が出る。」



「そう、なら次よ。その軍艦は傷国に向けて出航するのよね?なら戦線は下川戦線に向かっていくの?」



「そうだ、現在阿の国が傷国の領土を次々に占領していってる。今回傷国は連合国側だから援軍といった形になっていく。」



阿の国は確かに大国だが、確か現在革命が起きているとの情報がある。だから兵力的にはそこまで人員を裂けないはず、帝国は革命に助力をして阿の国を完全に崩壊させるつもりだ。



「そう、なら最後の質問。帝国の十将の『藤宮尚人』は今回戦線の指揮をするの?」


彼については知りたい。そう感じるような魅力を持つ人物だ。



「あぁ、かの英雄を今回参加させて帝国の威信を世界に見せていく。そのために彼を呼び戻し、作戦を実行する。


もういいだろ!早く解放してくれ!」



 なるほど、彼も傷国へ向かうのか。なら話は早い。



「わかったわ、いろいろとありがとう。

約束通りあなたたちは殺さな...」



 解放しようとした瞬間、後ろにいた彼女が一斉に役人たちを引き裂き、心臓を抉り出した。



「は?ちょっとあんた!!」



「もう猫被るのやめてくださいよ先輩。こんなのあなたらしくないじゃないですか?」


 私のことを先輩って大人っぽくいう女の子は1人しか知らない。



「先輩?ちょっと待って、あんた名前は...」



「お久しぶりです先輩。私ですよ、櫻井すみれです。」


 その女はお面を外し、正体を表した。ぱっと見は化粧をしている美人さんというのが答えだった。誰かに似ている、話し方に見覚えや聞き覚えがあると思ったら、まさかすみれだとは思わなかった。


 同じ実験道具として施設に連れ込まれたあの子が、まさかこんなに綺麗になって私の前に戻ってくるなんて思わなかった。師匠が施設を破壊するときに何人か助け出された時に別れてから8年は経ってるからそうなるか。



 でも、私は...正直すみれにだけはこの道に進んで欲しくなかった。私にとっては家族同様思い出としての人物だったから...

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