↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追想のヒガンバナ  作者: 希塔司
第1章 「悪魔」
6/23

第6話「思惑」

 その後結局役人たちもバラし、箱の中に詰めた。頭の中に抱えたモヤモヤを隠しながら。すみれはニコニコと笑いながらお腹が空いたと話したため、私たち3人は夜ご飯を食べに小汚い小料理店に入った。


 ここは私たちが普段から仕事を片付けた後によく来る店で周は魚、私は肉料理中心に食事をする。



「注文はいつも通り酒と何かつまみでいいか?」



「それでお願い。そしたら私はあの子にいくつか聞きたいこと聞くから。」



「えー先輩に隠し事なんてしないですよ。そんなに私は信用されてないんですか?一緒にあの地獄を生き抜いて来た仲なのに。」



「それが問題なのよ、あなたあの力は使ってるの?」



 私には一つ不安視していることがある。それは実験の副作用だ。私たちは確かに様々な動物の細胞や遺伝子を体の中に取り込まれて常人離れした身体能力や頭脳を獲得した。



 けれどそれには大きな欠点がある。体内の細胞分裂による自我の崩壊。彼女の性格はこんなんじゃなかった。少なくても私が知っているすみれはもっとその名前の通り人に対して誠実で優しい笑顔をばら撒く、殺し屋をやるような女の子じゃなかったから。



「ねぇ、ほんとにあなたすみれなの?私が知ってるあなたは...!」


 そう聞いた私にとってすみれの回答はとても悲しいものだった。



「人は変わるものですよ、私だってあの時の小さいままの子供じゃないですし。人間の汚い部分やこの国がやろうとしてる愚かな行為を見ていたら気が気じゃなくなりますって。」



 すみれは真顔でそんなことを言って私の不安を簡単に否定してきた。昔のすみれだったら、絶対にそんなことは言わない。言い返そうとしたがそこへ注文した酒が運ばれる。



「お待ちどうさん、まずは『乾杯』ね!」



 お酒が運ばれて来たから私はみんなの分をグラスに注いでいく。いや、すみれはまだ成人していないから飲ませられない。自分の分を注がないと気づいたすみれは不満な顔をして。



「えー私にはお酒くれないんですかー?」



「あなたはまだ子供でしょ?お酒なんて尚更、何しでかすかもわからないのに。」


「私たちはお酒何杯でも飲んだって平気じゃないですかー!それに私は普段から飲んでますし。麦国では未成年での飲酒は特に法律ないですし。」



「まぁまぁ2人とも、とりあえず仕事終わったんだから飲もうぜ。んじゃお疲れさん。」



 周は私たちの間をとりもち、乾杯の音頭をとった。私は渋々酒を飲むことにする。まぁ私は酔えないんだけど...。



 私は生まれつき代謝がよく、酒を分解することが早い体質なのだ。その上実験として薬の投与をされていた毎日を過ごしたから。だから周りが酔っていても私には通用しない。


 悲しいけれど一緒に酔えない。



       ーーーーーー


 それから簡単な小料理もいくつか頼んで食べていた。屋形船では何も食べていないから正直お腹は減っている。2人もパクパクと食べながら楽しく会話をしていた。



「へー!先輩そんなことしてるんですね、なんか意外かも!」



「だよな、仕事と休みの日じゃ完全に別人ってくらい変わるぜ。化粧してお洒落したあやめを最初に見た時は一目惚れするぜ周りの男達。」


 全く余計な事を。



「ちょっと周、変なこと吹き込まないでくんない。」



「えー私も先輩のそんな姿が見たいなって思いますよ?普通に綺麗な顔ですし。」



「普通には余計よ。そんなことよりすみれ、一体どうしてあなたが殺し屋なんてしてるの?」


 

 私はついにすみれになぜそんなことをしているのかを聞き出していく。



「気になっちゃいましたー?いやーあれからいろいろとあったんですよ!


研究所の襲撃事件があってからどうなったと思います?私はずっと1人だったんです。なんとか下水道から海に泳いで、ずっと泳いで向かった先に麦国に辿り着いて、それからは帝国のスパイなんじゃと疑われたり、いろいろと。ただこの愛嬌を武器に交渉してみたんです。


それが上手くいって身柄の保証を条件に私は麦国専属の殺し屋として働くことになりました。ただ継続的に埋め込まれた細胞についての研究もさせて欲しいとは言われましたが。」



「細胞を埋め込む?」



 周はその辺の事情を知らない。実験については壊滅されてからも帝国内で知っている人間は数人程度だ。私も能力については周に話はしてるけどそこまで詳しくは話していない。



「はい、私に埋め込まれた動物は...鮫。


鮫肌のように私に触れるだけで傷つき、感覚器官が人よりも敏感になるんです。


だから殺し屋の能力にしたら打ってつけなんです、攻守両用できるんですよ。」



 あの頃見せていた笑顔とはまた違う狂気じみた笑みを浮かべながらすみれは自分の能力を話した。



 けどなんですみれはそんなことを私たち2人にわざわざ伝えるの?そんなことをペラペラ言って何かすみれに利益はあるんだろうか。麦国の大統領の意向なのか、それとも...。



「すみれ、そんな埋め込まれた細胞のこととか全部言わなくてもいいでしょ?なんでわざわざそんなことを私たちに?すみれになんの利益があるの?」



「ありますよこれから。今日私が2人に会ったのも麦国から正式にあなたたちに依頼をしたいからです。」



 やっと本題に入った。やっぱりすみれももういっぱしのパシリになっていた。麦国こそが全ての原因、すみれをこんな風に変えてしまったのだと心の底から怒りが沸き立つ。



「それで、麦国は私たちに何をさせようと?」


 周は仕事内容を聞き出していく。すみれは一つずつ説明を始めた。



「2週間後、帝国は再び阿国と再び戦おうとしてるでしょ?麦国と帝国が書類上とはいえ同盟を結んで戦争に参加して利益や利権を得ようとしています。


今回私たちは傷国にむけてある書状を届けようとしてる。もちろん阿国の軍も黙ってはいない。


2人には私の援護を要請したいんです、あなたたちの評判は街の噂などの情報とかで知ってます。金を積まれればどんな汚れ仕事もしてくれると。



何より、また先輩と一緒にいれるなら私は本望です!」



「断るわ。」



 私はすぐに断りの打診をする。国に仕えて仕事をするなんてまた利用されるのがオチ。自由の国の人間ですら自由に生活を送れないのは本末転倒だと感じたからこその答えだ。



「おいおいあやめ、いきなり断るなって。肝心なのは報酬だろ、てか今日の報酬まだもらってないぞ。」



まったく周はせっかちでがめつい。私はもらった前金の半分を渡した。



「残りは明後日渡すから。」



「おし、これでまた遊びに行けるぜ。」



 相変わらず周はこんな時でもふざけている。するとすみれは頭を下げてしつこく頼み込んできた。



「お願いします先輩!今回だけでいいので、私に力を貸してください!」


 はっきりと断る必要があると思い少し強めに言葉を使っていく。



「はぁ...。すみれ、私は今あんなくだらない大戦に関わるつもりはないの。



それに不可解なこともあるの、なんで私と同じ刀を持ってるの?あれは私のいた集落でしか生産されなかったものよ、もうこの世じゃ私しか持ってないはず。


一体どうやってあれを手に入れたの?」



「それは...。」



 すみれは一瞬黙り、すぐに回答をした。



「ある方に出会ったんです。この国の天帝に。」



 ここで私がこの手で殺したい人物の名が出てくるとは。



「天帝だと!?あの人はこの国の宰相と2人の護衛しか会ったことがないと聞いたぞ!?」



 さすが周。元は帝国の諜報部にいただけあって情報は仕入れている。



「でもなんでその天帝は私と同じ刀を持ってるの?集落を襲ったときに手に入れたの?」



「いえ、天帝はある事件をきっかけに手に入れたと言っていました。私も宮中での宰相との会談の際、襖の中からの会話だったので実際にどのような人なのかはわからなかったんです。」



 天帝、この帝国。いや、この日の本という国ができて間もない頃から1000年以上続いている文化だ。一度は退いたものの、異国からの到来で時代は変わり、再びこの国の頭に返り咲いた。


 いわば私の最大の敵。打倒帝国の親玉。そして私はこの話を一度持ち帰り整理しようと考えた。



「すみれ、一度考えさせて。明後日私たちは依頼主と落ち合うからその後に答えを言うわ。」



 そうしてお酒を飲み干し、お代を出して外へ出た。周も私を追いかけて来た。



「お姉ちゃん、私は諦めませんよ。私には、やっぱりあなたが必要なんですから...。」




ーーーーーー


 すみれから聞いた話、すみれの今置かれている立場や状況、あの子があそこまで狂ったように感じたことへの苛つきや自分があの子に何もしてあげられなかったことへ腹が立ちながら早足で歩く。



「おいあやめ待てって!」



 周は走って追いかけて来た。



「何?報酬は半分渡したはずだけど。」



 周にまでその苛つきをぶつけるなんて私もまだ大人になりきれていないのかもしれない。そんな苛つきを気にもせずに周は話し続ける。



「違ぇよ、渡したいものがあるんだよ。」



 周はズボンのポケットからあるものを取り出した。黄色いヒガンバナだ。ヒガンバナは私が好きな花で師匠がよく育てていたのを眺めていた。私にとっては思い出深い花。



「黄色のヒガンバナ...。」



「あぁ、今日の着物姿の色と合って。その、綺麗だったからさ...///」



 なんか照れながら言うのは気持ち悪いからやめろって。お前は乙女かと言いたくなるような顔をして。



「そう、ありがと。家で飾って育ててみるよ。」



私はそう言って解散をする。周も後ろに振り向いて渡した報酬を眺めている。




 黄色いヒガンバナ、そういえば昔何回かもらった覚えがある。確か花言葉は...。


 いや、今はいいや。育てたら髪飾りにでも使っていこうと思う。しつこく付き纏ってくる数人からもらう高級な装飾品よりはマシな贈り物を送ってきた周はやはり大人で心地いいとは思った。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。