第20話「狂気」
「いいわ、まずはお前のその曇った目から頂いてやる。きっとクソを食べた方がマシなくらいまずいのでしょうね。あはははは!」
最盛は怒りと喜びが混ざった表情を浮かべておれに襲いかかる。最盛はまず、手に持っているナイフでひたすらにおれに切りかかる、実力を確認していくためだろう。
軽々とおれは身のこなしで交わしていき、逆におれは最盛の動きを利用してやつの腕の骨を折りにいく。腕を抑えてそのまま膝蹴りをした、すみれにも聞こえるくらいの鈍い音が響く。ぶらんぶらんとぶらさげている腕を抑えた最盛は一度後ろへ下がる。
「へー口だけじゃないみたいね。私から腕一本持ってったやつはお前が初めてよ。あー楽しくなってくる。」
痛みをまるで感じないのか、最盛が笑いながら言うからこれが細胞を埋め込まれた人間の狂気なのだと感じた。そして最盛は信じられない行動に出た。なんと体から腕を引きちぎり、それを食べている。
「何してんだお前!それはるみちゃんの体だろうが!!」
「だってしょうがないじゃない、お腹が空いたのだもの。それにこの体は乗っ取っている。いわばもう私の体なのよ!あはははは!」
その光景にすみれは思わず口を塞ぎ黙り込む。こんな異常者を女の子に戦わせるわけにはいかないと思い、帝国の十将の時以来の秘技を使用する。
「あやめ、すまない。るみちゃん、一瞬で終わらせるからな。」
おれは腰にかけている『神切虫』を手に持ち、さらに腰袋から鎖を取り出して柄頭に連結させていく。これで準備はできた。そしておれは最盛の周りをひたすらぐるぐると速く、さらに速く動き回る。
「すごい、周さんまるで分身の術を使ってるみたいに複数に見える。」
すみれと戦ったとき、いやあやめにさえ見せたことのない十将だけが使える体術『絶急』と呼ばれる呼吸法を使用した撹乱だ。一時的に筋肉の活動量を人間の50倍にまで引き上げ、常人にはできない動きを可能にする。頭の中で想像した動きをまんま再現することができる。
だが使えば戦闘後に激しい筋肉痛になる。長時間使用すれば限界を超えて筋肉断裂や骨折、最悪は経絡系を断裂し二度と動けない体になってしまう。だからこそなるべくら早めにケリをつけるためにもう一つ、おれだけの技を使用して最盛にとどめを刺そうとする。
「鎖術『地縛!』
「こ、これは一体!」
超高速で動いているおれが鎖を使用して使う、相手を拘束して首を切るための技だ。ただ最盛は撹乱している、あまりにもおれが速く動いているためその残像も同時に鎖を自分に振っていくのだからどれが本物なのかがわからなくなってしまう。だがそんな生やさしいもんじゃない。最盛はおれの鎖に捕まってしまう。それも残像と思われる鎖も全て体に絡まり合う。
「どういうことだ、本物は一つじゃないのかよ!」
「残念だな、この鎖術は特殊でね。増殖していくのさ。」
「増殖だと!?」
「お前が見ていたおれは確かに大半は残像だったが、この鎖は使用者の血を吸い取っていくつも形状を変えていくのさ。今回は確実に仕留めたいからざっと6本くらいに増やしてな。」
昔どうすれば相手をうまく騙し、確実に仕留めるかを考えていた時に咲が助言をしてくれたことがきっかけで作った技だ。まさかこんな形で誰かに見せるとは思わなかったが。
「この野郎、ぶっ殺して肉も骨も跡形もなく食い尽くしてやる!!」
最盛は自分の体を解こう鎖を引きちぎろうと力を込めていくが徐々に締め付けられて苦しそうにしている。この技のもう一つの特性は拘束が解かれないために知恵の輪のように絡まり合い締め付ける。徐々に体な筋肉が圧迫され呼吸がしにくくなり血流の流れを鈍くしていく。そうすればもうあとは。
と思っていたがやはり細胞を埋め込まれているからなのか、それとも最盛が狂っているからなのかはわからないが力が尋常じゃない。さすがのこの鎖術も限度はあるためとどめを刺しに行く。
「鎌術『断罪』!」
一瞬の隙を逃さなかったおれは最盛の腕、足、そして首をはねていった。最盛はしばらく筋肉の緊張などで胴体がビクンビクンと跳ね、やがて収まった。
「全く、面倒なことをさせやがって。」
「周さん...こんなすごい動きできたんですね。羨ましいです。」
「なんだよ急に、褒めたって何もあげないからな。」
「ぶーバレたか!ケチ!」
ようやくすみれも緊張な顔がほぐれていった。ここまで捌いたんだ、さすがに乗り移ったからといって首を切れば動けなくなるのだから自身の体に戻るだろうと思い死体に近づいていく。
こんなに小さい子の体を使って傷つけさせたピースマークの連中、そしてその黒幕の存在が許せないのと同時におれ自身にも強い憎しみの感情が芽生えるのを感じた。例え乗っとっていたとはいえこの子はあやめの妹だった、その子の体をこんなに切り刻んでしまったのだからこれを見られたらきっとあやめに殺されるのだろうと。
「ごめんよ、るみちゃん。すまんあやめ...。」
おれは静かにその死体に手を合わせて黙祷する。ふとあやめの方を向いた。おれはその絶望に染まったあやめの泣き顔を目に焼き付けてしまった...。その瞬間におれは後悔してしまう。
ーーーーーー
今私の目の前で何が起きていた?意識が戻った私が最初に見たのは、周が私の妹のるみの首をはねた瞬間だった。頭の中が真っ白になり、やがて私の頭はどす黒い赤色に染まっていく。やっと再会できた妹がこんなに無惨な姿になっているのだから。私は自然と涙を流していた、こんなに自然に涙を流せるのならまだ私は完全に人間を辞めていないのだと思う。
「周さんどうしたんですか。って先輩...。目が覚めたんですか!?」
すみれが私が目覚めたのに気づいたのか、走ってこっちに来る。まるで小さい時に私の元へ向かっていたるみのように。同時に今目の前にいるのがるみじゃないことも悟った。
「先輩、大丈夫ですか?何かあいつに変なことでもされま...。」
「あいつ?るみをろくに知らないくせに知ったような口聞くな!!」
私はすみれの問いかけを遮ってものすごい怒鳴り声をあげた。
「す、すみません先輩...。」
「あやめ、大丈夫か?」
周の声が聞こえた瞬間に私は心が赴くままに周の胸ぐらを掴み頬を殴っていた。いつものツッコミとかそんなものじゃない。憎しみを込めた拳を。
「なんでよ周...。」
黙り込む周に私は倒れ込んでいる周に馬乗りになり胸ぐらを再度つかんで叫んだ。
「なんでるみを殺したのかって聞いてんだよ!!答えろよ周!!」
周は私に目線を合わせずに私に一言だけを伝えてきた。
「すまねぇ...。」
私の中の怒りが、憎しみが爆発をした。
「すまねぇだって...。ふざけんのもいい加減にしろよ!!私の妹を、るみを殺しといて許されると思ってんのかよ!!なぁ、周。あんた最初に会った時おれを殺せって言ってたよね?だったら今望み通り殺してやる!!」
殴りながら周に怒りや憎しみをぶつけていく。そして私は言い終わると咄嗟に腰にかけている刀を抜いて周の首元へ突きつける。
「それでお前が前を向けるなら、やれよ。」
「そうかい、あんたのせいで私はもう過去に縛られて生きていくしかないのよ!!」
私はそう叫んだ瞬間に刀を上から振り下ろそうとするがそれをすみれに腕を掴まれて阻止される。
「やめてください先輩!周さんは先輩を守ろうとしたんです!事情を聞いてください!」
「事情ですって?殺し屋に所詮そんなくだらないものなんてないやよ。やるかやられるかの世界にそんな道理は通用しない、すみれあんたやっぱ殺し屋向いてないわよ。」
すみれは私のいつもの雰囲気とは違うと察したのかビクッとして俯いていく。今の私にはあなたを気遣う余裕なんてない。さっさとるみの仇を取らなきゃいけないのだから。そう思い再び刀を振り下ろそうとした時、銃声が鳴る。
辺りを見回すと、なんとすみれの腹から血が流れていく。私を庇うように両手を広げて。
「先輩...。」
「え?」
一瞬の出来事で一体だれが撃ったのか分からなかった。私はもちろん、周も銃を持っていない。すみれは私に倒れ込む。
「すみれ!?しっかりして!」
「すみれ..。」
「先輩、周さん、逃げて...。」
私たちは2人ですみれをすぐに介抱していく。私はすみれを寝かせ、周は腰袋の中から傷薬を取り出し、すみれの傷口に垂らしていく。幸い弾は貫通していたし腹部と言っても脇腹辺りだったため致命傷にはならないと思い少しだけ安堵した。
やがて傷薬の効能が効き始めてきたのか、すみれは痛がりながらも起き上がる。
「すみれ、大丈夫?起き上がれる?」
「はい、大丈夫です...。不甲斐ないです。」
「そう、よかっ...」
そう言いかけた時だった。私たちの背後から声が聞こえた。
「あーあ、やっぱり失敗だったか。」
「その声...。」
そう、聞き間違えるはずがない。それは妹のるみの声だったから。私は振り向いて確認すると間違いない、るみの姿がそこにあった。だがその手には銃を持っている。
「お前、なんで生きてんだよ...。」
私は周の驚く顔を見てから確認していく。
「るみ、どうしてすみれを撃ったの?...答えなさいるみ!」
黙り込むるみに私は怒鳴った。何が起きているのかわからなくなり、自分が冷静なのかも怪しくなっている。するとるみは急に笑い出す、悪魔のように。
「くくく、ひゃーはっはっは!これは傑作ね!まだ気づかないなんてね!とんだ大馬鹿者じゃないあなた!まずは一回死んで正解ね。」
「なんだと、一体どういう意味だ?」
そこに周もすかさず質問していく。私が見たときのことと関係すると思い黙って聞いていくと私は衝撃を受けた。
「まず一つ。私はるみなんかじゃない、あなたが愛してる妹の体を乗っ取って好き勝手にやらせてもらってるのよ。そしてなんで私が今生きてるかって?全てはこれのおかげよ。」
そしてるみを奪ったやつはお腹を見せるために服を捲り上げた。するとそこには何か紋章が浮かび上がる、そこに描かれているのは集落に向かう途中に話していた白虎だった。
「私は最盛貴恵、白虎の遺伝子を埋め込んでいるの。よろしくねー」
その顔は勝ち誇った子供のように無邪気ながら、狂気を帯びた目をしていた。




