ゴブリンキング
木々をなぎ倒し現れたのは人の背丈の3倍はあるであろう巨体のオーガが2体。その後ろからは、その姿には似つかわしくない煌びやかな王冠を被ったゴブリンキング。
意外にもゴブリンキングの姿はゴブリンにしては大きいがオーガの様に巨体ではなく、人と同じくらいの背丈だった。
ゴブリンの王と言うほどだからかなりのものを想像していたが拍子抜けだ。だが、決して後ろでふんぞり帰っているわけではない。
筋骨隆々で腰に布一枚を巻いているだけの姿は、王というより戦士のように見える。
「そろそろ攻撃きます!」
隊の誰かがそう言うと前衛盾職の隊員が敵の注意を引く。
そして、注意が向けられた先へのオーガの無慈悲な攻撃。攻撃はその巨体を生かしたものでそこら辺に生えている木を根っこから引き抜き、力任せに振り下ろすというシンプルだが強力な一撃。
「大丈夫ですか?」
いくら盾を持っているとは言ってもかなりのダメージだろう。そして、そんな攻撃を放つのがもう一体。
「リリィ、ドッペル、回復魔法をお願い!」
「わかりました!」
「りょ〜かいです〜。」
リリィとドッペルにダメージを負った人たちへの回復魔法をお願いする。
オーガ一体につき大盾1人、剣士系が2人。魔法使いは後方からみんなの援護をする。
残りの小回りの効く小盾とぐっさんでゴブリンキングの注意をできる限り引き付けておく。
ドンッ
オーガの一撃は強力な分、武器は二、三撃ですぐにボロボロになってしまうが周りには十分すぎるほどに木が生えている。
武器を補充してすぐに次の一撃がやってくる。
魔法使いたちも敵の動きを遅くするなどしてこちらの攻撃を通りやすくしてくれているが分厚い筋肉と脂肪により致命的なものは与えられずにいた。
そして小盾とぐっさんでキングを引き付けているが何かの作戦なのかこちらを睨むだけで一向に動く気配がない。
シルヴァも毒を塗布した武器で攻撃するが効果はすぐには現れない。
そして、お互い致命傷を与えられずにただただ時間が過ぎることに痺れを切らしたテオとさーもんおすしがオリジンギフトを使う。
「行くよ!」
「おう!」
普段からパーティーを組んでいる2人の息はピッタリだった。
瞬間、ただでさえ速かった双剣士がさらに加速し、目で追うことすら難しくなった。そして、さーもんおすしがオーガ二体を相手にするとテオは下がり何やら唱え始めた。
「その刀身は紫電を宿し、その持ち主にも力の一端を貸し与える、刃の行く道を阻むものには罰が下る。」
テオが唱え始めると剣の形状が刀へと変わってゆき、紫のオーラを纏い始めた。そしてオーラは、刀からテオ自身にまで伝わっていった。
「すごい…。」
そこにいた誰もが無意識に声に出していた。
オーラがテオを飲み込むと、さーもんおすしを超える速さで敵へと近づき抜刀、各一撃づつ切ると元いた場所へと戻ってきた。そしてオーガ二体への紫の落雷。
その間、1秒にも満たない時間であったため他のものの目にはテオが構え続けていたら落雷が起こった様にしか見えていなかった。
「よっしゃ!やったなテオ!」
「うん、いい感じだったね。」
テオとさーもんおすしが勝利の余韻に浸っていると、先程の戦闘の凄さのせいで影が薄れていたゴブリンキングが動きを見せた。
「動いたぞ!」
ぐっさんの声にすぐに反応し皆、戦闘態勢に入る。
だが、攻撃を仕掛けるでもなく逃げるでもなく、その言葉通りただ歩いて距離を詰めてきただけだった。
一見すると攻撃の意思はない様に見える…が、油断するものは誰1人としていない。
「私たちが何をしたと言うのだ?」
「何をしたって………え??」
質問されたので答えた、何らおかしなことはない日常だ。
その質問相手がモンスター、ましてやゴブリンでなければ。
「なぁ、あいつの名前………。」
味方の1人が何を思ったのか敵の名前を再確認し、その結果に恐怖し、震えた声で他のもの達へ確認を促す。もしかすると見間違いだったかもしれないという小さな小さな希望を持って。
「マジかよ!」
「初めて見た…。」
敵の名前を再確認した者たちは様々な形で驚きを表した。
「再度問おう、私たちが何をした?」
その問いは先程までのものとは違い、立っているのがやっとな程のプレッシャーが感じられた。
王の問いに対し勇気ある隊員の誰かが言った。
「あなた方モンスターが我が国を、国民を襲うかもしれない、そうなるかもしれない前に対応をしたまでです。」
その答えに対しさらに問いかけるゴブリン王
「なら、私たちモンスターが素材のために殺される、レベルを上げるために殺される、綺麗だから飾っておきたいから殺される、そんな可能性があるならば人を人間を見た瞬間殺しても、文句はあるまいな?」
それに対し、誰も答えることができなかった。
この独特な雰囲気をシルヴァは経験したことがあった。
グリムさんと会った時に似てる。でもあの時は無かった明確な殺気が感じられる。
[亡国のゴブリン王]が再度歩みを始めた。
殺らなければ殺られる。
そして、皆が攻撃しようとした時
「待っていろ。」
亡国のゴブリン王のその一言だけで誰も動けなくなってしまった。
亡国のゴブリン王はそのままの速度で歩き、大盾の前で止まり構えをとった。
誰もが確信した、いくら大盾とはいえ一撃で殺れると。
そして放たれた拳が当たる直前、亡国のゴブリン王は闇に包まれた。
闇に包まれたその瞬間、亡国のゴブリン王による呪言はとかれ体が動く様になった。
皆で顔を見合わせてこの状況を確認し、誰がやったでもなくいきなり現れた闇に警戒を向ける。
普通ならばいきなり現れたそのモノに警戒して当然の状況だが、シルヴァはそうでは無かった。
なんだろう、何か見た時ある様な…
「グリムさん?」
ぽつりと漏れたその声は本来なら誰も聞き取れないほどの小さな声量だった。
「お久しぶりですね、シルヴァ。」
そこに現れたのは羽を生やした紳士、グリムだった。
急に現れたグリムを見て、シルヴァ、ノービィ以外は警戒態勢へ入る。
「シルヴァさん、そいつはなんだ?」
「シルヴァ様!早く離れてくださいっ!」
シルヴァの名前が出たことにより、警戒は続けたまま敵か味方かを探るぐっさん。
過去、その圧倒的な力を見たことにより主人の身の安全を優先するリリィ。
先程までは、勝つのが絶望的なほどの敵を前にしていたらさらにそれを圧倒する者が現れた。武器をまともに構えられない者、足が震えて立たない者も居た。
「あら、残念ね。グリムだったかしら?あなたが来なければ、私がさっきのゴブリン倒していたのに。」
そんな中、警戒心も何もなく、堂々と発言する者がいた。
「お嬢さん、お名前を聞いてもよろしいですか?」
「まずは、自分から言いなさいよ。」
「おっと、これは失礼、私は昏きに潜む吸血の王、グリムという者です。以後お見知り置きを。」
「私は、大精霊カトレアよ、よろしく。」
カトレアの態度に対しても紳士的な対応をするグリムに対し皆の警戒心がほんの少しずつだが解けていった。
「お久しぶりです、グリムさん。」
「それでは改めて、お久しぶりですね、シルヴァ。カトレアさんにも申し訳ないことをしましたね。」
「いえ、気にしないでください。それに自分達じゃ手に負える相手では無かったので助かりました!…それで、さっきのゴブリン王はどこに行ったんですか?」
「只今、特別な王の名を授かったモンスター達を招集していまして、このままだと倒されそうだったので保護させていただきました。」
今までの再会を喜ぶ和やかなムードから一変、皆の警戒心、緊張感が最高潮に達した。それはシルヴァでさえ例外ではなかった。
「どういうことですか?」
「カトレアさんがさっきのゴブリン王を倒せたとか言うのは嘘ではありません、多分ですが余裕で倒せていました。」
「特別な王を招集と言うのは?」
「う〜ん…近々、王の夜会が開かれる予定です、すみませんが今言えることはそれだけです。」
そう言うと、グリム自身も霧になり何処かへ消えた。
そうすると、敵の討伐、消滅によりクエストがクリアされたという通知が来た。
「王の夜会ってなんだよ?」
もちろん皆んな初めて聞く単語だった。
討伐隊の人達も初めて聞く様だった。
「そ、それよりも皆様方、ご助力感謝致しました。それで、皆様方はどこの国へ行くご予定ですか?」
空気を重く感じ、どうにかしようと思ったのか口を開いたのは隊長だった。
話を聞くと報酬は、各国での特別待遇だそうだ。送ってくれるそうだが皆、自分のペースで行きたい様で各自国に着いたら連絡くださいと言われ、討伐隊と各プレイヤー達はその場で別れた。
「そ、それでは、えっーと、」
「ありがとうリリィ、そうだね、いくら考えてもわからないものはわからないし、出発しよう!」




