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鉄の守り人  作者: Sangomiya
青空
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第25話 最終回

 民間企業『鉄(くろがね)』。僕、深神八雲が所属する、令和の総合警備会社だ。


「深神! 大変な仕事が入ったぞ! 今をときめく大人気女優の身辺警護(ボディーガード)の依頼だ! しかも、相手側の『指名』だぞ!」


 ある日、僕はひどく慌てた様子の課長から呼び出され、一枚の契約書を渡された。


「了解しました」


 書類に書かれたクライアントの芸名は――『如月夜(きさらぎよる)』。僕は冷静にそれだけ答えると、いつも通りワンフレームの誤差もない完璧なスケジュール、完璧な防衛ルートを脳内に構築し、指定されたホテルのロビーへと向かった。徹底的な合理主義。それが僕のスタンスであり、生きる日常そのものだった。

 だが、ロビーの人混みを割って、マネージャーと共に現れた「彼女」の顔を見た、まさにその瞬間。僕が頭の中に築き上げていた完璧な計算が、ガラス細工のように音を立てて崩れ去った。美しい黒髪に、どこか凛とした、それでいておっとりとした佇まい。会ったことはないはずだ。僕の持つデータにも、そんな記録は一切存在しない。それなのに、僕の胸の奥で、数値を計測することすら不可能なほどに激しい熱量と高まりが沸き起こり、収まらなくなる。


(……おかしい。僕のバイタルが完全に狂っている。初対面の相手に対して、なぜこれほど不条理な衝動が生まれるんだ。)


「あなたが鉄(くろがね)さんのボディーガードの方ですか?」


 激しく波打つ心拍に片手を当て、困惑を隠しながら、プロとして深く一礼する。


「……本日より身辺警護を担当します、民間企業『鉄(くろがね)』の深神です。失礼ですが……僕達は以前、どこかでお会いしましたか?」


 プロらしからぬ、あまりにも不合理な、衝動に駆られた質問だった。クライアントは一瞬だけ驚いたように目を見張るが、すぐに、悪戯っぽくも優しい微笑みを浮かべた。


「ふふ、それってナンパですか? 深神さん」


「いえ、僕は徹底的な合理主義者です。そのような不合理な声をかける意図は――」


 慌ててつじつまを合わせようと、いつもの論理を展開しようとする僕。しかし、彼女はそっと僕に一歩近づき、僕のブラックスーツの胸元に輝く「鉄」の社章バッジへと、愛おしそうに視線を落とした。そして、慈しむように小さく囁く。


「冗談です。……でも、やっと見つけました。私、ずっと信じて探していたんです」


 彼女は僕の目を真っ直ぐに見つめ、運命の言葉を口にした。


「では、お帰りなさい。――『鉄の守り人(ボディーガード)』さん」


「っ……!」


 その言葉が、強烈な引き金となった。僕の脳裏に、白い湯気の立つ土鍋を囲んだ賑やかな仲間たちの笑い声。白銀の鎧を纏って「忘れんぞ」と叫ぶ青年の姿。僕を引っ張ろうとする元気な女の子。そして、行き場のない僕に日常をくれた女性。確かな「温もり」を伴って一瞬だけフラッシュバックする。 


――未来で会おう。あの日の約束が、今、ここに果たされたのだ。記憶はなくても、僕たちが紡いだ絆は、確かにここにある。僕は自分でも驚くほど自然に、心からの優しい笑みを彼女へと返した。


「――ええ。僕のすべてを懸けて、あなたをお守りします」


 二人の頭上、窓の向こうには、あの日仲間たちと共に見上げたのと同じ、どこまでも澄み渡る、美しい青空が広がっていた。

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