あなたが盗んだもの
2回目の審判です。
「あなたが盗んだもの」楽しんでいただけたら嬉しいです。
私が死んであの世に来てから、早2週間。
私は黄泉平坂にある隠世荘で、かなら自由気ままに過ごしていた。
自炊かと思いきや、何故かしっかり3食運ばれてくるし、割と美味である。
(あのキッチンの意味はなんなんだろうな…)
たまにそんなことを考えるのだけど、
もしかしたら、大の製菓好きか料理好きが
退屈しないようにという配慮かもしれない。
変なところに配慮があるもんだなぁ。
この隠世荘の個室には、一つ一つお風呂が設置されているのだが、
一応大浴場も用意されている。
私は早速朝風呂に浸かり、風呂上がりに風に当たっているところだった。
(そういえば、もう2週間経って、二七日だから、そろそろユリさんから呼び出されるかもなぁ…。)
そんなことを考えぼーっとしていると、
案の定、扉を叩く音が聞こえてきた。
誰だか予想がついた私は、答え合わせをする意識で玄関扉をあける。
「こんにちは綾乃さん。2回目の審判に行きますよ〜。」
(やっぱり…。)
ユリさんが眩しい笑みを浮かべて立っていた。
私は玄関の扉を閉め、2回目の審判をするであろう場所へおとなしく着いていく。
隠世荘を出て、三途の川沿いを歩く。
前回の殺生殿とは逆方向に歩き出し10分ほどした時、
目の前に一軒家くらいの大きさの建物が見えた。
「ここですね。この中で2回目の審判を受けていただきます。担当する十王は初江王といいます。」
「ちなみに今回は何を調べるんですか?」
「秘密です。」
ユリさんはいたずらっぽい笑みを浮かべ、唇の前に人差し指を立てる。
おそらく守秘義務というものがあるのだろう。
私は一礼するとその一軒家に入って行った。
外見は本当にただの民家なのだが、玄関に入ってみて再度実感した。
(あ、これただの家だわ。)
十王の審判なのにこんなところでいいのだろうか。
私はそんなことを思いながら玄関に靴を並べる。
目の前に階段もあるのだが、どこに行ったらいいのだろうか。
私があたりを見回していると、奥の居間らしき部屋からゆったりとした洋服を身に纏った40代くらいの女性が顔を出した。
「城崎綾乃さんですね?どうぞこっちへ。」
促されるまま居間に入ると、左手に台所、右手にラグが敷かれたリビングが広がっていた。
女性はリビングにある座布団らしきクッションを勧めてきたため、ここに座れということだろう。
ぜひ座りたいところだったのだが、一応クッションを返すように遠慮する。
「城崎綾乃さん、初めまして。十王の初江王といいます。よろしくお願いしますね。」
「よろしくお願いします。」
「ここでは生前の盗みについて、審判していきますから、はーい。」
初江王という人は、秦広王の時のように書類をペラペラとめくり、一通り目を通し、
「あぁなるほど」「うんうんうん」と、1人で喋っている。
(昔言ってたクリニックでいたなぁ、こういう看護師さん。)
しばらく書類をみた後視線をこちらに戻した初江王は、こちらの顔を覗き込むようにしながら聞いた。
「あなたは生前、何を盗みましたか?」
私は顎に手を当てて考えた。
殺したことはあるかと聞かれた時は瞬時に答えられたが、今回ばかりは怪しい。
「幼稚園の時…。自分の肌色のクレヨンがなかったからと、園のクレヨンとわかっていながらちょろまかしたことがあったかも…しれないです。」
「よく覚えてますね。その通りです。4歳の6月4日ですね。」
本当にやってたのか…。
うっすらと覚えていたことが現実にあったことだと分かり、少しだけ幼い自分の行いを反省する。
こんなことなやらなきゃよかったのに、なんであんなことしちゃったかなぁ…。
「でも綾乃さん、あなたそのことちゃんと覚えてましたね。悔いてるんですか?」
「はい、やらなきゃよかったなって思いました。」
「なんでそこだけ悔やむんです?小学校の時も中学校の時も、いろいろちょろまかしてるじゃないですか。」
「それは…後で幼稚園の先生に『黙ってとったらだめです』って怒られたから…?」
「なるほど。幼稚園の先生にそう言われて悔やんだのに、小学校で隣のクラスから雑巾やチョーク、中学校で消しゴムと絵筆をちょろまかしていると。……ひどいですね、あなた。」
かなり辛辣な言い方だが、言ってること自体は正論だ。
今思い返してみれば、なぜあそこで改心しなかったんだろうか。
私は「すみません」と肩をすくめる。
小学校の時の雑巾は掃除の時足りなかったから、隣のクラスの使ってないのを使い、
チョークは先生に替え持ってくるように言われたが、場所がわからずに隣のクラスから拝借したのだった。
中学校の時の消しゴムは、ちょうど消しゴムを無くしてしまったときに机の足のところに落ちていて、自分のではないとわかっていながらも使ってしまった。
絵筆は美術の時間に、特に意味もなく使ってしまったのだろう。
「はい、もう結構ですよ。ありがとうございました。」
物思いに耽っていると、初江王から声をかけられた。
(完璧に嫌われてそうだな…)
私は「ありがとうございました」と頭を下げ、リビングを後にする。
玄関を開けると、ユリさんが前と同じ体制で待っていた。
「おかえりなさい、どうでした?」
「いやそれが、自分結構ちょろまかしていたのだなぁって。」
「まぁそんなもんですよ。あまり気にしないでください。」
そういうと、ユリさんは元来た道を引き返していく。
その時、目の前にあの観覧車が飛び込んできた。
「ユリさん、前から気になってたんですけど、あれなんですか?」
「あれですか?輪廻の輪ですよ。全ての審判を終えた方が、あれにのって次の転生先に行くんです。
綾乃さんも後35日したら乗れますよ。」
「じゃあ、あの観覧車のそばにあった遊園地みたいなものはなんなんですか?」
「ただの遊園地ですね。」
「あ、それはなんの意味もないんですね。」
小さく笑い合いながら、私達は歩いていく。
生ぬるい風が服の裾を揺らしていった。
帰り道、いつもギリギリのところで電車が行ってしまう呪いをどなたかにかけられているようです。笑
氷室八弥です。
最近大変なお仕事などいっぱいで、キャパオーバー気味なんですが、こーゆー時ってココアが飲みたくなるんです。
でもあったかいココアをこの時期飲むのって気持ち悪いので、何か夏用の新しい飲み物を開拓しないとなって思ってます!
ご意見・ご感想・ブックマーク等喜びます




