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冥土の旅のご案内  作者: 氷室八弥
初七日
2/10

死天山

楽しい(?)山登りです。

「死天山」楽しんでいただけたら嬉しいです。


私は息を切らしながら急な斜面を登っていく。


悲しくも亡者となった私は、罪問間樹(ざいもんかんじゅ)を超え、この険しい山を登らされている。

現世では死天山(してんざん)とか死での山って言われてる、あれである。



「…っこれ、どこまで登れば…いいんだぁ。」



膝に手をつき、息を整える。

これから地獄に行くかもしれないというのに、すでに体力的地獄だ。


しかしながら、ここに来た時からなぜか履いていた草履(ぞうり)と杖のおかげか、

少なくとも素足で登ってぼろぼろになる事態は防げている。

特に杖は本当に役立つ。



ゆっくりと進んでいくが、一向に頂上に着く気配はない。

せっかく死んだというのにこんな扱いをされるとは、労いの一つもないのだろうか。



心の中で悪態をついていると、目の前をよたよたと歩いている老人に出会った。

私は追い抜かしながらその老人を一瞥(いちべつ)し、思わず足が止まった。



老人の足元は普通の山道ではなく、針山のようになっており、足は血だけだ。

しかも、足には草履が履かせられていない。死装束は着せられているのに、草履や杖といったものは持っていないのだろうか。


私は首を傾げながら老人の横を通り過ぎた。





どれぐらい歩いただろう。


少しづつ斜面はなだらかになり、少し目を落とせば雲と空だけの世界だ。

さっきまでは厚い雲と霧のせいで不気味に見えたが、この高さまで来るとまさに雲外蒼天(うんがいそうてん)という感じだ。


やっと頂上らしい。



(すごい。圧巻だな。高い山の先には綺麗な景色があるもんだ。)



せめて生きてる間に体感したかったと自虐的な笑みを浮かべていると、

死装束の袖をちょんちょんと突かれているのに気づいた。


振り向くとそこには、自分より背が小さい老婆が立っていた。



「あなた、ここを超えられてきた方よね?」

「えぇ、そうですけど。」

「まぁまぁ、大変だったでしょう?ついておいで。」



老婆は顔をしわくちゃにして笑いかけ、手を引いて坂道を下っていく。

そこには、ログハウスのような木でできた家が建っていた。

山小屋のようなものだろうか。



「ちょっとここで休んでらっしゃいな。お茶くらい淹れるから。」



私は老婆の言葉に甘え、家の中に上がる。

小さな暖炉と台所があり、ソファーや机が置かれている。


老婆は台所でお茶の準備をしながら私にこういった。



「あなた、自分が死んだことは分かってるわね?」

「まぁなんとなくは。」


「この先ね、大きな川があるんだけど、渡り方が変わっててねぇ。」

「あっ、三途の川ってもしかして…。」

「なんだ、知ってるのねー?」



流石に三途の川くらいわかる。

あの世で最もメジャーな関所といったところだ。


しばらくすると、老婆がマグカップに紅茶を淹れて持ってくる。


私は紅茶を口に含みつつ、さっきから気になっていたことを口にした。




「あの、ここにくる途中、ちょっと変わったおじいさんを見たんです。」

「おやまぁ、どんな人だったの?」


「それが、みんな履いてるはずの草履を履いてなくて、その人が歩く道だけ針だらけなんです。

そのせいで足が血だらけになってて。」



老婆は少し考えると、私に言った。




「そうねぇ、確かにこの死天山は登る者によって道が変わるところはあるけど、

草履を履いてないっていうのは初耳ね。

普通葬儀の時に履かせるはずだけど…。」


「葬儀の時に履かされなかったってことはないんですか?」


「それはないと思うわよ。葬儀屋さんはそこらへん丁寧にしてくれるからね。

だから、それ以外の人が人為的にやったっていう可能性が一番高いかしら?」




私はあの老人のことを思い出す。


葬儀屋さん以外に遺体に近づけるのは葬儀に出席してるもの、つまりはそれなりに親しいものだろう。

しかも、履かせてある草履をわざわざ剥ぎ取ったということは…。


背中に冷たい汗が伝うのを感じた。



「あの、それって、現世ですごい悪事したとかで、めっちゃ恨まれてたってことですか?」

「そうじゃない?親族からとか。一番ありそうだけどねぇ。」



家族に恨まれてたってどんなやつだよ…。

私は少し顔をしかめながら紅茶を啜った。





老婆がいる山小屋を後にし、私は登った斜面を下っていく。


上りがハードだったせいか、下りも斜面が急だ。

しかし、登りと違い整備されているため、幾分歩きやすい。



(滑り台とかケーブルカーとかあったら楽そうなのに。せめてロープウェーでもつけられないかな。)



そんなことを考えていると、いつの間にか山道は終わっていた。

目の前には開けた草原と、大きな河川が広がっている。


これがかの有名な三途の川だろう。


私は少しだけテンションが上がりつつ、前方を見つめた。

生ぬるい微風が髪を揺らしていた。





ずとまよさんを執筆中によく聴いております。氷室八弥です。

死後の世界だから、ヨルシカさんもいいのですけど、どっちも素晴らしくって。順番順番で聴いてます。

作業用BGMって大事ですよね。

さて今回出てきたおじいさん。草履を履いてないとはどういうことでしょうか?

別作品で伏線回収できるかもしれないです。まだ書いてないですけどー。

ご意見・ご感想・ブックマーク等、よろしくお願いしますー

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