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鈴鳴る夜のあやかし遊廓  〜花嫁は初恋を思い出さない〜  作者: あげは渓名


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「まぁ地獄と呼ばれている所はあるよ。黄泉って言うんだけど。でも本来は現世こそが地獄。というよりも死というのはただの人生においてのイベントに過ぎない。天国に行くまでにいくつもの世界があり、この常世は最も天国に近い場所だ。妖怪達は皆、もともとは君たちと同じ世界の人間だったんだよ」

「そ、そうなんですか!? それじゃあ、私も死んだら妖怪……に?」


 なるんですか? という言葉を言う前に楼主はおかしそうに笑う。


「ならないよ。まだまだ現世から常世へ来るにはいくつもの世界があるからね。ただ、さっきも言ったみたいに身請けをされた場合は別だ。沢山の世界を飛ばしてここへやってくる事になる」

「身請けって凄いんですね……」

「そうかもしれないね。まぁそんな事は滅多に無い事だけどね。あの川の辺にあるベンチに座ると特殊な部屋に転送されるんだ。二人で座らないと転送はされないんだけど、外で開放的な気分でしたいって奴は結構居るからその時は出来るだけ断らないでね」


 外で……するのか……。愕然とした私を見下ろして楼主は笑った。


「結構居るんだよ。まぁ大抵は物理的に部屋でするのが難しい奴らなんだけど」

「ど、どういう事ですか?」

「興奮すると羽根が出たりとか、そういうタイプの奴らだよ。あとは野性味の強い奴とか?」


 楼主の言葉に私はハッとした。確かにあの橋ですれ違った人達の中には明らかに異形の形をしている者達が居た事を。


「どんなのを思い出してるのか分からないけど、そういうのと寝る覚悟もしておいて欲しい」

「覚悟……」


 その一言で一気に暗いものが心にのしかかる。


 そんな私に気付いているのかいないのか、楼主は私を抱いたまま中庭の周りをぐるりと周り、反対側の廊下の通路を歩き出す。


「ここは階層によって位が分かれているんだ。一番下の階は端女郎の階で二階は格子の部屋。そして最上階には太夫の部屋があるんだよ。端女郎はあの階段を決して登ってはいけない。どんな理由があろうとも」

「気をつけます。……凄く静か……」


 さっきから建物の中は静まり返っていて誰ともすれ違わないし何の音もしない。これだけ大きな建物なのに何だか不思議に思って問いかけると、楼主は静かに言う。


「そりゃまだ開店時間じゃないから。皆今は寝ている時間だ。月が昇り鬼火が点いたら客がやってくる。ここは常にずっと移動してるんだ。鬼火の道しるべが無ければ君が逃げようとしていたあの橋にはたどり着けない。だから決して敷地の外に出てはいけないよ。見つけるのがとても難しいから」

「そうなんですか?」

「うん。その代わり夜になるとそれはもう賑やかだよ。ただ客と共にでなければ君たち端女郎はこの廊下に出る事を許されてはいない。この廊下を堂々と歩けるようになるのは格子からだ。他には禿達だね。端女郎は仕事の時間になると部屋の裏口から出て客を取り、表玄関から客と共に部屋へ戻る。それがここでの習わしだ」


 廊下に出る事は許されないと聞いて思わず顔を上げると、楼主はこちらを見下ろして薄く笑う。


「当然でしょう? 忘れているかもしれないけど、君は罪人なんだよ。おまけに一番下っ端だ」

「……罪人……」


 そうだった。それを思い出した私が小さく息を吐くと、楼主は少しだけ焦ったような口調で言う。


「いや、ごめん。君の場合は少し違う。他の人間と違って自ら禁足地に足を踏み入れた訳じゃないから、他の皆よりも任期は短いよ」

「……そうですか」


 任期が長かろうが短かろうが、自分の意思とは関係なくここで客を取らなければならないのはもう決まった事のようだ。

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