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さらに視線を上げると少年の頭の上には可愛らしい茶色い猫の耳がピコピコと動いていた。
驚いて声を失う私を抱えたまま、少年は壁から飛び降りると橋から離れて建物の側で下ろしてくれる。
「あ、ありがとうございます」
「お礼言うのはこっちだよ。あんた、俺を助けてくれようとしたんだよな?」
そう言ってこちらを見下ろす少年の瞳は綺麗な金色だ。さっきの猫と同じ配色に思わず私は息を呑む。
「そう……ですけど、あなた……さっきの猫ちゃん?」
「おう。俺は楓雅だ。いや~参った。こんなとこ初めて来たもんだからどこ行けばいいか分かんなくてさ。朧に言われて女買いに来たんだけど、今日はあんたにしよっかな。可愛いし」
楓雅は八重歯をキラリと光らせるが、楓雅は確かに朧と言った。
「もしかして朧月さまのご友人の方……ですか?」
「そうだよ。なんだ、あんた朧知ってんの?」
「はい。昨日、お相手をしていただいたんです」
それを聞いた途端、楓雅は前のめりになって私の手を掴む。
「まじかよ!? じゃあ、あんたが小春!?」
「は、はい」
「うわ! えー! めっちゃ美少女! なんだよあいつ。まぁ、可愛いんじゃないか、なんて言ってたけどさー」
楓雅は嬉しそうに私を見下ろしてきたかと思うと、頭をよしよしと撫でてくれた。
「おまけにちっちゃいままだ! 俺よりちっちゃい! やば! 部屋行こ! イチャイチャしたい」
「はあ……」
何だか本当に朧月の友達? と思うほど軽いノリの楓雅に圧倒されていると、それまでそんな私達の会話を聞いていた他の端女郎が私達に聞こえるような声で話し出した。
「なにあれ、最悪なんだけど」
「あの子あれでしょ? 昨日ランク違いの鬼の人と帰ってきた子でしょ?」
「ああ、抜け出したって言う子? なに、目立ちたくてわざと逃げたの?」
「格子の人たちが言ってたよ。何か自分から鬼にぶつかってわざと転んだんだって。それで一目散に走り出したって。その後を鬼の人が追ったらしいよ」
「うわ、やば。完全にわざとじゃん。え、それで仲良くなって友達紹介してもらったって事? そんなのズルじゃん。楼主はそれ知ってんの?」
「知ってる。だって楼主の反対押し切って鬼の人部屋に連れ込んだんだもん。私一部始終見てたから」
そんな風に思われていたのか。口々にそんな事を言われて俯くと、楓雅が私の顔を覗き込んできて私の唇に唐突にキスしてくる。
何の脈略もないキスに驚いて顔を上げると、楓雅がまた八重歯を光らせて笑い大声で話し出した。
「あんた、良い奴だよな。だって俺を助けようとして塗り壁に踏まれるかもしれないのに飛び出して来たんだからさ。他の奴らはみ~んな俺の事追い払おうとしたけど、あんただけだよ、助けに飛び込んできてくれたの。ありがとな、小春」
「い、いえ……猫、好きなので」
しどろもどろに答えると、楓雅はそれはもう嬉しそうに笑う。
「そっか! それじゃあ後でいっぱい抱っこしてもらおっかな」
楓雅がふざけてそんな事を言ったその時、後ろからゴホンと咳払いが聞こえてくる。
振り向くとそこには楼主が立っていて、苦い顔でこちらを見下ろしていた。
「いつまでここでイチャイチャしてるのかな? それから君たちも、誰かを槍玉に上げている暇があったらさっさと今日の相手を見つけた方が良いと思うけどね」
そう言って楼主が辺りを見渡すと、そこにはもうほとんど妖怪が居ない。私に向かって文句を言っていたのは数人で、他の人達はさっさと今日の相手を見つけて立ち去っていたのだ。




