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実際さっきのような事をされた後では、もう誰と寝ようが同じことだ。好きな人としかしたくない。そう思っていたのに、私は快楽に抗えなかったのだから。そんな自分に私は酷く失望していた。
淡々という私を見て楼主が苦笑いを浮かべる。
「そっか。生気の無い小春の方が可愛げがあったね」
その言葉を無視して私は部屋の中を一通り見て回った。どのみち逃げる事も出来ないのなら、少しでも楽しみを見つけた方が良い。
隣の部屋へ続く襖を開けると、そこには一組の布団と行灯、そして奥には衝立があり、外に張り出た場所があった。
「楼主さま、あそこはベランダですか?」
「自分で見てきたら?」
私の声が相変わらず冷たいからか、楼主はつまらなさそうに言う。
私は許可が下りた事を言いことに衝立の奥を覗くと、そこには何と露天風呂があるではないか!
「露天風呂!」
心を閉ざすと決めたのに、すぐさま感情がだだ漏れてしまう。そんな私を見て楼主が優しい声で言う。
「遊女の部屋に必ずあるもの。それはこの露天風呂だ。客と入るも良し、一人で堪能するも良し。好きに使えば良い」
「はい」
露天風呂が嬉しくて思わず笑顔を浮かべた私を見て楼主も笑顔を浮かべる。
「そうやって年相応に喜べば良いし、怒れば良いんだよ」
「喜ぶのは疲れませんから。でも悲しんだり怒るのは疲れるので。ああ、凄い。ここからの景色も素敵……」
思わず呟いて景色を眺める。まるで絵画のような景色に私はうっとりと目を細めた。
どれぐらい外を眺めていたのか、ふと楼主が言った。
「そろそろここの説明をしても良いかな?」
その言葉に私は慌てて部屋へ戻ると楼主の向かい側に座る。
「よろしい。それじゃあまずはここでの注意事項なんだけど、さっきも言った通り君は格子になるまでこの部屋から一人で廊下に出る事は許されない。けれど客が君を中庭へ連れ出したいと申請してきたら話は別だ。僕の許可が下りたらさっきの中庭の散策も出来るし、特殊な空間へ行く事も出来る。格子になれば客と共に常世を一日デートをする事も可能だよ」
そう言って楼主が指さしたのは、桜でピンク色に染まった山だ。コクリと頷いた私を見て楼主はさらに話し出す。
「勤務時間は端女郎の間は夜の20時から朝の6時まで。格子以上になると丸一日。その間、君は客の相手をしなければならない。それから、そんな事は滅多に無いとは思うけど、もしも客から暴力を受けた場合はすぐに僕に知らせてくれ。これは君たちを守るためにも絶対に守ってほしい。決して無駄だと諦めないように。分かった?」
感情の起伏を見せないからか、楼主はやけに真剣な顔をして私を覗き込んできたので私はしっかりと頷いた。流石の私もそれは我慢しない。
「よろしい。あとちゃんと給料も出るから安心して。端女郎の間は欲しい物があったら禿に伝えてね。格子になったら外に出られるようになるから必要な物はその時に買うと良いよ。でも現世に持っていく事は出来ないから気をつけてね。それから……これは君限定になるけれど、相手によっては体が大きくて辛い事もあると思う。もしも無理をして出血したり痛みがある場合はすぐに禿に伝えて。その時は休みを許可するから」
「……良いんですか?」
「もちろん。さっき抱いてみて思ったのは、君は小さい上に敏感すぎる。僕達が分泌する媚薬が効きすぎるのも心配だ。ただ一日でも休むと君の生気が保たないから、その時はまた僕が相手をするよ」
「……ありがとうございます。出来るだけ迷惑かけないように頑張ります」




